南賀ノ神社の白巫女   作:T・P・R

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なんとか今月以内に書き上げることができました。


FGOとかで(紅閻魔先生の佐々木小次郎所持時のマイルームボイスがお気に入りです)
忙しかったですが、令和最初の投稿です。

ようやくまともなマイカゼの戦闘回ということでやや文字数が多くなりました。




46話

第三次中忍試験予選も順調(?)に消化されてゆき、残り人数もいよいよ少なくなってきました。

 

「おいお前、面白い奴じゃん。気に入ったぜ」

 

「お前面白くねーじゃん。気に入らねーってばよ!」

 

「(こ、このヤロー!) お、おう。ところであの日向ネジとかいう奴のことなんだけど………」

 

「俺がぶっ倒す!」

 

「いや誰もそんなこと聞いてんじゃ………」

 

(………カナタちゃんと言いこの子と言い、木ノ葉って天然多いのかなぁ?)

 

ナルト君とカンクロウさんの噛み合っているようで絶秒に噛み合ってないやり取りを、一歩離れた場所から黒雲母(キララ)さんが興味深そうに眺めています。

 

 

「そろそろお前の出番だぞ。それいけリー!」

 

「いえ! ここまで来てしまったんです。どうせなら僕は最後のトリがいいです!」

 

「(………リーさん、ちょっと拗ねてる………)」

 

なかなか名前が呼ばれずちょっと不貞腐れ気味のリー先輩を何とも言えない顔で見つめるサクラさんとガイ先生。

 

 

「おいチョウジお前マズいぞ! あとヤベー奴しか残ってねーよ、どーすんだ? 特にあの砂の瓢箪(ひょうたん)は目がヤベー! ああいうのが一番おっかねーんだ」

 

「だ、大丈夫。まだコトが残ってる………」

 

「バッカお前、ナルトの大番狂わせを忘れたのかよ? 万年ドベがあれだけ大化けしてたんだぜ? もう一方のドンケツもどんだけ異常成長してるか分かったもんじゃねーぞ? むしろ予測のつかなさで言えばナルトよりヤベーかも」

 

やや離れた場所で、好き放題言っているのはチョウジ君とシカマル君の2人です。

 

 

「………なんか納得いかないんですけど」

 

「いや~私は当然だと思うんだけれど? 日頃の行いが行いなんだから」

 

「………カナタも負けず劣らず爆弾発言多かった気もするが」

 

「君たち、もう少し緊張感というものをだね」

 

私たち第9班はいつも通りの通常運転で。

それを複雑そうに見つめているのはネジ先輩です。

 

 

各々がそれぞれの思惑を胸に、電光掲示板を見上げました。

 

未だ電光掲示板に名前が表示されていないのは木ノ葉では私ことうちはコト、月光マイカゼに秋道チョウジ君、ロック・リー先輩。

大きな瓢箪を背負った砂の我愛羅君。

音のドス・キヌタ君の計6名。

 

この場にいる全員が固唾をのんで見守る中、電光掲示板に表示された名前は。

 

 

『ロック・リー VS ゲッコウ・マイカゼ』

 

 

「引っかかりましたね! 最後がいいと言ったらそうならない! 電柱に石を当てるつもりで投げたら当たらず、石を外すつもりで投げたら当たってしまう法則です! トリなんかまっぴらゴメン………ってえええぇぇえええ!? お、女の子!?」

 

 

リー先輩が何やら大騒ぎしていますが、騒がしさではこちらも負けていません。

 

「ついに来ましたねマイカゼ!」

 

「ああ! 待ちかねた!」

 

今までの試験でまともな戦闘の機会がなかった反動でしょうか。

いつになくハイテンションのマイカゼは元気よく拳を振り上げます。

私も一緒になって万歳、ナルト君もノリで一緒に万歳、それを見ていた黒雲母(キララ)さんも『あれ、そういう流れなの?』みたいな表情で手を上げようとして、カンクロウさんが止めました。

 

「何やってんのよアンタ等………勝てるの?」

 

対照的に苦い表情をしているのはカナタです。

心配そうな様子のカナタにマイカゼは少しばかり拗ねたようにほほを膨らませて

 

「心外だな。確かにリー先輩の体術は脅威だが私だって負けていない!」

 

「そうです。マイカゼは凄いんです!」

 

「いや、別に私もマイカゼの実力を疑っているわけじゃないのよ? ただ………」

 

「大丈夫、何も問題はない! 兄さんもいることだし。成長した私の剣術を見せ………見せ………………あ」

 

腰に手をやり、背中に手を伸ばし………そこにつかめるものが何もないことをようやく思い出したマイカゼは一転して顔を青くしました。

 

「言葉が足りなかったみたいだから言い直すわね。………勝てるの? 素手で、あのリー先輩に」

 

そうでした、白熱の予選に夢中になるあまり私もすっかり忘れてました。

マイカゼが得意とするのは木ノ葉流の剣術、しかし彼女の刀は予備も含めてまとめて草忍さんに壊されてしまっていたのです。

マイカゼならそれでも無手で並大抵の相手なら一蹴できるでしょうが、どう考えてもリー先輩は並大抵ではないでしょう。

 

先ほどまでのハイテンションから一転、マイカゼはオロオロと挙動不審に。

 

「な、何かないか? 何かこう長くて………剣の代わりになりそうなのは?」

 

「い、今になって急にそんなこと言われても………」

 

「クナイじゃ………ダメよね。やっぱり」

 

「えっとえっと………他に何か、何か」

 

巫女装束の袖に腕を突っ込んで中をごそごそあさっては見るものの………

 

「フライパン、まな板、トマト、ちくわ、トマト、スポンジ、たわし、大根、またトマト、菜箸、調味料各種………っく、分かってはいましたが碌なものがありません!」

 

「本当にね! 何よそのラインナップ!?」

 

「いやそれ以前に、コトちゃんの袖はどうなってんだってばよ!?」

 

「時空間忍術の応用ですよ。先の試合でテンテン先輩が使ってた忍具の口寄せみたいなもので………」

 

「コト、今はそんな話をしてる場合じゃないから」

 

そうでした。

しかし、やはり刀の代わりになりそうなものは見つかりません。

当然といえば当然なんですけど。

有用なものは全部死の森でのサバイバルで粗方使い切った、その余りなんですから。

役に立たなかったものしか残っていないのは仕方がありません………まあ、それを差し引いてもやけにトマトが余ってますね。

 

「無意識にサスケ君の好物を多めに持ってきていましたか」

 

「コト、その話詳しく」

 

「春野さん、今はそんな話をしている場合じゃないから!」

 

「ヤマト先生! 木遁で木刀を造ってもらえたりは………」

 

「ダメだよ」

 

「じゃあ角材でいいですから! あとは私の木遁で木刀に加工しますから!」

 

「それもダメだ。緊急時を除き中忍試験で上忍の手助けは全面的に禁止されている」

 

「で、ですよね~」

 

「こんなことなら森で枝でも拾っておけば………」

 

「マイカゼ選手、早く降りて来てください」

 

「兄さん、今はそんな話をしている場合じゃないんだ!」

 

「では試合放棄ということで失格に………」

 

「うあああごめんなさいつい流れで生意気言ってすいません!」

 

何やら混乱して大騒ぎしているマイカゼを余所に私は袖の中身をひっくり返します。

次々と詰みあがっていくガラクタ………ぐぬぬ、包帯代わりに袖の端を少々破ったのが原因でしょうか、時空間忍術が狂って中の配置がめちゃくちゃになっちゃっているのです。

ああ、ナルト君が唖然とした表情でこっちを見てる………

 

「違うんです普段はちゃんと整理整頓できているんですお片付けができない女じゃないんです………」

 

「大丈夫よコト。ナルト君は絶対にそんなこと思ってないから」

 

………火打石、洗剤に洗濯板と金だらい………調理器具と洗濯用品が混ざってます。

これらも結局使わなかったんですよね。

火種は火遁で事足りてしまいましたし、サバイバル試験の最中に服を洗う余裕なんてありませんでしたからね

 

「つまり当然これも出番がなくて………あ」

 

「それよ!」

 

 

 

そんなこんなで第9回戦。

マイカゼがリー先輩と対峙したとき手にしているのは。

 

 

「いや………かなり無理をさせたのはわかっているし、これが精いっぱいだったのも十分に理解している。しているんだけど………」

 

 

私の袖の中に入っていた『物干しざお』を突貫工事で加工して作った竹刀。

剣道の試合で使うやつです。

うん、わかってます。

確かに刀の字は入っているけど、竹刀は刀じゃないですよね、決して刃物じゃないですよね、正直すみませんでした。

 

「見つけた時はこれだ! って思ったんですが………」

 

 

「………コトは知らないかもだけど、竹刀で斬るのって割と難しいんだからな?」

 

 

「難易度以前に普通竹刀は斬れないけどね?」

 

カナタの突っ込みもなんのその、竹刀をブンブンと振り回しどうにもしっくりこないのかしきりに首をかしげてうなるマイカゼ。

得物に不満があるのは大いに理解できますが、もはや後には引けません。

 

 

「では第9回戦、始めてください!」

 

「っく、もはや匙は投げられた!」

 

 

匙は投げちゃダメですよマイカゼ。

それはそれとしてついに試合が始まりました………が、マイカゼもリー先輩も双方ともに動きません。

 

 

「………? 来ないんですか?」

 

「っ!? い、いえ! いやですが!」

 

 

どうやら戸惑っているのはマイカゼだけではなかったようです。

リー先輩、なかなかどうしてフェミニストらしいですね。

 

 

「………ああ、なるほど。うん、よくわかりました。別にいいですよ。女性に優しくするのも、後輩に気を遣うのも大いに結構………ですが」

 

 

マイカゼの空気が変わりました。

ようやくスイッチが入りましたか………いえ、少し怒ってる?

物干しざお改め竹刀を、下段に構えて………………無拍子に疾走。

 

 

―――木ノ葉流・双月の舞!

 

「っ!?」

 

 

マイカゼが狙ったのはリー先輩の足。

とっさにジャンプして回避するリー先輩。

しかし、回避しきれなかったのでしょう。

着地したリー先輩の両足のレッグウォーマーが切り裂かれていました。

 

 

「いくら何でも、ここまであからさまにハンデつけられると腹が立ちます」

 

「な、何で………わかったんですか?」

 

 

リー先輩の切り裂かれたレッグウォーマー。

その下から覗いているのは『根性』と刻印された、大量の重り。

 

「え………リー先輩、あんなのつけてたんですか? 今までずっと?」

 

それも単なる重りじゃありませんね。

無骨な見た目に反して、相当高度な細工が施されています。

 

「ガイの奴………なんてベタな修行させてんだ………」

 

「というか、なんでマイカゼは気付いたのかしら?」

 

「ま、まさか重心の位置が通常より低いのをリー先輩の動きから洞察して………」

 

 

「勘です」

 

「勘って………」

 

 

ナルト君がずっこけました。

全く、感覚派の天才はこれだから………勘って何ですか分かるわけないでしょうが。

こっちが必死に頭ひねってたのがバカみたいです。

 

 

「いやしかし、これは大切な人を複数名守るときしか外してはいけないとガイ先生からきつく………」

 

 

「いや構わーん!」

 

リー先輩のセリフを遮ったのは、彼の上司であるガイ先生です。

灼熱の笑顔に煌めく白い歯、堂々たるサムズアップ。

濃い、あまりにも濃い存在感。

 

「リー外せー! 俺が許すー! その子に失礼だ! 熱い真剣勝負に男も女も関係ない!」

 

 

「………っ! そうです。その通りですガイ先生!」

 

 

ガイ先生の熱くも濃い言葉で眼に炎を点したリー先輩は両足の根性重りを外し盛大に投げ捨てます。

ドゴオォオオン! という無茶苦茶な衝撃に部屋全体が揺れ、床が陥没して大穴が開きました。

 

「………いや本当にどうやって歩いてたのかしら? だってあんなの付けてたら………」

 

頬を引きつらせるカナタ。

言いたいことはわかります。

常識的に考えれば、あんな重量級のウェイトをつけていたら装着者の筋力に関係なく足が地面にめり込んでしまうことでしょう。

しかし実際にはそうなっていないということは、あの重りはただの重りじゃないということです。

 

「どうやらあの根性重り、装着者には『重さを感じさせるだけで実際には重くならない』特別性みたいです」

 

「………何それ、そんなの聞いたことないんだけど?」

 

「少なくとも木ノ葉の技術じゃないですね。私も初めて見ました」

 

おそらくは他里の秘伝技術………砂………霧………いえ、それ以外の。

 

「ほう、よく気付いたな少女! その通り! あれは私がかつて岩隠れの忍びと一戦交えた際に獲得した『重さを自在に変化させる特殊忍具』を加工したものだ!」

 

「岩でしたか。なるほどそれで………ってえええ!? そ、そんな貴重な戦利品を重りにしちゃったんですか!?」

 

己の所業を誇らしげに語るガイ先生に私は戦慄を禁じえませんでした。

なななななんて勿体ないことを!?

そんなのありっていうか、許されるんでしょうか?

 

「愛弟子の成長のためなら惜しくはない!」

 

「ふえぇ~………」

 

「………やりすぎでしょ、ガイ」

 

 

 

「先ほどまでは失礼しました」

 

 

重りを捨てたリー先輩が改めてマイカゼと向き直ります。

左手を後ろに回し、右手を前に出した木ノ葉流体術の基本の構え。

もうその目には油断も侮りもありません。

 

 

「ここからが本当の戦いです」

 

「是非もなしです」

 

そんなリー先輩の炎すら宿していそうな気迫を真っ向から迎え撃つのはマイカゼです。

 

 

「いざ」

 

「尋常に」

 

「「勝負!!」」

 

 

と両者が叫んだ瞬間に、リー先輩の姿が消え―――マイカゼが吹っ飛んでいました。

一瞬の出来事でした。

 

「え? ………え?」

 

「速い」

 

「な、何が起こった?」

 

私たちが困惑している最中、吹き飛んだマイカゼはそれでも空中で姿勢を立て直して着地―――

 

 

「こっちですよ」

 

「うわっ!?」

 

 

―――する前にさらに別方向から迫ったリー先輩に吹き飛ばされます。

は、速い、速すぎて目で追えません。

これが重りを捨てたリー先輩の本当のスピード………

 

「な、何よこれ、これじゃ白さん並じゃないの」

 

「何らかの術………ではないようです」

 

つまり完全なる素の身体能力と体術だけで………ここまで極められるものなのですか。

 

「その通り。リーは忍術や幻術は使えない、だからこそ、これまでの全ての時間を体術に費やし、体術のために努力し、体術に全てを集中してきたのだ………たとえ他の術は使えずともあいつは誰にも負けない。体術のスペシャリストだ!」

 

「そ、そんな極端な………」

 

いえ、事実としてマイカゼは全く追いつけていません。

たまに竹刀で反撃を試みてるようですが掠る気配すらありません。

風に吹かれる木ノ葉のようにリー先輩に弾かれ飛ばされるばかり。

完全に防戦一方です。

 

「ヤマトよ、お前の部下もなかなかのガッツだがどうやらここまでのようだな。スピード、パワー、全てリーの方が圧倒的に上だ。まぁ青春とは時に甘酸っぱく、時に厳しいもの………」

 

「いえ、まだ勝負はわかりませんよ?」

 

「む?」

 

得意げに語るガイ先生に対し真っ向から異を述べるヤマト先生。

 

「ガイ先輩。うちのマイカゼを見縊らないでいただきたい」

 

「ヤマト先生の言う通りです」

 

「マイカゼはとっても強いんですよ」

 

リー先輩が駆け抜ける。

マイカゼは高速で迫りくる拳を紙一重で受け流す。

リー先輩が即座に追撃する。

風を切り裂いて振りぬかれる蹴りを、マイカゼは辛うじていなす。

 

リー先輩が攻撃し、マイカゼがギリギリで防御する。

攻撃、防御、攻撃、防御、攻撃防御攻守攻守………

 

「………?」

 

「どういうことこれ?」

 

他の面々も感づいたようですね。

1度だけなら偶然です。

何度も続けば幸運でしょう。

ですが、ずっと続くのであればもはやそれは必然であり実力です。

 

「大事なことなのでもう一度。マイカゼはとっても強いんです」

 

そりゃもう非常識なレベルで。

 

 

 

 

 

 

(いったいどういうことです!?)

 

戦場を走り回りながらロック・リーは考える。

そして断言する。

 

間違いなく速いのはこっちだ。

事実、相手は全くこっちのスピードに追いつけていない。

 

力が強いのも間違いなくこっちだ。

男女差も相まって確実にこっちの攻撃は相手より重く鋭い。

そもそもスピードで上回っている時点で、相手の攻撃なんて当たるはずがない。

 

しかし、それなのに………

 

(なんで、なんで一発も入らない!?)

 

確かに相手は防戦一方で、一見手も足も出ないように思える。

だが、そもそも防御できていること自体がすでに異常なのだ。

どれだけ速く、鋭く、死角に回り込んで攻撃を繰り出してもギリギリで受け流され、一度もクリーンヒットが決まらない。

全ては紙一重の攻防、しかしその紙一重を何故か破ることができない。

 

(何故? どうして? どう考えても僕の方が速いのにどうしてガードが間に合うんだ!?)

 

ふと、リーの視界にありえないものが写り込んだ。

幻術………いや違う、単なる目の錯覚、見間違いだ。

それ以外ありえない。

 

改めて対戦相手―――月光マイカゼの姿を観察する。

鍛えられてはいるものの、男性であるリーに比べれば明らかに華奢な体躯、低い身長、軽い体重………見た目も動きも似ている個所などどこにもない。

なのに、それなのに。

 

(なんで………なんで君の姿が重なるんだ! ネジ!!)

 

 

 

 

 

 

「ねえ、リー先輩、野球ってやったことあります?」

 

「い、いきなり何の………」

 

「知ってますか? どれだけ強肩の剛球投手でも、緩急つけなきゃ打たれちゃうんですよ」

 

 

―――木ノ葉流・三日月の舞!

 

 

「―――擬き!」

 

「ぐ、ぐあああ!?」

 

 

 

「あ!」

 

「マイカゼがついに反撃に!」

 

交叉法(カウンター)

うまくタイミングを合わせましたね。

リー先輩の右肩、左腰、胸の3か所にバッサリ切り傷がついてます。

傷自体は浅く致命傷ではないようですが、それでもこの試合初めてのクリーンヒットです。

 

 

「………切れ味悪い!」

 

 

本人不満みたいですけど。

良い悪い以前に竹刀に切れ味なんてあるわけないのです。

というか、レッグウォーマーを切り裂いた時も思ったんですが、当たり前のように竹刀で斬りますね。

本当にいったいどうやってるんでしょう?

少なくとも竹刀にチャクラ流し込んでどうにかなるような話ではないはずなのですが………

 

「今のは………三日月の舞?」

 

「い、いや違う。本来の三日月の舞は影分身の併用を前提とした高等剣術だ………いやだが、今の剣筋は」

 

「あ、あれ? なんかマイカゼの竹刀が一瞬ブレたってば? いや分裂したよう………な??」

 

今のマイカゼの技に皆がどよめいています。

無理もありませんね。

私も、カナタも、ヤマト先生ですら、最初に“あの技”を見た時は開いた口が塞がらなかったものです。

 

 

カカシ先生の言うように、本来の『木ノ葉流・三日月の舞』は3人に分身してそれぞれ突き、薙ぎ、払いを同時に繰り出すというものです。

異なる3つの斬撃が対象の逃げ道を塞ぐように放たれるので、極めれば不可避必中の奥義………なのですが、影分身の術を習得していないマイカゼには未だ扱えない高等剣術です。

 

故にマイカゼは悩んだ末に『要は斬撃が3つあればいいんだから斬撃だけ影分身させればいいのでは?』という謎の発想のもと、三日月の舞とは似て非なる不思議剣技、『三日月の舞・(もど)き』を編み出したのでした。

 

………いったい何がどうなっているのやら。

確かに身体ではなく武器の影分身を作りだす術というのは存在します。

手裏剣影分身がまさにそうなのですが、本家影分身より会得難易度が高い上マイカゼのそれは剣を影分身させたのですらありません。

マイカゼが分身させたのは即ち剣から放たれる斬撃。

つまりマイカゼは『刃物じゃないもの(しない)』から放たれた『そもそも実体が存在しないもの(ざんげき)』の『実体のある分身(かげぶんしん)』を作りだしたということです。

………うん、はっきり言って意味が分かりません。

 

 

「改めて見ても、天才がどうとかいう問題じゃないわね………もはや変態の所業よ。本当どうなってるんだか」

 

「正直、未知の秘伝か血継限界と言われた方がまだ納得できるレベルです」

 

「でもマイカゼって特にそういうのはないのよね?」

 

「たぶん………私やヤマト先生が調べた限りでは」

 

 

私たちが観覧席でしきりに首をかしげている最中でも、マイカゼとリー先輩の攻防は続いています。

マイカゼはもともと後の先を得意とする剣術使いです。

持ち味のスピードを生かして果敢に攻めかかるリー先輩に対し、マイカゼは開始直後の一撃を除けば一貫して受けの姿勢を崩しません。

 

重りを外したリー先輩相手にスピード勝負は無謀だと悟ったのでしょう。

マイカゼも決して遅くはないはずですが、それ以上にリー先輩の動きは速く鋭い。

 

 

「な、なんで………?」

 

 

にも拘らず、リー先輩はマイカゼに追いつけません。

 

 

「速いのはリー先輩です。でも、マイカゼの方が()()んです」

 

「え? ゲジマユの方がはやいけどはやいのはマイカゼ? ………つまり………どういうことだってばよ??」

 

「動き自体はリー先輩が速くても初動、動きの出だしがマイカゼの方が早いってこと」

 

徒競走におけるフライング、ジャンケンにおける後出し。

速さではなく、素早さ。

先に動くということはそれだけで大きなアドバンテージです。

 

「端的に言えば、マイカゼはリー君の動きを洞察し、予測して、攻撃されるよりも早く動いているんですよ」

 

もっとも、実際のところはマイカゼの所業に無理やり理屈をこじつけたらそうとしか説明できないというだけで本当はどうなっているのかは不明なのですけど。

 

「バカな!? あのリーの動きを見切るなど、白眼や写輪眼もなしにそんなことができるはずが!」

 

「そんなこと私に言われても………」

 

できちゃってるんだからしょうがないとしか。

先の三日月の舞擬きもそうですけど、なぜそんな芸当ができるのかマイカゼ本人もよくわかっていないから原理を聞いても要領の得ない答えしか返ってこないのですよ。

そればかりか『私に頭のいい解答とか理屈を求めるな! これだから天才は!』と逆切れされてしまいました………

 

「………そんなバカな」

 

はい、まさしく「そんなバカな」です。

 

「無理やり解釈するなら、素の動体視力や、洞察力が写輪眼並みに優れているということか………」

 

「ついでに言えば、知覚範囲の広さは白眼並みですね」

 

「………何?」

 

「というか、今のマイカゼに視力は関係ないんですよ」

 

そ、それは私も初耳です。

カナタも知らないでしょう。

ヤマト先生の言葉にガイ先生とカカシ先生が揃って絶句した直後、後ろに回り込んで攻撃を加えようとしたリー先輩を、マイカゼが振り返ることなく迎撃しました。

 

 

「な、なんで? ………死角だったはず」

 

「以前、目を完全に閉じた状態で音だけでターゲットの動きを把握する無音殺人術(サイレントキリング)の天才に直接手ほどきを受ける機会がありまして」

 

 

どさくさに紛れて霧隠れの鬼人の秘技を模倣していたマイカゼ。

本当に、本当に写輪眼持ってないんですよね貴女!?

いや、仮に写輪眼があっても見えないものを真似するとか不可能です。

コピー忍者ことはたけカカシ先生でも無理です。

 

 

「もちろん凡人たる私はいきなり音だけで全てを把握するなんてことできません………何度も攻撃を受け続けて、ようやくそれの真似事ができる程度です」

 

 

貴女のような凡人がいるものですか。

 

 

「リー先輩の動きは確かに速いですが………だいぶ慣れてきました。ここからは私が攻める番です! リー先輩覚悟!」

 

 

「………結果論だけど。竹刀でよかったのかも」

 

「はい………もし真剣だったら最初の一太刀で終わってたでしょうね」

 

「………あの子はいったい何者だ?」

 

「あの子は月光マイカゼ。そこにいる審判のハヤテの妹で、僕の部下で………コト曰く『自分よりもうちはらしい』………そしておそらく木ノ葉の下忍で最も強いくのいちですよ」

 




黒バスの黄瀬君は見ただけで相手の技のコピーができますし、赤司君は未来が見えます。
当たり前ですが、彼らは写輪眼を持ってません。

つまりマイカゼはそういうタイプの天才です。

こんなのが隣にいたらコトがいじけるのも無理ないです。
反対の隣側には変化が効かない審美眼保持者………写輪眼の立場がない。
そして彼女らは彼女らで、自分のことを棚に上げてコトはオカシイと思ってるわけで。


本当は物凄く強いのに今までほとんど活躍の場がなかったのはだいたい彼女のチームメイトの所為。

戦いにおいて勝つ方法を計算する戦術家であるシカマルに対し、空野カナタは戦わずして勝つ方法を模索する戦略家です。

戦いになったらほぼ確実に負ける存在と長年コンビを組んでいたが故ですが、だからこそマイカゼの出番は回ってこなかった………

もし、初戦の相手が白じゃなかったら、彼女たちの作戦参謀がカナタじゃなかったら、中忍試験でいきなり大蛇丸なんて規格外に遭遇しなかったら、半化の術で小さくなっていなかったら、もっと無双できていたはずなんですよ。

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