南賀ノ神社の白巫女   作:T・P・R

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かなり速く更新できました。

その分、文章量はやや少なめですが。


あと、今回初めて特殊タグ機能を使用してみました。


48話

―――ふと、かつて己の恩師に「お前は努力の天才だ」と言われたのを思い出した。

 

 

全身に痛みが走るのを根性で我慢し、マイカゼとの攻防を繰り返す。

打ち合うこと十数回、そしてリーはようやく己の間違いを悟る。

 

「………先ほどの糾弾は撤回します。貴女はふざけてなんかいなかった」

 

そもそもこの試合、両者の実力に圧倒的な差など最初から存在していなかったのだ。

 

(過小評価。確かにその通りです。僕は己を過小評価していた………)

 

「………もう限界なんでしょう? その竹刀」

 

「っ!」

 

どれだけ早く攻撃を繰り出しても、全て受け流されては意味がないと思っていた。

でもそうじゃなかった。

意味がないはずがない。

どんなにうまく受け流しても衝撃がゼロになるわけじゃない。

かつて本物の真剣を蹴りでへし折ったこともあるリーである。

たとえマイカゼ本人には届かずとも、ダメージはしっかりと竹刀に蓄積されていたのだ。

 

「だから貴女はとっさに新技を頼ろうとしたんです。既存の剣技では折れてしまうのが解っていたから」

 

本当なら勝てたはずなのに、余裕と慢心で悪ふざけの技を繰り出したせいで自滅したんだと、マイカゼが遊んで加減したからリーは立ち上がれたんだと思っていた。

それも違った。

 

「僕が立ち上がれたのは、単に僕が貴女の予想を超えて頑丈だったからです」

 

過酷な修行によって鍛え抜かれた屈強な肉体。

 

(僕は自分で思っていた以上にタフな漢だったのですね………)

 

それはリー自身の努力の賜物だ。

 

「そして今、貴女は攻防の中で必死に頭を巡らせ編み出そうとしている。ボロボロの竹刀でも、それでも僕を倒せる必殺の新技を!」

 

「………………」

 

「貴女もウソがヘタクソですね」

 

マイカゼはもう竹刀を防御に使えない。

使った瞬間に木っ端みじんだ。

故に使うとすれば、それは攻撃に転じた時。

リーを確実に倒せると確信した瞬間。

 

(その前に、僕が倒す!)

 

マイカゼの動きが徐々に変わっていく。

ぎこちないのは変わらず、スピードもなければパワーも感じない。

だが―――

 

「うおおお!」

 

 

―――木ノ葉大旋風!

 

 

あのサスケですら初見では対応できなかった木ノ葉旋風のさらに上位。

満を持して放った渾身の大技は、完璧にそして盛大に―――

 

 

―――空を切った。

 

 

 

 

 

 

木ノ葉大旋風。

言わば跳びながら身体を回転させ上段後ろ回し蹴り、中段回し蹴り、上段踵落としを連続で放つ高速体術。

影手裏剣の術の様に1発目の蹴りの影に2発目の蹴りを隠す騙し技でもあるこれは、初見での攻略は極めて困難な大技です。

 

しかし、マイカゼはその大技をさも当然のように、避けました。

木ノ葉大旋風だけではありません。

続いて繰り出されるリー先輩の攻撃の一切を柔軟にかいくぐってすり抜けます。

 

「おおう………マイカゼの奴とうとう全部避け始めたわ」

 

「い、いや確かに受けることも流すこともできないならかわすしかないって理屈はわかるんですけど………」

 

でもだからって、実際にそれを実行できるかは別問題です。

痛みだってまだ残っているはずなのに踊るようにスルスルと………

 

 

「ことわざにもあるでしょう? 当たらなければどうということはない!」

 

 

そんなことわざはありません。

しかし、マイカゼは本気ですね。

本気でリー先輩の攻撃を完全回避するつもりです。

 

 

「リー先輩、貴方の技は全て見切った! ………あ、まだ見せてない奥の手があるなら別ですよ」

 

「貴女は本当に正直ですね!」

 

 

繰り出されるリー先輩の拳を避けながら、言外にもし奥の手があるのなら見せてみろと挑発するマイカゼ。

 

 

「………全力、全技、全成果を尽くす………それが貴女の忍道なのですね」

 

「忍びらしからぬことは重々承知の上です………リー先輩、貴方は己の手の内の全てをさらけ出す私の忍道(スポーツマンシップ)を笑いますか?」

 

「笑いません。むしろ尊敬します………貴女を見ていると、ガイ先生との約束だの、ネジを倒すためのとっておきだの、あれこれ理由を考えて奥の手を隠していた自分を恥ずかしく感じます」

 

 

ふと攻撃の手を止め、マイカゼから視線を外してこちらを………ガイ先生を見上げるリー先輩。

師弟の視線が交差し、笑顔で首肯。

 

 

「僕も貴女と同じく、忍びらしからぬ忍道を掲げる身です」

 

「なら、私たちは同志ですね」

 

「そうですね………ここで貴女と戦えたことを光栄に思います。お望み通り、僕の奥の手を見せてあげましょう!」

 

 

もう何度目かもわからないリー先輩の突撃。

ただ速く、ただ真っすぐマイカゼに向かっていき繰り出すのはお馴染みの木ノ葉旋風です。

 

しかし、その技はもうマイカゼには通用しな―――

 

 

「―――え?」

 

 

―――今までのを旋風だとすれば、今度のはさながら竜巻です。

マイカゼが、風にあおられた木ノ葉のように吹き飛びました。

 

「え? 別の技?」

 

「違う。今のも木ノ葉旋風だ。ただ………とんでもなく速い!」

 

 

「うっ!? くっ!」

 

 

それは、これまでとは逆の光景でした。

 

 

「すみませんマイカゼさん。奥の手だなんだと言っても結局僕の技は体術(これ)しかないんですよ」

 

「っ!?」

 

 

全てを見切って先読みしているはずのマイカゼが、リー先輩に追いつけない。

 

 

「そうだリー! それでこそお前だ! どんなに速く動いても見切られる? 死角はない?  それがどうした!!  たとえ見切られても対応できないほどの超スピード! 触れることすら許さぬ高速連続体術! それこそがお前に授けた打倒ネジの答えだ!!」

 

拳を振り上げたガイ先生の咆哮が、予選会場を揺らしました。

 

 

「つまり、いくら目で分かっていても肝心の身体がついてこないんじゃどうしようもないんですよ………全く、僕は本当に大バカだ。自分で言ったことなのに何で忘れていたのか」

 

「な、何の話です!?」

 

「いえこちらの話です………行きます!」

 

 

再び吹き飛ばされるマイカゼ。

 

「何で急にリー先輩の動きがこんなに………八門遁甲の反動がそんな簡単に回復するはずが」

 

「………ひょっとして休門も開けてる?」

 

「木ノ葉の蓮華は二度咲く………まさかとは思ったがやはり」

 

「ああ、カカシ。お前の想像通りだ」

 

「じゃあリー君は“八門遁甲の体内門”を………」

 

「ああ、開けている」

 

「なんて危険な技を………」

 

「………………リーには死んでも証明し守りたいものがある。俺はそれを守れる男にしてやりたかった。ただそれだけだ」

 

「いったい彼は門をいくつ開けることができるんですか?」

 

「5門だ」

 

「ゴモッ!??」

 

ガイ先生のとんでもない回答にヤマト先生が咽ました。

カカシ先生も驚きで眼を見開いています。

 

「な、なんなのよさっきから! はちもん………とんこうって何よ!?」

 

「ざっくり言えば、リミッター外しのことです」

 

「リミッター外し?」

 

「そうです」

 

ゲホッゲホとせき込むヤマト先生に水筒の水を渡しながら私はサクラさんに解説。

 

「チャクラの流れる経絡系上には、チャクラ穴の密集したところが全部で8か所存在し、それを総称して『八門』と言うのです」

 

左脳に第一の門『開門』

右脳に第二の門『休門』

首元に第三の門『生門』

胸の中央に第四の門『傷門』

鳩尾に第五の門『杜門』

腹部に第六の門『景門』

股間に第七の門『驚門』

そして心臓に第八の門『死門』

 

これらの門は身体を流れるチャクラの流速に制限を設ける為の、いわば弁や関のような役割を果たしているのですが………

 

「八門遁甲というのは、これらの関をチャクラで無理やり外す行為です。ちなみに表蓮華は第一の門『開門』を開く技です」

 

「え!? じゃあ今のリーさんは………」

 

「明らかに第二以降の門を開いてますね………あ、今リー先輩の全身が赤く………第三の『生門』も開けましたか」

 

「そんな、表蓮華だけでもあんなにボロボロになっちゃうのに、それ以上の技なんかやったら………」

 

「まあ無事では済まないでしょうね」

 

高血圧で心臓や血管が張り裂けるように、加速したチャクラの流れが経絡系に多大なる負担をかけていることでしょう。

 

「そう、この技はまさに諸刃の剣。八門すべてを開いた状態を『八門遁甲の陣』と言い、少しの間、火影をすら上回る力を手にする代わりその者は必ず………死ぬ」

 

「っ!」

 

「………八門遁甲の凄さとヤバさはわかったけど、それってそんな容易く会得できるようなものなの?」

 

「そんなわけありません。禁の書にもあるれっきとした木ノ葉流体術の極意ですよ?」

 

カナタの問いに私は全力で首を振ります。

八門遁甲なんて普通に考えたら習得するのに十数年単位の時間が必要になるはずです。

それをまだ十代前半であるはずのリー先輩がどうして体得しているのか………才能か、もしくは何かしらの抜け道があるのか。

 

「努力でどうこうなるものじゃないぞ………やっぱりあの子天才か?」

 

「天才? 違うぞカカシ。これこそが才能を凌駕した努力の力だ。来る日来る日も幾度となくネジに立ち向かい続けたリーの不断の精神が………」

 

「それです!」

 

「………え?」

 

「ですから、それが原因です。最初にリー先輩を見た時、不思議なチャクラの流れをしていると思ってましたが、これでようやく腑に落ちました」

 

ネジ先輩に毎日挑み続けたということは、あの日向流の柔拳攻撃を毎日食らい続けたということです。

そんな短いサイクルで点穴の開閉を繰り返せば体内の経絡系はズタズタに傷つき、やがて強く堅くなっていくでしょう。

 

「つまり、八門遁甲の強烈なチャクラ圧に耐えうる………強靭な経絡系。天才なんかじゃない、努力の成果ですらありません。決して諦めないド根性。不可能をものともせず困難に挑戦し続けた執念の産物です!」

 

「おお~! よくわかんねーけど要するにゲジマユはすげーってことだな!」

 

「そーです! とにかくそーいうことなんですよ!」

 

テンション高く叫ぶナルト君に、同じノリで返答。

私には決して真似できません!

 

(コト、諦めたわね)

 

(なんて解説しがいのない奴だ………)

 

(というかコトはなんでそんな禁術に詳しいんだ………)

 

まあ、実際無粋なのかもしれません。

熱い試合に詳しい解説なんていらないといえばいらないのでしょうし。

考えるな、感じろの精神です。

 

「まあ、リー先輩の理屈はわかったわ」

 

「あくまで推測で、確証があるわけじゃありませんが」

 

「それは別にいいわ………で、マイカゼの()()はどういう理屈なの?」

 

 

 

 

 

 

「さらに! 第四『傷門』(かい)!」

 

リー先輩の動きがさらに加速する。

もはや回避どころか受け身も取れない。

辛うじて竹刀だけは死守しているものの、このままだと私の方が持たない。

身体はもとより心までが、折れる。

 

「第五『杜門』(かい)! ………これで、最後です! 貴女にも証明して見せましょう。努力が天才を上回ることを!」

 

だからそれは、ほとんど意地だった。

いや、それは意地というよりももはや単なる『ムカツキ』だったのかもしれない。

 

「努力が才能を凌駕するのを証明する………ですか」

 

「………………?」

 

なんだそれは。

それだと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()じゃない。

 

「貴方達はいつもそうだ。本当は才能ある癖に自分は落ちこぼれだって卑下して………」

 

「………っ!?」

 

貴方達がそんなこと言ったら、本当の落ちこぼれはどうすればいいんだ。

折れかけた心に怒りの炎が灯る。

ボロボロの身体に憤りの力が戻る。

 

「八門遁甲の体内門を何門もこじ開けといて、………落ちこぼれ? ふざけないでください!」

 

リー先輩の攻撃を根性で避け、カウンターの拳を叩き込む。

 

「体内門の5門開けとか出来るかあああぁぁぁああ!! こっちは2門でギブアップだぁああああぁあああ!!!」

 

 

 

 

 

 

「で、あれはどう説明するのコト?」

 

「う、う~ん? い、一応ヒナタさんに柔拳を受ける機会はあったような??」

 

正直、どこから突っ込めばいいのかわからないのですが。

それでも顔を真っ赤にして、どころか()()()()()()()()怒っているマイカゼにあえて1つ突っ込むとすれば。

 

 

「マイカゼ、それ2門じゃなくて3門開いてます………」

 

 

例によって気付いてないみたいですがね。

………本当に、本当に自覚のない人はこれだから。

 




ロック・リーというキャラを論じるにあたって。
よく「努力の天才とか言いつつも、結局は八門遁甲の天才だったんだよなぁ」みたいな意見をよく聞きます。

僕はこの意見があまり好きじゃない………いえ、はっきり言えば嫌いです。
というわけで、凡才が凡才のまま、短期間で八門遁甲を習得するに至った理屈をでっちあげることにしました。

才能の有無で努力の価値が薄れるわけじゃないですが。
リーは天才だったから強いのではなく、決して諦めず努力したから強いんだ。
というのを理屈で証明したかったんです。

次回でようやく決着です。

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