南賀ノ神社の白巫女   作:T・P・R

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年をまたいでもう2月。
お待たせしてしまいすみませんでした。

コトと我愛羅の対決の続きです。


前回。
コトが小麦粉を操作する術を披露したのですが、それにより「爆発! 爆発!」というコメントが感想欄に多数寄せられました。
そんなに爆発落ちが好きですかそうですか。

余りに多いので急遽考察ネタを。
興味がない方は飛ばしてください。

『我愛羅の絶対防御は粉塵爆発で突破可能か?』
いきなり結論をぶっちゃけてしまうと、分からないとしか言えません。
というのも、原作において我愛羅の絶対防御を正面から突破した爆発、爆炎、爆弾の類は登場していないからです。

我愛羅の回想にて、まだそれほどの硬度ではなかったと思われる盾で、夜叉丸の起爆札自爆を完全に防いでいますし、ナルトの起爆札付き苦無による千年殺しも、本人曰く「最も防御の薄い部分を狙われた」らしいのにダメージは与えられませんでした(衝撃は受けたらしいですが)
サスケの火遁、炎遁も、一部二部で対峙するたびに完全ガードしています。
他にもデイダラのC3、蒸気暴威など、いずれもガードされています。

このあたりはさすが後の風影、『最強の盾を持つ忍び』だと言えます(機会がなかった、たまたま当たらなかっただけと言われてしまえばそれまでですが。実際、C0とか防げるのかわかりませんし)

もちろん、絶対防御を突破したキャラが皆無というわけではありません。
しかし、彼の盾を攻略した忍びはいずれも爆弾以外の方法で突破しています。

その1、純粋な攻撃力で盾を貫通する。
原作ではサスケの千鳥や、君麻呂状態2の鉄線花の舞『花』(貫くシーンは原作にはありませんでしたが、振り返った我愛羅が「完全にやられていた」とコメントしているのでもしやられたら貫かれていたのでしょう)などが該当します。

最も単純な方法ですが、個人的には最も邪道だと思ってます。
ジャンケンのグーをめちゃくちゃ鋭いチョキで無理やりぶった切るような強引さを感じます。
バトル漫画的には正攻法なのでしょうが。
話が進むにつれ火力がどんどんインフレしていくのはお約束。

その2、何らかの方法で防御をかいくぐる。
ロック・リーが予選で披露した防御が間に合わないほどの超高速体術。
デイダラがやった『砂に起爆粘土を混ぜ込んで防御の内側で起爆する』など。

特に爆発のスペシャリストであるデイダラがこの手段をとったということは重要です。
要するに爆弾の威力で盾を正面突破するのは不可能であると彼が諦めたということですから。

その3、そもそも砂の守備範囲外から仕掛ける。
二代目水影のヌルヌルの液体や、無限月読などの幻術など。
カンクロウ曰く「我愛羅にはどんな物理攻撃も通じない」らしいので、物理以外の特殊攻撃を仕掛ける手段ですね。

個人的にはこの方法こそが正攻法、グーに対するパーだと思ってます。
防御が高いやつには特殊攻撃で攻める、常道です。


言いたいことは、どんな規模の爆発なら我愛羅の防御を抜けるのか全く分からないということですが………仮にそんな威力の爆発を屋内で起こしたとすれば………屋内にいる人全員、無事では済まないでしょうね。
ヘタすれば我愛羅を除く(威力によっては我愛羅も含めて)あの場にいる全員が吹っ飛びます。
自爆です。


周囲に被害を出さず、我愛羅の砂を爆発や炎などで攻略するには、小麦粉だけでは足りません。
もう一工夫必要です。
今回はそういう話です。


51話

(何なんだ? いったい何なんだあの娘は!?)

 

砂の上忍バキは戦慄を感じながらうちはコトと我愛羅の対戦を見ていた。

 

一尾、またの名を砂の守鶴(しゅかく)

この世に9体存在するとされる天災級の怪物『尾獣(びじゅう)』の1体であり、砂の化身ともいわれる大化け狸。

我愛羅はそんな化け物を身に宿す『人柱力』と呼ばれる特別な忍びだ。

砂を操る術は、守鶴の人柱力だからこそ行使可能な特異能力のはずで、たとえ写輪眼を用いたとしてもそう易々とコピーできる代物ではないはず。

しかし、現にうちはコトは模倣してのけている。

砂と小麦粉という違いはあれど、粉末状の微粒子群がある種の生き物のように流動する様子は我愛羅のそれととても酷似していた。

 

(いや………ありえないことではないか)

 

現風影の先代、三代目風影。

歴代でも最強と謳われた三代目風影は、守鶴の人柱力の術を参考に砂鉄を操作する術を編み出してみせた。

前例がないわけではない。

なるほど模倣自体は理論的に一応可能なのだろう。

 

(しかしそれはチャクラを磁力に性質変化させられる特異体質と歴代最強と謳われるにふさわしい才覚、そして長い研究と研鑽があったからこそだ………あの娘の才能はそれに匹敵するというのか?)

 

バキが思考を重ねている間にも戦いは展開していく。

我愛羅の砂とうちはコトの小麦粉が、まるで鏡合わせのように同じ動きと形状で激突し、うねり混ざりあった。

 

「………………まさか!?」

 

砂が小麦粉を押し返し、飲み込んだ。

やはり単純なパワーでは砂の方が上なのだろう、しかし小麦粉が混ざり込んだ砂の津波はコトに到達する前に勢いを失いやがて停止した。

 

 

「………何?」

 

「思った通りです。操っているのは特別な砂なんですから。当然その砂に不純物が混ざれば精度が落ちる」

 

 

これにはバキだけではなくテマリとカンクロウも目をむいた。

 

「そんな!? あれは父様と同じ………」

 

「なんで!? なんであいつが親父の止め方を知ってんだ!?」

 

そう、カンクロウやテマリの言う通り、かつてうちはコトと同じことをした忍びがいた。

 

現風影、羅砂(らさ)

我愛羅とカンクロウとテマリの実の父にして、先代風影の直弟子。

砂金を操る磁遁使い。

 

砂に不純物(さきん)を混ぜ込むという手法は、羅砂が長年の試行錯誤の末にようやく編み出した、暴走した我愛羅を止める常套手段であった。

 

(見つけ出したというのか………砂の最適な対処法を。このわずかな戦闘の間に!?)

 

歴代風影に匹敵どころの騒ぎじゃなかった。

匹敵どころか超えかねない所業だった。

 

おまけに、うちはコトの観察と分析はまだ続いている。

 

 

「砂の特性はほぼ把握しました。後はどう無力化するかですが………はてさてどうしたものか」

 

 

(バカな!? そんなことが可能なのか!?)

 

信じられなかったが冗談やハッタリをいうタイプではないことくらいわかる、彼女は本気だ。

術の模倣、対抗手段の確立にとどまらずさらにその先、『砂の無力化』。

歴代風影ですら到達できなかった前人未到の領域にうちはコトは本気で手をかけようとしている。

 

(まずい………まずいぞ我愛羅。一刻も早くその娘を止めねば。文字通りの意味で丸裸にされるぞ!)

 

バキが我愛羅の身を案じたのはこの時が初めてのことだった。

 

 

 

 

 

 

小麦粉と混ざり合ったことで砂の動きは確かに鈍りました。

ただ、しかしというかやっぱりというか、完全に止めるには至りません。

ある意味予想通りとも言える結果に、コト(わたし)は自分の立てた仮説が間違っていなかったことを確信しつつも内心で嘆息。

 

(まあ、これが限界。オリジナルとコピーの間にそびえる超えられない壁。二番煎じの現実ですよね)

 

もともと互いの練り込まれているチャクラ量の差が激しい上に、小麦粉は砂よりもずっとずっと比重が軽い。

パワー不足はどうしようもなく、スピードも雲泥の差、押し固めて盾や刃を作るなど夢のまた夢です。

原因が根本的すぎて発想や工夫でどうにかなる範囲を超えちゃってます。

 

どれだけ創意工夫を重ねてもコピーではオリジナルに決して敵わないのですよ。

 

………カカシ先生はコピーした術をオリジナルより先に繰り出したりしてますが、あれは例外です。

規格外過ぎて全く参考になりません、むしろ参考にしないでください。

『うちは一族じゃなくてもあれだけのことができるんだから本家はもっと凄いことができるよね?』的にハードルを上げるの本当にやめてください………できるわけないじゃないですか。

観察と解析をコツコツ積み重ねて可能性を探る、それが精一杯の非才な私にそれ以上を求めないでください………

 

それはさておき。

幸い我愛羅君は砂を操る以外の術がない様子、一芸特化タイプ(もっとも我愛羅君の場合、砂が万能すぎて汎用性に欠けるという一芸特化の弱点が弱点たり得てないのですが)みたいですね。

しかし今、その一芸である砂は混入された小麦粉により半ば機能不全を起こしている状態。

つまり、何か仕掛けるなら今………なのですが。

 

(下ごしらえが必要ですね)

 

仕掛けるための仕掛けというか、もうひと手間かかりそうです。

札が残っていればもう少し手順を省略できたんですが、ないものねだりをしても仕方がありません。

 

やることはいつもと同じです。

分析と考察、仮説の作成、検証、そして立証………なんてことはありません。

今の私にできることを、精一杯できる限り。

 

印を結び、術を発動。

種子穿弾により砂に植え付けられた種子が一斉に芽吹きました。

 

「木遁・緑化の術」

 

「っ!?」

 

 

 

 

 

 

まあ、ある意味で対砂、対砂漠用の術ではあるかな。

我愛羅君の砂(小麦粉混じり)がみるみる黄色い花に覆われていくのを見ながら、カナタ(わたし)は他人事のようにそんなことを思った。

対戦………と言っていいのかなこれ。

なんかもう、コトのコトによるコトのためのキテレツ忍術発表会みたくなってるんだけど。

 

「緑化って………えぇ~………??」

 

「まさか、そんなんで砂を無力化するつもりなの!?」

 

春野さんと山中さんが呆れたような声を上げた。

他の木ノ葉の観客からも「大丈夫か?」と心配する視線がコトに降り注ぐ。

 

 

「大丈夫です、問題ありません。何たってこれは私がずっと温めて続けてきた最高にエコな術! いずれは風の国の環境もバッチリ改善!」

 

 

方法以上に頭の方がよほど心配になってくる発言をするな。

エコじゃなくて、エゴだよそれは。

これほどまでに「余計なお世話」という言葉を体現した術を私は他に知らない。

風の国からしても有難迷惑、砂使いの我愛羅君からすれば気持ちだけでも迷惑でしょう…………………

 

「マジかよ………」

 

「効いている………だと!?」

 

「えぇ~?」

 

………………つまり、信じがたいことに妨害忍術としてちゃんと機能している。

砂がみるみる花に浸食され土に変わっていく、ウソでしょ。

 

 

後日弁解するコト曰く『いや確かに一見荒唐無稽に見えたかもですが、あの時私が観察する限り我愛羅君の操っている砂って妙に鉄分、水分、ミネラルたっぷりで土壌としては意外と悪くなかったんです。さらには小麦粉(栄養満点)も混ぜましたし、砂をお花畑に変えちゃおう作戦は割と本気で不可能じゃなかったんですよぅ………』とのこと。

 

妙に鉄分、水分、ミネラル豊富な砂というのに不穏なものを感じなくもないけど、とにかくコトにとっては理にかなった作戦だったみたいね。

時間をかけられるなら、という但し書きが付くけど。

まあ実際はそこまで待ってくれなかったわけで。

 

我愛羅君の背負っていたひょうたんが、彼の怒号と同時に弾けた。

 

 

「砂を、砂漠を舐めるなぁ!」

 

 

つくづくお怒りごもっともなんだけど、それでも弁護するなら、コトの場合舐めているんじゃなくて、大真面目に真摯に砂(の環境)に向き合った結果がこれなんですよ………うん、余計に性質(たち)悪いわ。

それにしてもひょうたんはなぜ粉々に………

 

「………まさか?」

 

「ひょうたんが砂に!?」

 

「あれも砂でできてたの!?」

 

砂を運ぶための器を砂で造るなんて。

万能ここに極まれりというか、本当に何でもありなのね。

ひょうたんだった砂が、元の砂を侵食していた花ごと包み込んだ。

我愛羅君が両手の掌を広げ、そして握り込む。

 

 

―――砂縛・葬送!

 

 

ブチャッと。

植え付けられていた植物が一網打尽に押しつぶされた。

芽を出していた花はもちろん、発芽前の種子も全部まとめて。

力技で花の縛りを解いた砂がそのままの勢いでコトに襲い掛かる。

砂にパワーとスピードが戻っていた。

 

「小麦粉で鈍ってたんじゃないのかよ………」

 

「ひょうたんの砂の分だけ、砂の純度が戻ったから………だけじゃないわね」

 

それはまるで序盤の焼き増し。

ウサ耳モードで跳ねるように逃げ回るコトを砂が空間を侵食するように追い詰めていく。

白眼を凝らして観戦していたネジ先輩が呻くように言葉をこぼした。

 

「砂に練り込むチャクラが大幅に増えている………なんてチャクラ量だ」

 

改めて我愛羅君のデタラメなスペックに驚かされるわ。ここにきてゴリ押しとか。

使う術はもとより、潜在的なチャクラ量が尋常じゃない。

正直、これはかなりマズいんじゃないかしら。

残り少ないチャクラと手札で必死にやりくりしているコトからすれば、この奇をてらわない上からの物量攻撃は本当に厄介なはず。

虎の子だったであろう種の仕込みも全てチャラにされて全ては振り出し………いや残る手札や消耗したチャクラも鑑みれば状況は振り出しよりも悪いかもしれない。

 

そうこうしているうちに、砂の刃が再びコトを取り囲んだ。

 

 

「………お前はここで終わりだ」

 

「………確かに終わりですね」

 

 

先の時は、自動防御を逆手に取り、あえて絶対防御を発動させることで攻撃を強制中止させて切り抜けたわけだけど………もうその手はもう使えそうにない。

花を咲かせる隙なんてもう与えてくれないでしょうし、何よりコトのチャクラはもう限界近いはず。

さすがに万策尽きたかな………止めた方がいいかも、と思ったけどそれすらもう間に合わない。

 

 

「死ね」

 

 

コトに殺到する砂の刃。

逃げ場なんてどこにもなく絶体絶命のはずのコトは、果敢にも自身に迫る砂の刃の1つを軽く蹴り上げる。

無意味な行動、苦し紛れの攻撃にしか見えなかった。

我愛羅君の膨大なチャクラによる高圧で押し固められた砂の刃は、その程度じゃビクともしない………はずなのに。

 

 

「やっぱり思った通りです」

 

 

ボロリと。

軽く蹴られた砂の刃は、その軽い一撃であっさりと崩れた。

 

「………バカ………な」

 

絞りだすようにうめき声をあげた砂の上忍であるバキさんに続いて、他の観戦者も口々に騒ぎ出した。

 

「え? ええ?」

 

「ウソだろ!? 我愛羅の絶対防御の砂だぞ!? あんなあっさり!」

 

「今度はいったい何をしたんだ!?」

 

「わからない、私にはただ普通に蹴っただけにしか………」

 

下忍、上忍、火影様、審判のハヤテさんや対戦相手の我愛羅君、もちろん私自身も含めてその場にいる誰1人としてコトの所業を理解できなかったみたい。

私たちが困惑する目の前で、砂の包囲を抜け出したコトは得意げに胸を張る。

 

 

「わかってたんです。緑化の術で植えた種を発芽させたとき、我愛羅君が力業で種を押しつぶしてくるのは」

 

「………………」

 

「い、いえすみませんちょっと見栄張りましたひょうたんが砂になるのは予想外でした」

 

 

我愛羅君から無言で放たれる怒気(殺気ではない、意外なことに)にあっさり態度を翻すコト。

ペタンと伏せられたウサ耳が可愛い………じゃなくて、種明かしがしまらない。

 

 

「と、とにかく! 重要なのは種を砂で潰した………というより絞ったことなんですよ」

 

「………何?」

 

「あ、そういえば最初に『花を咲かせた術』の名前を言ってませんでしたね」

 

 

「………言われてみれば確かに」

 

コトのセリフに私はふと思い出す。

種子穿弾は百合鉄砲などと同じ『花から種を発射する術』であり、緑化の術は宿り木縛りなどの『植え付けた種を芽吹かせる術』の亜種。

それらの前段階である『花を咲かせる術』の名前は言っていなかったわね。

意外にもコトのオリジナルの術じゃない。

なんでも初代火影様が実際に使用していた木遁らしくて、やたら仰々しい術名がつけられていたはず。

当然コトがそんな術を完全再現できるはずもなく、術の前に限定とか仮とかを律義につけて、さらには後ろに咲かせる花の種類をくっつけるから、術の正式名称(?)がやたらと長くなっちゃってたのよね。

そのせいで今回みたいな咄嗟の状況だと発動する時に発声省略されることもしばしばなんだけど。

え~と、あの花の名前は確か………。

 

「あ………」

 

実家が『やまなか花(はなやさん)』でコトを除けば誰よりも花に詳しい山中さんが真っ先にその『黄色い花』の正体に気付き声をこぼした。

 

 

「『限定木遁・簡易花樹海降臨(かんいかじゅかいこうりん)・菜花畑の術』というんです。知ってますか? 菜の花の種って絞ると油がとれるんですよ」

 

 

『………………?』

 

静寂。

理解が追いつくまでの、つかの間の停滞。

 

「………………ああ~なるほど。そう、そういうこと」

 

黙考すること数秒、私はようやく納得。

 

「だから砂があんな風に崩れちゃったのね」

 

「い、いったいどういう事だってばよ!?」

 

「そうよ! 1人で納得してないで説明しなさいよ!」

 

ナルト君と春野さんが目をむいて詰めよってくる。

う~ん、なんて言えばいいかしら。

春野さんはともかくナルト君にも理解できるように説明するとなると………

 

「………そうね。ナルト君は砂場で砂遊びしたことある?」

 

「え!? そりゃあるけどそれがいったい………」

 

「じゃあ、泥団子とか作ったことは?」

 

「ある。団子どころか火影岩を再現したこともあるってばよ! ………ヒマだったからな」

 

「そ、そうなの………で、聞くけど。水なしでできる?」

 

「………そりゃ無理だろ」

 

「それはどうして?」

 

「どうしてって、固めようがねーじゃん。どんだけ力いっぱい握り込んでも砂がサラサラだったらどうしようもねーってば………………あ」

 

はっと気づく。

うんうん、ナルト君って学力足りないだけで決してバカじゃないのよね。

どちらかと言えばバカなのはむしろコトの方なのよ………学力はぶっちぎってるのに。

だからこその発想ともいえるけど。

こんな方法、普通は思いつかないわよホント。

 

 

「砂を私特性の菜種油でコーティングしました。我愛羅君がチャクラで砂に圧力をかけて押し固めているのは分析済みなのです。それならば、どれだけ圧力をかけても固まらなくすればいいのですよ」

 

 

コトは木ノ葉でも極めて希少な血継限界、木遁の使い手である。

それはつまり、木遁の元である水遁と土遁の使い手でもあるということ。

今でこそ札なしの素で木遁を扱えるようになったけど、そこに至るまでの道のりは決して平坦ではなかったわ。

何度も何度も水と土の性質変化の実験を行い、時には私やヒナタさんを巻き込んで結果を分析、観察、また実験という試行錯誤の日々………何度も泥まみれになりながらコツコツと研究を積み重ねたコトは言わば(えきたい)(こたい)その他もろもろを混ぜ合わせるスペシャリスト。

砂にどんな液体を混ぜれば固まらなくなるかなんて知り尽くしていると言っても過言ではないわ。

 

「私としてはこんなの一体何の役に立つんだかと思ってたんだけど………まさかこんな形で花開くなんてね」

 

これはもう素直に脱帽よ。

いや本当に胸を張っていいと思う。

コト、貴女は確かに私たちの度肝を抜いたわよ。

我愛羅君の絶対防御はこれで完全に機能しなくなったと見ていいでしょう。

砂が固まらなくなった以上、盾はもう作りようがない。

 

 

「胡椒で味付け、小麦粉も塗した、油も無事挽けました。下ごしらえはすべて完了です。後は上手に揚げるだけ」

 

 

料理か。

私が内心そう突っ込んでいる間にコトが印を結ぶ。

 

「………寅の印!」

 

「あの印は火遁の………来るか、うちはの十八番」

 

あれだけ粉やら油やら混ぜ込んだらいくら砂でも燃えるでしょう。

 

 

「これで仕上げです! 火遁・着火のひゅっ?」

 

 

―――コヒュッ

 

 

だけど、コトの口からは炎どころか火の粉の欠片すら出てこなかった。

 

 

 

 

 

 

「あ………れ? な………んで」

 

チャクラが練られない、全身に力が入らない。

思わずコト(わたし)は膝から崩れ落ちました。

コンビ変化も解けて、ウサギ(ユキちゃん)がまさに精根尽き果てたとばかりに私の頭から転がり落ちてピクピク痙攣しています。

ああ、そう、どうやら時間切れみたいですね。

 

 

「ウソ!? チャクラ(スタミナ)切れ!?」

 

「よりにもよってこのタイミングでか!」

 

 

いろいろ足りなかったみたいですね、まあ当然でしょう。

札なしでの木遁の連続行使に写輪眼、長時間の変化の持続、ガス欠になるのも無理もないというか、むしろよく持った方だと言えるかもです。

 

しかし我愛羅君は、砂はまだ動かせるようです。

小麦粉を塗して速度を鈍らせ、油を染み込ませて硬度を失わせて、しかしそれでもなお、人ひとり簡単に圧殺できるだけのパワーと質量を宿した脅威の砂が私めがけて津波のように押し寄せてきます。

 

(これだけやってもまだ止めきれない………なんてスタミナ………消耗具合はほぼ同じはずなのに)

 

そして私は膝をついた姿勢から立ち上がることすらできず………ふと、視界の隅にナルト君の心配そうな顔が見えて―――

 

「―――いやまだです! まだ終わりません!」

 

砂が激突し、ゴワーンという銅鑼を叩いたみたいな音が響きました。

 

 

「え!? 何、どうなったの!?」

 

「コトが袖口から何か………盾?」

 

「違うわ、ナベよ! それも中華とかに使う奴!」

 

「なんで中華鍋(そんなもん)を中忍試験に持ってきたんだ!?」

 

 

ヒナタさん、今ならあの時の貴女の気持ちが分かる気がします。

なんであんなにボロボロになっても立ち上がれたのか。

なぜ本来不得意なはずの体術をあんなに頑張れたのか。

見られたくなかったんですよね。

だってみんな頑張っているのに、みんな踏ん張っているのに。

自分だけ頑張らず踏ん張らないのは物凄く格好悪いですから。

 

(そんな頑張らない(かっこうわるい)姿なんて、私もナルト君に見られたくない!)

 

砂が中華鍋を回り込んできました。

予備の物干し竿で棒高跳びみたく砂の波を飛び越え、ドラム缶を囮にして砂の川をそらし

金ダライでサーフィンみたいに砂の坂を滑り、洗濯板の陰で砂の礫をやり過ごします。

選んでいる余裕はありませんでした。

とにかく袖口に腕を突っ込み、手にあたったものを手当たり次第に口寄せして外にぶちまけます。

しまう時ならともかく、開放するだけならチャクラは不必要なのですよ。

 

「………いやだからあいつなんであんなもん持ってきてるの?」

 

「恐るべき収納性………とでも言えばいいの?」

 

「思った以上に粘る………確かに動きはドンくさいが、妙に手際がいいというか、逃げ慣れてるというか」

 

「元脱走の常習犯は伊達じゃないってばよ!」

 

「いや、でもさすがにこれ以上は………」

 

 

またしても砂に取り囲まれます。

もはや何度目かもわからない詰み状態。

つかみかかってくる砂の手、躊躇は一瞬、私は覚悟を決めました。

 

 

「コトが捕まって………ない!? 上着だけ!?」

 

空蝉(うつせみ)の術!?」

 

 

その通り、空蝉の術です。

言うならば服を使った変わり身、この術ならチャクラが切れた今の私でも行使可能です。

 

巫女装束(いまのわたし)ならばあと1回………いや頑張れば2回は………………………………いやいやゴメンなさいやっぱりあと1回が限界です!」

 

覚悟は決めたはずなのに………私は、弱い。

 

 

「あっっったり前だぁ!! なりふり構わないにも程があるわぁ!!!」

 

「そこから2回も脱いだらすっぽんぽんになっちゃうじゃない! ってか1回でも下着姿でしょうが!」

 

 

「ゴホッ。あの~………さすがにそうなったら止めさせていただきますので………」

 

 

なんか観客の皆さん(主に女性)から物凄い大ブーイングを食らい、ハヤテ審判が物凄く困った顔で忠告。

あ、やっぱりダメですかそうですか。

ホッとするべきか、嘆くべきか。

 

 

「いやその脱衣脱出はモラル的にもヤバいけど、戦術的にも悪手でしょそれ。もう口寄せできないじゃん」

 

 

そしてカナタのツッコミはいつもいつも嫌になるほど的確です………術式を仕込んでいた服を脱いじゃった今、もう道具の開放もできません。

チャクラも切れて、道具箱も失い、とれる選択肢がどんどんなくなっていく中、本当の本当に必要だったものだけは確保できたのが不幸中の幸いですが。

とにかく今欲しいのは火です。

そのために必要なのは火を起こすための道具。

なんとかそれだけは確保できました。

 

 

「あれは………火打石!」

 

 

そう、サバイバルの必需品、持ってきててよかった火打石です!

 

問題は間に合うかどうか、つまりは時間なわけですが。

………悩んでる時間すら惜しいです。

出来るかどうかじゃない、やるんですよ。

 

「うなー!」

 

―――カチカチカチカチカチカチ!

 

「させるかぁ!」

 

火打石を狙って砂が幾筋にも枝分かれして襲ってきます。

砂の速度自体は小麦粉で鈍っているのですがそれ以上に無駄がなくなっているのです。

こちらの動きの癖を把握されたようですね………

 

「っく、これはダメ………ああ!?」

 

結局、どう頑張っても逃げきることができず私はついに火打石を手から弾き飛ばされてしまいました。

 

弾かれた火打石は分厚い砂の壁を越えて我愛羅君を挟んだはるか向こう側に。

もうどうやっても取りに行くのは不可能………

 

「ああ、無常………いや、まだです!」

 

「終わりだ………今度こそ終わり………っ!?」

 

 

―――カチカチカチカチカチカチ

 

 

それは我愛羅君の背後から。

我愛羅君が振り返るとそこには、火打石を一心不乱に打ち付けるウサギ(ユキちゃん)の姿が。

 

「これぞ忍法・ウサギの大手柄!」

 

「しまっ―――」

 

「疑似火遁・カチカチ山大団炎!」

 

着火。

炎上。

 

小麦粉を塗して油を挽いた砂が、一瞬にして炎に包まれました。




次回でおそらく決着です。
コト、超頑張った………努力の仕方とか覚悟のベクトルとか盛大にずれているような気がしないでもないですが個人的には大健闘だと思ってます。

前回のあとがきに続き、今回もコトの使用した術について解説。

操粉の術。
我愛羅の守鶴の術を参考に、コトが即興で開発した小麦粉を操作する術。
あくまで、小麦粉を操作する『だけ』の術です。
我愛羅みたく、手をかたどって相手を捕まえる、固めて盾を作って防御するなどはできません。
パワースピードが足りないのはもちろんのこと、絶対的に量が足りてません。

緑化の術。
構想自体は原作開始前の、コトが木遁に目覚める前から。
資料から初代火影の木遁忍術を調べあげた時に思い描いていた「もし私に木遁が使えたらこんな使い方絶対しないのに、もっといい使い方があるのに」というコトの理想が詰まった最高にエコな術(本人談)。
実際に、緑化できるかどうかは試してないからわかりませんが、たぶん今のままだといろいろ足りない。
要改良です。

簡易花樹界降臨・菜花畑の術。
原作にて5影をまとめて昏倒させた究極木遁・花樹界降臨の超廉価版の菜の花バージョン。
ヤバい花粉とか出ない、極々普通に周囲に菜の花が咲き乱れます。
ここから種を発射する種子穿弾につなげたので飛んでいくのは当然菜の花の種です。
つまり………

いつかコトが下ごしらえなしで直接油を精製できるようになったら、サスケあたりと組ませて

「コト! 油だ!」

「かしこまりぃ!」

「「火遁・菜種油炎弾(なたねゆえんだん)!」」

とかやらせたいですね。

ちなみに、これによって精製される菜種油はそうとう特殊です。
とても良く滑り、とてもよく燃えて、とてもコレステロールが低く、そしてとても不味いです………要品種改良です。


この油を染み込まされて我愛羅の砂は固まらなくなりました。
第二部の二代目水影戦の時と同じです。
描写から推測するに、我愛羅の砂って要するにワンピースのクロコダイルとは弱点が真逆なんでしょう。
クロコダイルは自然系の例にもれず流動して攻撃を受け流して無効化するため砂がサラサラスベスベじゃないといけませんが、盾を作る我愛羅の場合は逆に砂が固まってくれないと困るわけです。

二代目水影の時は次から次へと新しい砂を浴びせかけて物量でゴリ押しましたが、今の我愛羅では不可能な手段でした。

まとめると『ある程度湿り気を帯びて鉄分を多量に含んでいる』状態こそが、我愛羅にとって最も磁遁で操りやすく固めやすい砂のベストコンディションなのでしょう。

死者の血涙は漠漠たる流砂に混じり―――さらなる力を修羅に与ふ


忍具口寄せ。
原作に描写はありませんがテンテンが使用する(という設定の)術です。
ゲームとかだと、彼女はバンバン忍具を呼び出して王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)みたいなことしてます。
超格好いいのになぜ原作では端折られてしまったのか………

コトの場合は忍具ではなく、生活雑貨、洗濯用品、調理器具、サバイバル用品などしこたま詰め込んで中忍試験に臨みました。
備えあれば憂いなし、本人なりに相当真面目に準備してたんです。
実際、土壇場で火打石が………


空蝉の術。
ざっくり言えば、服を用いた変わり身。
元ネタは変わり身の別名ですが。
名前は原作には登場しないものの、敵の攻撃を服を脱いで脱出するシーンはそれなりにあるので一応、オリジナルというわけではない。
少なくとも自分の皮を脱いで変わり身するよりよほど、まともな術なはず………ですが。


ウサギの大手柄・かちかち山大団炎
名前の元ネタはもちろん民話『かちかち山(旧タイトル『兎の大手柄』)』から。
我愛羅とコトを対決させると決めたその瞬間から、決着はこの術以外ありえないとずっと考えてました。
ウサギとタヌキで決着をつけるのにこれ以上相応しい術はないでしょう。

胡椒で味付けし、小麦粉を塗して、菜種油を挽いて、火遁(もしくは火打石)で着火、という連結術。

無茶苦茶手間がかかりますが、現状のコトが真面目に我愛羅の絶対防御を突破するにはこれくらいやらないと達成できないかと。
少なくとも粉塵爆発させるよりはよほど小麦粉の使い方としては適切です。
小麦粉とは本来こう使うものです。



いつかFGOでかちかち山のウサギが実装されないかなと期待してます。
たぶん日本では巌窟王を上回る知名度のアヴェンジャーじゃないかなと。
星はたぶん1~3あたりかと思いますが。

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