主人公の心の声は( )で。
目を覚ますと、青年は白を基調とした部屋にいることに気づく。
窓際に目をやると、風に仰がれたカーテンが、外の景色をちらつかせる。
目を凝らせば、そこは庭園。
中心には力強く根を張る、大輪を携えた立派な大木が確認出来た。
その雄大さと美しさの混在する景色に、思わず口元を綻ばせる。
ふと根元に目をやれば、俯きながら食事を摂る金髪の少女が1人。
如何せん距離は遠く、容貌は確認できないが、その雰囲気はどこか儚げで、少々の陰鬱さを感じさせられる。
ふと、少女が顔を上げた。
(ん…?目が合った…?)
青年と少女の視線が交差する。
直後、突風に揺らされるカーテンが、彼の視線を遮り、出会いを想起させる春の香りを、鼻腔へと運ぶ。
再び視線を向ければ、少女は既にそこにはいなかった。
青年は思い直し、薬品の匂いが漂うベッドの上から身を起こそうと、そして誰かいないかを確認しようと試みるが―――
「ッ!!」
背に走る鋭い痛みがその動きを妨害し、彼は再びベッドに倒れ込む。
同時に、試験官を務めた教官が入ってきた。
それを見て、痛みに顔を顰めつつ、すぐに身を起こす。
「ん?
起きていたか。
貴様は先刻、立ち会いの末、気を失ったのだが…
覚えているか?
丸1日寝ていたのだぞ?
何か、記憶の混濁があれば述べるがいい。」
(あぁ…そうか。
俺、負けたんだったな…)
「いえ、記憶の混濁はありません。
ご迷惑をお掛けしました。
して、結果を伺っても?」
「ふむ。医務室で合否を言い渡すのも締まらんが、仕方ないか。
では、受験者スイに、結果を報告する。
貴様を、現時刻を持って、アルビオン士官学校の生徒となる事を認める。
我ら教官と教員、及び上級生には、敬意を持って接するように。
報告は以上だ。」
腹に響く、ハッキリとした声で教官はスイに告げた。
正直なところ、医務室でこんなバカでかい声を出すのは些か以上に問題があるかに思われるが、脳が筋肉であるが故、仕方ない。
「では、コレが貴様の寮の部屋の鍵と、校舎の地図だ。
要項や校則等が記されたパンフレットは全て寮に届けてある。
動けるようになったら、すぐに向かうように。」
そう言い、教官は鍵が括られ、円柱状に丸められた分厚い羊皮紙を投げ渡す。
受け取る青年は、再び走る痛みに、僅かに表情を崩す。
(痛ってぇのがわかんねぇのかクソジジイ!!
てめぇいつか死なすからな!!)
うん。まぁ、仕方ないだろう。
「了解致しました!
寝ている状態での応対、失礼しました!」
「よろしい。
回復魔法は掛けてあるはずだが、まだ痛むようならポーションを飲め。
ベッド脇の、棚の中にある褐色の瓶だ。
では、私は失礼する。」
「ハッ!」
教官は満足気に頷き、医務室を後にした。
見届けた青年は、
ー――ボスッ―――
布団の空気が抜ける音とともに、またもベッドに臥す。
(ひとまず合格…か。
タイラーがどの程度の戦闘力かは分からないが、恐らくヴィーラたんやカタリナさんには劣るはずだ。
原作キャラのおっぱいを揉m…関わるためには、最低限の戦闘力を身につけておくのが吉だろうな。
ああ、そうそう、戦闘スタイルも、使いやすい武器を選ばなきゃ…
少なくとも俺に片手剣は合わないみたいだし。
いや、まだ他にもやるべき事は………………)
長々と思考の海に沈没していくが、今は机上の空論であろう。
それに気付いたのか、
「うん!今考えてもどうしようもねえや!!
まずは行動!
寮に向かうか!!」
そういう訳で、寮に向かう。
◇或る少女視点◇
私がアルビオン士官学校に入学したのは、何も騎士になりたい。と言った夢があるからではありませんでした。
何故か、と問われると、それは一言では言えず、まずは私の身の上を語らねばなりません。
詰まらない小娘の意地の話ですが、どうかお聞きいただければと。
私は、商業が盛んな、とある島の、商家に長女として生を受けました。
ポート・ブリーズ程人も流通も多くない、田舎の島でしたが。
とは言え、腐っても商家、愛は無かったけれど、財政環境は豊かで、幸せに暮らしてきました。
美味しいパンに、暖かいスープへのお礼、そして何より、両親に私を見てもらうために、私は一般教養における勉学に手を抜いたことはありませんでしたし、商学にはより一層力を入れて励みました。
その甲斐あってか、父からもいくつかの事業を任され、私は勿論必死になって取り組み、その尽くを利潤で満たしました。
元々私には才能があったのでしょう、他の姉弟らも任された事業はいくつかあったようですが、私ほどの利益はありませんでした。
事実、私は姉弟の中でも最も優れていたと、そう自負しています。
私自身、次代の当主は自分になる。
そう確信していましたし、弟や妹もそう思っていたはずです。
容姿、人柄、実力の三拍子揃っていた私は、島でも有数の商人として扱われていたことも助長したのでしょう。
私はつけ上がり、今まで以上の努力と研鑽を積みました。
しかし、歳が15になった日、私は父の書斎に呼び出され、ひとつの事実を告げられたのです。
「君には、ポートブリーズの商家の当主に、嫁に出てもらうことになった。
喜べ。彼は32にして既に幾つもの功績を挙げている。
生活に困ることは無いだろう。
今までご苦労だった。」
はじめは理解が及ばず、何度も聞き直しましたが、耳に入った情報に誤りはありません。
私は酷く狼狽しつつも、こう詰問しました。
「で、ではっ!
当主は誰が継ぐのです?!
業績は、業績なら私が最も挙げたはず!!」
「長男に継がせる。
アレは君と比べ、些か決断力に欠けるが、それでも上々の出来だろう。」
「何故ですかっ?!」
私の方が頑張ったのに!!
私の方が努力したはずなのに!!
父は苦笑を浮かべ、
「だって、君は女だろう?」
と、私に告げたのです。
私はその時、怒りや悲しみを通り越し、感情を失いました。
…結局、両親は私を見てくれていなかった。
どう足掻いても、目立ってみても、長男しか、見ていなかった。
――――私の努力は、無駄だった――――
その後、どうやって部屋に戻ったかもハッキリ覚えていません。
ただ確かな事があるとすれば、、あの夜、私は今まで稼いだ金を持ち出し、アルビオンに渡ったということ。
私がはじめて、親に反抗したということ。
幸いにして、アルビオンでの行く先は目処がたっていました。
一年中生徒を取っている、アルビオン士官学校です。
一般教養は怠ったことはありませんでしたし、商売にマナー作法は必須。
戦術学でこそ、他に比べれば遅れを取りましたが、問題なく合格でき、無事に入学となりした。
ただ、毎日のように入学してくる、同学年の新入生を見る度に、どうしても不安になるのです。
彼らは皆一様に、騎士になる夢を抱えています。
夢に向かって、努力ができるのです。
現実から逃げた、愚かな小娘とは違って。
昨日も1人、入学試験を受けた人がいました。
珍しく男子。やわらかそうな茶色の髪で、背が高く、整った目鼻立ちです。
立ち合いでは、はじめこそ怯えた目をしていましたが、直ぐに変わり、即座に反撃に転じていました。
打ち負かされたのに、意志の強い、目をしていました。
今日も医務室にいるのを見かけましたが、あんなに強く打ち付けられたのに、平気な目をして、幸せそうな顔で、花を見つめて。
それが、私を不快にさせる…
私は、自分が入学してからというもの、入学試験を必ず見ています。
自分と似たような、騎士になりたくないのに士官学校に入った、ちぐはぐな人間を探しているのでしょうか。
しかし、それでも、今回もまた、きっと夢を持った人。
また、夢を持った人。
それを見て、またも心が痛くなる。
何度見ても懲りずに。
人の夢を感じる度、傷ついて。
―――ああ、ホントに――――
自分が、嫌になる。