寮に着くまでに学校の施設を色々見て回ったが、そこはおいおい語ることになるので、今は割愛しよう。
さて、寮母さんへの挨拶も済ませ、自室の扉前まで来た彼だが、ある違和感を感じ取る。
(えぇっ…生活音がするぅ…)
そうなのだ。
部屋からは、ガタゴトと、時折何かが落ちる様な騒々しい音。
中に誰か居ることは想像に難くない。
しかし何時までも部屋の前で突っ立っているわけにも行くまい。
意を決して、扉をノックする。
いや、まぁ、自分の部屋なのにノックをするのもおかしな話ではあるが。
ーーーコンコンッーーー
木製のドアを打付ける、小気味良い音が鳴る。
「くッ…間に合わなかったかッ!
だが、少しでも時間を…!
はいッ!!
入ってますッ!!!」
(いや、うん。知ってる。
だからノックしてる。
なんなら全部聞こえてるから。)
「しばらく待ちますから、用が済んだら開けてくださいね。」
「恩に着るッ!」
数分後、ドアは開かれた。
「いやぁ、すまない!
これまでは1人でこの部屋を使っていたものでな。
そのルームメイトが来るって、昨日急に知らされたんだ。
それで急いで掃除をしていた所でね。
ハハハ…」
「なるほどです。
というか、共同で使う私室なんですね。
こちらこそ、急に来て申し訳ない…」
「いやいや、こちらこそ…いや、やめようか。
きっと押し問答になる。」
部屋の主は、爽やかな笑みを浮かべながら身を開き、部屋の中へと誘う。
「さぁ、入ってくれ、今日からは君の部屋でもある。
座って話をしようじゃないか。
合格おめでとう、スイ君。」
「ふふっ、ありがとうございます。タイラーさん。
3年間、よろしくお願いしますね?」
※
「では、適当な椅子にかけていてくれ。
紅茶でいいかい?」
「あぁ!すみません、自分でやります!」
「いや、やらせてくれ。
新たなルームメイトだ。
味気ないのは否定できんが、歓迎くらいさせてくれないか?
それに君も、初めくらいは持て成されてもバチは当たらないさ。」
「…そういう事なら。
ありがとうございます。」
そう言いながら椅子に腰かけ、部屋を見回す。
(こいつは広いな。
二人で過ごすにしたって広すぎる。
アルビオンって実は金持ち…?
家具にしたって豪華な装飾だし…)
――――カタンッ―――――
控えめな、陶器のぶつかる音が部屋に広がる。
「待たせたね。
この部屋、広いだろう?
自分も初めて来た時は同じ反応をしたさ。」
「ええ、少し驚きました。」
「なに、直ぐに慣れる。
では、改めて自己紹介を。
自分の名前は、タイラー・フレールだ。
先月上旬に入学した、ひよっこ騎士見習いってところさ。」
「では私も。
スイです。
星の力の目利きが少しだけ優れた、しがない小市民です。
改めてよろしくお願いしますね。」
そう言い、ハニカミながら、右手を出す。
「あぁ、よろしく!」
対する青年も、その手を力強く握りしめた。
「ただ、敬語は止してくれよ?
同じルームメイトなんだからな。」
「そうです…いや、そうか。
じゃあ、そうさせてもらうよ。」
「ああ、それでいい。」
(おおおお、なんかコレいいな!!
俺ってば、今、かっこいいんじゃない?!
主人公っぽいんじゃない?!)
気持ちは分からんでもないが、落ち着け。
お前のセリフで台無しだ。
あとお前は主人公である。
「さて、自己紹介も済んだところだし、なにか聞きたいことなどはないか?
ひと月とはいえ、一応自分は先輩だ。
一通りの施設は見て回ったし、授業についても答えられよう。」
「それは助かるよ。
それじゃあ、授業についてなんだが……」
その言葉を皮切りに、青年らの会話は雑談を交えながら、つつがなく交友を深め合った。
もとより真っ直ぐな性格で、溌剌としたタイラーと、誰にでも波長を合わせることが出来、コミュニケーション能力が高いスイ。
彼らが気の置けない関係になるのは不自然なことではなかった。
ただ、ルームメイトと初日にして仲良くなると、多少の弊害はある。
それは―――――
「いいや!俺は料理も掃除も洗濯も、全部下手くそだね!!!
出来るわけねえよ!!!」
「ふざけるな!!
自分だって下手だが、出来ないなりにやって来たんだぞ!!
だいいち当番制にするって言っているんだ!!
何も全部押し付けるわけじゃない!!」
「その比率がアホだっつってんだよ!!
なんだお前、6:1って!!バカかお前!!
お前の怠惰さには女王アリもビックリだよ!」
いや、その例えはよく分からないが、確かに無茶である。
「それはスイが剣術勝負で負けたからじゃないか!!
1本取られたのは不覚だったが、それでも公平だったはずだ!!」
なるほど確かに、それなら文句は言えまい。
「お前全部投げるつもりだったのかよ!!
畜生だなマジで!!
つか自分で言ってたろ!ひと月先輩だって!
不公平だわこんなん!
むしろよく1本取れたわ俺!」
前言撤回、これは大人気ない。
「くっ…だが、スイは納得したじゃないかッ!」
「してねぇわ!!
急に斬りかかってきやがって!!
未だに何を持って1本だったか分からんぞ!!」
「あんた達、うるさい!!
今何時だと思ってんだい!!」
―――ビクッ――――
「「……」」
「寮母さんって、おっかねぇのな。」
「…あぁ、自分も何度か拳骨を食らったが、恐らく彼女がアルビオン最強だろう。」
「当番、交代にすっか…」
「…異論はない。」
「明日は早い。
スイも、今日は寝よう。」
「そうだな…」
「じゃあ、俺こっちのベッドで寝るから。」
「いや待て、そこは今まで自分が使ってきた場所だ。
スイはあっちで寝てくれ。」
「ああ?」
「なんだ?まだやるか?」
「あぁ!やったろうじゃねぇか!
剣術でもなんでも、かかって来いよ!!」
「いいだろう!
タイラー、いざ参るッ!!」
「ゴラァっ!!いい加減にせんか!!
追い出すよあんた達!!」
「「…」」
「俺、寝るわ。
あっちのベッド使う…」
「あぁ、おやすみ…
寝坊するなよ…」
というわけで寝る。
明日から授業だ。