冷たい海の上で、俺は目覚めた。
微睡みから意識を取り戻した俺は周辺を見渡す。
といってもあの時から移動していないので、先程と同じ場所であるのは間違いない。
先程まで遠くにいたはずの艦娘達はあの特殊艤装の砲撃で消し飛んだのか、影も形もなくなっている。
「へっ、ざまあみやがれ」
海中に没したであろう艦娘達を罵りながら無線機を起動する。
しかし、周波数を基地司令部の物に合わせても聴こえてくるのはけたたましいノイズばかり。
最悪、基地が陥落したというケースも考え、取り敢えずその場から動く事にした。
特殊艤装を使ったせいか、やけに体が重い。
それだけでなく、艤装も大したものは出せなくなっている。
今体に纏っているのは57cm4連装砲が4門と15cm3連装高射砲が8門だ。
これだけでも充分規格外な装備なのだが、実を言うとあの時の対空戦闘で4連装砲は弾切れを起こしている。
だから実際に使用可能な兵器は高射砲しかない。
なので、基地の状況を確認と出来れば補給という目的で基地へと向かおうと……したのだが。
「羅針盤が吹っ飛ぶとかついてねえな……」
そう、海戦どころか船の航行には必ず欠かせない『羅針盤』が、艦娘の攻撃で木っ端微塵に吹き飛んでいたのだ。
しかも太陽は現在雲で覆い隠されており、時刻も夜中だ。
つまるところ、方角が分からない。
このまま明朝を待つのも考えたが、こんな所にいれば敵に見つかる可能性も考えられるので取り敢えず周囲の警戒をしつつどこか隠れられそうな場所を探す事にした。
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数時間の探索で、ようやく隠れ場所に良さそうな孤島を見つけ、全速で上陸した。
上陸するや否や艤装を解除し、すぐ側の木にもたれ掛かった。
「ハァ……だるいな……」
体の奥底から込み上げてくる倦怠感。
それに耐え切れずに木陰で座り込む。
最初こそ特殊艤装は素晴らしい物かと思っていたが……メリットもデメリットもデカ過ぎる。
正直二度と使いたくない気分だ。
まぁ、あんなものを使うような機会なんてそうそう無いだろうから安心するとしよう。
時刻は既に朝を迎え、水平線の向こうから太陽が顔を出し始めている。
お陰で方角も分かったのでいざ行かん……と思った所に見覚えのある集団が『海の上』を通り過ぎ、俺はそれを無意識に目で追っていた。
そこに居たのは、艦娘。
艦娘だと分かると一目散に近くの森林の中に飛び込み、見つからないようにする。
規模は一個艦隊に相当する。
この状況から察するに、残党狩りにでも来たのだろうか?
いやしかし、相手の艦隊の編成を考えるとおかしく思う。
敵艦隊の編成は軽巡一隻とあと全部が駆逐艦という今までの戦闘では余り考えられない編成だった。
怪しく思いながらも敵艦隊を観察していると、突然彼女達は停止し、俺が今いる孤島を軽巡の眼帯を付けた艦娘が指さした。
「オーイ!チョイとここら辺で休憩にしようぜ!」
「賛成なのです!」
「……まずいっ!」
島に上陸し、此方に近付いてきた事を確認し、更に森林の奥へと隠れる。
近くの岩や流木に腰掛けた艦娘達は何やら話を始めた。
何を話しているのかと聞き耳を立て、会話の内容を聞き出そうとすると、聴こえてきた会話に俺は拍子抜けした。
「ここ最近遠征ばっかで退屈ったらありゃしねえ!あぁー暇だ!」
「でも平和が実感出来るから良いじゃない」
「だけどよ、こうも毎回資源運ぶだけってのもなぁ〜……」
何だ、何を話しているんだコイツらは。
てっきり残党狩りでもしていたのかと思えば、資源運びだと……?
幾ら我々が瀕死とはいえ、こんなご時世に呑気に遠征なんかする奴があるか。 と叫びたかったが、何とか喉元で抑え込んだ。
奴らは暫く談笑をした後、立ち上がり、再び海へ戻ろうとした。
やっと帰ってくれる。 と思っていた時だった。
鼻先に大きな蜂がけたたましい羽音を立てながら止まったのは。
「どわあぁぁっ!?」
「!?」
「何だ!?」
蜂から逃れようと茂みから飛び出した俺を驚いた形相で見つめる艦娘。
暫しの沈黙が辺りを包み込む。
沈黙を破ったのは軽巡の艦娘だった。
「なんでこんな所に深海棲艦なんていやがんだ!?」
訳の分からない事を叫びながら砲口をこちらに向け、警戒する彼女らを一瞥し、溜息を一つ吐く。
これはまずい。
幾ら俺とて消耗している身だ。
駆逐艦数隻と軽巡の集中砲火に今の体力で耐えられるかかなり不安が残る。
一瞬の内に頭の中から出た選択肢はといえば
①大人しく降伏する
②全力で逃げる
の2択に絞られた。
どちらかというと後者の選択を選びたい所だ。
前者では今の所は命は助かるかもしれないが、問題は捕まって後送された場合、良くて捕虜、悪ければ即処刑か何かしらの実験材料にされかねない。
結論、出た答えは……。
「あっオイ!逃げんな!!」
三十六計逃げるに如かず、だ。
規格外なレベルにまで改装に改装を重ねた俺の体は駆逐ですら追い付けないスピードで艦娘達の目前を通り過ぎ、猛スピードで海の彼方へと去っていった。
「『天龍』さん!あの方角には街が!」
「分かってる!鎮守府に急いで通達しろ!」
この後、鎮守府から出撃した主力艦隊やその他の兵員数千人規模で十何時間にも及ぶ大捜索が行われたが、結局深海棲艦が見つかる事は無かった。
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