横須賀鎮守府の住民を叩き起したのは雨音をかき消す砲声と爆発音だった。
「な、何事だ!?」
突然の爆音により眠気も吹っ飛んでしまったその鎮守府の未成年と見紛う若き提督は大急ぎで制服に着替え、自室を飛び出して執務室の扉を半ば乱暴に開け放った。
そこにいたのは彼の秘書艦であり、その他重要な仕事を担っている『大淀』が既に提督を待ち構えていた。
「提督、緊急事態です!!」
「そんな事は分かってる!何が起きているんだ!?」
数十年の平穏が突如として破られた事によって混乱した秘書艦に提督は声を荒らげつつも状況説明を求めた。
「それはまだ確認が取れていません!ですが……攻撃方法からして十中八九深海棲艦だと思われます」
その答えを聞いた提督は困惑し、更に怒鳴り声を発した。
「な、何を言ってるんだ!?深海棲艦の生き残りなんて中東にほんの僅かしかいなかった筈だろう!?」
深海棲艦による大規模な奇襲等予想していなかった為に余計に混乱を招いた。
「そんな事私にも分かりません!それよりも早く艦隊の出撃許可を!!」
「わ、分かった!」
真夜中の鎮守府を覆う炎。
それらを生み出していたのはエルメサス率いる奇襲部隊だった。
砲弾と魚雷が何十発と放たれ、停泊した護衛艦やイージス艦、その他の艦艇に直撃し、爆炎を上げる。
船体が紙屑のようにぐしゃぐしゃにひしゃげ、爆沈していく。
艦艇だけでなく港の港湾施設まで標的とし、砲弾を浴びせる。
「タイムリミットは三十分だ!!全て破壊しろ!!」
エルメサスもレスタリオスから借りた部下へ怒号を撒き散らしつつ五十六cm四連装砲四基の一斉射撃で火の海を更に拡大させ、甚大な被害を与える。
タイムリミットがもうすぐ二十分に減ろうとした時、
エルメサスの電探が複数の動体を感知した。
「総員警戒!艦娘のお出ましだ!!」
相手もこちらを視認したらしく、遠くから発射炎が光ったのが見えた。
「敵弾来るぞ、気を付けろ!」
とは言ったものの、艦娘達の放った砲弾は明後日の方向へと飛んで行った。
まぁ無理も無い。
現在横須賀は大型の台風の直撃により、海の方では荒波が荒れに荒れており、照準なんか真面に合わせられない。
そもそも、こんな状況で海戦を行う時点で異常なのだ。
しかし、エルメサス達にはアドバンテージがあった。
それは新装備である。
工廠が新たに開発した装備とは『砲口安定化装置』である。
生存した同胞が中東で戦っていた主力戦車、『MBT』の砲の高い命中率を見て真似た事によって生まれた装備だ。
これによって荒波に晒されても尚、正確に照準を合わせる事が可能となる。
「目標、敵艦隊!!」
数十人の同胞が目前の敵に照準を合わせ、合図を待つ。
彼等は大砲の砲弾を放つ火薬であり、それに火を付けるのはエルメサスだ。
「テエエエェェェェッッ!!!」
瞬間、爆炎が敵艦隊を覆い尽くし、視界が一時遮られた。
あまりの火力の高さに衝撃波で津波が発生した程だ。
「煙晴れます!」
黒煙は時間と共に薄れてゆき、敵艦隊の姿が顕になる。
「……敵艦隊の殲滅を確認!!」
「おっと、タイムリミットだ。 撤退するぞ」
かくして、横須賀に大災厄を齎した彼等は荒れ狂う水平線の先へと消えて行った。