ニンテンドーの平和を守る正義の集団、スマッシュブラザーズ。
精強な猛者が集うこの団体に招待された少年炎城蓮助は早々に災難に見舞われるも、少女氷姫桜子と出会ったことにより何とかスマッシュブラザーズに辿り着くことが出来るのであった。
スマッシュタウン、中心地。
俗に“ニンテンドーの台所”と称されるこの場所は、一段と人で溢れかえっていた。
今俺の眼前には、巨大な建造物が佇んでいる
中世風、輝く白い外観の城。その周囲は石造りの城壁で囲まれている。
その壮麗さは近未来的な街が広がる中で逆に異質だった。
「すげぇ、何だこの城」
俺は思わず舌を巻いた。
こんな典型的な城、本の世界でしか見たことがない。
しかも街の中心にあるから驚きだ。
「“スマッシュ城”。スマッシュタウンの最重要名所の一つ。あそこにスマッシュブラザーズが本拠地を構えているんですよ」
それを聞いて、俺の顔に光明が差す。
これでようやく入団への道筋が八十パーセントは達成されるわけだ。
後は事実確認を済ませれば、晴れて俺はスマッシュブラザーズになれる。
その高揚感で俺の胸は満ちていた。
「それでは蓮助さん、私はこれで」
「あぁ。道案内ありがとうな」
彼女がいなければ、ここに来れなかったかもしれない。またあんな目に遭わされる前に親切な人間を見つけれて心の底から良かったと思っている。
いつかまた巡り会う機会があることを……俺はそう願い、桜子と別れた。
別れた……?
遠退かない気配に、俺は首を向けた。
依然として桜子は俺と同じようにスマッシュ城を見つめているのだった。
その瞳に光が灯っていて、ここから動く気がないような……
「お前、用があるんじゃなかったのか?」
俺が話しかけると桜子はビックリしたように顔を向けた。
「え……そういう蓮助さんは? 」
む、どうにも話が噛み合っていないようだ。
俺の用はここにある。スマッシュブラザーズ入団を確かめるためだ。
だから俺はここを動く必要がない。
ならば、彼女の動かない理由とは?
答えは簡単、彼女もここに用があるからだ。
ここまで考えて、俺の脳が正解を弾き出した。
「もしかして……」
どうやら桜子も俺と同じ考えに達したようだ。
「蓮助さんは観光でスマッシュ城を見物しに来たんですね!」
……何故そうなる!俺は危うくズッコケそうになるのを何とか堪えた。
この娘、もしや天然……?
「いやいやそうじゃねぇよ。
つまりだな……お前、スマッシュブラザーズに入ろうとここを訪ねたんじゃないか?」
「えっ……何故それを……!」
ビンゴ。俺は心の中で軽快に指を鳴らした。
「実は俺もそうなんだよ」
「……えぇっ!?」
桜子は声を出して驚く。そしてその声に驚く俺。
「れ、れれ蓮助さんもス、スマッシュブラザーズにっ……!」
桜子は蒸気が吹き出してきそうなくらいあたふたとしていた。
正直ここまでの反応だとは思っていなかった。
桜子にとって、俺の入団がそれほど衝撃的だったのだろうか?
「少しは落ち着けって」
「は、はい……そうなんだ……蓮助さんも……」
それにしても、桜子まで選ばれているか……見た目はかよわそうな少女なのに。
それともこう見えて実は凄い力を秘めて……?
「私ったら何で気付かなかったんだろ。
私が選ばれているなら蓮助さんが選ばれていないわけないのに……」
……いや、やっぱ見えないな。
顔を赤らめて恥じらう姿に、戦場に立つ者の気概はまったくない。
「それにしても、どうやって入るんだ?」
恐らく別の事情があるのだろうと勝手に納得し、俺は再び視線を戻した。
城門は未だ固く閉ざされ、開く気配はない。
ぶち破るわけにもいかないし、ずっと待ち続けるのも忍びない。
「……インターホン?」
こいつは何を惚けたことを……と、思ったが、彼女の細い指先を追うと、城門の隣に黒い機械が設置されているのを確認した。
中世幻想的な城に近代科学の産物があるというのも妙な気分だ。
「マジでか……」
機械のど真ん中には押してくれと言わんばかりのボタン。
半信半疑ながらも、俺はポチッと押してみた。
ノイズ混じりの音声が流れ、少しすると機械的で抑揚のない声が返ってきた。
「はい」
「はい」って……ますますインターホンである。
「実はスマッシュブラザーズから招待状が届いたんだが」
「……!承りました。それでは、インターホンに向かって招待状を提示してください」
……お墨付きをいただいた。
「これでよろしいですか?」
俺より一足先に桜子が提示すると、機械側から了承の応答が返ってきた。
くだらないことを気にしていないで、俺も早いところ懐に手を入れた。
「……?」
手の先から伝わる冷たい感触。
湿っていてグショリと嫌な感覚……これは……途端、俺の顔が蒼白になる。
引っ張り出したのは、水に濡れてふやふやになった招待状だった。
「…………」
「蓮助さん……それ……」
わかっている何も言わないでくれ。
「………………」
震える手で突き出した招待状に対する長い沈黙。
正直、俺の精神状態は穏やかでなく、今にも逃げ出してしまいそうだ。
だが、俺には譲れない理由がある。スマッシュブラザーズだ。
憧れが目の前にあるのなら、俺はどんな困難でも立ち向か――
「……解読不能。これより先へ進むことは認められません」
――あぁ……うん、そうだよね……
「そんな!彼は本物の炎城蓮助さんです。
私が保証します」
「ですが……」
桜子の嘆願にも歯切れの悪い言葉が返る。
まさに暖簾に腕押し、彼女がどれだけ言っても効果はないだろう。
これ以上迷惑をかけまいと、俺は彼女の肩に手を掛けた。
「ありがとう。けど、いいんだ。
俺は何とかするからお前は先に……」
「そんなのダメです!せっかく一緒に入れるのに……」
桜子の瞼には若干滴が浮かんでいた。
初対面の俺のことを、まるで自分のことのように考えてくる優しさは素直に嬉しい。
だからこそ、俺は自分の不甲斐なさがなおさら許せない。
俺の不始末で人に迷惑をかけて、何が“炎の英雄”か。
この状況を打破するにはどうすれば……
「そこで何をしているのですか?」
不意に背後から掛けられた声。目を向けると、そこには人が……
「はっ!?」
思いもよらない姿につい声を上げてしまった。しかし、この反応は当然だろう。
そこにいたのはただの人にあらず。
真っ黒人間。こうとしか言いようがない。
強いて特徴を挙げるなら、小柄な体の割に頭や手足が大きいことくらいか。
「も、もしかしてあなた……スマッシュブラザーズのMr. ゲーム&ウォッチさん!?」
「おお、オイラを知っていましたか。そうです、簡単にウォッチと呼んでください」
「えっ……えぇ!?」
まさに全身に稲妻が走ったような衝撃が俺を突き抜けた。
こんな得体の知れ……不思議な生物がスマッシュブラザーズ!?
「嘘だろ?あれが百パーセント本当の?」
「間違いありません。むしろあの姿だからこそ断言出来るんです」
確かにあれなら記憶から漏れでることはなさそうだ。
色々調べたと言っていた桜子が太鼓判を押すのなら正しいのだろう。
にしても、世の中様々な種族がいるもんだ……
「む?それは……」
彼(?)は桜子の手にある招待状を凝視して訝しんだ。
「どうやらあなたたちが今日来る新人のようですね。しかし、何故それで入らないのです?」
うっ……一瞬言葉に詰まる。
本当のことを言っていいものか一瞬迷ったが、このままでは埒が明かないので、俺は正直に事を全て話してみた。
「なるほど、随分マヌケなんですね」
「ははは……」
はっきり言われると傷付く…… 忌憚ない物言いは清々しいと言えばそうだが。
「わかりました。オイラが連れていきましょう」
思わぬ提案に俺は目を丸くした。
そんなあっさりでいいのか……?
「仮に騙していたとしても、この程度の嘘しかつけない人なら簡単に返り討ちですし」
……やはり少し言い過ぎである。
「コホン……ウォッチです。彼らを入れてやってください。責任はオイラが持ちます。彼が本物かどうかはマスターさんに聞けばわかりましょう」
「…………」
ウォッチの言葉に、声の主は黙ったままだった。
沈黙の中、俺の胸の鼓動がうるさいほど響く。
これで駄目なら俺は八方塞がり、こんなところでつまずくなんて末代までの恥だ。
何としても入れますように、俺はひたすら合掌していた。
「……ハア、わかりました。
ウォッチさんに免じて許可しましょう」
神が俺に味方したのか、声の主は遂に諦念してしぶしぶ許可を出したのだ。
「うっしゃぁー!」
「やりましたね!」
俺は思わず桜子と手を取り合って歓喜した。
さっきまで雨模様だった桜子の顔は、すっかり快晴の空が広がっていた。
「喜ぶのはまだ早いですよ。一応疑われているんですからね」
うっ……手厳しいな。しかし、俺が偽物でないことは俺がよく知っている。故に、百パーセント大丈夫。
そうこうするうちに、城門が重々しくその口を開けた。
その途端、空気がガラリと変わるのを感じた。
武者震いとでも言うべきか、全身が唸りを上げる。
だが、臆すことはない。自分の家にビビる奴がどこの世界にいる?
俺だって、今日からここの一員になるんだ……!
「では、ついてきてください」
ウォッチはそのまま城の方へと歩いていった。
「うーっし。俺たちも行こうぜ!」
「はい!蓮助さん!」
そして俺たちも希望に満ちた表情で後に続くのだった。
◆
圧巻の光景。予想通りと言うか、中は豪華絢爛だった。
床の一面にレッドカーペットが敷かれ、白い大理石の壁には華々しい装飾がシャンデリアの光に晒されて輝きを放っている。
こうして見ると、今自分はタイムスリップでもしてしまったんじゃないかと思ってしまう。世界城図鑑なんてものがあるのなら、間違いなく表紙を飾れる見栄えだ。
「そんなに驚くことないですよ。 こうみえてこの城はタダみたいなものですから」
タダ?その言葉の意味がわからなかった。
あれもこれもかなり高額そうに見えるが……
「あれ、帰ってたんですか?」
不意に頭上に降ってきた声に反応すると、螺旋階段で登れる二階の踊り場から一人の少年がこちらを見つめていた。
遠巻きでもはっきりとわかる純白の衣は天使を彷彿とさせる。
……ん、彼の背中から何か……
「あっ……後ろの子達が新メンバーですね!」
すると突然、彼は手すりから飛び降りてきた!
予想外の事態のせいで、俺は固まってしまって動けない。死にはしないだろうが、あの高さから落ちれば骨一つ折れても不思議じゃない。
桜子が悲鳴を上げたのが俺の脳内に嫌に響いた。
しかし、彼は落下の衝撃を全身に受けるどころか、ふわりと一瞬浮いて速度をリセットしたのだ。
爪先からゆっくり着地した際、その現象の理由がわかった。
「やあ、僕はピット。エンジェランドに住む、いわゆる天使だよ」
背中に蓄えた立派な翼の羽を落とし、ピットという少年はにっこりと微笑んだ。
エンジェランド――ニンテンドー北の遥か上空にて存在する世界だ。
“天使族”と呼ばれる、古に伝わる天使の姿をした種族だけが住んでいると言われる光の国。当地を治める光の女神の加護はニンテンドー中にもたらされているらしい。
「エンジェランドの天使族……今まで神話でしか聞いたことなかったけど……」
実在したのね、桜子が驚愕を含みながら口にした。
そもそもエンジェランドは外界との関わりがあまりなく、実際の天使族についても目にした者が少ない。そのため、ただの伝説ではないかという噂が流れていた。
しかし、目の前にいるのは紛れもない天使。幼い頃に読んでもらった絵本の中の姿と相違ない。
「よろしく」
ピットは手を差し出してきた。
近くで見ると、自分より年下の幼い者にしか見えないのだが、城の奥から出てきたことは彼もまたスマッシュブラザーズ。つまり、秀でた戦闘力でこの世界を守ってくれているのだ。
だから、最大限の敬意を込めて俺はその手を硬く握った。
ちょうどその時、城の中の扉が静かに開いた。
俺の目に飛び込んだのは青髪の青年の姿だった。
「おや、取り込み中だったかな?」
青年は引き返そうとするが、ウォッチに呼び止められて足を止めた。
「せっかくだから一緒に」という言葉を受け、青年はこちらにやって来た。
扉で隠れていたが、彼の背後にはもう二人いたようだ。
男と女の二人組。
男は金髪でエメラルドの瞳の少年だ。
オレンジのシャツの上に黒いジャケットを身に付けている。
女の方は男と同じ髪色のツインテール。同じ目色。
白と青を基調としたセーラー服姿で、胸元には大きな赤いリボンが結ばれている。
そして彼らは、どことなく似た雰囲気を放っていた。
「やっほー!私は
明るく元気な声色で水花という少女は名乗る。桜子の笑顔が癒しなら、彼女の笑顔は元気が出るといったところか。
まるで太陽のようにはつらつな印象だ。
「ほらお兄ちゃんも挨拶挨拶っ!」
お兄ちゃんと呼ばれた男は彼女に腕を引っ張られ、少し鬱陶しそうに睥睨した。
しかし、しつこくせがまれることに根負けしたのか、彼は重い口を開いた。
「龍虎院
素っ気なくそう言うと、彼はそっぽを向いて口をつぐんでしまった。
妹とは対称的に月光のような冷たさ、そんな印象。
「龍虎院……って龍虎院家のことですよね?」
「あっ知ってる?そうなの、私たちそこの跡取りなんだよ~」
龍虎院家――やべぇ知らねぇ。
もしかして、滅茶苦茶有名だったりするのか……?
「龍虎院家は代々武術で名を馳せる一族で、数々の武道大会でいつも超優秀な成績を残してるんですよ」
見兼ねた桜子が俺にそう教えてくれた。
説明をもらっても、今一ピンと来ないわけだが。
「残念だな~アタシたち結構有名だと思ってたのに」
ハハハ……無知ですみません。
世間の大体のことは知っているつもりだったが、このニンテンドーにはまだまだ知らないことがあるようだ。
「…………」
刺すような視線を感じて、俺はそちらに目を向けた。
無言の雷牙がこちらをじっと見つめている。
なんだ、俺の顔に何かついてるのか?
「……フッ」
……ッ!小馬鹿にしたような態度で彼が視線を外したのを見逃さなかった。
初対面の人に向かって何だこいつ!そんなに龍虎院の名を知らなかったことが恥なのか!
頭に血が上る俺だったが、何とか拳を握って堪える。
俺はカルシウム不足ではないから、いきなり殴りかかったりはしない。
だが、こいつにはいつかギャフンと言わせてやる。そう俺は心の中で固く決めた。
「さて、新メンバー同士の交流はこれくらいにして行きましょう。マスターさんは終点ですか?」
「恐らく。さっき部屋に行ってみたけど、出て来なかったしね」
そんな時、突如俺たちの間に光の球体が出現した。 ハッと身構えた俺たちだったが、ウォッチがそれを押さえた。
何が出てくるかは彼にはわかっているようだ。
「噂をすれば何とやらですね」
光が晴れる頃、俺は中心に人が立っていることに気付いた。
髪は龍虎院兄妹よりも目映く神々しい黄金で、聡明さが伺える顔立ち。
体には真っ白でくすみのない高貴なローブを纏っている。
そして、右手だけにつけた金の刺繍が施された手袋が俺の目を引く。この男のオーラがそこから出ているような気がしたのだ。
男は俺たちを目にすると、わずかに笑みをこぼし、はっきりとした声でこう言い放った。
「やあ、私はマスターハンド。歓迎しよう、少年少女たちよ」
To be continued ……
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