大乱闘!スマッシュブラザーズ~炎の英雄~   作:シャイニー

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前回のあらすじ
スマッシュブラザーズ歓迎パーティーに参加した蓮助は名だたるスマッシュブラザーズの面々と会話を交わした。
個性に溢れるメンバーの中で、蓮助はこれから仲間たちとの最初の一夜を過ごしたのだった……



第四話 実力テスト

「あぁーよく寝たぁ」

 

俺は伸びをして廊下を歩いていた。

昨日は遅くまでパーティーがあったせいで今の今まで爆睡だった。

そのおかげで体力の八十五パーセントを回復出来たわけだが。

 

「ふぁぁあ……」

 

まだ寝ぼけ眼を擦りながら、昨日教えてもらった食堂の扉を開けた。

 

「おはよう」

 

食堂はパーティーホールと違い、数個の丸テーブルが並べられているだけの簡素な作りだ。

テーブルでは何人かが座って朝食をとっている。その中の一つに座るマスターが俺に挨拶した。

俺は軽く挨拶を返すと、寝ぼけた足取りで近くの席に着いた。

その瞬間空の皿に料理が出現したが、もう驚くことはなかった。

 

「おはようございます、蓮助さん」

「あぁ、おはよう」

 

桜子にも挨拶を済ませると、他の同席者を確認した。

まず目に留まったのは山積みの皿。候補が三人浮かんだが、皿の横から見える金色から水花と判断した。

その隣には目をつぶってコーヒーをすする雷牙。

どうやら俺の登場で偶然にも新人専用テーブルが完成してしまったようだ。

 

「おはよう」

「ふぇふぁよう」

「……」

 

口に頬張りながらの返事に無視ときたか。

へん!済ました顔でコーヒーなんか飲みやがって。どうせ砂糖大量のお子ちゃま仕様だろ!

……心中で毒づいても虚しいな、と感じた俺は静かに朝食に手をつけた。

 

「蓮助。さっき他の者には伝えたのだが、今日は“終点”と呼ばれる場所であることをしてもらう」

 

俺は料理を口にしながらとあることの正体を考えてみた。

しかし、当然何も思い付かん。

 

「それに備えて、しっかり食べてくれよ」

 

どうやら食べないとやってられない激しいことらしい。

ますます気になった俺は堪らず尋ねた。

 

「一体何をさせるつもりなんだ?」

「それは着いてからのお楽しみ」

 

焦らすねぇ。教えてくれても差し支えなさそうなのにな。

だがそうとなれば、俺は早急に朝食を平らげにかかった。

最後の一口を飲み込んだ瞬間、俺は席を立った。

 

「よし、なら早速行くか!」

「私も行きます」

 

同じく席を立った桜子。

雷牙たちはまだ動く気はないようだ。

なので俺は桜子だけを連れ、食堂を後にするのだった。

 

 

 

 

「ど、どこにあるんだ……」

 

勢いよく飛び出してみたものの、俺はここに来たばかりということを忘れていた。

こんな巨大で部屋もたくさんある城で不慣れな俺たちが迷わないはずがなかった。

というか、終点ってなんだよ。駅?

 

「誰かに聞けば……あっ!」

 

桜子は人を見つけたようでそちらに駆けていった。

ちっこいフォルムのそいつは……

 

「げっ」

 

プリンだ。同時に昨日の仕打ちを思い出す。

もう勘弁してくれよ……俺は少し身震いした。

 

「蓮助たちは新人だし、プリンが案内してあげるプリ!」

 

あれ、存外普通だな。

また襲いかかってくるかと身構えていたのに。

 

「ついて来るプリ」

 

拍子抜けして若干遅れた俺は慌ててプリンたちを追い掛けた。

 

 

 

 

 

「ここから終点に行けるプリ」

 

スマッシュ城最上階。廊下の最奥に何の変哲のない扉があった。

最上階にしては何とも地味な外見だな。

この扉と一本道しかない。下の豪華さと比べると妙な気分だ。

俺は静かにノブを握る。やはり何とも感じない。

俺は普通に、いつもしているように扉を開いた。

 

 

 

「……へっ?」

 

眼前には広大な銀河と瞬く星々。

俺は絶句して息をするのを忘れてしまった。

って、宇宙だから息ができっ……た。

風景だけで本当に宇宙なわけではないようだ。

 

「来たな」

 

少し離れた先、巨大な機械の側にいるマスターがこちらを向いた。

彼の他には龍虎院兄妹、緑のローブに身を包んだ者がいる。

 

「プリ……!」

 

マスターたちを見た途端、プリンは怯えるように隠れた。

不思議に思う俺をよそに、桜子は優しい声色で話しかけた。

 

「プリンちゃん、どうしたの?」

「プリン、あの人怖いプリ」

 

あの人ってどの人――あぁ、怖いと限定されてるからわかるな。

 

「プリンたちが昨日あの人の所へ行ったら凄い形相で睨まれたプリ。それで怖くなって結局何も出来なかったプリ」

 

恐怖感を思い出したのか、プリンは大きく震えた。

あいつ、あの拷問を受けなかったんだな。

俺も睨む練習でもしてみるか……馬鹿なことを考えてる内にプリンが

 

「だからプリンはここまでプリ。バイバイ!」

 

と言って走り去ってしまった。

 

「急に帰ったが、どうしたんだ?」

 

機械の側まで赴いて、マスターに尋ねられた。真実を言うのも気が引けたのでお腹が痛くなったからと適当に誤魔化した。

 

「ところで、私たちより随分来るのが遅かったね。今まで何してたのかな~?」

 

……水花は何を期待しているんだ?迷った以外の他意なんかないぞ。

そう教えても、まだ目線は疑っている。

 

「つーか、どうしてお前らが先にいるんだよ」

「それは……マスターがワープで一気に連れてきたからよ」

 

な、なんだってー、ただの無駄足だったじゃねぇか!

 

「おい、それより一体何の用だ?」

「そうだな。っと、その前に彼を紹介したい」

 

雷牙と言葉を交わし、マスターは緑の奴に手を向けた。

緑の奴は座っていた椅子を回転させる。

ローブは顔のほとんどを隠れている。僅かに覗く漆黒の隙間に満月が二つ浮かんでいるだけだった。

 

「こちらはエインシャント卿。スマッシュブラザーズの管理を一任している者だ」

「昨日は別件でパーティーに出れず申し訳ない。顔だけならこちらは確認したんですけどね」

 

この機械的な声――そうか、インターホンで話していたのはこいつか。

だが、何故こんな声なんだ?

 

「よろしく願います」

 

エインシャントは袖から差し出された手に俺たちは驚かされた。真っ赤に塗装された

アームはロボットのようだ。

狼狽してエインシャントの顔を見ると、彼は優しげに目を緩ませた。

 

「驚いたでしょう?お察しの通り、私はロボットなんですよ」

 

ほ、本当にロボットなのか?

今目を緩ませたのは、感情のないロボットに出来るとは思えないのだが……

 

「さて、本題に移ろう」

 

マスターは咳払いをし、言葉を続けた。

 

「君たちをここに呼んだのは他でもない。

実力を見せてもらうためだ」

「実力?」

「これからある者たちと手合わせをしてもらう。武器はあるが、純粋な力を見るために君たちの能力は控えてもらう」

「……いいぜ。それで、相手はどこだ?」

 

無口で冷めた雰囲気のある雷牙でさえ、やる気満々に腕を鳴らした。

手合わせと聞いて、気持ちが昂らない男はいないからな。

 

「では早速、戦場に招待しよう!」

 

マスターが手を振ると、俺たちの足元に魔方陣がまたたく。

突然だったのでびっくりした瞬間、俺たちは姿を消した。

 

 

 

 

「ここは……」

 

雄大な宇宙から一転して、俺は殺風景なところに出た。

木々が生い茂り、崩れた遺跡のような岩石がある。それ以外は特にない本当にシンプルな所だ。

そして、空が近い気がする……どうやらここは浮かんでいる島のようだ。崖もあるし。人間は俺以外いない。他の連中は別のところへワープしたようだ。

 

『全員着いたな』

 

む……頭の中でマスターの声が響く。念話か。

 

『それでは君たちの相手に登場してもらおう』

 

パチン、指を鳴らす音が反響した。

すると、空から赤い肢体の人間がパッと姿を現した。

 

『彼らはスマッシュブラザーズ管理防衛プログラム、通称“ザコレンジャー”だ』

 

は?雑魚……? レンジャーの名前としてどうなんだそれ。

しかも、プログラムだと……?

 

『名前で侮るなかれ。

彼らとて、我らの優秀なる戦士だ』

 

だったら何も侮られそうな名前をつけなくても……

そう考えていると、ザコレッド(と名付けておく)は拳を構えた。

しかし、俺の準備がまだ終わっていない。

 

「ちょっ……まだ武器も持ってねーっての」

 

マスターは確かに武器はアリだと言っていた。

だと言うのに、どこにも俺の獲物がない。

この状態で戦うにはいささか不本意だ。

 

『おっと、すまないすまない』

 

俺の目の前に現出したのは青白い刀身の剣。

おぉ、これは噂に聞くビームソード。

量産品ではあるが、抜群の切れ味で人気の高い武器だ。

これならば不足あるまい、と俺はそれを手に取り、肩慣らしに軽くふってみた。

 

『では、健闘を祈る』

 

テレビがスイッチを落としたように念話が途絶えた瞬間、ザコレッドが拳を振りかざして飛び上がった。

俺は咄嗟に退き、レッドの拳が空を切る。

 

「ハァッ!」

 

このビームソードは振り方によってリーチが変化する。

その特性を利用して、離れた位置からレッドに振り抜く。

しかし、機敏な動きでジャンプしたレッドは足元スレスレで俺の攻撃を避けた。

 

「っ……!」

 

飛び上がったのレッドを確認した俺は太陽に一瞬視界を奪われた。

その間に何が起きたのか、奴もまた手中に獲物を持っていた。

それを振るった時、その正体がわかった。

俺と同じ、ビームソード。お返しとばかりの斬撃が俺を切り裂いた。

 

「ぐあっ!?」

 

吹っ飛ばされた俺は宙を舞った。

そのまま場外へコースアウトしそうになった俺は慌てて崖にしがみつく。

何とか這い上がり、荒れた呼吸を整える。

 

「……あれ?」

 

落ち着いた俺はある奇妙な点に気付いた。

さっきの攻撃、確実に当たっていた。

しかし、衝撃を除けば俺に痛みは何もなかったのだ。

剣で切られたのに、血はおろか服すら破れていない。

一体どういう……途端、脳内で電源が再び入った。

 

『言い忘れていた。この模擬戦は“大乱闘システム”のおかげで一切の痛みを伴わない』

 

 

大乱闘システム?何だそれ?

俺の疑問に答えるように、マスターは言葉を続けた。

 

『大乱闘システムは我々が所有する技術の一つでな、人間を大乱闘空間と言うデータ上の仮想空間へと誘うんだ。

大乱闘空間においてのバトルは痛みを完全に遮断する。ただし、臨場感として衝撃だけは受けるがな』

 

へぇ……さすがに技術がすげぇな。

これさえあれば、どんな危険な実験を行っても無事で済むってわけか。

 

「それなら、これで……思いっきりやれるぜ!」

 

双方怪我しないなら、遠慮はまったくいらない。

全身全霊を持ってこいつを倒す!

それだけを胸に俺は駆け出した。

言い訳臭いが、さっきまでは力を少し抑えてしまっていた。明確な敵でもない相手を傷つけるのは忍びないからな。

だから、その点ではこのシステムは俺の肌に合っていると言える。

 

「……っ!」

 

俺は一気に間合いを詰めて剣を振るう。

今度は確実にレッドの肢体を捉えた。

彼は衝撃で後方へと下がるが、すかさず俺は二撃、三撃と追い討ちを畳み掛ける。

しかし、それを甘んじて受けているレッドではなく、両者の剣が鍔迫り合いの形に入り互いに火花を散らす。

しばらく睨み合いの膠着状態に陥るも、隙を見た俺はもう片方の拳を腹に叩き込んだ。

その一撃はかなり効いたのか、力が緩む。俺は剣を振り抜いてレッドの剣を弾き、一閃。

レッドの身体は蹴り出されたボールのように弾け飛んだ。

俺は両手で剣を握り締め、レッドの後を追う。完全に無防備、これならやれる!

レッドが足場外に投げ出されたと同時に、俺も飛び出した。

「こいつでフィニッシュだ!」

 

剣の柄を強く握り締め、思い切り振り上げる。

重力の勢いを身体に受け、俺は一気に振り下ろした!

 

 

 

 

 

「……へ?」

 

だが、手応えがない。ただ空を斬り、ビームソードが刀身を伸ばしただけだった。

狼狽する俺は視界の端に奴の姿を捉えた。

赤い身体がわずかに白く光っている。

それが何なのか、考えようとした瞬間レッドは体を捻り、背中に踵落としを喰らわせた。

先程とは逆に完全無防備の俺は大乱闘システムでは排除されない衝撃を全身に受け、奈落の底へと叩き落とされた。

 

「こんなのってアリかよぉぉぉ……」

 

俺の悲鳴は虚しく空へと溶け込んだ……

 

 

 

 

「わぁぁぁ……あれ?」

 

切り裂くような風圧が消えたかと思うと、視界は青い床に変わっていた。

ここは終点……と言うことは大乱闘空間から脱したわけか。

頭を上げてみると、皆が皆俺を憐れむように見つめていた。

俺は察した。全て見られていたことを。

 

「まぁまぁ人間失敗の一つや二つでくよくよしちゃダメだよ」

意外にも、労いの言葉を掛けたのは水花だった。

まるで自分にも言い聞かせているような語調はもしや……

 

「お前も負け」

「私は勝ったけど」

 

あっ全然違った!恥ずかしい!

 

「じゃあ他は……」

 

桜子と雷牙は……

 

「当然勝った」

「私も……」

 

……泣きてぇ。

俺だけ黒星って情けなさすぎるぜ。

くそっ……何であの時攻撃が当たらなかったんだよ。

 

「あれはスマッシュブラザーズの技“緊急回避”。一瞬体を透かして攻撃をやり過ごすものだ」

 

……安易なネーミングだなぁ。

 

「スマッシュブラザーズのってことは修行すれば俺も……」

「いや、あれはデータだから出来る芸当だ」

 

チクショー!そうだよな、人間が幽霊みたく透けるわけないよな。

俺もあれを習得すれば、なんて淡い期待はすぐに崩れ落ちた。

 

「なぁに、君は本気の実力を出せたわけじゃないんだし、気に病むな。

それに、あれが実戦ならば蓮助の勝ちだったぞ」

 

そう慰められて、少し気が楽になった。

そうだ、俺にはまだ能力がある。実戦になれば、必ずいいところを……!

 

「君たちは我々の仲間として十分力があることは証明してもらった。

だから君たちには早速明日に初任務についてもらおう」

 

初任務……!そのフレーズに胸が高鳴った。

こんなに早く実戦が待っていようとは!

重大案件ではないだろうが、それでもやる気が溢れてくる。

 

「もちろん、万一に備えてメンバーを四人同行させる。入ってくれ」

 

マスターの呼び掛けに応じ、終点の扉が開いた。

現れたのはウォッチ、マルス、ピット、それと……

 

「彼女とは初めてだな?」

 

最後に現れたのは女性だった。

肩の近くまで伸びた白銀の髪、透き通る白い肌。凛々しい黒い瞳には魅惑の光が輝いている。

白いシャツの以外の服装は紫で統一されたジャケットやスカート、ブーツだ。

彼女を一言で表すならクール。桜子と水花にはない大人の魅力にあふれた女性だ。

 

(すめらぎ)風美(かざみ)。君たちの教官だ」

 

 

 

 

時は昨日の夜に遡る。

歓迎会の後、マスターは自室に戻っていた。

彼は目の前のモニターのいくつかを操作している。

モニターには彼が集めたあることに関する資料が並べられていた。

その中の目的のページを見つけ出すと、神妙な面持ちでそれを見つめた。

 

「やはり……怪しい」

 

彼の最近の気になることと言えばこれだ。

とある組織影……最初は噂に過ぎなかったが、調査を進めていく内に単なる噂は黒く塗りつぶされていった。

しかし、まだ情報が足りない。一刻も早く真相を知りたいマスターはもどかしさで嘆息した。

 

「そう落ち込まないで、マスター」

 

部屋に声が響く。扉の方を見やると、見知った女が腕を組んで扉に寄り掛かっていた。

彼女を確認して、マスターの顔が明るくなった。

 

「おぉ帰ったか、風美!」

 

風美は腕を組み解くと、マスターの側の椅子へ歩み寄った。

マスターが軽く手を振ると、二つの椅子の間に二つのティーカップを乗せたテーブルが出現した。

風美は特に驚くこともなくティーカップを手に取り、席に着く。

 

「今回はすまないな。元々こういう仕事はあいつに任せているんだが、生憎別の任務についていてな」

「気にしないで。どうせすることもなかっし」

 

風美はカップを手に取り、喉にそっとコーヒーを通した。

苦味のある深い味わいが口の中に広がる。彼女はマスターのコーヒーが好きだった。

 

「それで、結果は?」

「黒……に限りなく近いグレーと言ったところかしら」

「つまり、踏み込む必要あり、と」

 

マスターは再びモニターに目を向けた。

羅列された資料中に顔写真が載っている。

悪辣で下卑た表情……初めて会ったときから、背後に黒い思想を持っているのではとマスターは疑念していた。

そしてそれが今回確信へと変わり、突入の決断をさせた。

 

「よし、明後日こいつの元に乗り込む。

それで奴らをいぶりだすんだ」

「わかったわ。メンバーは?」

 

マスターは紙とペンを創造し、その上にサラサラと文字を書き綴った。

手渡されたメモに目を通した風美は怪訝そうに眉をひそめた。

 

「この下に書いている四人は? 」

「おや、新人こと、言ってなかったか?」

 

記憶の片隅に引っ掛かるものがあったようで、風美は「あぁ」と相槌を打った。

 

「そういえばこれも言い忘れていた。

君には彼らの教育係りを頼みたい」

「……私に?」

 

風美の表情が変化する。

喜色に満ちているわけでも嫌悪感を示してるわけでもなく、ただ悲しそうな表情だ。

 

「その子達……大丈夫なの?」

「……まだ傷が癒えないのはわかる。

だが、辛さはいずれ乗り越えなければならない。

あれから三年、もうその時期じゃないのか?」

 

彼女は黙ったまま、静かに視線を落とした。

カップの底は濃いコーヒーのせいでまったく見えない。

無限の黒、無限の闇。それが彼女の心。

しかし、その水面には天井の光を反射して光る部分がある。

この光となるのが蓮助たち……そう思うと、フッと笑みを溢した。

 

「……そうね。私もそろそろスタートラインに立たなきゃいけない頃かしら」

 

マスターは満足げに口角を吊り上げた。

世界を守る団体の代表になると、その両肩の重みは計り知れない。

その一つでも取り除けたことで、マスターは随分と楽になれた。

 

「私はそろそろ戻るわ」

「あぁ、お休み」

 

席を立った風美は部屋から出て行った。

静かになった部屋の中でマスターのゆっくり息を吐いた。

 

(そう、あれから三年……彼女のことも、今回の件もあそこからだ)

 

遠くを見つめるマスターの瞳には何も写らない。脳裏に甦るのは三年前の忌まわしき事件。

もしも、あの事件が終わっていなかったとしたら……

最初は湯気が上がっていたコーヒーはすっかりその身を冷やしている……

 

「“亜空の使者事件”か……」

 

 

To be continued ……

 

 




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