スマッシュブラザーズに入って二日目、蓮助たちはマスターからの実力テストを受けていた。
結果は圧勝……とはいかず、蓮助はザコレッドに破れてしまったのだった。
しかし、それでへこたれない蓮助はスマッシュブラザーズでの初任務に向けて気合いを入れ直すのだった。
実力テストを終えた後、俺たちの初任務についての会議が開かれた。
会議と言ったら仰々しく感じるかもしれないが、実際は簡単に内容を確認しただけだ。
任務の内容は簡単に言えば、とある場所への立ち入り調査。ドラマとかで警察がよくやるアレだ。
上手くいけばすぐに終わるらしいが、最悪の場合戦闘もあり得るとのこと。
しかし、俺的にはそれでもいい。挽回のチャンスは早い方がいいからな。
会議が解散した後は自由にして過ごした。そして、いよいよ当日となった。
昨日から胸の興奮が収まらないせいで、小鳥が囀ずる頃になっても俺は一睡もしていなかった。
だが、不思議と眠気はない。寝れなくて任務に支障が出たらどうしようかという不安が杞憂に終わって良かった。
俺は今、城の外にいる。
朝食をとった後、気晴らしに外の空気を吸おうと思ったからだ。
まだ昼前だが、既に外は活気で溢れていることが城壁越しに伝わってくる。
俺は大きく呼吸して都会の快活な空気を取り込んだ。
体中の細胞が活性化するようなこの感覚、実に気持ちいい。
「……ん?」
その時、俺以外にもう一人庭にいるのに気が付いた。
そいつは花壇の前で身を屈めている。
俺が凝視していると、そいつは静かに振り向いた。
「おはよう。いえ、そろそろこんにちわね」
――風美だ。彼女は手にジョウロを持っていた。
「……なんか、意外っすね 」
「そうかしら?園芸は女の子のたしなみよ」
もっとクールな人物かと思っていたが、結構乙女チックなんだな。
俺は風美の隣で屈み、花壇の花を見た。
花は風美にもらった水を煌めかせている。
シャキッとした茎は風美に感謝の意を表しているようだ。
「綺麗なもんだ。これ全部あんたが育てたのか?」
「えぇそう。この子もこの子も皆私の子供みたいなものなの」
風美は花弁を一枚一枚やさしく撫でた。
その姿は本当に子供を慈しむ親の姿だ。
「花は誰かの、人間の力を借りなければすぐに枯れてしまう。でも、その代わりに新しい命の目覚めが早い。
だから私は花が好きなの。
……失った心の隙間がすぐに埋めてくれるから」
ふーん……そんな理由で花を育てる奴がいるんだな。
皆、花なんてものは可愛いからとかそんな理由で育てるものだとばかり思っていた。
ただ一つ気になるのは……その話をする彼女はどこか寂しげだったことだ。
失った心の隙間……か。
「そう言えば、あなたたちは今日が初任務ね。調子はどうかしら?」
俺は少し考えて、返答した。
「不安もある。でも、それ以上に俺はやる気に満ち溢れてるぜ。
何が待ち受けていようと、全力で乗り越えてやる」
俺はガッツポーズをして、そのやる気を示した。
「なら良かった。でも無茶は禁物よ。
教育係として、しっかりと監督させてもらうから」
風美は柔和な表情を浮かべて言った。
教育係か……そんな役に抜擢されるぐらいだから実力は高いのだろう。
しかし、皇風美という名前に思い当たる節がない。
いくら疎い俺でも他のメンバーはおぼろげながらでも知っているのというのに。
「風美はいつからスマッシュブラザーズに?」
俺が尋ねると、また風美は悲しげな顔を見せた。
何かマズいことを口走ったつもりはないが……
「……三年前よ」
三年前――それは、スマッシュブラザーズ結成以来の最大の危機、ニンテンドー中に知らない者はいないというあの事件が起こった頃だ。
そんな時に入団したというのは、偶然かはたまた……
そこまで考えて、俺は口を締めた。
風美のあの表情を思えば、これ以上の追求など出来るはずもなかった。
「……他に質問はあるかしら?」
風美は気にしていないように笑って話題を切り替えた。
しかし、俺にはその笑顔は少し無理しているように見えた。
何か明るいことでも聞けないか……少し考えると一つの質問が思い浮かんだ。
「じゃあ、最後に一つだけ。
……スマッシュブラザーズは楽しいか?」
そんなことを聞かれると思っていなかったのか、風美は驚いた様子だった。
しかし、すぐに彼女は口角を吊り上げて微笑をこぼす。
「……えぇ、もちろんよ。
皆私の最高の仲間たち。彼らと一緒にいられることが私の何よりの幸せなんだから」
今度の笑みは作り物のような感じがしなかった。
女性は悲哀に満ちた顔よりも、こんな風に笑っている方がよく似合うな、そう思った。
「俺もあんたみたいに思えるよう、頑張って行くよ」
俺がゆっくりと立ち上がったその時、城の入り口が開いた。
現れたのは桜子たち、今日任務を遂行する面々だ。
「やっぱり風美は庭だったか。それに蓮助も」
マルスが言った。
彼は「そろそろ行くよ」と付け足した。
「わかったわ。準備は出来てるし」
そう言って風美はじょうろを置いて立ち上がった。
彼女特段目立つような物は持っていない。
まあ、俺もなんだけどな。
「俺もオッケーだ」
俺がそう言うと、桜子が俺の前に出た。
「今日の初任務、頑張りましょうね!」
桜子は元気一杯に口を開いた。
言われなくても頑張るのは当然だ。桜子には二回も無様なところを見せちまったし、ここらで絶対挽回してやる。
かくして、意気込みを新たに固めた俺は最初の任地へと出発したのだった……
◆
とある一室。窓の外に広がるスマッシュタウンの情景を一望している男がいた。
男は手の中に握られている真っ赤なワインが入ったグラスを揺らし、わずかに笑みをこぼしながらそれを口にした。
「失礼します、オーナー」
静かに開かれた扉から別の男が現れた。
彼はゆっくりと部屋に入っていき、そっと胸に手を添えて一礼する。
オーナーと呼ばれた男は百八十度椅子を回転させ、秘書であるその男を見据えた。
「監視カメラの映像を確認しました。
オーナーの仰る通り、ここ最近頻繁にスマッシュブラザーズの者が出入りしていました。確定ではありませんが……恐らく」
「……やはり嗅ぎ付けたというわけか」
オーナーは一瞬眉間に皺を寄せたが、すぐに余裕の笑みを作る。
「いかがなさいますか?恐らく近日中……下手をすれば本日にも乗り込んできますよ」
「構わん。乗り込んできたなら返り討ちにするまで」
オーナーはニヤリと笑みを浮かべた。
黒い感情が惜しげもなくその表情から滲み出ている。
秘書はそれを感じ取り、生唾を飲み込んだ。
「奴等を待機させておけ。この日のために高い報酬を払って雇ったんだからな」
御意、と秘書は静かに頭を下げた
秘書は命令はそれだけだと告げられると、一歩ずつ交代して踵を返し、部屋から去っていった。
再び閑寂に包まれた室内で、オーナーは低い声で笑いを漏らした。
「フフフ……私の、いや我々の計画は絶対に邪魔はさせんぞ」
オーナーは再び窓に向き直り、グラスの中のワインを見つめた。
スマッシュタウン一面がグラスのワインと重なる。
血にも似た赤い水が染め上げた景色は、オーナーたちが思い描く赤黒いこれからの未来……
「あの方の信頼を落とすわけにもいかないしな」
◆
「ほぇー、これが噂の……」
任地と言っても、遠くに来たわけではない。
そこはこのスマッシュタウン内にあるのだ。
スマッシュ城を中心とするこの街は主に四つのエリアに別れている。
俺たちがいるのは、西の遊戯エリア。
その名の通りゲームセンターなどがたくさんあるエリアだ。
その遊戯エリアで、俺たちが用があるのは目の前の金ピカに光輝く外壁を持った建物だ。
その豪壮さはスマッシュ城にも匹敵するレベルの宮殿である。
デカデカと掲げられた看板には“スマッシュカジノ”と書き綴られている。
「すっごーい!あの金は本物かしら?」
水花は嬉しそうに外壁の金を眺めていた。
あんなに見つめて目が痛くならないのだろうか。
「遊びじゃねぇんだぞ」
「だってぇ、楽しくなるのはしょうがないじゃん」
はしゃぐ水花を兄として雷牙が諫める。
しかし、心踊らせる水花に効果は薄いようだ。
「ハハ……はしゃぎたくなるのも無理ないよ。本来ならウォッチさんと僕しかここに入れないからね」
えっ……ピットの言葉に俺は耳を疑った。
ウォッチはともかくこいつが成人してるだと?
どう見ても俺より幼そうだろ……それとも天使に外見は関係ないのだろうか。
「そんなことより急ぐわよ。一般客が来るまでに決着つけないといけないんだから」
風美はそう言うと、足をカジノへ進めた。
それに追随して、一人、また一人と歩み出す。
(さて、俺も行くか……)
俺は最後尾で歩みだし、黒い鳥の口を模した入り口へと飲み込まれた。
「外も外なら中も中だな」
入ってまず目に飛び込んできたのは外観と同じく光る黄金の壁だ。
部屋の中にはスロットやルーレットと言った典型的なゲームが多数並んでいる。
それらも全て金で出来ている悪趣味さを除けば凄く楽しそうなところだ。
だが、ここが戦場になる可能性があることを忘れてはいない。
だから、決して遊び気分には……
「凄い、凄い、すごーい!
チョー楽しそうなとこだね、桜子ちゃん!」
「えぇ……確かに!」
……こいつらは遊び気分なのか。
水花はついさっき注意されたばかりだろーが。
そして意外なのは桜子だ。もっと真面目かと思っていたのに、このはしゃぎ様だ。
それにしても、あの二人仲良いな。
会議の後も一緒に出掛けてたみたいだし、女同士気が合ったのか。
「…………」
だが、男同士は気が合っていない。
俺、こいつとまともに話してないな。
昨日も一人でどっか行ってしまったし、一匹狼タイプはこれだから……
「おやぁ?緊張しているんですか雷牙君?」
そんなことを考える俺を尻目にウォッチが冷やかした。
雷牙はそれに対して露骨に嫌な顔を見せる。
しかし、そんなことはどこ吹く風なウォッチはからからと笑っていた。
「そんなことはねぇよ」
「強がらなくてもオイラにはわかりますよ~」
「……チッ」
飄々とするウォッチには、さすがの雷牙もお手上げらしい。
雷牙は小さく舌打ちしてそっぽ向くが、ウォッチは尚も絡もうとしていた。
「はぁ……もっと緊張感はないのかしら」
風美の溜め息が聞こえて、俺は苦笑した。
「……しっ。誰か来ます」
その時、マルスが口を開いた。
俺たちが静まると、カジノ内にカツカツと靴の音が響いた。
音のする方を注視していると、奥の扉から一人の男が現れた。
「おやおや、あなた方は……」
現れたそいつは人間ではなく、ネズミの姿をしていた。見た目と違い、知的そうな雰囲気を放っている。
ネズミは俺たちの側まで来ると、深々と頭を下げた。
「スマッシュタウンの守護者にしてニンテンドーの英雄、スマッシュブラザーズ。
そんな方々が揃いも揃っていかがいたしました?」
ネズミは慇懃な口調で言った。
対し、風美は威圧的な口調で返す。
「……単刀直入に言わせてもらうわ。
あなたたちスマッシュカジノは……客から手に入れた資金を元に、武器の密生産をしているわね」
ネズミの眉がピクリと動いた。
彼はしばし沈黙した後、背筋を撫でるような嫌な笑い声を漏らした。
「ククク……やはり、勘づいていたようですねぇ」
「今すぐ支配人と一緒に投降なさい。
そうすれば危害を加えないわ」
しかし、ネズミは風美の脅しにも屈すること無く笑い声を止めない。
なんだ、この男の余裕……あっさり罪を認めるし、何かが怪しい。
「それは出来ない相談ですねぇ。
無抵抗に投降するようなら、犯罪に手を染めたりしませんから」
「……それなら仕方ない。悪いけど、あなた一人に対して八人で行かせてもらうわ」
「一人……フフッ……フハハハッ!」
ネズミは堪えきれなくなったように高らかと笑い上げ、指をパチンと鳴らした。
すると、催し用の巨大ステージを覆っていた大段幕が仰々しく唸りを上げた。
ステージ上に構えていたのは、数十人にも及ぶ頑強な男たち。各々が物騒な武器を所持している。
凶悪な人相の集団に、俺の背に悪寒が走る。
俺は確信した。こいつの余裕の理由はこれなんだと……!
「皆さん気を付けてください……彼ら、ほとんどが指名手配中の犯罪者ですよ……!」
マルスが冷や汗をかきながら言った。
スマッシュブラザーズの彼でさえ、こんな様子を見せているのだから相等ヤバイ状況なのはわかる。
初っぱなの任務だから大したことないとたかをくくっていたのは間違いだった。
これが世界を守る団体の任務……!
「彼らは我々が万一に備えて雇った用心棒たち。たった八人しかいないあなた方は彼らと……」
いつの間にか犯罪者たちの側まで移動していたネズミはサッと懐に手を忍ばせると、真っ黒なサングラスを取り出した。
それをそっと装着すると、弾けるように口を開いた。
「このドン・チュルゲ様によって始末されるのだ!」
ドン・チュルゲと名乗るネズミの号令を合図に、犯罪者たちが雄叫びを上げた。
俺たちはそれぞれ即座に臨戦態勢に移った。
数は逆転されて不利になったが、引き下がるわけにはいかないのだ。
「上等だ。全員まとめてきやがれ!」
俺は拳を握りしめ、勢いよく胸に押し当てた。
途端、身体中の血がたぎるような感覚と共に拳が熱を強める。
その熱は拳だけでなく腕を伝い、全身へと広がっていく。
上昇する熱が臨界点を突破したとき、俺の体に火炎が燃え上がった。
この炎は特別、絶対に俺は火傷しない俺だけの炎だ。
メラメラと燃えたぎる炎が俺の全身を覆い尽くし、やがて一定の形を保ち始める
紅蓮の鎧、紅の剣、そして灼熱の翼。
これが俺の戦闘フォーム、“炎の英雄”と呼ばれる所以。
「見せてやるよ、俺の百パーセント!」
To be continued ……
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補足説明としてはドン・チュルゲはマリオのキャラクターです。
今後もメジャーキャラもどマイナーキャラもたくさん登場する予定。