ONE PIECE~白夜の海賊団の航跡~   作:ATA999

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門出

偉大なる航路(グランドライン)前半部、通称≪楽園≫。

東西南北四つの海からやってくる者達が、自分達の腕を頼りに旅を始める舞台となる航路である。そこにはスタート地点である巨大な山、リヴァースマウンテンから始まる通常7つに分かたれる航路があった。そのいずれもから外れた場所に浮かび、その場所のみを指し示す特殊なコンパスである≪永久指針(エターナルポース)≫でしか赴けない、人によって大きいとも小さいとも取れる島があった。険しい山に周囲をグルリと囲われた島の中心には小さな町のような雰囲気を漂わせており、唯一ある狭めの入口から奥まった場所にある入り江には、桟橋の先に一隻の立派な船が窺える。

 

僅かに宿る胸中のモヤモヤを吐き出すように、一つ溜息を吐く。

見ればキラキラと、燦々と降り注ぐ陽光を跳ね返して海面が光り輝く。自身が乗る船に寄せては返す波を眺め、そして後ろ向きに手すりへ両肘をつき天を仰ぐ。信頼もあり、気の置けない者達ばかりである。とはいえ、やはり500名ばかりいる船員達を副船長として日々指揮していくというのは隠せない重圧と言うものがある。

 

彼、アルヴィンが乗っている船はとても巨大な船であった。多少の乗り降りはあれど、常時500名前後の船員達が日々を過不足なく暮らしていくこの船は、むしろ船長を王とした小さな国とでも呼べる代物と言えよう。副船長の自分でこうなのだ、その上に立つ船長たる存在は一体どんな重圧に耐えているのだろうか。

 

「副船長、主要天体(プラネット)の方々をお迎えする準備完了しました! チェックの方を宜しくお願いします!」

「あいよ、分かったッスー」

 

 

そんな事を、空を往くカモメを見るともなく見ているとアルヴィンへ声が掛かった。海賊団創設から付き従ってくれている、古株の男だ。未だに癖が抜け切れないのか直立不動で海軍式の敬礼を行ってくる。その度に苦笑いを浮かべ直すよう言っていたのももう過去の話である、その頑固さは一味でも1・2を争う。ちょっとした揶揄も込め、仲間達からは≪軍曹≫などと言われている。

 

アルヴィンは、姿勢をそのままに甲板をチラリと見やる。

準備、と言ってもそんな大層な物では無い。精々が自分達≪白夜の海賊団≫最高幹部達の座る豪奢な椅子を、甲板の真ん中へグルリと円を描くように配置するだけである。後は、集まった際に他の船員全てがその周囲にズラリと並べば場は出来る。海軍の船だったと言う元々の名残から作戦会議室のように少数で顔を会わせて行える部屋もあるし、自給自足をしている島の中にはそれなりに立派な建物もある。だが、密室で行うよりは普段別行動をしている幹部を見る事で、部下に何かしらの感情を抱かせる事も出来るだろうとの狙いから、衆人環視の元で行おうと決めたのだ。これもまた、人心掌握の一環であった。

 

「……お、早速キタっすね」

 

手でひさしを作りアルヴィンが眺めた先には一隻の船がやってきていた。中々に大きい、今自分が乗るこの≪オールト・クラウド号≫とほぼ同等の大きさを誇る船がやってきた。

 

程なくして、横に接舷させたその船から全身に見るからに頑強そうな黒鎧を纏わせた7mはある大男がやってきた。

 

「おひさーッス、ラグっち。元気だったッスか?」

「…………(コク)」

 

一切言葉を発さず頷きだけをアルヴィンへと返す。

その見るからに威圧的な風貌とは裏腹に、白夜の海賊団でも一二を争う程に心優しい寡黙な大男は白夜の海賊団最高幹部たる主要天体(プラネット)≪木星のラグパルド≫その人であった。

 

「ラグパルド殿は、『元気だったよー』と仰っているのれす!」

 

ぴょこりと、ラグパルドの肩の上から顔を出したのはやや鼻の長いトンタッタ族の少女であった。名をエイネ、ラグパルドの軍師を自称している。小人族とも呼ばれる少数民族のこの少女は、かつてある出来事からラグパルドと出会い意気投合し仲間となったのである。色々と詳細は入り組んだ事情があるようなのだが、流石にアルヴィンとしてもそういったデリケートな問題に土足で踏み入る訳にもいかないので詮索はせずにいた。人柄が信頼できるのであればそれでよい。

 

「いや、まぁ流石にそんなフランクな喋り方はしてないと思うんスけど……」

 

実際に喋ったところをほぼ知らないため否定も出来ず、煮え切らない様子でポリポリと頬を掻くアルヴィン。

それなりに長い付き合いなのになぁ……などと考えていると、そこに一隻の見慣れぬ船が新たにやってきた。

≪オールト・クラウド号≫に比べ二回りは小さいごくごく平均的な外観の船から、小舟に乗って現れたのは一人のメイド服姿の女性であった。

 

「皆さマ、ご機嫌麗しゅう」

「おー、アルファっちも麗しゅうッス」

「麗しゅうなのれす!」

 

邪魔にならぬよう茶髪を後ろで纏め上げ、カクリカクリと、どこか洗練のされていない人形染みた動きで以て挨拶を行う彼女は、ともすれば海賊の船には似つかわしく無いように思える。

 

主要天体(プラネット)≪金星のアルファ≫、彼女もまた歴としたこの海賊団の最高幹部であった。

 

「見慣れない船だと思ったら、どっかの海賊船奪ってここまで来たんスね。前のはどうしたんスか?」

「以前お会イした際にワタクシが乗っておりました≪アルテミシアの涙号≫は、ザンネンながら海王類に遭遇シた際に座礁してしまった、ノデ」

「ありゃあ、そりゃ災難だったッスねー」

「それでお一人で海賊船を襲い、船を奪取した訳なのれすか! 流石の手並みれす!」

 

一人で、といったエイネの言には根拠があった。白夜の海賊団に8名いる最高幹部である主要天体(プラネット)には、それぞれを船長とした海賊団がいるのだが、唯一この≪金星のアルファ≫のみ単独で行動を続けるのが常なのだ。

 

「いえイえ、それ程でもあるのでごゼーますが」

「あるんスか!?」

 

そこは謙遜するべき場所では無いのだろうか。

 

「事実ヲ事実として受け止めルところから、人の成長は始まりユくもの……」

「おぉー、素晴らしい格言なのれす!」

 

(……まぁ、女性陣が楽しそうなので良しとしよう)

 

やや達観した様子でアルヴィンは笑みを浮かべる。先程から物々しい置物と化しているラグパルドの方を見ると、僅かにコクリと頷いていた。きっと鎧兜の中では彼も微笑んでいる筈である。多分。きっと。

 

「でも潜入任務の最中なのに、こっちに来てよかったんスか?」

「今は任務が入っておりマせんし、それにボ……私の潜入に当たっテの協力者が、アリバイ作りに協力をしてくれていまスので」

「ははぁ……また随分と仲良くなったんスねぇ」

「――いよォ。何とか、どん尻は免れたってェとこかねェ……?」

 

ヒラリと、下にある小舟から身軽に船の桟に着地したのは、和服を着た壮年の男であった。左の腰には二振りの同程度な長さの刀が、髪形はちょんまげでは無くそれなりに長い赤みがかった黒髪を乱雑に紐で纏めて流していた。

 

主要天体(プラネット)≪火星のゴロウザ≫。それがこの強者に与えられた呼称であった。

 

「おお、ゴロウザさん。お久しぶりッス!」

「ケッ、野郎から嬉しそうにされたってェ嬉しくもなんともねェなァ」

「ちょ、そりゃねぇッスよぉ! オレ、傷付いたッス!」

「アルヴィン副船長、傷付いタ数だけ男は強く逞しくナれるのでは無いカト」

「こんな傷つき方は御免ッス!?」

「カカ、相も変わらず騒々しいねェここは」

 

不精髭を生やした顎を懐手をした右手で撫でるゴロウザから手酷く振られながらも、アルヴィンは笑みを浮かべる。

 

実のところ本人は気が付いていないのだが、ゴロウザが懐手をするのは気の許せる人物が傍にいる時だけなのである。おそらくは武器を出すのが遅れてしまうからだろうが、その事実を踏まえると、自分達の事を信頼してくれていると体で表してくれているようで何とも面映ゆい。

 

その風体通り剣術の達人たる彼は、多くの門弟を抱えていた。彼の指揮する≪火星海賊団≫は、ほぼ全員が彼の門弟という訳だ。100人前後という人間達が慕うだけのナニカを持ち合わせているという事だ。……でなければ、むさ苦しい門弟全てがむさ苦しい師範に口汚く罵られるのを良しとするむさ苦しい者達という事になってしまう。むさ苦しい。

 

いずれにせよゴロウザと言う人物は、時に道理や渡世の世知辛い決まり事を無視してまで困っている人を助ける事もある、実は男気に溢れた義侠の男である。それらを加味すれば、少々の口汚さなど可愛げ以外の何物でも無い。

 

「何だァ、腑の抜けた面で。オレッチの顔に何ぞ付いてんのかァ……?」

「いや、何でも無いッスよ」

 

言えばたちまち叩き斬られる事となるのは明白なので、決してそんな事は言わないのだが。

 

「それでェ……? 後来てねェのは誰なんでェ、それともこれで全部なのかィ」

「ええと……天王星さんと海王星さんは、いつもの如く外部協力者ッスからここには来ないッスね。近辺の治安維持に徹してもらってるッス。それからエドさんは、最近西の海で少し厄介な海賊団との抗争で手が離せないそうッスから……えー後は」

「土星のエドゥアール様は来られないのデスか……惜しい方を無くされまシた」

「いや死んでねぇッスよ!?」

「楽園ですらねェ四つの海でエドの字が苦戦たァな、時たま出てくるイキの良いルーキーってとこかい?」

「いやぁ……ファイアタンク海賊団って言って、船長は≪ギャング≫ベッジって言う中年の男ッス。長年、陸の方で生計立ててたみたいッスけどねぇ」

「軍師エイネの考えとしては、海に出ても通用出来るだけの新たな戦力か、それとも悪魔の実でも手に入れたと考えるのが納得のいく意見なのれす!」

 

まぁそんなトコロだろうとアルヴィンも考える。いずれにせよ、土星海賊団からの報告に救援を求める旨が無い以上、そこまで大したものでは無い筈だ。

 

「後は、メロっちだけッスね」

「あァ、あの姦し娘かい。オレっちはどーも苦手だねェ……女はもう少し静かにした方がいい」

「むむ、ゴロウザ殿! それは一体全体どういう事なのれすか! 雄弁で以て万兵に語り、諫言で以て主を諌める軍師として、それは少々聞き捨てならないのれす!」

「エイネ、ゴロウザ様もよもヤ本気でそう言っている訳ではありませン。程度の差こそあれド、女性がお喋り好きであリ、完全ニ静かな女性などいナいと理解もしているはズ。……そう。つまりは火星のゴロウザ様は論理的な帰結として、こう申しているのでごぜーマす。――俺ハ何よリ男が好きなノだと」

「まぁ……!?」

「ンなこたァ微塵たりとも言ってねェよ、この姦し娘共がァ……!」

「しかシ以前、雑談で『オレっちァ強い男が好きだ』と自白したとの証言が」

「会話を途中で切り取ってんじゃァねェ!!」

「誰彼憚る事も無い、特に副船長の≪地球のアルヴィン≫様辺りはオレっちの好みドストライクであるからして、いつも顔を会わせて立ち去る前には胸がきゅぅん、と切なくなっちゃうー、のでゴぜーますとか」

「まぁ、まぁ! きゅぅんと……!?」

「そっちは完全に言ってねェよッ!? 東の海(イーストブルー)まだ続けんのかッ、いい加減にしろィ!!」

 

ガァ、と吼えたゴロウザ。

客観的に見れば、先に述べたゴロウザの言が原因な為アルヴィンも女性陣に加担したいところではあったのだが、加担をすれば即座に同性愛者の烙印が押されそうで怖い。そうなってしまっては、今後の組織運営的に致命的と言ってもいい程の事態なので、結局アルヴィンは曖昧な笑みを浮かべそっとラグパルドの後ろに隠れるのであった。

 

その船が、突如浮上してきたのはそんな時であった。

一見すれば、その船は潜水艦のようであった。海面を割り、突如島の近くに浮上したその流線型の姿は誰の目から見ても間違いは無い。

そんな潜水艦であったが、ガコン……ガコン……と何やら駆動する音がアルヴィンの耳へ入ってきていた。途端に、切れ目一つ無かった筈の上部が見る見るうちに開かれていき、最終的にイルカを模したような形状の船へと変形を遂げていた。水の抵抗を極力無くす為に余計な部分は一切見当たらなかった潜水艦形態に比べ、いっそ冒涜的と言える程にゴテゴテと様々な意匠を凝らした装飾が散りばめられている。一つ一つは繊細さすら感じる逸品ばかりなのだが、如何せん全体で見てみると色合いも含めると致命的な程にバランスが悪く思える。偏に所有者の美意識の欠如と言えるだろう。

 

「≪エレガント・ドルフィン号≫……相も変わらず、ゴテゴテとした装飾だこって」

「正直なトコロ、アルファは彼の船の船員達に嘘偽り無き敬意を表しテいるのでごぜーまス。よくあのぶくブくと肥え太った腐臭漂う成金親父が乗ルような悪趣味、いえ極悪趣味な船に長時間乗り続け正気を失わナいのかと。如何でしょウか、アルヴィン副船長。或イはこれを研究テーマとしたナらば、世界中に存在してイるであろう心の病を抱える方々をお救い出来るのでは無いカト思われる事この上ないノデスが」

「――先程から聞いていればいけしゃあしゃあと、こぉの機械娘……」

 

他のメンバーよりも質も量も増したアルファの毒舌に、顔を引き攣らせながら現れたのは下半身が魚の少女であった。

配下である屈強な体躯の魚人達に、泡で塗れた豪奢な浴槽をまるで神輿のように持ち上げさせている姿はまるで、女王のようである。

 

主要天体(プラネット)が一、≪水星のメロウ≫。

本人は優雅に現れたと考えているのだが、屈強な魚人の男に担がれている浴槽神輿というのは如何せん何とも表現しがたい光景と言える。

 

「このワタクシに何という口のきき方でしょう! ワタクシはいずれ、美の代名詞と呼ばれる程に美しい、人呼んで真の人魚姫であると言いますのに!」

「ぷっふぅ……!」

「人呼んで(他人とは言ってない)」

「ああ、本人……」

「でも海賊女帝に比べれば、ねぇ」

「あっしはキツめのメロウ様よりは、柔らかい印象のしらほし王女の方が……」

「半魚人の間違いデは……」

「オイ誰だ今、半魚人つった奴ぁ!?」

「半魚姫……」

「むきゃー!?」

 

早くもお嬢様口調のキャラが崩れ始めているメロウ。そんな彼女が(一方的に)ライバル視しているのは≪人魚姫≫と呼ばれる魚人島のお姫様、しらほし王女の事であった。

 

 

 

 

 

 

「さァて。集まれる野郎共は全員揃った訳だし、もうそろそろ大将のお出ましかィ?」

「火星のゴロウザ様。野郎共、と呼称するには性別の割合的にやや難があるかと」

「全く! これだから野蛮な殿方と言うのは、ワタクシ好まないのですわ!」

 

 

(さっきまで喧嘩してた二人が、もう息を合わせて抗議してるよ……)

 

仲が良いのか悪いのかよく分からない。或いは、仲の良し悪しと息の合う合わないと言うのは話が別なのだろうか、アルヴィンは定位置である椅子に座り頬杖を突きつつそんな事をぼんやりと考えていた。

 

船長室に繋がる扉が、ゆっくりと開いていったのはそんな時であった。

手入れが行き届いている為、錆び一つ付いてはいない。事実、実際には軽快な部類に入る程自然と扉は開いていた。しかし近くにいる者には、ギギギ……と重々しく音を立てて開いていくような、そんな錯覚すら覚えていた。内と外の空気が入り混じる、そんな空間から現れたのは一見特徴の無い青年であった。

 

顔立ちは整っている、しかし絶世の美男子という訳でも無い。

長くも無く、短くも無い黒髪黒目。体型は大き過ぎず小さ過ぎない、いわゆる中肉中背。

目立つ点と言えば、精々が仕立ての良い豪奢な赤いジュストコールを羽織っており、羽飾りのついた黒い海賊帽を被っているぐらいのものだ。

 

やや彫りの浅い、薄い顔立ちをしている為に下手をすれば着られている感が漂ってしまうが、実際に見てそんな感想を抱く者など皆無である。それ程までに、大小の差異はあれど、その青年の存在感に皆が圧倒されていた。

 

白夜の海賊団船長、≪太陽のソラナキ≫。白夜の海賊団最強の男が、王者の風格を携え今ゆっくりと玉座に座った。押し殺したような溜息が周囲から漏れ聞こえる。

 

「遅れてすまない。出席予定者は皆、揃っているようだな」

「カカ……ィよう、船長。久方ぶりの再会だが、相も変わらずだねェ。これでまだ抑えてるってんだから、信じらんねェなァ」

「うん……? ……ああ。この上着も三角帽も、俺にはあまり似合わないと言ったんだがな。エドゥアールの奴がどうしても着ろとうるさいんだ、あまり茶化してくれるなよ」

 

(((違う、そうじゃない……!)))

 

その場にいた全員の心が一つになった。意図せずして込められた威圧感に、幹部達は慣れもあって耐えられる。だが周囲にいる船員達は、船長の本気を受ければ泡を吹き白目を剥いて気絶をしてしまうだろう。不必要なので一切覇気は放たれていない筈なのだが、それでこの存在感である。信じられぬ程に惹きつけられる、一挙手一投足に目を奪われる。

 

いずれにせよ、白夜の海賊団を総べる男は、時折信じられない程に惚けたところがあった。

 

「あ~、ソラナキ様ぁ……♡ でもそんなトコロも可愛らしいですわぁ♡」

「水星のメロウ様は本当ニ気持ちが悪いですネ」

 

両手を握り締め、ぶんぶんと体を振る程に興奮をしているメロウを冷めた眼で見やっているのは当然の如くアルファである。無表情ながら、何より内の感情を雄弁に物語っていた。

 

「あー、もう良いッスか? このままじゃ、話しが進まねッス」

 

司会進行的な立ち位置で何とか場を取り為そうとするアルヴィンの後ろ姿は、まるっきり中間管理職のそれであった。

 

「えー、では今回皆さんに集まって頂いたのはッスね――」

「遂に、俺達が大々的に動き出す時機が来たからだ」

 

横から自分が話そうとしていた台詞をかっさらわれたアルヴィンの後ろ姿は、まるっきり哀愁漂う中間管理職のそれであった。

 

「今まで俺達は、ここ数年目立たぬように協力者を増やしていき草の根運動的に活動をしてきた」

「……新聞社を通じて、世界へ海賊団の種類の事も周知徹底をしてきたッスからねぇ。……警戒した新聞記者の心を動かすのに、どれだけ資金が必要だったことか」

「海賊のみを襲う我等『ピースメイン』と、従来の悪い海賊イメージである『モーガニア』の事れすね!」

 

我が意を得たりとばかりにエイネが声を上げる。

白夜の海賊団は、海賊と名乗ってはいても無辜の民を襲うような気質の人間の集まりでは無かった。むしろその逆、諸事情あって海軍にはいられなくなった者や正義を抱えど海軍と言う大所帯は合わない者、単なる賞金稼ぎや訳あって追われる身になった為に真っ当な職には付けないが、だからといって人を襲う気にはなれない者等々……そうした雑多な集まりが、この白夜の海賊団なのであった。

 

しかし何も知らない者からすれば、海賊団は海賊団だ。どんなに自分達はいい海賊だと向こうから説明してきたとしても、ジョリー・ロジャーを掲げている以上いつ研いだ牙を自分達に向けられるか分かったものでは無い。そんな状態では、友好的な関係など築ける訳も無く、疑心暗鬼に陥られるのがオチだ。

 

「我々白夜の海賊団を、より世間の人に受け入れさせるのに必要なモノ。それは『風潮』だ」

 

海賊と呼ばれる、海賊になる事を決意してから、年単位で月日を重ねてきた。ようやっと周知がされて来た為か、最近はルーキーの中からすらも『ピースメイン』を語る海賊団が出てきた。騙って町の懐に入り込もうとする海賊団までいるのは、彼らにとって大きな悩みの種ではあるのだが。

 

「『ピースメイン』は良い海賊で、『モーガニア』は悪い海賊……そういう風潮が民草の中で出来さえすれば、海軍としてもある程度のお目こぼしをすることが可能となってくる筈だ。つまるところ正義とは……人の価値観なのだから。少なくとも、俺はそう知り合いに教えられたし同意もしている」

 

海軍は、全世界的な一大組織である。意外なように感じるかもしれないが、規模が大きくなればなるほどに、力なき無数の人の目もまた無視出来なくなってくるものだ。『正義』を掲げる者達が、守るべき民衆を蔑ろには出来ない。仮に民衆が『ピースメイン』を是とするならば、海軍としても大掛かりに『ピースメイン』の海賊を狙えなくなる。『モーガニア』だけを、――少なくとも表だっては――狙わざるを得なくなる訳だ。

 

成文化こそされてはいないものの、ようやく懸賞金の掛けられていないピースメインならば、海賊を名乗ってはいても賞金をやり取りする政府の施設に立ち入っても捕まらないようになった。賞金稼ぎと同じ、そうみなしてくれているのである。

世間からの目を好意的にしてくれるこの一種のイメージ戦略は、未だ確固たるモノでは無いものの、間接的に海軍を利用する位置に付けるという点に最大の利点があった。

 

白夜の海賊団の立ち位置としては、海軍とは協力関係とまではいかずとも友好的な中立関係を築くというのが理想となる。まず、民衆を守る勢力と敵対する、というのは論外である。逆に、友好を築きあまりに深い関係となってしまえば、取り込まれる危険性もあり都合が悪い。それ以前に船長の前歴からしてどうしようもない。絶対に有り得ないだろう。

 

「――今。世界には夜が渦巻いている」

 

ポツリと。ソラナキが語りだす。

 

「数多いる人々の怨嗟をその身で覆い隠し、しかし確かに蠢いている」

 

周囲を見渡すその瞳には、静かに、しかし確かに炎が燃えていた。

 

「其処に光が入らぬというのならば。誰もが目を背け、夜が続くというのならば。我等自身が≪白夜≫となりて、終わらぬ夜など無い事を知らしめよう!」

 

籠った熱を振り払うかのように、手を掲げる。その先には旗があった。日輪を背に、堂々と翻る髑髏。≪白夜の海賊団≫の、想いを込めたジョリー・ロジャーである。

 

「……そろそろ、次の段階に動き出す時が来た。より、直接的に無法者たる『モーガニア』共を叩き潰す。そして俺達≪白夜の海賊団≫の名を知らしめ、一種の抑止力と為すぞ」

 

場の空気が沸き立つのを感じた。その場にいる誰もが船長の言葉を集中して聞いている為に、実際に騒々しい訳では無い。だが複数名の気持ちの昂りが、確かに空気をざわつかせたのだ。

 

「第一段階だ、ここでヘマをする事は全体の流れにも大きく関わってくる。絶対に失敗は許されない。ターゲットは東の海(イーストブルー)、コノミ諸島」

 

一旦、言葉を切る。

重々しい空気の中、ソラナキが足を組み替えるのを誰もが固唾を呑んで見守っていた。

 

「――俺が行く」

 

厳かに、まるで波紋が広がるかのように。船員達がそう感じたように、宣言するのであった。

 




・いきなり原作キャラ0のオリ勢力大集合?
これを書き始めたころはオーバーロードにハマってたためです。
尚、これでも設定の収集が付かなくなり大分削減した模様。最初は最高幹部である主要天体の他に幹部の衛星とかもあって非常にもっさりとしてました。
因みに、特に名前に命名規則は無いです。本当にインスピレーションと語感重視。

・ワンピース世界に太陽系とかあるの?
(当作品では)あるんです。

・ベッジ馬鹿にしすぎじゃない?
あらすじにも書きましたが、そもそもこれ書き始めたの、5~6年前の海賊無双2出たのが切っ掛けで書き始めたんですよ。その頃は確かシャボンディ諸島か魚人島編辺りで、とにかく2年後なんて一切知らない状態で書き始めたんでこんな書き方な訳です。悪しからず。
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