ONE PIECE~白夜の海賊団の航跡~   作:ATA999

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門出2

【青臭い正義】を掲げていた。

 

『何なんですか、これは……』

『耐えろ……。耐えるんじゃ、ソラ……!』

 

ある時、突如として無人島で目を覚ました俺は飢え死に寸前まで追い込まれ。そして、偶々通りがかったガープ中将に保護された。15歳の時であった。

 

『こんな、こんな無法がまかり通っていいんですか……!?』

『…………ッ!』

 

実の親の記憶など無く、それから三年。自身の今まで培ってきた常識からすれば未知の事柄に一喜一憂し、ある時は笑われ、またある時は拳骨を喰らい、またある時は月夜の晩に昔話を語らい過ごしてきた。

 

『あぁうっ……!?』

『やめてー!? その人はっ!!』

『うるさい下々民だえ……』

 

英雄とすら称されるガープ中将の下で働いていたからか、瞬く間に戦果を挙げ大佐にまで上り詰め、そして10代の若さにして異例な准将への昇格が内々に決まった頃。俺の今後の人生のみならず、世界すら揺るがす大事件が起きた……否、起こしたのだ。

 

『全く、面倒だが。これも高貴なる者の務めかえ』

『く、オオッ!!』

『待たんか、ソラ!!』

 

人攫い屋が捕らえた懸賞金付きの海賊、そんな札付きの悪者を気に入っただけ金で引き取り人以下の奴隷として扱う天竜人。世界一下劣な趣味を持つ世界一高貴な血筋の者は、しかしその扱いを海賊だけでなくシャボンディ諸島で暮らす一般市民にも行っていた。

 

『ふぅ、ただの人間が。頭が高いにも程があるえ……』

『止めろォォォッ!!』

 

今でもそうなのだが、その行動を取った事には微塵も後悔はしていない。むしろその場にいたあの母娘と思しき二人の命を救えた結果を、誇りとして感じている。

だが一つだけ、言い訳をするのなら。

例え天竜人とは言え、悪辣な精神の輩とは言え、俺は殺すつもりなど無かった。ただ緊急事態である、いつものように殴りつけて制止しようとしていただけだったのだ。いわゆる、脳筋とでも言うのだろうか。その後どうなるのか。天竜人に手を出した者が、如何なる処罰を下されるのか。あるいは自分だけでは無い、周囲の親しくしてくれている人々への影響すらも、そういった何やかんやを。恥ずかしながらその一瞬だけは何も、何も頭の中には浮かんでは来なかった。ただ動いてしまった。

万死に値するとして処罰をされる、それ故に決して彼らに対して行動してはならぬと固く言われていたにも関わらず。そんな俺を、きっと無鉄砲の考えなしと人は言うだろう。

 

『ぎ、ゴオおォォォッ!?』

『なん……!?』

 

ただ、考慮に入れていなかった事。強大に過ぎる能力の制御の度合い、そしていつもの屈強な海賊共とは違う相手の貧弱さ。それに尽きる。

感情の昂りと共に振り抜いた右腕から漏れ出でた紅蓮の高熱は、そのまま運動一つした事が無いのではと思われる程に脆弱な男の皮膚を焼きに焼いた。体表面の半分以上が焼かれていては、ひ弱な男が助かる訳もなかった。

 

『キャアアアッ!!』

『ろ、ロズワード聖!?』

『あ、ああっ……』

『ぐ、むぅ……行けぃ、ソラ! ひとまず船に乗ってこの場所を離れるんじゃ、後の事はわしが何とかする!!』

 

人は俺の事を、こう呼ぶ。成し得ぬ事を成した、成してしまったという賞賛と畏敬、戦慄と侮蔑の念を込め。

 

≪天竜人殺し≫と。

 

 

 

 

 

 

「……寝てたか」

 

夢の内容を噛みしめ、鬱陶し気に首を振る。

忘れてはいけない事だが、積極的に思い出したい訳でも無い。海賊ソラナキの原点たる事件ではある、当時18歳とは言えあまりに若すぎた。

 

「まぁいい……」

 

今日は一年に一回、仲間達が集まる会合の日だ。俺がぐーすか寝ている間にも副船長のアルヴィンを筆頭に、色々と動き回ってくれている筈である。それに全てが始まったあの日から、苦労しつつも立ててきた計画を大々的な実行に移し始める大事な日でもある。気持ちを切り替えねばならない。

 

「ふぅ……にしても、だ。何で俺は最後に登場しなければいけないんだ……?」

 

『我輩の哲学では、船長とデザートは最後にやってくるものと相場が決まっているのでアール!』

 

などとエドさんが力弁していた訳なのだが。皆、俺が来るのを今や遅しと待っているのでは無いだろうか。特にアルヴィンなんかは、他の海から来る面々と違って同じ船に乗っている訳だし。

 

そっと、船長室の隙間から甲板を覗いてみる。

 

『ンなこたァ微塵たりとも言ってねェよ、この姦し娘共がァ……!』

『誰彼憚る事も無い、特に副船長の≪地球のアルヴィン≫様辺りは俺の好みドストライクであるからして、いつも顔を会わせて立ち去る前には胸がきゅぅん、と切なくなるのでゴぜーます』

『まぁ、まぁ! きゅぅんと……!?』

『まだ続けんのかッ、いい加減にしろィ!!』

 

……えらく楽しそうな声が聞こえてきている。解せぬ。

普通、船長がいないとなったらそれなりに心配したりしないのだろうか。船の長だよ? 一番偉いんだよ? 会合始められないんだよ?

 

そんな事を悶々と悩み、最高幹部の人選を間違えたかなと組織の人事にまで鋭く切り込もうとしていたら、いつの間にやら最後のメンバーであるメロウまでやってきていた。

≪エレガント・ドルフィン号≫……ふむ、やはり良い船だ。あの装飾てんこ盛り、全部乗せな所が俺の繊細な感性を刺激する。それはさながら、騒音の中にこそ静を感じる感性と通ずるものがあると言える。無地の白だけがキャンバスでは無いのだ、既に描かれた絵の上にでも絵は描こうとすれば描ける。それは無秩序に見えて一定の法則の元に彩られているものなのだ……。

 

などと実に高尚かつセンチメンタルな事を独りで言っていても虚しいだけなので、ここは船員達とじゃれ合う事とする。以前が階級社会の海軍に所属していたからか、船員達には妙に一線を置かれているような気がしてならない。こういう些細な所での努力が、円滑な組織運営には必要不可欠な要因なのである。

 

『このワタクシに何という口のきき方でしょう! ワタクシはいずれ、美の代名詞と呼ばれる程に美しい、人呼んで真の人魚姫であると言いますのに!』

『ぷっふぅ……!』

『人呼んで(他人とは言ってない)』

『ああ、本人……』

『でも海賊女帝に比べれば、ねぇ』

『あっしは、キツめのメロウ様よりは柔らかい印象のしらほし王女の方が……』

『半魚人の間違いデは……』

『誰だ今、半魚人つった奴ぁ!?』

「半魚姫……」

『むきゃー!?』

 

上手く会話に入れた。こういった事の積み重ねが、絆の深さに繋がるのだと信じよう。

 

うむ、努力は裏切らない。

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで東の海(イーストブルー)。最低限の人数でも操船できる程度の小さな船に、乗っているのは俺に加えてワの国の侍であるゴロさんこと≪火星のゴロウザ≫と気は優しいが力持ちである無口な巨人のラグこと≪木星のラグパルド≫、その肩に乗っているトンタッタ族の≪軍師エイネ≫、この4人だけだ。

 

「……それにしても、船長殿! 何故リヴァース・マウンテンを越えずに、わざわざ危険な凪の海(カームベルト)を通って来たのれすか!? 死ぬかと思ったのれす!」

「ん? その方が早いし、近いから」

 

絶句をしているエイネだが、何も考えなしに選んだ訳では無い。元々俺達がいたあの島は偉大なる航路前半の中でも、丁度真ん中辺りに位置していたのだ。そこから航路を逆走、幾つかの島を経由してリヴァース・マウンテンを逆向きに踏破。東の海へ降り立ち、再度向かっていては時間が掛かりすぎる。イメージとしてはUターンするような航路を描いてしまうのだ。目的地である東の海は、偉大なる航路とは凪の海を挟んだお隣さんなのだから、ならもう一直線にズドーンと向かった方が遥かに時間が短縮出来るという訳だ。実に合理的である。

 

「そんな阿保みたいに単純な理由で、大型海王類の巣を……!?」

「最初に出てきた小さめの海王類を手懐けてここまで曳いてもらったんだから、良かったじゃないか」

「殴りつけて無理やり言う事を聞かせるのは、手懐けるとは言わないのれす……」

「…………」←励ますように頭に手を置く。

「ラグパルド殿……!」

 

ラグが慰めるようにエイネの頭に手を置いているが、そこは肩に手を置くところでは無いだろうか。いや体格差からして置けないのだが。慰める意図の筈なのに、魔界の悪者が可憐な妖精を押し潰しているようにしか見えないのは何故なんだろうか。撫でてるのが擂り潰しているようにしか見えないよ、ボク。

 

にしても別に悪い事をした訳でも無いのに、何で俺が悪いみたいになっているのだろうか。解せぬ。

 

「それでェ……? ソラの字ィ、わざわざ最弱の海程度に船長と最高幹部たる主要天体(プラネット)を二人連れるってェ力の入れようなのは、どういう訳なんでィ。万全を期するたァ言ってたが、そんなに強えェ奴なのかァ?」

「ああ、そうだな。結局ゴタゴタして終わったから、そう言えば落ち着いて今回の詳細を話して無かったな」

 

会合の後の人選が地味に大変であった。最終的に、とにかく付いて来ようとする≪水星のメロウ≫や≪金星のアルファ≫を、副船長であるアルヴィンに押し付けてきたのだ。

 

「そう言えば。何で、付いて来たいと言ってたアルファ殿やメロウ殿を連れずに、我々を選んだのれすか?」

「ああ。今回向かう場所であるコナミ諸島は、さっきゴロウザが言った通り魚人の海賊に占領されてしまっている。船長の名はアーロン。大層な種族主義者かつ血の気が多く、一部ではあの七武海の一人である≪海侠のジンべエ≫と肩を並べるとまで言われていた男だ。メロウと≪水星海賊団≫の連中は構成してるのが魚人な以上連れていけんよ、地元住民の感情を逆撫でしては論外だ。それに、アルファは潜入任務中だしな。協力者が好意的で有り難い事ではあるが、そちらを疎かにして欲しくない」

 

魚人に支配されている所に魚人を連れていくなど、流石に荒療治にしても度が過ぎているだろう。百歩譲ってもせめて段階を置くべきだ。よって却下。

アルファはアルファで、あれで割と好戦的な所がある。モーガニアの海賊共を狩るだけならまだ良かったのだが、不正を働く腐った海軍軍人なんかも襲ってしまったのでそれなりの懸賞金が掛かってしまったりしている。元々俺が船長を務める≪白夜の海賊団≫としては賞金稼ぎを行えないから、そのカモフラージュとして主要天体一人一人にバラバラの場所で海賊団を結成させて隠れ蓑として動かしていたのだが。それも無駄になってしまったので、三年程前から長期に渡ってとある組織に潜入させている最中だったりする。現在はそれなりの位置に定着しているらしい。

 

「……少し、お腹が空いたのれす」

「そうだな、もう食料が底をついているな。二週間分は食料を積んでたんだが」

「……。誰かさんが、海王類に貴重な食料分け与えなけりゃ十分持った筈なんだがなァ……!!」

「しかし、そうは言うが。鞭の後には飴を与えねば、言う事は聞いてくれないぞ。何事もバランスだ」

「…………」

「…………」

「……まぁ、何だ。間違いは誰にでもある、そう一々気にするな。疲れるぞ」

「間違えた本人が言う言葉じゃないのれすっ!!」

「…………(コク)」←優しげにソラナキの頭を叩く。

 

未だに他の二人からは睨まれている所を見ると、ラグだけが俺の味方のようだ。確かにその様子は、心優しき大男にしか見えないだろう。

 

俺もアイツも悪気は無かった。だが如何せんサイズがデカ過ぎた、巨人よりもデカい海王類では俺達人間の食料程度では満足など出来る訳も無かったのだ。この俺の慧眼を以てしても見抜けなかった、予想外かつ衝撃の事実である。

 

生まれで差別をするなど、唾棄すべき事案だ。誰しもが、こう生まれたいと願いそう生まれた訳では無い。

結局アイツのキラキラとした目に惑わされるがままに、ちょっと10日分程あげたところで仲間達に全力で拘束されてしまった。実は何気に、今も手錠をかけられてたりもする。後ろ手である。海楼石である。今の俺は無力で無能な男である。

 

船長だよね、俺。しかもそれなりの勢力の。

 

「ど、どこかの町に寄って食料を補給しなければ、飢え死にしてしまうのれす……!」

「干物が四つなんてのも、このままじゃ洒落になんねェからなァ……」

「…………」

「……にしても、ラグ。お前、そんな黒い鎧着て全身覆ってて平然と座ってるが。暑く無いのか?」

「…………」

「……ラグ?」

「…………」

「ら、ラグパルド殿ぉっ!? 熱中症で意識がもうろうとしてるのれすっ!?」

「何ィッ!? 普段から喋らねェから分かんねェんだァ! くそっ、海水でも良いからぶっかけるぞォ!」

 

二人が慌ててバケツで海水を汲み、テディベアのように座り込んで動きを止めているラグパルドに向け水をぶっかけているのを尻目に黄昏るように水平線の向こうを見渡す。

 

空が青い。海は蒼い。同じ青だと言うのに、空が透き通るような青色だと言うのに海の方はどうして深みがある青をしているのだろうか。そんな事を黄昏ながら思い耽る。まだ黄昏時には程遠いのだが。

 

「……ふむん」

 

実のところ、割と洒落にならない状況だったりする。

現海域は凪の海と隣り合っている東の海はサンバス海域、他の海域と違いぽっかりと空間が空いているように無人島を含めた陸地が無く、海が続いているのが特徴と言えば特徴の海域である。

何とか貿易船や海軍の船でも見つかってくれないかなーと思い目を凝らしていく。何ならモーガニアの海賊船でも良い、悪事を働くのを未然に防げるしお腹を満たせるしで一石二鳥だ。

 

「……ム。船が見えた! 海賊船じゃない、金を払って食料を分けて貰うぞ!」

「やるねェ、ソラの字ィ!」

「流石は船長殿れす!」

「はは、それ程でも無い。それよりそろそろこの手錠を外してくれないか?」

 

千載一遇のチャンスを逃してなるものかと、慌てて船の方へと進路を変える。見えてきた船は幸運にも錨を降ろし停泊しているようであった。魚の形をした独特のシルエットは、どこかメロウの≪エレガント・ドルフィン号≫を彷彿とさせる。

 

中々良い船だ。

 

「飢餓寸前で見つけた船が、海上レストランとはな……」

「悪運が強いねェ、全く……」

「人生そんなものだろう。ところで手錠を外してくれないか? 何だか跡が付きそうなんだ」

 

海上レストラン≪バラティエ≫。その名の通り、海のど真ん中に浮かぶレストランである。

出来すぎた展開に苦笑いすら浮かんでくる一同であった。

 

ところで手錠は外してくれないのだろうか、ねぇ。ねぇってば。

 

 

 

 

 

 

「……ん」

 

バラティエに近付いていくと、どうやら海軍の船が見てとれる。おまけにその隣には海賊の船という謎の組み合わせだ。

 

「拿捕でもされたか、それとも賞金首でも明け渡してるのかね……?」

 

いずれにせよ、今の自分達は海賊旗を掲げてもいないのでマジマジと人相を照合されない限りは海軍の船だろうと問題は無い。堂々としていれば、意外と気付かれないモノだ。ぼんやりと、その船たちを眺めながら横を通ろうとしていると、いきなり海軍の船が海賊船に向かって砲撃を行った。そしてその砲弾が、何やら海賊船から飛び出して来た人物に『角度を変えて』跳ね返され。

 

なんかバラティエに直撃していた。

 

「……おおっ」

 

二重三重の意味で衝撃だった為に、つい動くのが遅れてしまった。何故いきなり無抵抗そうな海賊船を沈めようとしたのか、どうやってあの砲弾を跳ね返したのか、て言うか何で海軍の船では無くバラティエに向かって跳ね返したのか。恨みでもあったのだろうか。

 

「せ、船長殿! ラグパルド殿が『海上レストランの被害が心配だよ!』って言ってるのれす! エイネも同感なのれす!」

「鈍臭ェ奴が、誰か怪我したかもしれねェしなァ……」

「そうだな……あの二隻の事情も気になるが、まずはバラティエへ向かうぞ!」

 

事情は気になるが、とにかくバラティエへ向かおう。そう一致団結した我々精鋭部隊の目に、肉のマークが有ったか無かったかは末代までの秘密である。

 

 

 

 

 

 

時は少し遡る。

新たに仲間に加わった狙撃手・ウソップを加え、≪ゴーイング・メリー号≫と言う海賊船も手に入れた麦わら海賊団の面々は、気持ちも新たに偉大なる航路への航海を進めていた。

途中、壊血病を患っていた賞金稼ぎの二人組≪ヨサクとジョニー≫を助けた一行は、栄養管理を行えるコックの存在を重視し、何としても偉大なる航路へ入る前にコックを仲間に加えようと考えた。ソレを知ったジョニーの進言で、一行は海上レストラン≪バラティエ≫へと向かっているのであった。

 

「ところでルフィのアニキ。麦わら海賊団は、ピースメインなんすか、それともモーガニア?」

「ん、何だそれ? 海賊は海賊だ! それ以上でも以下でもねぇぞ!」

「俺も聞いた事ねぇな。おい、ジョニー。説明しろ」

「なんで海賊やろうって人達が、揃いも揃って知らねぇんですかい……」

 

傍若無人なルフィとゾロの言葉に、ジョニーは思わず肩を落とす。実際に口に出したのはその二人だけだが、他の面々も知っている様子は無い。ごく最近出来た区分とは言え、基本的な知識が乏し過ぎるのではないだろうかと心配になる。

 

「≪ピースメイン≫は賞金稼ぎに加えて、人を襲わずただ冒険をしたりする海賊の事を言うんす。そいで、≪モーガニア≫ってぇのが従来の人を襲う悪い海賊ってぇ寸法でさぁ」

「斧手のモーガンならこの前ルフィがぶっ飛ばしたがな、悪徳海軍の」

「ああ、あの大佐な! コビー、元気にしてっかなぁ」

「人名じゃねぇっすよ! モーガンじゃ無くてモーガニア……って、海軍大佐をぶっとばしたぁ!?」

「まぁ、そういう事なら俺達はピースメインだな! あわよくば、海軍にも襲われねぇ可能性もあるしよぉ」

 

卑屈な笑みを浮かべ気弱な発言をするのは麦わら海賊団の狙撃手、新たに仲間となったウソップである。この少年は伸びた鼻の長さとは裏腹に、いたって肝の小さい少年であった。

 

「なんだァ、ウソップ? お前、『勇敢なる海の戦士』になるんじゃ無かったのか?」

「う、うっせぇゾロ! 仕方ねぇだろ、俺には海軍と戦うと死んでしまう病というのがあってだなぁ……」

 

茶化すように言ってくるゾロへモゴモゴと言い訳をするのは、勿論そんな病気など有りはしないからである。おまけに勇敢なる海の戦士になると言うのは、ウソップにとって最も汚し難い誓いであった。ウソップとて今ついた嘘が情けない事は重々承知しているので、その誓いに反する現状を鑑みて元気を無くしたのだ。

 

「いや、でもウソップのアニキの言う通りでさぁ! 海軍はどこもかしこも人手不足だから、人様を襲わないピースメインの海賊にまで構ってられないって言うのが心情でしょう。勿論、場合によりけりなんでしょうが、お目溢ししてくれるかもしれねぇならそっちの方がいい」

「んー……ま、何でもいいや! そのピース何とかって奴でも」

「テキトーねー……あら?」

 

頬杖をつき、外を眺めていた航海士のナミが何かを見つける。

 

「みんなー! 船が見えたわよー! ……ってあれ、海軍の船じゃない!?」

「な、なにぃー!?」

「おい、どうすんだ!」

 

バラティエの陰に隠れるように、海軍の船が見えた。丁度反対側にあった為に発見が遅れてしまったのだ。停船の場所はある程度決まっている、既に両者共に桟橋の様に出っ張った場所を目指してゆっくりと進んでいた。

 

「見掛けない海賊旗だな……」

 

落ちついた様子で現れたのは、縦のストライプ柄のスーツを着た男であった。健康的な浅黒い肌、サラリとした長髪。何より特徴的なのは、右拳に装着されたナックルダスターであった。

 

「俺は海軍本部大尉。≪鉄拳のフルボディ≫だ。船長はどいつだ? 名乗って見ろ」

「俺はルフィ。えーと……ピースなんとかだ」

「そ、そうそうピースメイン! だから何にも問題無い筈だぜ!」

「あ? 最近流行りの賞金稼ぎモドキか。だとしてもてめェらが海賊である事に変わりはねェんだよ。いっちょ前に海賊旗を掲げた雑魚が、寄せ集まりやがって」

 

如何に世界に海賊間での区分が広がりつつあるとは言え、未だ海軍へ面と向かった場合にはピースメインだから大丈夫、とまではいかないのが正直なトコロであった。そこには体面的なモノのみならず、所属する海兵の心情的なモノも多分に含まれていたのは否定できない事実である。

 

殊にフルボディ大尉は、その傾向が強かった。やや女関係にだらしなく、女の前で恥をかかされた際には容易く頭に血が上るという悪癖こそあるものの、その異名である鉄拳で市民へ牙を剥く数々の海賊共を粉砕してきた確固たる実績がある。おそらくはもうじき佐官の仲間入りと言うのも夢物語では無いだろう。

 

「おーおーヨサクよぉ。あの兄ちゃん、どうやら俺達に喧嘩売ってきてるみたいだぜ?」

「そうだな、ジョニー。俺達だけならまだしも、アニキ達まで馬鹿にされたとあっちゃあ黙っちゃいられねぇ。あの世間知らずの色男さんに目に物見せてやらにゃあならねぇ」

「「思い知れ、海兵のヒヨッコがァ!!」」

 

数十秒後、ゴーイングメリー号の甲板には顔をボコボコに腫らした二人の姿があった。

 

「「か、紙一重だった……」」

「ジョニー……これ、なに?」

 

ナミの目についたのは、ジョニーとヨサクが甲板に倒れ込んだ際に懐から零れ落ちた紙の束であった。いずれも人の顔や数字が印刷されており、時に赤くバツ印が付けられていたりもしている。

 

「ああ、そいつぁ賞金首のリストですよナミの姉貴」

 

そいつらをどうのとジョニーは尚も説明を続けていたが、ナミの耳には聞こえてはきていなかった。くしゃりと、意図せず入った力で紙切れが歪む。そこに映る男の笑みもまた、歪んだ。

 

「全く……折角、今日は休暇だから見逃してやろうと思ったのにな。馬鹿どもの相手も疲れるぜ」

『ねぇ、フルボディ。弱い者いじめなんかもうそれくらいにして、早く行きましょうよぉー』

 

面倒そうな顔のフルボディ大尉に、船室から媚を含んだ女の声が聞こえてくる。フルボディ大尉は思う、それもそうだ。今日は弱小海賊共とこんな事をしている場合では無いのだ。意中の女性と楽しく食事をして如何にして落とすのかを思案するのが本日の大事な予定なのであって、断じて頭の中を仕事に割く事では無い。

 

思い立つや否や、フルボディ大尉は船をバラティエへと進めさせる。と、同時に部下へと一つの命令を下した。

 

曰く、沈めろ。

 

「はっ!」

 

突き出した親指を下に向けた、これ以上ない程に明確な意思表示を誤って解釈をする筈も無く、海兵服に身を包んだ部下が大砲をゴーイングメリー号へと向け放たれる。

 

「任せろっ! ゴムゴムのー、風船っ!!」

『なぬーっ!?』

「何っ……!?」

 

空気を体内に大量に取り込む事で、文字通り風船の如く膨れ上がったルフィの体は、射出された大砲の砲弾を難なく受け止めた。

 

「返すぞ、砲弾!」

 

麦わらの海賊団船長、≪麦わらのルフィ≫はゴムゴムの実を食べたゴム人間である。皮膚のみならず内臓や筋肉、骨に至るまで全てがゴムで構成されている。そんな全身がゴムである体へ撃ち込まれた砲弾は反発を利用したルフィ自身の力もプラスされ相当な威力で以て跳ね返された。何故か角度を変え、バラティエへと。

 

くゆる白煙、木片が砕け散るのが見て取れる。

その場にいる誰もが、引き攣った表情を浮かべあんぐりと口を開けて驚愕していた。

 

「ドコに返してんだ、馬鹿!!」

「はあ……」

 

怒鳴るゾロに頭を抱えるナミ。ルフィは、仕出かしてしまった事に体の動きを止めていた。

真正面へでは無く、角度がズレて海上レストランバラティエへ撃ち込まれた事は些事であると。残念ながら、まだそう言えるだけの経験値を一味の誰もが蓄えてはいなかった。

 




・無人島で目を覚ました? 分かった、さては伏線だな?
(ぶっちゃけ、特に意味は)無いです。元々はこの小説、オリ主で書いてたんでその名残でもあります。後は、悪癖で展開遅くダラダラ書いちゃう悪癖があるのでとっととガープ中将辺りと絡ませようという目論見も。

・『原作キャラ死亡』タグとか嫌なんですけど
ぶっちゃけ今のとこ、この作品で死ぬの今回の天竜人だけな予定なんで、大丈夫です。ロズワード聖である必要すら無いので、後でオリ天竜人出してひっそり『原作キャラ死亡』タグ消してるかもしれないくらいです。

・え、なんか主人公性格軽くない?
確か書き始めたときは、シャンクスみたいに普段は明るく気さくな感じ。いざって時はビシッと締めるキャラにしたかった覚えが。大物感を出せるかは、いつも困ってます。後、実は1話と2話の間でリアル時間が3年程空いてるので書き方も違うと思われます。
正直、現状は本物の強キャラにやられる系キャラな雰囲気が無くもない。精進。

・麦わらSIDE、いる?
オリ主勢力の影響が世界にも少し出てますよ、という事を表現したかった為。後、軽く麦わら陣営の軽い説明もついでにしたくてこんな感じに。『原作の設定に誠実に、忠実に』を心掛けるほどに原作そのまま書き写しとなってしまうジレンマ。書いてみて初めて分かるこの悩み。「二次創作でキャラ増えてんのに、原作と同じ展開とかおかしいだろ」とか読んでた時は思ってたけど、さじ加減が非常に難しいです。チマチマは変えてるのよ? 実のところ大分書き直しており、最初はもっともっと原作そのままでした。反省。
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