前の国を出て一時間程たった頃、唐突にエルメスが言い出した。
「…キノ気づいてる?」
「ん?」
「またまたぁ~」
「ふぅ、勿論気づいてるよ」
キノはため息混じりに返事をした。
「もう一時間も付いてきてるよ?止まって話を聞いてあげたら?」
「…う~ん、そうだね何時までもこのままって訳にもいかないだろうし」
キノはチラッと後方を確認すると、自分達の後を同じ様に砂煙を上げながら付いてくるモトラドがあった。
「何かあったらよろしくね、エルメス」
「はいはい、後で穴は塞いでね」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
後方からまだ見知らぬモトラドが付いてくるのを確認すると、キノはエルメスを路肩に止める。
暫くしてキノたちに追い付いたモトラドも同じ様に、路肩に停車した。
「あぁやっと追い付いた、こんにちは旅人さん」
「こんにちは」
キノは後ろ手にパースエイダーの存在を確認し、何時でも抜ける状態にし、ジリッと一定の距離を取る。
「あ、そんなに警戒しないで下さい」
そう言われてもキノは警戒体制を解かないまま相手を観察する、一見何処にでも居そうな旅人だ。
身長はごく一般的な成人男性位、顔は優しげに垂れた目元が特徴的と言える男性だった。
しかし人は見かけに寄らない、旅をしてきて学んだ事の一つだ。
「そう言っても簡単には警戒を解いて貰えませんか…」
「すみません、まだ貴方の事を全く知りませんので。
前の国から僕の後をついて来ていた様子ですが、僕に何か用事でしょうか?」
キノは男性と距離を保ったまま、会話を続ける。
「先ずは自己紹介させていただきます、私は旅人のセイと申します」
「僕はキノです」
「やっぱりキノさんでしたか、前の国で落とし物をしませんでしたか?」
「やっぱり?落とし物?」
「はい、前の国でキノさんの落とし物を拾ってから、ずっと追い掛けて来ていたんです。」
そう言ってセイはキノに落とし物を差し出す、それは綺麗に畳まれたハンカチだった。
キノは呆気にとられた、たったこれだけを渡すためにずっと後を追って来てくれていたのかと。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
キノは警戒を解きセイから落とし物を受け取る。
「セイさんはどうして、ボクを追い掛けて来てくれたんですか?国を出てまで追い掛けるのは大変だったでしょう?」
「建前はキノさんが落とした所を見た事ですね」
「建前ですか…では本音を聞いても?」
「それはですね…」
セイはごくりと唾を飲み込む、キノはそれを見て何時でも動ける様に警戒体制に入る。
「昔私の国に、キノさんがいらっしゃったんですよ」
「それは…」
キノはビクッと震えると、腰からパースエイダーを外す。
「ええ、キノさんは貴女ではありませんでした」
「貴方は、それを知ってどうするつもりですか」
キノはセイに向けて、パースエイダーを構える。
「まっ待って下さい、私はキノさんの事を他の人に話すつもりは有りません。
ただ…」
「ただ、何ですか僕を脅すつもりですか」
ジリジリとセイから距離を取る。
「ただ話が聞きたいだけなんだ」
「へ?」
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「成る程僕がキノに成った理由や、キノとして旅してきた話を聞いてみたいとそう言う訳ですか」
キノはパースエイダーを腰に仕舞い、セイとの距離を詰める。
「そうです、私が会ったキノさんは年上の男性でした。
それがいつの間にか、また出会ったキノさんは可愛らしい女の子になっていました」
セイは心底不思議そうに首を傾げている。
「一体キノさんに何があったのか、なぜ貴女がキノさんとして旅しているのか…」
「…キノはもう居ません、僕がキノに成った理由…」
キノが俯き、言いにくそうに黙ってしまう。
「言いにくい話なら良いんです、それなら今までの旅の話を聞きたいです」
「それなら、大丈夫ですけど。
貴方はキノについて、何処まで知っているんですか?」
「私が国に居たときに声をかけて貰って、滞在期間中に遊んで貰っていただけだよ」
「大体僕と同じですね」
ふむふむとキノが納得する、昔のキノはどうやら子供好きだったのかも知れない。
「ついては、キノさんの旅について行きたいんです」
「へ?」
「どうやら私が目指していたキノさんは、もう居ない様ですし。
今のキノさんの貴女に着いていきたいんです」
「キノを目指していた?」
「はい、私の旅の目的はキノさんに追い付く事でした。」
「追い付いて、どうするつもりだったんですか?」
「そこまでは考えていませんでした。ですからもう居ないキノさんより、今目の前に居るキノさんに着いていきたいんです」
「成る程旅の目標をキノにしていたんですね、分かりました。
自分の事を自分でするのなら付いてきても構いません」
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そこで今まで黙っていたエルメスが、こっそりとキノに話しかける。
「キノ良いの?」
「良いよ、自分の事に自分で責任がもてるのなら。
それに、僕も知らないキノの話が聞けるかも知れないし」
「キノが良いなら何も言う事は無いよ、それにしてもキノ気付いてる?」
「?何に気が付くのさ、エルメス」
エルメスは楽しそうに話し出す。
「セイと話している時のキノは何処と無く、楽しそうだし顔も少し赤いような…」
「へ?!そんな事無いよ、何時も通りだよ」
「確かにセイはわざわざハンカチを届けてくれたし、優しげに見えるしね」
「…確かに優しそうには見えるけど」
「まあ旅のお供としては、十分なんじゃないの?」
「そうだよ、一緒に旅するだけの関係だよ!」
「二人の関係については聞いてないのに?」
「うぐぐ」
キノとエルメスに後ろからセイが話しかける。
「キノさん」
「は、はい何ですか?」
「これから、旅の仲間としてよろしくお願いします」
「はい、こちらこそよろしくお願いしますね」
セイと言う名前に聞き覚えがある人も居るはず。
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