お昼寝から目覚めた雛苺は必死にマスターを呼ぶが、それに答える声は無い
「マスター、マスター…」
雛苺は毛布を引きずりながら、マスターを探すがどの部屋を探してもマスターの姿は無かった
「うぅぅ、マスター…」
とうとうぐずりだした雛苺が座り込んだ頃、玄関からガチャリと鍵の開く音がする
その音を聞いた雛苺は毛布を捨て、玄関に走り出す
「ただいま~」
マスターは雛苺を起こさない様に小声を出す
「マスター!」
「あれ?雛苺起きてたの?」
「マスター!マスター!」
雛苺はマスターに駆け寄り、抱き付くと泣き出した
「うぅぅ…うあぁん」
「どうしたの?雛苺、怖い夢でも見たの?」
「ちがうの、起きたらマスターがいなくて凄く凄く怖かったの」
「ああ、ごめんね。気持ち良さそうに寝てたから、起こさない方が良いのかと思って」
「ひなは、マスターと一緒が良いのよ」
「でも、直ぐに帰って来たでしょ?ほら、雛苺の好きなうにゅうを買って来たんだよ?」
「マスター…ありがとうなのよ」
マスターに抱っこされながら、満面の笑みを浮かべる
「マスター…でも覚えておいて欲しい事が有るの」
「ん?何かな」
マスターは不思議そうに腕の中の雛苺を撫でながら、次の言葉を待つ
「ひなはうにゅうも好きだけど、何よりもマスターが大好きなのよ」
「ははっ、ありがとう雛苺」
「ひなは、マスターを見ると心がぎゅっとしてドキドキするのよ」
「雛苺?」
マスターはようやく、雛苺が何時もと様子が違う事にきずいた。
「うにゅうも大好きだけどそれとは違う。
マスターを見てると大好きって気持ちと、独り占めしたい気持ちが溢れてくるのよ、これっておかしいの?マスターひな怖いのよ」
「…雛苺」
マスターは雛苺の頭を撫でてやりながら、どう説明したものかと頭を悩ませる。
「ひなやっぱりおかしいの?マスターこまってるの」
「おかしくないよ、雛苺の気持ちは大好きが人より多くて大きいんじゃ無いかな?」
「多くて大きいの?それって良いことなの?」
「好きな気持ちが大きくて悪い事なんて、無いよ。
マスターも雛苺が大好きで大切だよ?」
「マスター!」
より一層強く、マスターに抱き付く
「マスター、マスター、ひなはねうにゅうよりも何よりもマスターが大好きなの!」
「うん、ありがとう」
「お父様に会えなくても良いくらい、マスター以外全部全部いらない位。
他の人も他の姉妹も会えなくても良いくらい、マスターが居ればひなは幸せなの!」
「えっとそれは…」
「マスターはひなの事大好きじゃ無いの?」
雛苺の目から明るい光が消え、暗い色が宿る。
瞳にはうっすら涙の膜が張っている。
「マスターひなはマスターが一番大好きなの。
マスターだけが良いの、でもマスターは違うの?
やっぱりひなだけが大好きなの?」
「違うよ、マスターも雛苺の事が大好きだよ」
「どのくらい大好きなの?」
「うーん、うにゅうを食べてる時の雛苺位かな。
凄く幸せな顔をしてるから大好きなんだ」
「ひなも、ひなもうにゅうを食べてるマスターのお顔も大好きなの!」
そこで唐突に雛苺が首を傾げ、マスターに質問する
「ひなは何でドールなの?」
「雛苺?」
「ドールじゃ無くて、普通の人間だったらマスターと同じだったのに、ひなもマスターと同じが良いの!」
「でもそうすると、雛苺と出逢え無かったけど良いの?」
「マスターと出逢え無いなんてそんなの嫌なの!」
「なら、今のままで良かったね」
「うぅ~ん、よく分からなくなってきたの」
雛苺はマスターの膝の上で考える、しかし雛苺にはまだ難しかったのか段々と微睡み初めそのまま眠ってしまった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「マスター雛苺はもう眠ったのかしら?」
「そうみたいだよ」
雛苺の頭を撫でながら顔を覗き込むが、規則正しく寝息をたてて幸せそうに眠っている。
金糸雀は雛苺が眠るまでお昼寝部屋で、一人待っていた様だった。
「カナもうマスターに甘えても良いのかしら?それとも今日はひなに譲ってあげた方が良いのかしら?」
「大丈夫だよ金糸雀、雛苺は隣に寝かせるからカナもおいで」
マスターは雛苺をすぐ横に寝かせる、眠りながらでもマスターの服の裾をけして放さない雛苺を見て微笑ましくなるが、唐突に膝に軽い衝撃が走る、自分の膝の上を見ると金糸雀が飛び付いて来ていた。
「カナも寂しかったのかしら」
「金糸雀、よく我慢したね」
「カナは長女なのかしら、だから我慢をしないといけないのかしら!」
金糸雀はマスターの膝に乗り、服に顔を埋めながら抱き付き答える、その表情はよく見えない。
「沢山沢山、我慢をしないといけないのかしら!」
「カナ今はひなも眠てるんだから、姉妹の事は気にしないで好きにして良いと思うよ?」
妹が寝ている時まで我慢をする必要は無い、そう伝えると顔を上げた金糸雀の表情がぱぁっと明るくなる。
「それじゃあ今だけは、マスターを独り占めしても良いのかしら!?」
「勿論だよ、カナの好きな事に付き合うよ」
「それなら、カナのバイオリンを聞いて欲しいの!」
目をキラキラさせながら、マスターとしたい事を指折り数える。
「それからそれから、カナを目一杯可愛がって欲しいのかしら!」
「可愛がる?」
「沢山抱っこして、沢山遊んで、沢山愛して欲しいのかしら。
私達お人形は、誰かに愛される為に生まれて来たのかしら!
カナの場合は、勿論マスターに愛される為に生まれて来たのかしら!」
ふむふむと金糸雀のお人形のお話を聞いていたが、ふとある矛盾に気が付いた。
「あれ?」
「どうしたのかしら?」
「カナは前にお父様に会うためとか、一点の曇りもない完璧な少女のアリスに成るため、とか言ってなかった?」
最初に出会ってネジを巻いた時にそう言う説明を受けた筈だ、確か姉妹と競い合いローザミスティカを集めてただ一人だけがアリスと成って、お父様に会えると言っていた筈だ。
しかし金糸雀はマスターに愛される為に生まれて来たと言っていた
「今はもう良いのかしら、ひなが居てマスターが居て今の生活が幸せなのかしら!」
「そうなの?」
「今までのマスターには感じない、運命をマスターには感じるのかしら、ずっとずっと離れない離れたくない。
大好きよりも、もっともっと大好きなのかしら!」
「金糸雀は今の生活が幸せなんだね」
「カナは今の生活を壊したくないのかしら、もしもそんな事が起きたら…もしも誰かが壊してしまったら」
俯いて表情を隠した金糸雀は、普段の明るさが嘘の様に暗い色を纏っていた。
「金糸雀?」
「その誰かを、カナが壊してしまうかもしれないのかしら…」
「それじゃあ今の生活が、幸せがずっと続くように一緒に守っていかないとね」
「それなら簡単なのかしら!カナとマスターがずっと一緒に居れば幸せなのかしら!」
「金糸雀はそれで幸せなの?」
「そうなのかしら!今は雛苺もいるけれど、本当はマスターさえいればカナは幸せなのよ。
マスターと一緒に居られるだけで、大好きな気持ちが溢れてきて他の事はどうでも良くなるのかしら」
「…」
マスターは思わず黙り込むこんなに幼く見えても中身は、立派な乙女なのだと思い知らされる。
「マスター?マスターは違うのかしら?カナはマスターの大切なお人形にはなれないのかしら、大好きなだけじゃためなのかしら?ねぇマスター」
瞳に涙を溜めてマスターを見つめる、マスターの服を掴む手にも力がこもる。
「そんな事無いよ、金糸雀も雛苺も大好きで大切なお人形だよ」
「カナはマスターにそう言って貰えるだけで、満足なのかしら!
そろそろひなが起きそうだから、このお話はお仕舞いなのかしら!カナとマスターの内緒なの」
「二人だけの秘密だね」
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