待っていてくれた人が一人でも居たなら幸いです。
「ふふっ」
「何見てるのさ」
凛がこちらのアクセサリーを制作中の手元を覗き込み、楽しそうに微笑んでいた
「何でもないよ、ただ何時もと同じ。兄さんの手元を見てただけだよ」
「あんまり近寄ると危ないから、離れて見ててよ」
「ふふっはーい」
「何が面白いんだか、そんなに見てても暇なだけだろ?」
「ううん面白いよ、兄さんの手が動く度にアクセサリーが出来るんだもん目が離せないよ」
「そうか…」
346プロに有る作業室でアクセサリーを作っていると、凛が訪ねて来て、それから俺の隣に椅子を持って来ると、そこからは楽しそうにずっと微笑んでいた。
「兄さんの作るアクセサリー評判が良いみたいだよ、皆褒めてるよ」
「そう言えば、蘭子もそう言ってくれてたな」
「えっ兄さん蘭子の言葉が分かるの?蘭子の言葉は難しくない?」
「いや難しかったから普通に話すようにお願いしたら、普通に話してくれたぞ?」
「うそぉ…
兄さんは蘭子に何か特別な事、したの?」
「別に何も…あっ蘭子のスケッチブックを見てからだな。
それから普通に話してくれるようになったよ」
噴水の脇にスケッチブックが落ちていて、パラパラと見ていたら蘭子がスケッチブックを探しに来て、二人でスケッチブックいや、グリモワールを見てから仲良くなって普通に話してくれるようになった。
「へー…」
「ちゃんと話さないと仕事にならないし、話してみたら中身は年頃の普通の女の子だったし」
「…」
「今作ったのも蘭子のアクセサリーだったな、どうだ?綺麗なティアラだろ?」
「…うん」
顔を出来上がったばかりのアクセサリーから上げると、むくれ顔の凛がそこに居た。
「どうしたんだ?何かあったのか?」
「兄さんは蘭子が好きなの?」
「え?好きだが?」
そう言うと無言のまま俯いてしまった凛が飛び付いて来て、床に押し倒された。
「兄さん…」
「いたっ…凛どうしたんだ」
「兄さん…いやだよ私、兄さんが誰かの事を好きになるなんていや。
好きになるなら私が居るじゃない、兄さんがしたいこと全部して上げるから私を好きになってよ」
「凛…」
「兄さん」
凛に押し倒されたままの二人の影がゆっくりと重なって一つになろうかと言う時
凛の肩がポンポンと静かに叩かれた
「ストップですよ凛ちゃん」
「まゆっ!いつの間に居たの?」
「まゆは凛ちゃんがこの部屋に来る前から、ずぅっと巧さんと居ましたよ?」
確かに俺が部屋に入ると机の上に薔薇の花を飾っているまゆがいた、一体何時から居たのだろう。
「まゆは兄さんが蘭子に盗られても良いの?まゆの兄さんへの気持ちは、そんなものだったの?」
その言葉を聞いた途端まゆの顔から笑顔が消えた
「凛ちゃん言って良いことと、悪い事が有りますよ」
「でもっ」
「先ずはしっかり、巧さんにお話しを聞かないといけませんよ」
凛はまゆの気迫に口をつぐむ、まゆは巧に作って貰った指輪を抱き締める様に胸に抱いて巧に話し掛ける
「巧さんは蘭子ちゃんの事が、恋愛感情で好き何ですか?」
「違う違うよ!皆と同じように親愛の意味で好きだよ」
慌てて否定して、間違っている部分を訂正する
「ね?凛ちゃん安心しましたか?」
「待ってまだ安心してない、本当に好きな人はいないの?」
「いないよ」
「でも、こんな女の子だらけの職場で一人も気になる人がいないの?」
「確かに346プロダクションの中は魅力的な女の子ばかりだが、俺はここに出会いを求めに来ている訳ではない、仕事をしに来ているんだ」
「あっそうだった、兄さんも仕事に来ているんだったね」
「凛ちゃん疑いは解けましたか?」
「うん、兄さん疑ったりしてごめんなさい、でも私が兄さんに言ったことは本当だから」
「凛ちゃん?」
まゆが笑顔のまま凛の方を向き、何故だろう笑顔のはずなのに物凄い圧を感じる。
「なに?まゆ、さっきの事は勘違いだとしても私の想いは本当だから」
「そうですか…まゆも誰よりも巧さんを想っているつもりですし、まゆもそう簡単には負けませんよ」
なんだか部屋の空気が悪い気がする、主に凛とまゆの間に居る俺の周りの空気が悪い。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
それから少しして、凛とまゆがレッスンに行き。
部屋で一人きりになり、落ち着いて作業が出来ると思ったその時。
「闇に飲まれよ!」
うるさっ!
唐突に部屋の扉がバァンと開いて、銀髪のツインテールを毛先だけ巻いているゴシックドレスの女の子が部屋に入ってくる。
闇に飲まれよ、と独特な挨拶をしてきたが普段はその言葉を使って皆とコミュニケーションを取っているのが蘭子だ。
部屋に入ってくるといきなりキョロキョロしだし他の人が居ないか、部屋の隅々まで探しだす。
「闇に飲まれよ、蘭子今はこの部屋には俺だけだぞ」
「そ、それは真か魂の伴侶よ」
「本当だよ」
俺がそう言うと落ち着いたのか、ほっと一息ついて俺が座って居るソファーに座る。
「巧さん!会いたかったです!」
「うおっ!」
ソファーに座る俺目掛けて蘭子が抱き着いて来て、危うく飲んでいたコーヒーをこぼしそうになる。
「蘭子、いきなり抱き着くのは止めなさいって、何時もいってるだろ?」
「でもっ久しぶりに巧さんに会って、嬉しくてつい…」
「でももついもない」
「はい…ごめんなさい」
「うん、よろしい」
反省して居る蘭子の頭を撫でながら、出来たばかりのティアラの事を思い出す。
「そうだ、蘭子この間見せてもらった、グリモワールの絵のティアラができたよ」
「真か!」
「真だよ」
「はっ速く我に、至宝の供物を捧げよ!」
「わかったよ」
早く早くと急かす蘭子を横目に、作業机の引き出しからティアラを取り出し、蘭子の手に乗せる。
「わぁ…!」
「気に入って貰えたかな?できる限り蘭子の要望に答えたつもりだけど」
「はい!すっごく気に入りました!」
「本当?良かった」
「私がグリモワールに描いた絵が、そのまま飛び出して来たみたいです!」
蘭子はティアラを色んな角度から眺めてみたり、こわごわと触って見たりしている。
「そうだ、蘭子ちょっとティアラを貸してくれないかな?」
「…取り上げたりしませんか?」
「あはは、よっぽど気に入ってくれたんだな。
取り上げたりなんかしないよ、いいからちょっとだけ貸してみてよ?」
「分かりました」
蘭子からティアラを受け取ると、ティアラの真ん中の赤い宝石がキラリと光る。
受け取ったティアラをそのまま蘭子の頭に乗せる。
「うんピッタリだ、まさに、ティル・ナ・ノーグのお姫様だな」
「お姫様だなんてそんな…
あっ確かティル・ナ・ノーグって妖精の国ですよね」
「ああ、アイルランドのケルト神話に出てくる、妖精の国だよ」
なるほどと蘭子は頷いてから、急にハッとした、何かを思いついたようだ。
「鏡見てもいいですか?」
「どうぞどうぞ」
俺がそう言うと、鞄からゴソゴソと手鏡を取り出してマジマジと見入っている。
「うわぁ〜本当に素敵です!巧さんの指は魔法の指ですね!」
「ありがとう」
「あっ、こうしても良いかも…」
そう言うと蘭子はツインテールに結んである髪をほどくと、銀色の髪をおろし、手櫛で整える。
そこには、まるで神話から飛び出して来たんじゃないかと言うほどに美しい、蘭子の姿があって俺は呆気にとられた。
「どう…ですか?」
俺が何も言わないのを不安に思ったのか、蘭子は恐る恐る俺に聞いてくる。
「あっああ、悪い見惚れてた。
それ位綺麗だ、似合ってる」
「そっそうですか、ありがとうございます」
蘭子の顔がどんどんと真っ赤に成っていく。
「これで少しは巧さんに近づけましたか?」
「俺に?」
「はい、巧さんの彼女とか…どうですか?成れそうですか?」
「俺には勿体無いよ、蘭子はシンデレラなんだから」
「もう、私は巧さんが良いんです!」
「それなら、蘭子がトップアイドルに成って、大人の女性に成っても、それでも俺を想い続けてくれたなら考えるよ」
「言いましたね、言質は取りましたよ。約束…ですよ?」
「ああ、約束は違えないよ」
「はい!直にトップアイドルに成って見せますから、待っていて下さいね」
笑顔でそう言う蘭子を見て、トップアイドルになる日は近いのかも知れないと思った。
蘭子が偽物くさい…
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