民間デビルハンター佐々木の日常。   作:暗黒の田中

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一話 民間デビルハンター佐々木

悪魔、と呼ばれる存在がいる。

これは宗教的な意味合いとかではなく、実際に息をし、陰に身を潜め、人を狙い喰らっているのだ。

詳しくは知らないが、悪魔は人が恐怖を感じた瞬間に生まれるのだという。

ということは、人が生きている限り悪魔がいなくなることはない。それこそ人類が滅亡しないかぎりね。

そんな悪魔を狩る一生食いっ逸れることのない職業――デビルハンター。

これが俺の仕事だ。

 

 

          ☆

 

 

 

「佐々木ぃ、そっち! 逃げたっ!」

 

デビルハンターの先輩、及川が焦った様子で端的にそう叫ぶ。佐々木は俺の名前。

数人がかりで苦労して無力化したはずの悪魔が突然息を吹き返し、逃げ出したのだ。

豆の悪魔が下部に生えた手をバネのように弾ませ、全長2mほどの巨体がこちらへ飛び掛かってくる。

接触まで数秒――。俺は必至で横っ飛びをし、豆の悪魔の突進を回避する。

ずざざァッと、顔から地面に着地する。口の中に血の味が滲む。

普段なら、悪魔の格好の標的になりそうなものだが、今はその悪魔もそれどころではない。必死に逃げている。

体の至る所を斬られ殴られ抉られ、半分死んでいるような状況だ。

悪魔だってこのままでは死んでしまう。悪魔だって死にたくはないのだ。

だから一旦逃げて隠れてやり過ごして、少し回復したら近くの人間を襲って襲って襲ってと、きっとこう考えているに違いない。

民間とはいえデビルハンターに囲まれた状況なら、その行動は決して間違いではない。

ただ一つ致命的なミスは、俺に背を向けたこと。俺は、背を向けた相手には滅法強いのだ。

 

「ホッパー、跳躍」

 

契約している悪魔にそう伝えると、即座に陸上選手のクラウチングスタートのような態勢を取る。

俺自身の脚に力を込めることはしない。俺はあくまで標的をロックオンする係だ。

俺の両目が豆の悪魔を捕らえると同時、俺の体の脇に現れた飛蝗の脚が地面を力強く蹴る。

ぐわんという擬音じゃ表せないぐらいの加速で風を切り、俺の体はまるで人間砲弾のように豆の悪魔へと一直線へ突き進む。

 

「そのまま体勢変えて!」

 

豆の悪魔に直撃する直前、飛蝗の方の脚が一瞬だけ着地し、なるべく速度を落とすことなくぐるんと体を180度回転させる。

これで悪魔にぶつかる部位は頭部から、足底に鉄板を仕込んだ特注のシューズになった。

両足を揃え、ぶっ飛んだ勢いのまま豆の悪魔へと強襲する。

次の瞬間、接触。後、貫通。

弾丸と化した俺の一撃は、豆の悪魔の胴体へ大きな風穴を開けていた。

豆の悪魔はそのまま崩れ落ち、ぴくぴくと痙攣した後、今度こそ沈黙した。

 

 

          ☆

 

 

「及川さぁん、今年の新人使えねえっスよ。あれ、俺じゃなきゃあ、逃げられてましたよ。多分」

 

豆の悪魔を討伐し、現場での諸々の事後処理を終えた後。俺は、先輩の及川へそう愚痴っていた。

時刻は午後十時頃。悪魔の討伐後というのは、早急に提出しなければいけない書類というのがめちゃくちゃ多い。

 

「いやぁ、あれは俺も悪かったよ。植物系の悪魔は種までも燃やさんと復活するのは新人も分かっていたろうけど、まさか拘束された後に自分で豆の皮剥いて逃げるなんてレアケースだろ」

 

俺と同じように疲れた様子の及川はもうぬるくなってしまった珈琲を一口すすりそう答える。三年前に会った頃より頭皮が後退したなと、ふとそんなことを思った。

 

「まぁ……、そうかもっスね。しっかし、毎度毎度、書類書類書類ってこんなんじゃ俺ぁ悪魔と戦ってんのか、書類と戦ってるのか分からなくなりますよ」

 

そう言いながら、ポンポンポンと大して中身を読まずに書類へ判子を押していく。工場のライン作業のようなものだ。感情は死んだ。

 

「でもよぉ、今期もうちの討伐数トップはお前だろ? その分ボーナス出るんだからいいじゃあないか。俺ももう少しやれればなぁ。ほら、前話したけど、嫁の母親が痴呆で施設いれなきゃだから、さ」

 

ははは、と少し困った様子で及川はそう話した。及川ももう十年目のベテランハンターだ。この世界では悲しいことにベテランの人材というのが慢性的に不足している。というのも悪魔との闘いで殉職したり、そうでなくとも一般企業へ転職したりというのが珍しくないからだ。まぁ、公安は民間であるうち以上に殉職率も離職率ももっと高いわけだが。

 

「はぁ、どこもかしこも世知辛いっスねぇ」

 

ポンポンと、リズムよく最後の判子を押し終わる。

 

「及川さぁん、悪魔の被害報告書、明日でもいっスか? どうせ役所に出すの明日になりますし。血ぃやったんでもうかなり眠い、っス」

 

ヒラヒラと包帯を巻いた方の振る。俺の契約している悪魔の力を使った代償だ。

 

「ん、おお。じゃあ、俺ももう帰るわ」

 

デスクのノートPCを閉じ、及川も立ち上がる。時間がもっと早ければ軽く飲みにでも行ったかもだが、さすがに明日も仕事となればお互いそんな余力はない。

会社を出て、空を見上げれば、日々の喧騒はまるで他人事だとばかりに月が綺麗だった。




名前:佐々木 茂一(ささき しげいち)
性別:男性
年齢:23歳
デビルハンター歴:3年

契約悪魔:飛蝗
⇒飛蝗の悪魔の脚を顕現させ、使用することができる。飛蝗特有の強力な脚力が武器。能力を使用する毎に血を与える契約をしているため、連続で使用すると貧血で倒れてしまう。
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