民間デビルハンター佐々木の日常。   作:暗黒の田中

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民間は公安のデビルハンターの中途採用とかしてるみたいですが、きっと新規採用枠とかもあると思いこんな話が頭に浮かびました。転職してもデビルハンターでいるうちは公安から斡旋してもらった悪魔の契約とかも継続なんですかね。気になる。


二話 民間デビルハンターの企業説明会

「佐々木ぃ、お前明日休みだろ。暇か?」

 

豆の悪魔の討伐から二日後。出勤するや否や、先輩の及川からそう聞かれた。

二十三年の短い人生経験で学んだことの一つであるが、要件を言わずに予定を聞かれるときというのは大体面倒ごとである。ちなみに予定なんてものはない。

 

「……あー、どうっスかねぇ。ちょっと高校の頃の友達と会う約束がなぁ」

 

予定はないが、例え普段お世話になっている先輩であろうとわざわざ面倒ごとに巻き込まれてやる義理はない。

 

「高校行ってないくせに一瞬でバレる嘘つくんじゃあないよ」

 

呆れた様子でそう言われた。いや、高校行ってないし友達もいないけどさぁ。だって咄嗟に正当性のある嘘とかつけないでしょ。

 

「ええっ、佐々木さん。中卒なんですか? やばっ」

 

及川の隣にいた後輩の野宮が思わずといった様子で声を漏らした。それなりに強くて仕事も早いが俺と同じで良くも悪くも嘘や隠し事が苦手な女だ。

 

「なんだよ、文句あっか。……で、及川さん、明日何かあるんスか? 正直この間のでまだちょいダル気味なんで、あんま面倒なのは遠慮したいんですけどぉ」

「ああ、そこは安心してくれ。で、明日うちの会社の企業説明会あるんだけどな、そこで先輩社員として民間デビルハンターとは……みたいな感じでちょっと話してくれないか? 最後にちょろっと出るくらいだから一時間もかからないと思う」

 

デビルハンターの企業説明会というのも何だかおかしな話だが、一民間企業であるうちが新しくデビルハンターを雇うためにはこれも大事なイベントである。現在、東京には民間、公安全てひっくるめてデビルハンターは千人ほど。これが多いのか少ないのかは人によって解釈も分かれるところではあるが、ともかく給料だとか公休日数だとか福利厚生だとか所属デビルハンターの実績だとか何かしらのアピールがなければ人は寄ってこないということなのだ。

 

「話は分かりましたけど、それじゃあそこの野宮に行かせればよくないスかぁ? 中卒の俺よりはそういう場所に合ってんでしょ」

 

ジロリと野宮を見やる。我、先輩やぞ?

 

「いや、私彼氏とデートの予定あるんで」

 

死ね。

 

「じゃあ、新崎は? あいつも明日休みっスよ。しかも友達もいないし親もいないから絶対暇っス」

「新崎は入院中。というか、予定じゃ新崎に出てもらうつもりだったんだよ。昨日の任務中に怪我しねけりゃ、ね。内臓損傷してるから一ヵ月は戻れないんじゃないかなぁ」

 

死ね。いや、死にかけているのか?

 

結局、半日有給使用&後日代休ということが今回の落としどころになった。福利厚生万歳。デビルハンター万歳。

 

 

          ☆

 

 

翌日、午後二時半頃。社内大会議室。

午後一時から始まった企業説明会も、そろそろ終わりを迎えようとしていた。人事担当の社員がホームページを見れば分かるくらいの会社の概要や入社後のフローなんかを就活生相手に丁寧に説明している。

就活生はというと、それらの話を丁寧にノートにとり、まさに拝聴という感じで社員の話を聞いている。皆真面目だと思った。

デビルハンターになる人というのは、個人的な偏見かもしれないが真面目で優しい人が多いような気がする。大体、多少金が多くもらえるからといって悪魔と戦うなんてことを考えるのはバカか正義感の強い人くらいだ。そして、悪魔への恨みが強い奴は基本的に公安へ行く。公安の方が装備も充実しているし契約する悪魔の斡旋の数も多いし様々な悪魔や魔人の情報も集まるしと、まぁ悪魔をとにかく殺したいというやつには民間より公安という感じなのだ。勿論、給料がいいからという理由で公安へ行く奴もいるけどね。ぶっちゃけ民間とは倍以上違う。

 

「えー、では、最後にですね。実際に現場でデビルハンターとして働いている先輩社員の方に来てもらっていますので、皆さんに現場での仕事についてなどお話させてもらおうかなと思います。質疑応答の時間も取りますので何か聞きたいことがあればですね、はい、そこでお願いできればと思います」

 

人事の渡さんがそう言い、会場の後方で待機していた俺へ目をやる。それを合図だと思い、俺は椅子から立ち上がり壇上へと向かった。渡さんからマイクを受け取り、一呼吸置き軽くペコリと頭を下げてから俺は話し始めた。

 

「あー、えー。佐々木ぃ茂一といいます。この会社でデビルハンターとして三年働いています。その、本日はよろ、よろしくお願いします」

 

就活生たちの両目が一斉にに自分を捉える。その目にはどう映っているのだろうか。多分、何か知らない人が喋べっているけどせっかくだし聞いておこうくらいだろうか。分からないがそう考えると随分楽だ。

 

「あー、デビルハンターとしての一日のスケジュールみたいなのはさっき説明があったと思うんで、今回は現場に出て普段感じていることとかそういうことを話したいとぉ思います」

 

とは言ってみたものの、結局何を話せばいいのか分からず原稿とか用意せずに来てしまった。だってそういうの苦手だし。考えるのも苦手だし。眠かったし。まぁ出たところ勝負だろう。

 

「……えー、多分、皆さんはデビルハンターって自分にもできるのかなとか考えているんじゃないかなと思います。で、できるかどうかでいうと、俺個人の考えとしてはどんな人でも多分できると思います。自分で戦うのが苦手でも悪魔と契約してその悪魔の力で戦うとかもできますし。

ただ、できるとやり続けるってぇのは別かなと思っていて、勘の悪い奴、判断力のない奴、悪魔にビビってばかりの奴は民間でも普通に死にます。あと、運のない奴も、かな。民間で対処できないレベルの悪魔は公安が対処するようになってますけど、それでもやっぱり怪我とかは日常茶飯事だし、同僚が油断して死んだとか何度も見たことあります」

 

就活生の目の色がどんよりと変わった気がする。もっとプラスのことを話せという渡さんの視線が背中に刺さっている、気がする。だが、誰が悪いかというと俺に話を持ってきた及川さんや断った野宮や怪我した新崎が悪いので俺は悪くない。

 

「実際、今日本当はここに来るはずだった後輩も昨日悪魔にやられて入院してるし。悪魔と戦うことはやっぱり大変なことっス。でも、悪魔に恐怖してしまうのもいけない。悪魔は人の恐怖をエネルギーにしてますので。なんで、真面目すぎる人はそこが上手くいかなくて精神病んだりとかもしてます。

誰にでもなれる職業ではあるけれど、向き不向きはあります。この話聞いて向いていないって思う人は他の仕事のことも考えた方がいいと思う。思います。例えば、警察官とかだって悪魔から人を守る仕事ですから」

 

話をどうにかいい方向へ修正しようと思いつつ結局最後までネガキャンしてしまった感がすごい。就活生の顔色が泥だ牡丹餅だ。何か、何かプラスのことも言わなくては……。

 

「あー、でも、民間のいいところとしてはですねぇ、やっぱり公安ほどではないですが給料や福利厚生がいいっス! うちは社食無料でメニューも多いし! あと、ヤバイ悪魔が出たら大人しく逃げて公安に任せることもできます! 悪魔を倒したいけど命賭けるほどじゃないって人は、その、いいんじゃあないスかねぇ。あ、すいません、以上です。すいません」

 

何のすいませんだこれは。もう渡さんの方とか見れないわこれ。何なら及川さんの顔も見れないわこれ。新崎は今度会ったら蹴ろう。

冷や汗だらだらでとっとこ会場から出ようとしたところで、就活生の一人がピンと手の伸ばした。

 

「質問を、よろしいでしょうか!」

 

そういえばそんなものもあった。質問者は短く刈り込んだ短髪と左頬の切り傷が特徴的な、見るからに真面目そうな男だった。

 

「不躾な質問で大変申し訳ないのですが、佐々木さんは、何のためにデビルハンターをしていらっしゃるのでしょうか!」

 

どういう意図の質問なのだろうか。あらかじめ聞くことを決めていたのか、それとも俺の話を聞いていて気になったのか。何にしろ真面目だな、と思った。

そして、何のため。何のためかと言われればそれは――。

 

「世界平和のため」

 

ぶいっと右手でピースサインも出しそう答えてやる。質問者の男は想定外の返答だったらしく、呆気にとられたような顔をしている。どうやら他の質問はないようだったので、渡さんに説教をもらうまえにさっさとエスケープをかますことにした。

 

 

          ☆

 

 

「おーい、佐々木ぃ。この間の説明会のアンケ結果もらったてきたんだけど、見る?」

 

地獄のような説明会から数日後。先輩の及川がニヤニヤと楽しそうな表情でそう話しかけてきた。

 

「見ないっスよ、及川さぁん。俺ぇ、あの後渡さんにマジ怒られたんスから。追い打ちかけないでくださいよぉ」

 

あの後怒られたのは勿論だが、及川さんにも笑われた後ちょっと怒られたし野宮に関しては終始笑われた。お前には笑う資格はない。彼氏と末永く死ね。新崎には見舞いがてらデコピンしておいた。思ったより元気そうであった。

 

「いやぁ、けっこうよかったみたいだよ。お前の話。他所じゃあそこまでぶっちゃけて話してくれないとかで。綺麗ごとばっかじゃないしなぁこの仕事は。まぁ、デビルハンターの志望者は減るかもだがなぁ」

 

え、マジか。マジか? やはり出たとこ勝負こそ最強説あるな。アンケ結果良かったなら怒られた俺は一体……。まぁいいか。

 

「うーし、本調子戻ってきたし、そろそろパトロールにも復帰するとしますか。事務作業ばっかは体力は回復しても脳が死ぬってもんスよ」

「珍しくやる気ですね。佐々木さん」

 

横で話を聞いていた野宮が、いつものように正直にそう言う。だからこう答えてやるのだ。

 

「世界平和のため、だからな」

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