悪魔の話をしよう。
全ての悪魔は名前を持って生まれてくる。
俺たちがこの間倒した豆の悪魔もそうだし、俺の契約している飛蝗の悪魔や史上最悪の悪魔と恐れられている銃の悪魔なんかもそうだ。
そして、その名前が人々に恐れられているものほど、その名前を持つ悪魔は強い。
豆の悪魔はまぁ……弱い。豆だしね。民間のデビルハンターに倒される悪魔なんてのは大体そんな感じだ。
飛蝗の悪魔はどうだろう。使い勝手はいいが、日本では蝗害なんて過去のものだしあまり強くはないと思う。では、アフリカ諸国ではどうだろうか。蝗害により現代でも飢饉や食糧不足を起こしているのだからきっと現地の人々に恐れられていることは間違いない。なので、アフリカにこの悪魔が出現すれば強い悪魔になるのかもしれない。
同じ悪魔でもその国や地域の人々にどのくらい恐れられているかによって悪魔の強さは多少増減する……らしい。まぁ、つまり、近くにいる人間が恐れているほどその悪魔はより力を増していくということだ。
そういう意味で銃の悪魔は強い。それこそ強いという言葉では表すことができないほどに。何せ銃というのは、強く、簡単で、痛い。何かを殺すために生まれ、軍隊、警察、個人など世界中で流通している(現在は民間人の所持は世界的に規制されているが……)。恐れられないわけはない。
十三年前、銃の悪魔はほんの五分ほど姿を現し、世界中で百二十万人弱を殺しまくった。まるで災害だ。今日まで姿を消してはいるが、死んでいない以上次はいつ出現するのかは不明だ。一年後、一か月後、明日、もしかしたら十秒後? まるで心臓を握られているみたいだ。気分が悪いことこの上ない。俺だけじゃない、世界中の人々がそうなのだ。だから、倒さなくてはいけない、いつの日か。倒せるかではない、倒さなければいけないのだ。誰かが――。
☆
「佐々木さん、悪魔の目撃情報及び駆除要請です。準備してください」
昼休みの日課であるサボテンのポポちゃんへ水やりをしていると、野宮が如雨露を取り上げそう言った。
「野宮ぁ、ポポちゃん可哀そうだろうが。ちゃんと水やってくれよ」
俺が即座に特注シューズへ履き替えながらそう言うと、野宮は言われるまでもなくといった感じで自身の準備を進めながらも水をやってくれていた。相変わらず器用な奴だ。
「巡回中の及川さんと工藤くんにはすでに連絡済み。現地で合流しましょう。さぁ行きますよ」
せっかちな女は嫌いだ。男ってのはどしっと構えるもんだ。それを女のペースで狂わせるなんてのは俺は好きじゃない。野宮の彼氏はよく我慢できるな、そんなことを考えていると野宮に肘で小突かれた。エスパーかこいつは。再度小突かれないように俺はそそくさと準備を整え椅子から立ち上がった。
「それで、場所は?」
「北区にある大蔵ビルという廃ビルです。ホームレスの溜まり場になっていたそうですが、そのホームレスの一人が悪魔を目撃したそうです。おそらく犠牲者も出ている、とのことです。社用車で行きましょう」
「おう」
総務部から車のキーをもらい、それをそのまま野宮へ渡す。俺が運転? いや、免許証持っていないし。身分証明書はマイナンバーカードの男、佐々木だ。
☆
「佐々木ぃ、こっちだこっち」
近くのパーキングへ車を止め、大蔵ビルへと歩いているとコンビニのパンとドリンクで昼食を済ませている及川と工藤を発見した。まるでドラマに出てくる張り込み中の刑事さながらだ。
「うっス。どんな感じっスか?」
及川は食べかけのアンパンをごくんと飲み込むと、正面の大蔵ビルを見上げて口を開いた。
「ここからだと全然分からないな。ビル外側に異常は見つからず、特に異臭や異音なんかもない。通報がなけりゃ悪魔がいるなんて分からないくらいだよ」
釣られてビルを見てみるが、野宮に廃ビルだと聞いていたからかもっとボロボロで草木が壁面に生い茂っているのかと思いきや、外側から見る限り思ったよりも荒廃はしていないようだ。ただ、壁が全体的に薄汚れていたり、窓が割れていたりと人の手によって維持管理はなされていないことは分かった。
「なるほど、何も考えず力任せに暴れるとかそういうタイプの悪魔ではなさそうですね。ただの大人しい悪魔なのかそれとも何らかの理由があって大人しくしているのか」
野宮が思案するように手を口元へやりそう話す。その意見には俺も概ね同意だった。
「お、大人しい悪魔ならなんとかなりますよね? 俺たち四人もいるんですし……」
不安そうな工藤がそう言う。工藤は今年入社したばかりの新人デビルハンターだ。どうやらこの間の豆の悪魔に逃げられたことが本人の中ではショックだったようで、やや悪魔に対してナーバスになってしまっている。
「工藤ぉ、四人"も"って考え方は危険だぜ。何か予想外のことがあったとき人任せになるからなぁ。でも、四人"しか"って考えるのも悪魔への不安感が増すからしちゃあ駄目だ」
「佐々木さん、それつまり何が言いたいんですか?」
野宮に呆れた様子でそう返された。言われてみれば確かによく分からないぞ、俺。
「結局、四人でやるしかないってことだよ。なぁ、佐々木ぃ」
「あー、えー、そうっス。そういうことが言いたかったんだよ、うん」
及川のフォローをもらって胡麻化したところで、俺たちへおそろおそる大蔵ビルへと足を踏み入れたのだった。