「ダウド。俺の左手にはなぁ、カセットの世界を渡り歩く能力が有るんだよ!」
「あにきあにき、カセットって何?」
「あ、最近はカセットだけじゃないか。要するに違う世界に行けるんだよ」
「違う世界? 大丈夫なの?」
「大丈夫だ。俺はあちこち行ってるんだ、任せておけ」
ロマンシング サ・ガ2の説明書には色々書いてあった。
「このジェラール、ベア、ジェイムズ、テレーズ、ヘクターのどれかになれば良いの?」
「他のやつでも出来るぜ。ただ、テオドールとヴィクトールはすぐに死んじまうから、選んじゃダメだぞ」
「うん、あにきは誰にする?」
「ジェラールだな。その方が、そっちの世界を案内しやすいだろう」
「俺、どうしようかな」
「この間、魔術師出来なかったし宮廷魔術師なんかどうだ?」
「え、そんなのなっても良いの?」
「大丈夫だ。みんな適当にやってるって」
「じゃ、やる」
「おし、これでジョーカーのアルベルトともお別れだな」
別の世界に行く前の打ち合わせ。
「良いか、お前はあっちに行ったら宮廷魔術師のアリエスだ」
「宮廷魔術師のアリエス、格好良い!」
「でな、最初は俺が先に動いて準備するから、お前はちょっと待ってろ」
「うん」
「城の中がざわついて、ヘクターってやつが怒られたら出て来い」
「分かった」
そして来てしまった。ロマンシング サ・ガ2の世界。待機中。壺のある待合室には同僚のエメラルドさんが居た。寡黙な人で話しかけても答えてくれない。あにきがちょろっと来てファイアーボールを教わっていた。
「あにき。あと、どのくらい?」
「もうすぐだぜ、待っとけ」
「うん。あ、そうだ」
「どうした?」
「パンチ最初から持ってたよ」
「あっちでさんざんやったもんな、今回もやるか?」
「ふふふ、武闘派魔術師」
「良いだろう。じゃ、俺が呼んだらこのセリフな」
紙を貰った。
待つこと数日。
ヘクター「ごにょごにょごにょ」
文官「ヘクター貴様なんという!」
「気にしなくて良い、アリエス! アリエスは居るか!」
出番だ。セリフはバッチリ。
「はっ、御前に。風と水の術はお任せあれ」
あにきは俺の肩に手を置き、
「体術も任せた」
城の外にはゴブリンが一杯。こっちのメンバーは、あにきと俺に重装備のベア、軽装備のジェイムズ、狩猟兵のテレーズだった。
「おい、武道着装備しとけ」
「あ、武道着。ありがとう」
「取るの苦労したんだぜ」
ゴブリン退治に陣形を変更。
「この陣形はインペリアルクロス。ダウド、お前の位置が一番安全だ」
「ここからパンチ届くの?」
「届くよ、気にすんな」
「よし、お前ら! 術の強化も兼ねて戦闘していくからな」
「うん!」
ゴブリンたちはあっけなく倒れて行った。
「それじゃ、クジンシー討伐に向かうぞ」
七英雄の一人と言われるクジンシーは、ソーモンの街に居た。館の最奥に陣取っているので、そこまで進まないといけない。途中の人型モンスターとの対戦中、あにきが変な動きをしていた。
「あにき、変な事して遊んでると負けちゃうよ」
「クイックセーブでドロップ吟味してるんだよ」
「え? なに?」
「今度の敵は、アイテムとか武器とか防具も落としていくからな」
モンスターは武道着を落とした。
「あの黒い忍者が出たときは、今見たいのするからな」
「あれするとモンスターが何か落とすの?」
「そうだ、粘りまくれば選べるんだぜ」
「へー」
「ほら。ベア、武道着装備しとけ」
また出た。
「今度は目当てのラバーソウルだな。もう一個目指そう」
次の敵もラバーソウルを落とした。
「楽ちんだね」
「こっちは大変だったんだぞ。何度、武道着で妥協しようとしたことか」
「え? 何かあったんだ」
「術ポイントが無くなったら言えよ。無くなったら魔法使えないからな」
「分かった」
なんだかんだで、ボスの前。ボスのクジンシーは一度崩れるかと思ったら、強くなって復活した。しかし、何とか倒せた。
「ドロップ吟味しなくて良い敵は楽で良いわ」
「え? 今のボスが楽だったの?」
「どんな所でも、裏方さんは大変なんだよ」
「ふーん」
「城に戻るか」
「うん」
1年が経った。城の中の武官たちは互いに仲が悪い。そして、皇帝のアニキが通ると頭を下げるが、暗い笑みを浮かべていた。
「お城の人たちって、なんか怖いね」
「あいつら、次の皇帝になりたいのさ」
「え? じゃあ、あにきやばいの?」
「そうだな、気を付けないと暗殺されちまうな」
「じゃあじゃあ、早く元の世界に戻ろうよ」
「まてまて、次の世界にすっげえ可愛い子が居るんだよ」
「え、本当に?」
「すげえぞ、お嬢様だぞ」
「じゃ、そっちに早く行こうよ」
「だから、行く前にこっちで慣れておいた方が良いんだよ」
「慣れる? 何に?」
「お前、技レベルと技ポイントとか術レベルと術ポイントとか、慣れ始めたろ?」
「あと、閃きとかすごいね」
「次のもそういう世界だから、ここで慣れさせてやってるんだぜ」
「そうだったんだ。ありがとう、あにき」
「さて、資金調達でもするか」
そう言ったのに、何故か部屋で寝るらしい。翌日起こされ街中へ。
「屋根の上だ、来い」
「この窓は入れるね」
「ここは盗賊たち隠し部屋だな。隠した財産が有るんだぜ」
「頂く?」
「もち」
そして十数日、俺達は盗賊たちの隠し財産を奪い続けた。
「しかし、この世界は稼いだ気がしないな」
「全部、国に持ってかれちゃうのがね」
「俺達も自由に使えるって言われてもな」
「うん」
「しかし、これで術の研究所を立てても余るだろう」
「おおー、そしたら魔法もっと覚えられる?」
「お前もライトボール使えるようになるぞ」
「あ、街の人が軍師のライトボールはすごいって」
「あいつらスマホで遊んでやがるな」
「え? 何々?」
「まあ、軍師は大学作れるようにならないと育たないからな」
「へー」
「最初の世代では無理だから、今の俺達には関係ないな」
その日は深夜に盗賊たちの隠し部屋に行くようだ。
「あ、人が居る!」
「盗賊だな、お縄にしてやろう」
「うふふ」
「ありゃ、逃げられちゃったね。あにき」
「逃がしたんだよ」
「そうなの?」
部屋から出て、屋根伝いに帰っていくと、逃げた盗賊がモンスターに襲われていた。
「助ける?」
「うーん、そうだな。俺が助けなくても大丈夫、って言ったときは本当に大丈夫な時だから、それを証明するために襲われたままにしておくか」
「じゃ、放っておくの? あの子、女の子だよ。それに可愛いのに」
「なんだ? もう惚れちまったのか? 相変わらず派手好きだな」
「あ、いや。でもでも」
「どっちにしろ、盗賊だろ。たまに怖いめ見せても平気さ」
「えー」
「先に、ゴブリンの巣でも退治しに行って、術の研究所で魔法覚えて来ようぜ」
「大丈夫なのかなぁ」
「大丈夫だ、安心しろ」
ゴブリンの巣にはちょっと良い弓が有った。弓はテレーズさんが装備した。その後、術の研究所で、みんな魔法を覚えた。
「あの子、本当にあのまま囲まれてるだけで襲われてないんだね」
「モンスターたちも何やってんだかな」
「あの子、仲間に出来たりする?」
「そうすると、今の仲間の誰かに死んでもらわないとな」
「え? そんなの駄目だよ」
「こいつら、何世代かすると生き返るんだぜ」
「本当だとしてもわざわざ死なしてしまうのは、ちょっと」
「まあ、そうだよな。じゃ、そろそろ助けてみるか」
「うん」
助けてみると、酒場での合言葉を残して消えて行った。言われた通り、酒場に行くと墓へ行けとのこと。地下には盗賊団のアジトが。
「地下に厄介なモンスターが居るんだ。俺達の代わりに倒してくれないか? 地下のモンスターは皇帝にとっても敵になるだろ?」
「ふむ、見返りは何が期待できるのかな?」
「俺達の流儀で忠誠を示そう」
「あの盗賊の親分は普通にしゃべるんだね」
「あれはセリフさ」
「セリフ、へー」
「この世界の戦える連中はセリフ以外は、ほとんどしゃべらないぞ」
「そうなの?」
「暗殺されまくって、壊れてる奴が多いからな」
「あれれ、じゃあの子も壊れてるの?」
「行って見な」
「僕はダウド。今は世を忍ぶ仮の姿で宮廷魔術師のアリエスって名乗ってるんだ。君の名前は?」
「うふふ」
「うん。良かったら今度、月の光がそそぐ宿で食事でもどうかな?」
「うふふ」
何を聞いても、うふふ、としか言わない。
「本当だ、あにき。あの子、壊れてる」
「だろ? モンスターになかなかのおっぱいちゃんが居るから、それ見たら次に行こうぜ」
「うん、分かった。あにき、おっぱい好きだもんね」
「なんだ? 語ってほしいのか?」
「やめとく」
「地下のボスは道場だからな! みんな、技覚えまくりだぞ!」
「あ、はい!」
地下にはタコみたいなモンスターが居た。
「閃いたら退却、良いな」
「うん!」
俺は体術担当。集気法、気弾、ネコだまし、カウンター、コークスクリューを覚えた。かなり粘って他の皆も色々な技を覚えた。用済みのタコを倒して術レベルをアップさせた。
「さて、あいつの案内で要塞攻略といこう」
壊れてたあの子は、うふふと笑いながら秘密の通路に案内してくれた。
「あんなになってても役割はこなすんだよな」
「折角、可愛いのに」
「
ボスの部屋まで案内の印まで付けてくれていた。
「ボスは三体。ワニから倒すぞ」
「わかった!」
七英雄のクジンシーを倒してから少しは強くなった気でいたが、三種類のボスはなかなか手ごわかった。
戦いの後。城に戻ると、あにきは文官に南バレンヌの村に行くよう勧められていた。格闘家集団を吸収するためらしい。
「あの人たちは普通なんだね」
「ああ見えて、あいつら早い段階から暗殺に協力してたりするんだよ」
「うへー」
「ルドン地方の話をしてたろ」
「そうだっけ?」
「ルドン地方には鉱山と高原があってさ、高原がやばいんだ」
「覚えとくよ」
格闘家のリーダーは、セリフ以外「メンツがー」と鳴く鳥のような男だった。
「じゃ、モンスターの巣に行こうぜ」
「うん」
「そこにな」
「うん?」
「行ってみてからで良いか」
「なんだよー」
モンスターの巣に到着。
「倒すのは精霊だけだ。他は無視するぞ!」
「え! ぶよぶよは?」
「最初は倒すつもりだったけど、LPが減り過ぎちまったな」
何体か精霊を倒したら、目当てのモンスターが出てきたようだ。褐色の肌にプルンプルンのおっぱい。なるほど。
「出たぞ、おっぱいちゃんの情熱の香水だ。つけてみるか?」
「えー、あにきがつけたら?」
「もう、つけてるよ」
「俺は良いや」
さらに褐色のおっぱい精霊を倒すと剣が出てきた。
「こいつは結構良い剣なんだぜ」
「そうなんだ。こっちでは剣、使ってなかったな」
「もう少し倒したら、お前好みの精霊も出てくると思うぞ」
「ふーん」
宿で休憩をはさみながらの精霊退治。噂の精霊は三日目に出てきた。
「ほんとだ。しかも強いねこいつ」
「ほら、怪力手袋出たぞ。臭いでも嗅ぐか?」
「あ、うん。一応」
「もう一匹倒すか」
倒すと腕輪が出てきた。
「これはワンダーバングルって名前の、凄い盾なんだぜ」
「腕輪じゃないの?」
「盾だな」
「装備して良い?」
「ああ」
装備してみた。意外と重い。宿に戻ってお喋りタイム。
「ふー、長くかかったなー」
「三日がかりだもんね」
「ん? あ、そうか。主人公だとセーブとロードの間も見えてるけど、お前は見えてなかったんだったな」
「え?」
「モンスターは数に限りが有ったりするからさ、同じ敵でも欲しいのがドロップするまでセーブとロード繰り返してるのさ」
「ふーむ?」
「今の敵だって四時間くらい、ぷるんぷるん見てたんだぜ、俺」
「あ、主人公ってミリアムさんが言ってたやつだ」
「今はお前も主人公適正あるな」
「そうなの?」
「この世界じゃ俺が死ぬと、主人公に選ばれるかもしれないな」
「主人公ってどんな感じ?」
「プレイヤーって神様が居てさ、その神様と心がつながってる感じかな」
「どんな神様なの?」
「男もいるし女もいるし、いろんな神様が居るよ。この世界のことを全く知らない神様だって居るんだぜ」
「知らないのに神様なの?」
「うん。知ってる奴は良く知ってるんだけどな」
「そういや、この世界のジョーカーは誰?」
「オアイーブって女だな。ここでは決まってこいつだ」
あにきは「さて」と言って、次の世界の説明を始めてくれた。
「ちょっと、LP減ったままじゃ疲れた感じがしてさ。本当は俺も早く次の世界に行きたいんだよ」
「LPがゼロになっちゃうと死んじゃうんだもんね」
「次の所は宿屋に泊まると回復するから、楽だぞ」
「へー、すごいね」
「壊れてる奴も少ないから、なかなか楽しいんだぜ」
「壊れてる人居るんだ」
「カタリナって女とミカエルって男だな。ほら、説明書」
「ロマンシング サ・ガ3だって」
「ああ、そこの玉座イベントの所に居るのがミカエルだな」
「じゃ、他の人を選ぶんだね」
「お前、次も体術やるか? すげーつえーの居るぞ」
「ほんとに? やるやる!」
「次の所だと閃いた技を使ってると極意ってのが取れて、他の仲間も使えるようになるんだよ」
「他の仲間が極意とったのも使えるの?」
「使えるぞ。よし、良さそうな世界を探してみるか」
待つこと一時間くらい。
「お、ここ良いかもな」
「待ってました!」
「よし、行くぞ。次の世界で俺はユリアン。」
「うん」
「お前はエレン。女の子だ」
「えっ?!」