僕、天音悠は今まで決して満足とは言えない人生を送っていた。原因はこの忌々しき容姿である。
日本においてとても不似合いである明るめの水色をしたセミロングの髪色、虚弱体質により運動の出来ない自分の身体。しかもそのお陰で肉付きだけがどんどん丁度良くなり、より女性らしくなってしまった肉体。極端な内面的性格により、雄々しい仕草も出来ない。母親が何故か買い続ける女々しい服。
これらがシナジーを引き起こし、僕は人生において全ての指で数えても尚足りないぐらい、僕は女性に間違えられるのだった。僕はそれがたまらなくたまらなく嫌で、しかし前述よりいくら努力しても、どう足掻いてもそれはいい方向へ傾くことは決してないことは明白だったので、この残酷な現実を受け止める他なかった。
同学年の男子に何度バカにされたことか。知らない大人に何度下心マシマシで話しかけられたことか。RPGでよくあるファンタジー世界ならこれも特徴の一つだが、現実だとただの醜悪なお飾りでしかなかった。
そんな深刻なコンプレックスを抱え続け、いくら偏差値の高い学校であれば僕を受け入れてくれる人も多いだろうと根拠の感じ取れない希望を抱き、この太陽高校に入ってみたものの。
そんなことはない。
中学校は授業を表面でだけ真面目に聞いてれば内申点は人並みにつくし、授業だって少しでも聞いていれば難なく解ける内容ばかりである。いい高校に入ったぐらいで、僕の立場が向上するわけもなかった。しかも運の悪いことに私服校だ。僕の努力はここでも徒労に終わるのだ。
僕は今までやってきたことの虚しさに意気消沈し、何もかも無気力になったまま一年生が終了していった。
そして二年生が始まり、クラス替え。ここでは多少僕に対する嫌がらせをする者は減り、僕は少しだけでも心が開けるようになっていた。多少話せる友達も出来、僕の高校人生は微量ながら楽しくなっていた。
さて、そこから数週間経った、6月中旬ごろ。
僕はある一通の手紙を受け取った。
「……あなたですか。この手紙」
僕は手紙の内容の通り、屋上に素直に向かっていた。それはとても簡潔な内容だった。ただ一つ、「今日の放課後、屋上に来てください」と。とても丁寧な字だ。送り主は誰なのだろうか。それを思うだけでも僕は精神が高揚し、屋上への階段を上る足音も心なしかリズミカルであった。
そして屋上への扉を開け、そこで待っていたのは……ぱっと優男という印象しか受けない顔立ちのした背の高い学生だった。
「は、は、はい!そうです!…天音さん、ですよね?」
「………そうですけど」
初対面だった。しかし雰囲気はとても今まで僕に嫌な思い出を残し続けてきたソレとは大きく異なっていた。それでも警戒は解かず、僕は決して心を許すまいと睨み続ける。
「………あ、え、あ、あのっ!」
睨みが効いたのかその相手は少し怖気ながらもしばらくして覚悟を決めたようで、そしてある言葉を言い放った。
「す、す、好きですっっ!!…僕と、付き合ってくれませんか!?」
………………………………は?
思考が停止する。
相手はそんな僕のリアクションを気に留めず、話を勝手に続けた。
「あ、あの、俺も、二年生なんですけど…一年生のころから一目ぼれしちゃってて……とても華奢で可愛らしい容姿だな、って……」
……あーー。
厄介なパターンだ。それでいて前代未聞のパターンだ。なるほど、彼は僕の容姿を軽蔑する対象として捉えたのではなく、惚れたのか。……なかなか厄介だ。ここはきっぱりと断らないと、男子校でもあるまいし同性カップルなど確実に色眼鏡で見られかねない。天音悠、今までお前は全ての出来事に受け身で生きてきたが、今回ばかりは跳ね除けるのだ。頑張れ。
「お願いですっっ!!この通りですっっ!!」
土下座をしてきた。どうやら生半可な気持ちで僕に告白をしてきたわけではないらしい。本気も本気、人生を賭けているかのような勢いである。
彼はおそらく自分の出せる最大限の声量で叫んだ。
「僕と!!付き合ってくれませんか!!??」
よし、慈悲などいらぬ。ここでキッパリ断ったほうが、相手もすがすがしい気持ちで事を終わらせられるだろう。天音悠、お前ならいける。
「…あっ、うん、いいよっ」
おっと。
天音悠、お前は何て愚かなんだ。相手の勢いに気圧され承諾を意味する言葉を口走ってしまうなど。今まで積み重ねてきたものはなんだ。先ほどまで決意していたものはなんだ。
相手は地面と同化するのではないかと思うほどに地面にこすりつけていた頭を一気に高く上げて、とても眩い目つきをしながら僕に素早く近づいて言った。
「本当ですか!?!?!?ありがとうございます!!!まさかOKしてもらえるとはっ!!!僕、告白するのとか初めてだったんで、よかったです!!!天音さん、これからよろしくお願いします!!!」
「あっ………えっ………うん」
……はぁ。僕はいつもこうだ。
さて、どうしようか…。
帰り道。夕暮れ。
とりあえず流れ的にもその彼氏(便宜上)と一緒に帰ることにした。何気に人と一緒に帰るのは久しい。まだ性格的にも活発だった小学生の時以来だろうか。とりあえず手をつないで帰ってはいるが、これ以上なく恥ずかしい。彼氏(便宜上)はちっとも恥ずかしくはなさそうだが。
なお彼は高身長なため身長差はかなりあり、手をつなぐ為には腕をかなり上げる必要があった。つまり、疲れる。
「…こうしてみると、かなり緊張するね。はは…」
彼氏(便宜上)はぎこちない口調で言った。僕も軽く相槌を打つ。表情が見れない。彼の顔つきを見ることが禁忌に感じられた。かといって周りの景色を眺めるのもどこか陰鬱に感じられて、最終的には俯くような体制になった。
「…俺の家、ここを曲がったところにあるんだよね。君の家って……」
あそこだよ。と僕は指を指そうとしたところ。
「いや、
「…………………………」
……………………………。
ダイアローグでもモノローグでも黙りこくる自分が、そこにはいた。
全て合点がいく。彼は、僕を女性だと勘違いしているのだ。確かに今まで直接的な関わり合いなどなく彼はずっと僕を傍目に片思いを続けてきていたのだ。僕の性別など知る方法がなかった。
だからこそ、同性とはいえあそこまで直接的なプロポーズが可能だった。それは彼が、僕を異性だと思い込んでいたから。僕が今まで虐げられてきたことは流石の彼でも把握していただろう。しかしそれでも尚且つ僕を純粋な恋愛対象だと認識し、告白を実行に移した。
僕のことを………愛している。純粋に。
しかし、その気持ちは残念ながら所詮空虚だ。その願いは叶うことはない。そう考えると、なんだか彼のことが可哀そうに思えてきた。
「そう…かな」
僕は先ほどとは違い、今度は驚きの表情を隠すように俯き、そして平静を懸命に保ちながら返事をした。
「ぼ、僕の家はあそこだから…そうだね、ここで別れ道になっちゃうかな」
と言って、自分の家の方角を指さした。
相手はそっか、じゃあここで今日はお別れだね。じゃあね!と言いながら僕と別の道を歩いて行った。
僕も手を振って見送りながら帰路へと就いた。
「ぶっはははははは!!そっかそっかぁ、ついに勘違いさちゃったかぁー!!」
「う、うるさいっ!!」
家に帰って直後、僕は姉さん――もとい、天音凪へと相談を持ち掛けた。凪姉は僕と真反対の性格をしており、その恐れ知らずのお調子者を地で往く性格は泣く子も黙る暴走族の親玉でさえも怯んでしまいそうである。そんな姉と僕は約17年同居していたため、会話するのには慣れていた。
そしてそんな姉にコトの一部始終を話したところ…馬鹿笑いされた。清々しいぐらい。なんだか予感はしていたようで、それを当たった当たったとエナジードリンク片手にはしゃぎ続けた(因みに彼女はエナドリが大好物である。体の血液がエナドリに支配されているほどには)。
「ぼ、僕だって断ろうと思ったんだよ!でも、あいつの押しが強くて……負けた」
「ま、そーだろーねー。お前は断るという選択肢がないからなぁー」
「…う、うぐぐ……」
姉の思い通りにはなりたくないと普段から考えてた自分はここまで勝ち誇る凪姉を目撃してしまい心の中で姉を幾度か殴りたくなった。
いやソコまでの嗜虐的思考はないが。
「ま、せいぜい頑張りなさんな。別れるのも自由だけど、そこまでの状況ってかなりレアだからね~?このチャンスを無駄にしないようにね♪にしし」
と言って、最後まで凪姉は僕を嘲笑しながら自分の部屋へと戻っていった。
な、何を~~。あの悪女め!言っておくが、僕はいつか絶対別れてやるからな!いつか彼と恋愛関係の縁を切り、順調に軌道に乗りかけている僕の高校生活を謳歌してやるんだからな!と、口には決して出さなかったものの僕はそう強く、強く決意した。
果たして僕はこれからどうなるのだろうか。
あ、ひょっとすればいつかR-18な描写があるかもしれないのでそこはご了承ください。今は普通ですが。