黄金残滓と地獄大蛇 作:カナーさん
序章。
始まり。恥ずべき選択。
いつものように一様服装を周りに合わせて、さも当たり前のように食堂を利用していた時、自前の茶葉で緑茶を飲んでいた。
どういう訳か食事をこの体はあまり必要ないようだ。
茶を嗜むのは故郷を思い出すような、そんな懐かしいと黄昏れさせてくれるからだ。そんな過去あった記憶はないのだが…。
でもなんとなく俺はいつもこんな感じだと思う。しっくりくるし。
なるべく人がいない時間を狙っているから今回も気付かれなかった。
そのまま流れるように人の気配がない廊下をトボトボと自身の目的を刻み直していきながら歩いていく。
目的を忘れるな。そう深く刻み直す。
その中でニコチンなど含まれていない筈だが、口の寂しさがどうしても気になって煙草もどきが欲しくなり、ポケットからそれを取り出し、口に咥える。
だがもどきが入っていたポケットにチャッカがない。
咥えているだけではおさまりが悪い、満足はできそうにない。やるならスモークの視覚的な情報もないと。
他のポケットを弄って、いつものとこに置いてきたかと自分に呆れていると
ボッ
先端が発火した。ジュゥゥゥと焼かれる音を尻目にしかし、おさまりはより悪くなっていくばかり。充満する煙に気を向けていられなかった。
「火がないようでしたので…迷惑でしたか」
寂しい廊下に女の声だけが浸透していく。
ゆっくりと顔だけを後方にやる。
いた。
先程まで人の気配はないし、今もない。
ユラユラと陽炎のように揺らぎ、刹那でも目を離せば消えて無くなりそうな淡い…それでいて意図がしれない怪しげに煌めく細められた瞳。
神出鬼没、その言葉がつくのは大抵迷惑な奴と相場が決まっている。
なら淡くて儚そうなこの女もその類だろう。
ならやるべきは一つ。
この地に降り立った時、それは明白だった。
いる。在る。生きている。
あの方が纏っているいたコレがマスターよりほんの少し濃くそれでもかなり薄く漂っていた。
マスターがあの方という線は消えた。
現界するという目的は達成された。なのであの方を見つけ次第破棄しようかと思ったがマスターとあの方が親友の可能性もある。
哀しむ顔は嫌いではないけど、それで私を見てくれないのはイヤ。
取り敢えず普通に接しよう。悪い人ではないようだし、人としては好感を持てる。
そうしてこの施設で過ごしていたが何度目かの特異点からの帰還をしても、あの方を見つけることが出来ないでいた。
勘違いはありえない、けどあの方がいない。
信じているが、現実が追い立てる。
…成果は食堂を利用しているということだけ。濃度が少し高かった。…それだけしかわからなかった。
胸が軋み歪み潰れそう。涙も何度も流したかわからない。
わからないことが積み重なっていく。どうしてと嘆きたい喚きたい。でもなにも変わらない。
いや、現実を見せないで。
イヤよ。そんな現状を見たくない。
………このカルデアという施設。やけに人数が少ないとある時気付いて、聞いてしまった。そしてこの状況に当て嵌まる仮定を見出してしまった。
死んでしまっているかもしれない………。
そんな仮定を有耶無耶にするため探したが結果がこれだ。
感情の濁流でなにもわからなかった。悲しいのか苦しいのか腹立たしいのかなにもわからない。
流石にそこまで至るとマスター達にバレてしまうようで…。心配されて話を聞かれたが、言葉を纏めたいといって一旦保留にしてもらっている。
今は気を紛らわせるため今はブーティカと一緒に食堂にいた。
荒んでいた精神を落ち着かせるのは簡単ではなかったけどあの方のために振るえなかった腕をマスター達に役立てるのは案外悪くはなかった。
そうして料理周りである程度の地位を獲得してきた頃、その時でも探すのはやめていなかったけど大分精神が澄んできてマスターに相談しようと考えていた時、ふいに隣で格闘していたキャットが完成した料理を運んでいくのが目についた。
わざわざ運んでいくのが気になったのかも知れない。
とはいえそれほど珍しい光景でもないのになぜか目を追いかけた。スゥゥと蛇のように目が細めて
そして、刹那。時が停まった。
その周囲には平然と他のサーヴァントの姿。マスターの姿もあった。
けれど椅子一つ挟んで孤立したように鎮座している職員。髪色も背丈もなにもかも違う。けど強いなにかを纏っているものは変わらずそこ平然と紛れていた。
いきなりだった。諦めていないからこそ相談しようと思っていたその矢先。
見つけたら最初に何をしようか、色々考えていたプラン全てが消し飛んだ。
眼から雫が静かに頬へ溢れていくのを拭うことすらせずただ見ているだけだった。
あの方は周囲にはたくさんのサーヴァントがいるのにその誰とも目すら合わせず静かにそこにいた。
サーヴァントはマスターに興味があるのであってここの職員と馴れ合わない輩も少なからずいる。
でもなんだろう。それとは違う気がする。
ぽっかりと空いた窪みのような。そもそも位相が、世界が違うような、そんな感じ。
でもキャットはそんなあの方に料理を作り、運んだ。
食べ終わったのか食器をそのまま隣にいたキャットに渡して食堂から出ていこうする。
その時になって漸く体が動いて、静止の声を無視して後を追う。
あの方はいなかった。どうしても死角になる場所で姿を隠された一瞬のうちに姿は消失していた。
残っていたのは冷めた頭と火照った体とあの方の強い残滓。
後で聞いて見たところ、残り物でなにか欲しいと頼まれたようで残飯を注文してくる奴にキャットは興味を持ったようでそれを承諾。あの方にキャット自ら持っていったのもどんな風に食すのか見物するつもりだったようで…その行動に私は救われた。
彼女にオーダーしたのも、多分獣だからだろう。
そこに挟む感情はない。
残飯に救われたのは…ちょっと…うん。
ともかく在る。その事実は私に希望をくれた。
ならやることは一つ。