シトナイといっしょ! 作:龍翠
いつからだっただろうか。
はっきりと覚えていない。本当に、いつの間にか、だ。
いつの間にか、気付けばあの子の姿を探していて、声を聞きたくなっていて、側にいてほしいと求めるようになっていた。
だから、今日も声をかける。
「シトナイ。今暇かな?」
「あ、マスターさん」
廊下で呼び止めると、シトナイが振り返って笑顔を向けてくれる。それだけで、嬉しくなる。
「あれ? シロウは?」
「シロウならジャックたちと遊んでいるけど」
「ああ……。そっか」
シトナイがわずかに寂しそうになる。そのことに少しだけ、本当に少しだけ、嫉妬を覚えてしまう。使い魔相手に何を思っているのだろうと思われるかもしれないけれど。
「暇なら、その……。今から休憩なんだけど、どうかな?」
そう聞くと、シトナイは何度か目を瞬かせて、次におかしそうに笑った。
「ねえ、マスターさん。昨日も一緒だったよね?」
「あー……。うん。そうだね」
「私ばっかり誘ってると、誤解されちゃうわよ」
全くもってこれっぽちも自分としては問題ないのだが、それを口にすることは怖くてできない。
意気地なしだと笑ってほしい。仲間たちと人理修復を為し得た後でも、自分一人だと好いた相手に気持ちを伝えることすらできないのだ。
「まあ、うん。それぐらいは、構わないよ」
「ふうん……。マスターさんがいいなら、一緒に行くわ」
シトナイと一緒に、マイルームへ。テーブルの上には書類の山が一つだけあった。
シトナイが椅子に座りながら、その書類を一枚手に取る。
「あれ? これ、終わってるの? 手伝ってあげようと思ったんだけど」
「ああ、うん。終わってる。いつも手伝ってもらってるから、たまには一日ゆっくりしてもらおうかなと」
こうして休憩に付き合ってもらう度に、シトナイには仕事を手伝ってもらっていた。さすがに申し訳なく思っていたので、今日は頑張ってみた。少しだけ胸を張ってみると、シトナイは笑いながら、
「あはは。なにそれ。わたしが見つからなかったらどうするつもりだったの?」
「見つけるまで探すよ。もちろん」
シトナイの動きが止まった。わずかに頬を赤くして、目を逸らして、そう、と口をもごもごさせている。照れているらしいその様子もかわいくて、思わず笑顔になってしまっていた。
ただ、いつも思う。シトナイの態度こそ、勘違いされるものじゃないかな、と。
それとも、もしかして。
そこまで考えて、首を振る。下手な希望は持たないに限る。気持ちを口にして、その後こうして話すことすらできなくなる方が、自分としては嫌なのだ。
いつものようにココアを用意して、シトナイに渡す。ありがと、と礼を言いながら、シトナイは受け取ってくれた。
「ん……。甘い……」
「ココアだしね。コーヒーの方がいい?」
「んー……。ココアでいいわ。甘い方が好きだもの。マスターさんこそ、いつもココアでいいの? コーヒーとか飲みたいなら、無理しなくていいよ」
「俺もココアでいいよ」
どちらが好きかと聞かれても、どちらとも好きなので本当に無理はしていない。確かにコーヒーの気分の時もあるが、その時はシトナイを探す前に一杯飲んでから探しに行っているのでやっぱり問題ない。
せっかく一緒にいるのだから、同じものを飲みたいのだ。おかしいことだろうか。
椅子に座って、ココアを飲む。いつもの甘さだ。
「マスターさんのココアはわたしの好きな甘さだから、実は楽しみにしているの」
「そっか。……まあ、反応を見ながら配分変えたからね」
「え。初めて聞いたんだけど……」
「初めて言ったよ」
ココアを飲む時のシトナイの微妙な表情の変化。それをいつも見て、少しずつ変えていった。十回ほど経てシトナイの好みが分かったつもりになっているのだが、ちゃんと合っていたようだ。
「言ってくれたら教えてあげたのに」
「いや、自分で見つけたかったんだよ」
「なにそれ。へんなの」
呆れたようなシトナイの声に、小さく肩をすくめる。やはり素直に聞いておくべきだったか、と思ったところで、
「でも……、うん。ありがとう」
はにかんだような笑顔に、自分の方が顔を赤くしてしまった。
今日の仕事は終わっているので、ココアを飲み終えた後ものんびりと話を続ける。少し小腹が空いたので、日本から取り寄せた煎餅も出してみた。
「ココアにお煎餅って……」
シトナイの苦笑に乾いた笑いしか返せない。確かにココアにお煎餅は少しおかしい。
「緑茶も取り寄せれば良かったなって後悔したよ」
「後悔しただけ?」
「いや、緑茶もお願いしておいたから、来週には届くんじゃないかな」
便利になったものだ、と思う。人理修復前は、どこかから取り寄せるなんてできなかった。今なら、多少時間はかかるが、日本のものなら比較的短い時間で取り寄せてくれる。
「ふうん……」
シトナイがじっとこちらを見つめてくる。何が言いたいのかは、すぐに察することができた。
「緑茶が届いたら、また誘うよ」
「うん。楽しみにしてる」
「はは……」
話題の一つとして頼んでみたものだったが、こうして喜んでくれるならその価値はあったと思える。次は饅頭とか取り寄せてみようか。……消費期限を考えると難しいだろうか。
とりあえず今日のところはココアでいいかと思ったようで、シトナイは煎餅に手を伸ばしていた。ばりばりと煎餅を噛む音が聞こえてくる。
煎餅を食べる音はそれだけで食欲が刺激される。気のせいだろうけど。
「うん。おいしい」
「そっか。それなら良かった」
自分も食べてみる。一般的な醤油味だが、最近はほとんど食べていなかったのでそれだけで美味しく感じる。
「んー……」
ふとシトナイを見ると、何かを考えているようだった。
「どうかした?」
「ん……。最近、マスターさんにもらってばっかりだと思って」
「気にしなくていいよ」
「わたしが気にするの」
シトナイはその後も少し考えて、そうだ、と手を叩いた。
「明日の晩ご飯がわたしが作ってあげる」
「え? それは……、いいの?」
「うん」
そう言って微笑むシトナイの頬は、どうしてか少し赤くなっていて、
「だから、楽しみにしてね、マスターさん」
優しいその声に、黙って頷いた。
好いた相手の手料理が食べられる。シトナイが帰ってから、とりあえず立役者の煎餅を拝んでおいた。ありがたや。
壁|w・)マスター視点で、片想いの胸中だよ!
もにょもにょってこんな感じでいいかな!?
一週間以内にシトナイ視点の後編を投下するよ!
いや、したいよ! がんばるよ!
その後はくっつくよ! 多分なー!
ではさらばだー!
さっさとくっついていちゃいちゃか、なかなか素直になれないもにょもにょする関係を継続か、どっちがいい?
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いちゃいちゃ(砂糖増量)
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もにょもにょ(砂糖据え置き)
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もふもふ(シロウ増量)