暗い。
苦しい。
痛い。
重力がどこにあるのかも分からない、ただ続く深い深い闇の中。
寂しい。
辛い。
悲しい。
負の感情の連鎖、それは逃げ出す事の出来ない、閉鎖されたもの。
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一人の少年がそこにいた。
一人の少女がそこにいた。
似た者同士……という訳でもない。
似ても似つかない……という訳でもない。
お互いに少しだけ、共通点があるだけ。
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「あっ……くっぁ……」
一人の少年は苦しんでいた。
なにが起こっているのか分からない。
とても寒い……
苦しい……
意識が遠くなってくる……
目の前にいるのは……分からない……
そして……
「見つけたわ」
そう、声が聞こえた瞬間、彼の意識は完全に途絶えた。
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「ぐっ……うぅ……」
目が覚めたオレは低い声で唸った。
「あ、お目覚めですか?」
それと同時に綺麗な女性の声が聞こえてきた。
オレは目を擦り、辺りを見渡してみる。
畳の部屋、そこに敷かれた布団、さらにはちゃぶ台もあった。
もう少し辺りを見ると、一人の女性がオレを見つめていた。
「……誰?」
「私ですか?私は《八雲 藍》です」
「……ここは?」
「ここは紫様の家です」
「……?」
どっちも聞いたことのない名前だった。
オレはもう一度声のするほうに目を向けてみる。
すると、黄色いもふもふが目の前を横切った。
見間違いか、と思いもう一度藍と名乗った女性を見てみると……
「どうかされました?」
「え……あ、うん」
黄色いもふもふ、あれは俗に言う九尾の狐の尻尾というやつだ。
あと、狐の耳や見慣れない服装。
「……なるほど、コスプレイヤーか」
オレはそう呟くと、はぁとため息をついた。
「やはり、まだ体調が優れないのですか?」
「あ……いや、そういう訳じゃないんですが……」
「そうですか。では紫様を呼んできますので、少々お待ち下さい」
そう言うと藍は襖を開けてどこかに行ってしまった。
「……オレ、レイアーの知り合いなんかいたっけ?」
オレが考え込んでいると、幼い声が近づいてきた。
「藍しゃまー?藍しゃまー?どこですか?」
そしてその声はオレのいる部屋に入ってきた。
「藍しゃ……って誰ですか貴方は!?」
「うわっ!君こそ誰!?急に入ってきて!」
入ってきたのは小さな女の子で、こいつもやっぱり獣耳を付けていた。
これは……猫の耳か?
二本の尻尾も黒色をしているので、黒猫かと思われる。
「えっ!?私は藍しゃまの式神の《橙》です!」
そう言って橙と名乗った少女は小さな胸を張った。
「しきがみ?」
「はい、まだまだ未熟でしゅけど……きっと立派な式神になってみしぇるでしゅ!」
橙は舌ったらずな口を必死に動かして、目を輝かせながらオレにそう言ってきた。
「……のわりには貴女全然役に立ってないわよ」
「ゆ!紫様!そんな事言ったら橙が可哀相ですよ!」
橙と話していると、二人の女性、藍と薄紫のドレスを着た人が入ってきた。
「……藍しゃま。私、役に立ってにゃいでしゅか……」
「そ、そんなことないわよ橙。貴女は役に立っているわよ」
そう言って藍は涙目になっていた橙を見つめていた。
「藍しゃま……」
「橙……」
「らんしゃまー!」
「ちぇぇぇぇん!」
藍が叫び、橙が走り、二人は抱き合った。
抱き合っている途中でも、藍は「ちぇぇぇぇん!」と叫んでいた。
「あのー、お取り込み中失礼なんだけど……貴女が紫さんですか?」
そう言ってオレは薄紫のドレスを着た女性を見た。
「えぇ、私が《八雲 紫》よ」
「とりあえず、元居た場所に戻して欲しいんだけど……てかここはどこなんですか」
「ここは幻想郷よ」
「幻想……郷?」
どこかの地名を教えてくれるのか、と思ったが予想とは遠く掛け離れた答えが返ってきた。
「……まぁそんなことはさておき、元の場所に戻して欲しいんですけど」
「それは無理ね」
「はぁ!?」
即答だった。
紫と名乗った女性はそう言うと唇をチロッと舐めて、オレをまじまじと見た。
「だって貴方は、私の食事よ。逃がしたりなんかしないわ」
「……はぁ?」
分かった。こいつらはとてもイタい病気を持っているんだな。
そう思ったオレは、またため息をついた。
「……冗談はやめてくださいよ。オレを食うって……妖怪かなにかですか」
「そうよ、妖怪よ」
「……」
もう、ぐうの音も出なかった。
話しは通じているが、ふざけているとしか思えない。
「だからなにがあっても帰さないわよ」
そう言うと紫はニマニマしながらオレに近づいてきた。
「……あの、ほんと家に帰してくださいよ」
「観念してください。紫様は人を喰らう妖怪ですから」
「しょうでしゅよ。紫しゃまは私の隣でもバリバリと人間をたべちゃうんでしゅよ」
藍も橙もそう言ってオレを帰そうとしない。
この二人も、相当イタい娘みたいだ。
「……あのさ、もういい歳してるんだからコスプレとかそういうのやめたらどうです。そのイタいキャラ設定も」
少しいらついてきたオレはそう吐き捨てるように言った。
こういうふざけた奴は強気でいったら少しは大人しくなると思い、オレは紫を睨みつけた。
「い……いい歳……」
「うん。まだ藍さんとか橙は若い人だなって思うけど、貴女だけ見た目おばさんじゃないですか」
そう言ってオレは藍と橙を見た。
藍は大学生に見えるし、橙にいたっては小学生にしか見えない。
それに比べて紫は……なんだかおばさんくさいし、顔を見てみるとシワもある。
「ふ……ふふふ……貴方、度胸あるじゃない」
「度胸って言われても……あ、またシワ増えた」
オレがそう言うと、紫はオレを睨み、不気味な笑みを浮かべた。
すると次の瞬間、オレの体が宙に浮いた気がした。いや、《足元が無くなったのだ。》
「えっ……わぁぁぁ!」
そしてそのままオレは重力に従って落ちていった。
「紫様?あの人間をどこに落としたのですか?」
「ふふふ、幻想郷で最も恐ろしい所よ」
「えっと……四季映姫様の所ですか?」
「幼女の所?いやいや、それよりももっと恐ろしい所よ」
「えっと……すいません。分からないです」
「あそこよあそこ」
そう言うと紫はニマリと笑った。
「あの、狂った吸血鬼の所よ」
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「……わぁぁぁぁ!っぶ!」
ずっと落ちていると、急になにかにぶつかった。
やっと足場のある所に着いたのだな、と思ったオレは打った腰をさすりながら立ち上がった。
「痛っ……ったく……一体なにが起こったんだ?……瞬間移動?そんな事出来るわけないし……」
訳が分からない……
とりあえずここがどこなのか把握するために辺りを見回してみた。
窓一つない、薄暗い部屋。
なんだか肌寒いし、赤い絨毯の上に転がる謎の白い棒。
そしてなにより……不気味だ。
「なんなんだ……ここは?」
そう言ってオレはもう一度辺りを見回してみる。
置かれている家具は、片手で数えられるくらい……というか指一本だけで数えられた。ベッドだけだった。
そしてその奥の方に扉があった。
「とりあえず、ここから出てみるか」
そう思ったオレは、奥にある扉に向かった。
すると……
「お兄様、誰?」
不意に声が聞こえた。
本当に不意にだったので、オレは心臓が飛び出るくらいビックリした。
「ねぇねぇ、お兄様?」
するとまた後ろからさっきと同じ声がしたので、振り返ってみる。
そこには金髪の少女が立っていた。
しかし、ただの少女ではない事は一目見て分かった。
なぜなら、背中から七色に光る羽が生えているのだ。
「き……君は?」
「私?私はフラン!」
そう言うとフランと名乗った少女は羽を揺らしながらニコッと笑った。
「そんなことよりお兄様!?『だんまく』ごっこしよ!」
「『だんまく』ごっこ?」
「うん、いくよー」
そう言ってフランは両手を前に出して赤く輝く目をこちらに向けてきた。
「だ……『だんまく』ごっこって?」
「あ、お兄様人間だから知らないんだ……えっとね。とにかく避けて!私がお兄様に当てるから」
「当てるって、なにを?」
そう言おうとした瞬間、フランが急に叫んだ。
「禁忌『クランベリートラップ』」
するとオレの周りから、たくさんの光の玉が現れ、オレに襲い掛かってきた。
「わっ!えっ!?」
かろうじてそれを避ける。
なるほど、『だんまく』とは『弾の幕』という意味か。
弾がものすごい数になって襲い掛かってくる。
「ってそんな事考えてる余裕ないぞこれ!」
とにかく避けて避けて避けまくる。
「へえ、なかなかやるじゃん」
「そりゃどうも……じゃなくて!やめてくれ!」
避けながらオレはそう叫んだ。
この弾、当たったら痛いどころじゃないだろうし……
「なら次は……禁忌『レーウ゛ァテイン』」
そう言うと、今度は光が一本の大きな槍のようになって飛んできた。
「このっ……くっ……」
これも勘で避けれた。
さっき弾をかすった時、服に当たって焦げた気がするが、気にしない。というか、気に出来ない。
「おぉ!すごいねお兄様!あの人間の巫女や魔法使いよりいい動きするじゃん!」
そう言うとフランはまた手を前に出してこう叫んだ。
「禁忌『フォーカスアカインド』」
「もうやめてぇ!」
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「……下でフランが暴れているわ」
テーブルの上にある紅茶に赤い液体を入れながら、少女が呟いた。
「変ですね。この前与えた玩具は先程壊していらっしゃいましたし……」
するとメイド服を着た少女が首を傾げながらそう言った。
「咲夜。ちょっと様子を見てきて」
「かしこまりました」
そう答えると、咲夜と呼ばれた少女は一礼をして、部屋を出ていった。
「一体なにが……」
そう少女が呟くと、彼女の後ろから声が聞こえた。
「それは私のせいなのよねー」
「……なんの用?」
「ふふふ、少し協力してもらいたい事があるのよ」
「……いいわ、話を聞こうじゃないの。紫」
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大きな扉の前に、咲夜は立っていた。
「妹様、……」
「禁忌『フォーカスアカインド』」
「もうやめてぇ!」
咲夜が声をかけようとした瞬間、フランの声がしてその扉がガンガンと音を立てて震えた。
「……妹様、入りますよ」
咲夜は不思議そうに思い、部屋に入っていった。
そこには……
「くっ……まだ当たらないなぁ」
「はぁ……はぁ……もう……やめてくれ……わぁ!」
息を切らしながら逃げる人間、つまりオレと、楽しそうに弾幕を振り撒くフランがいた。
「妹様、その人間は……」
「むむむ、スペルカードはダメなのかな……なら通常弾でいってみようかな」
「いや、もうやめてほしいです、死にそうです」
咲夜の言葉も無視してフランは弾を撃ちつづけた。
「あの……どこからその人間を……」
「なぬ!通常弾も軽々と避けるなんて……あの人間の魔法使いよりも……できる!」
「いや、案外みえてくるもんなんだな。来るなら来い!面白くなってきそうだ!」
もうオレもやけくそだった。
だんだん弾の起動も見えてきたし、運もあるみたいだ。
なんだか強気になっていた。
「妹……」
「じゃあとっておきいくよー!」
「はかってこいやぁ!」
「……幻世『ザ・ワールド』」
体が一瞬止まった気がした。
そして気づいた時、オレは咲夜に手を握られていた。
「……え?」
「はっ!」
そしていつの間にかオレは宙を浮き、地面にたたき付けられた。
「ごふっ!……えっ?」
何が起こったか分からない、といった表情をしているオレを無視して咲夜はフランに話し掛けた。
「妹様、どこからこの玩具を持ってきたか分かりませんが……少しこの人間お借りします」
「えー!咲夜!」
「お・か・り・しますね」
ものすごい可愛らしい笑顔でそう言っているが、声が笑っていない。
フランもその雰囲気を感じとったらしく、ただ無言で頷くだけだった。
「ありがとうございます。ほら、早く立って下さい」
「……今なにが?」
「あぁ、ただの一本背負いです」
そう笑顔で答えると、咲夜は「早く起き上がれ」と言って手を差し延べてきた。
「あ、どうも」
「お礼はいいですから、ついて来て下さい」
そう言うと咲夜はオレの横を通って扉に向かって行った。
しかし、何かを思い出したのか「あっ」と呟くと、今度はフランに話し掛けた。
「妹様は暴れたのですからここの片付けをしてくださいね」
「えぇ!さく……」
「片付けて、下さい、ね」
「は……はい……」
フランの返事を聞いてから咲夜はニッコリと頷き、またオレと向き合った。
「では、行きますよ」
「は、はい」
この人を怒らせたらやばそうだ。
そう思ったオレも急いで扉に向かった。
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部屋を出ると、目の前には長い階段があった。
「地下にあったんだ……」
そう呟きながらオレは階段を上がっていく。
「ところで……ここはどこなんですか?」
「ここは紅魔館です。……分かって侵入したのではないみたいですね」
「紅魔館……」
やっぱり聞いたことのない名前だった。
「うーん……見た感じ、人間みたいですし……どのようにして妹様の部屋に侵入したのですか?」
「あ、えっと……八雲紫?その人と喋ってたら急にここに来て……」
「あぁ、隙間に落とされたのですね」
「隙間……?」
「分からなければいいです。貴方、ここに来て間もないようですから」
そう言うと咲夜はクスリと笑った。
「それにしても……ただの人間が妹様の弾を避けきるなんて……貴方、すごい腕ね」
「え?あぁ、弾幕の事ですか。ビックリしましたけど、慣れたらそうでもなかったですよ」
「変わった人……あ、もうすぐお嬢様の所ですよ」
喋っているといつの間にか階段を三つ上がって、エントランスホールみたいな所に来た。
「広!?」
「そりゃ、幻想郷一のお屋敷ですから」
そう笑って咲夜は大きな木製の扉の前に立った。
「お嬢様、失礼します」
咲夜はその扉をノックして、取っ手に手をかけた。
そしてそのままゆっくりと開けていく。
「……わぉ」
中を見ると、とても大きなテーブル、宴会とかそういう時に使われるものがあり、周りには白い柱、床には赤い絨毯、そして奥にはこれまた大きな椅子があった。
そしてその椅子に、この館の主であろう人影が……
「あれ?」
座っていたのは、十歳に満たないぐらいの幼い少女だった。
咲夜も十代後半だろうが、その少女はもっと幼い少女だった。
「どうだった?咲夜?」
その少女は座ったままそう言った。
「はい、隙間妖怪の差し金で、人間を妹様の部屋にほうり込んだみたいです」
「やっぱり……その人間がそいつなのね。分かったわ、下がっていいわよ」
「はい、失礼します」
そう言って咲夜は一礼すると部屋を出ていった。
「……全く紫の奴、面倒な事押し付けて……」
そう呟きながら少女は顎でオレを指した。
なんだか偉そうな感じなのでちょっと怖かったりもする。
といっとも……見た目は幼い娘。
先程咲夜が言った言葉は、お嬢様。
という事は主の娘なのか?
それとも……
「子供?」
そう呟いた瞬間、体が宙に浮いた。
あぁ、また「隙間」とやらに落とされるんだな、と思ったのだが、今度は落ちる感覚が無かった。
それどころか……息苦しい。
オレは確かに浮いていた。
しかし、なぜ息苦しいのかと言うと……さっきまで奥の椅子に座っていた少女が、いつの間にかオレの前にいて、首を絞め上げてきたのだ。しかも片手で。
「あ……ぐっ……」
「誰が子供だって?」
その少女は赤く光る目でオレを睨んできた。
「私はレミリア。この紅魔館の主よ。人間風情に子供なんて言われたくはないわね」
そう言ってやっとレミリアは手を離してくれた。
補給出来なかった酸素を取り込もうと、必死に肺を動かす。
何回か咳込み、落ち着いた所でオレはレミリアを睨んだ。
「けほっ……さっきまで向こうにいたのに……」
「そりゃそうよ。何たって私は幻想郷最速最強の吸血鬼なのよ」
そう言って無い胸をドンと張るレミリア。
確かに、最速最強かも……
そう思っていると入り口の方から声が聞こえてきた。
「最速に至っては毎朝来るカラスがいるし、力では私の方が強いんじゃないの?お姉様」
振り返ってみると、そこにはフランがこちらに向かって来ていた。
「どちらも中途半端……対して取り柄がないよね」
「うるさいなぁ、フラン……分かってるわよ。あと貴女には負ける気なんて全くないんだから」
そうレミリアが言うが、フランは「お兄様ー」と言ってオレの所に走ってきていた。
「って無視するなぁ!」
「お兄様、抱っこしてー」
全く聞いていない……すごいな……
そう思っていると、フランがずっとオレの袖を引っ張って抱っこ、とおねだりしてくる。
仕方ないので抱っこしてあげる。
ものすごく軽かった。
「へぇ、フランがここまで懐くなんて……本当になにを考えているのかしら……紫の奴」
そう言ってレミリアは小首を傾げたが、そこまで興味を示さず、奥の椅子に座った。
「さて……そこの人間。あんたに命令するわ」
するとレミリアはそう言いながらオレを見た。
偉そうにしているな、と思ったが正直にそんなことを言ってしまうと今度は殺されそうな気がしたので、黙っている。
そしてレミリアは勢いよくオレを指差し、こう言った。
「あんた、ここの執事をやりなさい!」