紅魔館の執事   作:スゥ02

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4.里祭り

ある日の朝。

オレは伸びをしながら紅魔館の外に出た。

 

「うーん……いい天気だ」

 

そう言いながら肩を鳴らす。

すると空に一つの点が見えた。

そしてその点はどんどんこちらに向かって来ている。

 

「どーもー文々。新聞社でーす」

「あ、お疲れ様でーす」

 

やってきたのは《射命丸文》という鴉天狗だった。

幻想郷一の速さをもつ、幻想郷の情報屋、いわばマスコミだ。

文は肩から下げていた鞄から新聞を取り出すと、ペラペラと確認をしてからオレに渡してくれた。

 

「毎朝ご苦労様です」

「いえいえ、早起きは三文の得って言いますからね。今日も朝からナイススクープをゲットしましたしね」

 

そういって首から下げているカメラを掲げ、うっとりしている。

そして「紅魔館の執事もネタになるからなぁ」と言ってカメラをオレに向けてシャッターを切った。

オレが初めて紅魔館に来た時もどこからか現れて写真といくつかインタビューをしていったな。

そして次の日の新聞に一面で出された覚えがある。

見出しは「紅魔館に新メンバー!なんと人間!?」といういたって普通の見出しだったと思う。

しかし、内容はとんでもなくて、オレが熊よりも強い腕力をもち、手刀で滝を切り裂く、などと書かれていた。

いつからオレは某サイア人になったんだ、と思うぐらいだった。

 

「じゃ、失礼しまーす」

「ありがとうございました」

 

そう言うと文は背中の羽を広げてあっという間に飛んでいってしまった。

 

「さて、今日も一日頑張るかっ!」

 

オレもそう言ってもう一度肩を鳴らす。

そして貰った新聞に目を通した。

 

「……おっ」

 

その中に目を引く記事があった。

 

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「里祭りですか?」

「はい、今日の新聞に書いてあって……明日からみたいです」

 

朝ごはんの準備中、オレは今日新聞に書いてあった里祭りに目を引かれたので咲夜にそのことを話してみた。

 

「そうですね……明日なら得にすることもないですし、お嬢様も行きたいって言うでしょうし……いいんじゃないでしょうか」

「ほんとですか!?やったぁ!」

 

久しぶりの休み、といってもいつもフランの相手をするだけだったが、ちゃんと休みを貰えた。

 

「じゃあフランも連れて行ってきますね!」

 

この前連れて行ってあげれなかったから不機嫌そうだったし、仲直りにちょうどいい機会だと思った。

 

「……ちょっと待ちなさい」

 

早速フランに言おうと調理室を出ようとしたら、急に咲夜に止められた。

 

「妹様も連れていくつもりですか?」

「え……えぇ。そのつもりですが……」

「ならこの話は無かった事にしてください」

「え、どういう……」

「妹様を館から出してはいけないんです」

「え、なんで?」

「妹様の性格と能力は知っているでしょう。あのまま外に出したらどうなると思います?」

「……どう、なるんですか?」

 

そう呟き、オレは息を呑んだ。

 

「そう……あの妹様の能力を持ってすれば、幻想郷なんて一日で消滅しますよ」

「……ありえる」

「だからこの館から出してはいけないのです」

「で、でも……それじゃかわいそうでは」

「仕方ないのです。いいですか、絶対、妹様を館から出してはいけませんよ」

 

そう釘を刺され、オレは何も言い返せなかった。

そして咲夜は朝食の乗ったワゴンを引いて調理室をでていった。

 

「……でもちょっとぐらいなら」

 

その後ろ姿を見ながらオレは一つの計画を思い付いた。

 

=============

 

里祭り当日。

オレは大きな段ボールを抱えて紅魔館を出ようとした。

 

「あら、どこに行くの?」

 

玄関に着いた時、二階の階段からレミリアが下りてきた。

 

「あ、レミリア。昨日、霖之助さんにあるものを頼まれて、それを届けるついでにちょっと見て回ってきます」

「それがその段ボールね」

「はい。あっ、フランなら部屋で寝かせておきました。また起きたら弾幕ぶつけられそうですけど……」

「……仕方ないわよ。今のあの娘じゃ、外に行ったらどうなることやら……」

「分かってますよ。じゃあ、行ってきます」

「はい、気をつけて」

 

そう言ってオレは段ボールを抱え外に出ていった。太陽は西に沈もうとしていた。

 

=============

 

美鈴が守る門(といってもまた寝ていたが)を抜け、ある程度歩いた所でオレは段ボールを地面に置いた。

 

「ふぅ……もういいかな」

 

オレは辺りを見回し、誰もいないことを確認した。

そしてオレは段ボールを開けた。

 

「ぷはっ、あぁ苦しかった」

「お疲れ。なんとかばれずに出てこれたね」

 

その段ボールの中から出てきたのは、フランだった。

そう、この段ボールは最初から霖之助に頼まれた物、だなんて嘘。ほんとはフランを隠すためのカモフラージュだったのだ。

 

「でも、咲夜に怒られちゃうよ」

「大丈夫、その時はオレだけが怒られるから」

「お兄様……ありがとう!」

 

満面の笑みを浮かべ、フランはオレに抱き着いてくれた。

こんな可愛い娘をずっと館に閉じ込めておくのは、やはりかわいそうだと思った。

 

「ただし、フラン。一つ約束してくれ」

「ん、なに?」

「絶対に人や妖怪を襲わない事。……もし破ったならば、すぐに館に帰ってもう二度外には出さないから。いいね」

「……二度と?」

「そう。二度と」

「……うん!絶対に襲わない!」

「よし、いい子だ」

 

そう言って頭を撫でてやると、フランは満足そうに笑った。

 

「じゃあ、行こうか」

「うん!」

 

そしてオレはフランと手を繋いで人間の里まで歩いて行った。

 

=============

 

この前人間の里に行った時の道をフランと共に歩いて祭に向かう。

そして里に着くと同時に太鼓の音が鳴り響いた。

 

「きゃっ!」

 

その音に驚き、フランが飛び上がった。

 

「おっ、始まったな」

「な、なに!?今の音!?」

「祭の始まりの音だよ。さぁ、行くよ!」

 

そう言ってオレはフランの手を引き、祭囃しに乗りながら里の中に入って行った。

 

=============

 

出店はいろいろあった。

遊戯なら射的や輪投げ、食べ物なら綿あめや焼きとうもろこし。

オレはフランが興味を持った物すべてを買ってあげた。

この前のお詫び、もあるが幸せそうなフランを見ているとこっちも幸せになってくるからだ。

時々あちらこちらから「吸血鬼だ……」という声が聞こえたが、彼らも、フランの笑い顔を見て危険じゃないと判断したのだろう、今ではそんな声も聞こえなくなっていた。

 

「どう、フラン?楽しいか?」

「うん!ありがとう!お兄様!」

「いえいえ、どういたしまして」

 

そう言いながらフランの頬にさっきまで食べていたクレープのクリームがついているのを見つけ、指で拭ってやった。

すると向こうの方から見知った顔が見えた。

 

「おっ!え!?フラン!?どうしてここにいるんだ!?」

「それに賽銭くれた人……あなた……あぁ、君が新しい紅魔館の執事君だったのね」

 

現れたのは真理沙と霊夢だった。

二人とも手にはたくさんの食べ物を抱えていた。

 

「あ、ども、お久しぶりです」

「ったく固っくるしいな、執事さんよ。こんな時だ、お互い無礼講だぜ!」

「は、はい……じゃなくて……うん」

「こら真理沙、執事君困ってるでしょ」

「へへへっ、まぁいいぜ。それよりフラン、お前出てきていいのかよ」

「ほんとはダメなんだけど、お兄様が連れ出してくれたの!」

「あの怒れるメイド長にばれても知らないぜ」

「ちょっとくらいなら、と思って連れ出したんです」

「まぁ、私には関係ない事ね。面倒だけは起こさないでよね」

 

そう言うと霊夢は財布を取り出してその口を開けた。

そして開いた口をオレに向けてきた。

 

「な、なにしてるんですか?」

「とりあえずお賽銭欲しいなって。有り金全部よこしなさい」

「カツアゲか!」

「おい霊夢!そういうのは気づかれずに取るもんなんだぜ」

「それはスリだ!」

 

こっちの人の方が問題を起こしそうだ……

 

=============

 

だいたい回ったし、フランも眠そうな顔をしていたのでそろそろ帰る事にした。

 

「お兄様ーありがとー……ふぁぁ……」

「初めての人混みだったしね、疲れた?」

「うーん。ちょっとね……でも楽しかったよ!」

「それはよかった。さて、じゃあ帰ろうか」

「うん!」

 

元気にそう言うフランだが、目を擦ったり、欠伸を噛み殺していたりしていたのでオレはフランの前でしゃがんであげた。

 

「ほらフラン。おんぶしてあげるからおいで」

「え、でもそれじゃお兄様が……」

「オレはまだ大丈夫だから。ほら、おいで」

「……ありがと!お兄様!」

 

そう言ってフランはゆっくりとオレの背中に覆いかぶさった。

 

「よし、しっかり掴まってろよ!」

「きゃあ!?」

 

立ち上がると驚いたのか、すこし悲鳴をあげるフランだったが、しばらくすると規則正しい息をし始めた。

 

「やっぱり、相当疲れていたんだな」

 

耳に当たる吐息、とても軽い体、時折柔らかい感触がオレの背中に当たるが、意識しないようにした。

こんなに可愛い娘なのに……恐れられ、一人にされ、ずっと閉じこもっていた娘。

 

「でも……もう一人じゃないよ、紅魔館のみんながいるし……オレがずっと側にいてやる」

 

そう呟いてあげる。多分聞こえてないだろうが、少し笑っているような気がした。

そして紅魔館に帰ろうとしたその瞬間……

強い衝撃と共にオレの視界が真っ暗になった。

 

=============

 

「ぐっ……うぅ……」

 

目を覚ましたオレは、低い声で唸った。

 

「またか……一体なんなんだ……」

 

初めて幻想郷に来た時もこうして目が覚めた時だったな。

しかし、最初とは全く違う。

まず場所、フランの部屋のように薄暗く窓一つも無かった。

そしてなんだがジメジメとしていた。

とりあえず辺りを見回してみるが、暗くてよく見えない。

ただ立とうとすると足に力が入らずなかなか上手く立てないのは分かった。

次に……さっきからピチャンピチャンと水が滴れる音がしている。その音はだんだんと近づいてきたり、遠くなったりしている。

最後に気配。

オレの他に多分二人、この部屋にはいる。

一人はフランだと思うが、もう一人は一体……

 

「くそ……」

 

訳が分からなくなり、吐き捨てるようにそう呟くと、急に耳元に水が垂れてきた。

ビックリして飛び上がったが、上手く立てないためその場に転んでしまう。

 

「くくく……惨めよのぅ……」

 

それに続き、女の人の声が聞こえた。

 

「だ、誰だ!?」

「くくく……こやつも起きたことじゃし、そろそろ《しょーたいむ》といこうかのぅ」

 

謎の声がそう言うと、急に電気が付いた。

眩しくて目を細めるが、やっと辺りを見回す事ができた。

場所はどこかの古びたビルみたいな所で、すべてコンクリート色の飾り気一つ無い部屋だった。

その部屋の中心にオレが座らされており、五、六歩離れた所にフランが寝かされていた。

 

「フラン!」

「お、お兄様!?どこ!?どこなの!?」

 

よかった、意識はあるみたいだ。

しかし、フランは目隠しをされており、声だけを頼りにオレの方に近づこうとしていた。

 

「ぬしに動かれると厄介なんじゃ。すこし黙っておれ」

 

すると先程の声がオレの後ろから姿を現した。

長い黒髪の女性、前髪のせいで顔は見えないが二十代後半かと思われる。

黒いワンピースに身を包み、黒い手袋、そして黒い靴下、とにかく真っ黒な人だった。

いや……人ではなく、妖怪なのかも……

 

「ぬしの能力は分かっておる。《あらゆるものを破壊する程度の能力》……そのものの《目》を自分の手元に移動させ破壊する。しかし、破壊するもの自体がどこにあるか分からなければ、《目》を移動させるなんて不可能……さらに脅威になる弾幕も、手を縛られておるので使えない……つまりおぬしは今、なにもできない吸血鬼なんじゃよ」

 

そしてその女性は、フランに近づくと容赦なく腹を蹴りあげた。

 

「かはっ!」

「フラン!」

「くくく……吸血鬼も気になるが、やはり本命はおぬしなんじゃよ」

 

そう言うと彼女はオレの方を見た。

蛇に睨まれた蛙とはこのようなことだろう。

体が竦んでしまって言うことを聞いてくれない。

 

「くっ……お、オレをどうするつもりだ」

「おや、威勢だけはいいんじゃな。まぁよい……」

 

そう言いながら彼女はだんだんとオレに近づいて来る。

殺される……そう思った瞬間、なんと彼女は、オレの唇に自分の唇を重ねてきた。

 

「んっ……」

 

彼女が甘い声を漏らす。

いきなりキスをされ、なにがなんだか分からないぐらい頭がぼーっとする。

彼女の舌が唇をこじ開け、無理矢理にでも唾液を流し込んでくる。

頭が真っ白になる、なにも考える事が出来なかった。

 

「お……お兄様!……だい、じょうぶ……」

 

しかし、先程蹴られたフランの苦しそうな声を聞いて我に返った。

 

「なっ……なにをする!」

 

なんとか身を離し、彼女と距離をとる。

しかし、足に力が入らずこけてしまう。

 

「無茶をするな、今おぬしはわしの毒を飲んで麻痺状態なんじゃ。これで準備は万全じゃ」

 

そうすると彼女はオレの目の前でニヤリと笑うと、今度はオレの首元に噛み付いてきた。

血を吸われている……こいつ、やっぱり妖怪か……

 

「お兄様!お兄様!大丈夫!?」

「ふ……らん……」

 

声も掠れてきている。

それに彼女が血を吸う音しか聞こえなくなってきた。

もう死ぬ……そう感じた。

しかし、オレが意識を失う前に彼女は血を吸うのを止めた。

 

「くくくっ、やはり人間の生き血は格別じゃな。そうは思わんか、吸血鬼よ」

「お兄様に何をした!お前、一体何者だ!」

「ほう、質問に答えないとな……まぁいい」

 

そう言うと彼女はワンピースの裾を少し上げ、軽く会釈をしながら名乗った。

 

「わしは《水城女将》(みずしろのおかみ)じゃ。おぬしら吸血鬼と同じく、人間の血を吸う妖怪、磯女の一人じゃ」

 

磯女……確か《濡れ女》と同系統の妖怪で、濡れた美しい髪で生き血を吸う、という妖怪だ。

この前パチュリーの所で読んだ妖怪大図鑑が役に立った。

 

「って相手が分かっても、この状況は変わってないけどな……」

「なにか言ったか?おぬし」

「いや……別に……」

 

そう答えると女将は「そうか」とだけ呟き、鼻歌を歌いだした。

 

「さて……もう一度吸いたい所じゃが……」

 

そこまで言って、女将は急に黙り込んだ。

そして苦しがっているフランを部屋の隅に蹴って転がすと、手から大量の水を生み出し、入口に向かってそれを投げつけた。

 

「水符『アクアフリップ』」

「くっ……」

 

水が入口に当たる瞬間、その向こうから転がるように出てきた人がいた。

 

「咲夜さん!」

 

転がり出てきた咲夜は、腕に傷を負っていた。先程の攻撃が当たったのだろう。

しかし咲夜は「構うな!」と一言叫び、五、六本のナイフを女将に投げつけた。

 

「効かぬ!滝符『ウォータウォール』」

 

しかし、女将の目の前に滝のような水が現れ、ナイフを弾き落とした。

しかもその滝はゆっくりとこちらに向かってくる。

このままだと滝に飲まれてしまう。

そう判断した咲夜は壁を蹴り、三角飛びのように滝を飛び越えた。

 

「ほう……しかし、空中では身動きは取れぬぞ」

「幻符『ザ・ワールド』」

 

すると、また時が止まった。

そして気づけば咲夜はフランの隣に居て、フランを縛っていた縄をナイフで切ろうとした。

 

「妹様!今お助けします!」

 

しかし、縄はそう簡単に切れなかった。

 

「無駄じゃ!水符『アクアフリップ』」

 

咲夜が手間取っているその背後から、また女将が水を放った。

 

「ぐはっ!」

「咲夜さん!」

 

しかもその水玉は咲夜の背中に直撃。吹き飛ばされるように咲夜は宙を飛んだ。

そして勢いよく壁にぶちあたる。蜘蛛の巣のような亀裂が壁に出来上がった。

 

「そんな刃物じゃ、わしの縄は切れんよ。その縄はわしの髪で出来ておるのじゃ。わしが倒れん限り、それは切れんよ」

 

そう言うと女将は咲夜に近づき、咲夜の髪をわしづかみにした。

 

「紅魔館のメイドか……おぬしの血も頂こうかのぅ」

「わ……私の血は……お嬢様だけのものだ……お前なんかに……吸わせるか……妖怪め……」

「おうおう、言われんとも、わしの望みはこやつじゃからのぅ」

 

そう言うと女将はオレを指差した。

 

「こやつの血は格別なんじゃ。そうじゃろ……」

 

そしてまた入口の方を見て、言った。

 

「紅魔館の主よ」

 

するとゆっくりと、入口からレミリアが現れた。

 

「ほう……咲夜を倒すなんて……ただの妖怪なのに」

「今のわしはただの妖怪ではないんじゃよ」

 

そう言うと、女将は手を前に差し出した。

 

「……話に聞いていた通りね。ちょっと厄介だわ」

 

レミリアもそう呟くと、お気に入りの帽子を被り直し、女将を睨んだ。

 

「けど……フランを傷付けた、その代償は大きいわよ!」

 

そして手から紅く光る玉を生み出して、女将に向けて放った。

 

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