「紅符『スカーレットシュート』」
「水符『アクアフリップ』」
レミリアの弾幕と女将の弾幕が互いにぶつかり合う。
しかし、レミリアの方が少し押されていた。
「ほれほれ、吸血鬼の姉よ、もう終わりか?」
「くっ……」
眉間にシワを寄せながら、レミリアはその場に飛び、手を前に出した。
「紅符『レッドマジック』」
すると今度は赤紫の弾が大量に現れ、円を描くように放出された。
しかし女将はそれを華麗に避けると、くくくっと笑いレミリアを指差して挑発した。
「このっ……舐めた真似を!」
頭に血が上ったレミリアは、拳を握ると目にも留まらぬ速さで女将に殴り掛かった。
「滝符『ウォータウォール』」
「遅い!」
女将の目の前に、滝が防御壁を作る。
しかしそれよりも速くレミリアは女将と滝の間に入り込み、女将の腹を殴り付けた。
そのまま宙に浮き吹き飛ばされる女将。しかし、空中でクルリと一回転すると、何事もなかったかのように着地した。
「肉弾戦とは……スペルでは勝てないと思ったのか、吸血鬼の姉よ」
「うるさい、早くフランとその人間を返してもらうよ」
「くくくっ、押されておるのに強気よのぅ。もちろん、答えは《のー》じゃよ」
「そう……」
すると今度はなんの準備も無く、先程と変わらぬスピードで女将に飛び込んだ。
「二度も同じ手が喰らうか!」
しかし女将はそう言うと長い髪を動かし、向かってくるレミリアに髪を絡み付けた。
そして、それを解こうともがくレミリアの体を締め上げた。
「ほれほれ、苦しいじゃろ。はよ《ぎぶあっぷ》せんと……」
「神槍『スピア・ザ・グングニル』」
「なっ!」
縛り上げられていたレミリアだったが、そのままグングニルを放った。
ゼロ距離からのグングニルは流石の女将も避けきれなかった。
直撃し、血を吐きながら飛んでいく。
「紅符『スカーレットシュート』」
するとレミリアは、宙に浮いている女将に追い撃ちをかけるように弾幕を撃った。
紅く光る弾が女将に襲い掛かる。
女将は避ける事も出来ずに直撃を喰らう。
「見たか!これが私の力!」
息を切らしながらレミリアはそう言った。
しかし……
「くくくっ……今のは効いたのぅ。しかし、所詮この程度じゃ。見ての通り、わしはぴんぴんしておるぞ」
「なっ!馬鹿な!そこまで……」
「吸血鬼の姉よ。今のはいい攻撃じゃったが……甘い!」
そう言うと女将は笑いながらスペルカードを取り出し、叫んだ。
「泥符『マッドレーザー』」
泥がレミリアに向かって飛んでいく。
しかも一つではない……五つ六つと次々に泥を飛ばしていく。
「このっ……くっ……」
必死にレミリアはそれを避ける。
相殺覚悟で撃った弾幕も、女将のスペルには敵わなかった。
そしてとうとう、泥のレーザーがレミリアに直撃した。
続いて二発三発と撃っていく女将。
宙に浮いていたレミリアは避ける事も出来ずに飛ばされ、壁にぶちあたった。
「このっ……けほ」
砂煙が巻き起こり、体を起こそうとするが、力が入らず、とうとうレミリアも倒れてしまった。
「くくっ……くくくっ……ははははは!吸血鬼の姉よ!惨めじゃのう!こんな妖怪に負けて!どうじゃ、今の気持ちは!」
「あ……あんたなんか……」
「おぅ、負け惜しみか?よいよい、なんせわしは、特別な力を手に入れたからのう」
「……このチート厨が」
「チート?はっ、これも戦略じゃよ。なんならおぬしも、こやつの血を飲めばよかろうに」
そう言うと女将はオレを見た。
「オレの血って……ど、どういう事だ?」
いきなり話がオレに向けられ、訳が分からない、といった表情でオレは女将を見た。
すると女将はニヤニヤと笑いながらこう説明した。
「おぬしの血にはの……飲んだ者を一時的に強化する程度の能力が備わっておるのじゃよ」
「……オレにそんな力が……もしかして、オレが人間界にいた時、襲ってきたのって……」
「そう、何を隠そう、このわしじゃよ。まぁ、隙間の妖怪に邪魔されたがのぅ……じゃが、幻想郷に来ておったなんて……」
そう言うと女将はレミリアの方を向いた。
「じゃから……この男さえ渡してくれれば、おぬしらに危害を加えるつもりはない。どうじゃ、吸血鬼の姉よ」
「…………」
そう質問されたが、レミリアは黙ったまま、女将を睨みつけていた。
「……嫌なのか?」
「嫌に決まってるよ!」
しかし、レミリアが答える前に、誰かがそう言った。
そう……今の声は。
目隠しをされたまま、こちらを向くフランの声だ。
「お兄様は絶対に渡さない!お兄様は私の大切な人だもん!お兄様がいたから、こうやって外に出れた……お兄様がいたから、私甘える事が出来た……全部全部、お兄様がいたから!」
「……そうね、フランの言う通りよ」
すると今度はレミリアが声を発した。
「お姉様!」
「大丈夫よ、フラン……こいつは絶対渡さないわよ」
そう言うとレミリアはゆっくりと立ち上がった。
「磯女……私も、この娘がこんなに楽しそうなの……悔しいけど久しぶりに見たの。それに……こいつは今日もこうやって連れ出してくれたしね。大切な人って言われてるのも納得いくわ」
「あ……ばれていたんですか」
「当たり前よ、あんな小細工、すぐ分かるわよ」
「そうですか……」
やっぱりばれていたみたいだ。
何も言わずに出してくれたから、まぁよかったが……
「だから……フランの楽しみを奪おうとするなら、私が許さないわよ!」
そう言うと、フラフラしながら手を女将に向けた。
「……くだらぬ。じゃが、もう終わりじゃ」
見下したような目をして、女将は立ち上がったレミリアに手を向けた。
「くそ……どうしたら……」
レミリアはもう戦える状態ではない。
咲夜もさっきから気を失ったままだ。
一体どうすれば……
考えているうちに、また女将が弾幕を撃った。
レミリアも必死に逃げ回る。
「くくくっ、強化されたわしに敵うわけが無かろう。諦めたらどうじゃ」
「強化……」
……そうだ!その手があった!
その言葉を聞いて、オレは一つの打開策を思い付いた。
痺れる体をなんとか動かし、地面を這う。
幸いな事に、女将は気づいていない。
そしてやっての思いでたどり着いた。
「よし……あとは……」
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泥のレーザーと水の玉がいくつも飛び交う。
それを潰すように、紅い玉と槍が現れては消えていく。
「くそ……」
今にも倒れそうなレミリアがそう吐き捨てると、一瞬よろけた。
その隙を女将は逃さなかった。
「水符『アクアフリップ』」
先程より大きな水玉がレミリアに襲い掛かる。
「くそっ」
弾もだせず、このままいくと直撃だろう。
そしてそれがレミリアに当たる瞬間……
「禁忌『レーウ゛ァテイン』」
紅い槍が水玉を砕いた。
「なっ!?今のは!?」
女将が驚愕の顔で紅い槍の発射元を見た。
そこに立っていたのは……
「なぜ動ける!?吸血鬼の妹よ!」
「咲夜やお姉様……大好きなお兄様を持って行こうとした……絶対に許さないんだから!」
紅く光る目をさらに紅く輝かせ、女将を睨みつけるフランだった。
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「よし……あとは……」
そういってたどり着いたのは、縛られたまま身動きの取れないフランの隣だった。
「フラン、大丈夫か」
「お兄様……?お兄様!?」
「しー、静かに」
フランの口を塞ぎ、耳元でそう言う。
「……落ち着いた?」
そう言うと目隠しをされたままフランは頷いた。
「よし、いい子だ」
塞いでいた口を放して、その手でフランの頭を撫でてあげた。
「お兄様は大丈夫なの?」
「あぁ、ちょっと体が痺れるけど、それ以外は何もされてない」
「よかったぁ……」
「それよりも……今レミリアがあの妖怪と戦ってるんだ。だけどもう限界そうだ」
「そんな……」
「だからフラン……君が助けてやってくれ」
そう言ってオレはフランの肩をポンと叩いた。
「でも……動けないよ」
「大丈夫、いい考えがあるから」
そしてオレは、フランから手を離すと、その手の親指の皮を……噛みちぎった。
少しヒリヒリしたが、少量の血が親指の先に貯まった。
「よし……フラン、口あけて」
「こ、こう?」
フランが口を大きく開く。
その口の中に先程の親指を入れる。
「んぐっ!?」
「そのまま舐めて」
「ふぁ……ふぁい……れろっ……ちゅぱ……っあ……ぷはぁ」
ちゅぱちゅぱと音を立てながらフランはオレの指を舐めた。
多分フランの口の中には鉄の味がしただろう。
「あむっ……じゅる……お兄様の血……美味しい……」
そう言うとフランはオレの指を追うように舌を這わせ続けた。
少し、頬が紅潮している。
それに、たまに指を甘噛みされ、痛くもあり、心地好かった。
しばらくそのような行為を続け、オレは指を離した。
名残惜しそうな顔をされるが、仕方がない。
「フラン、どう?」
「うん……すごいいいきもちがする」
「よし、話は聞いていたでしょ」
「うん、なんかすごい力が沸いて来る」
「じゃあ……頼んだよ、フラン!」
「うん!」
そう言うとフランは立ち上がり、縄を手で引きちぎった。
縄は簡単に切れた。
そして目隠しを外すと、スペルカードを取り出して、叫んだ。
「禁忌『レーウ゛ァテイン』」
紅く光る槍はレミリアに襲い掛かろうとしていた水玉に直撃し、互いに消滅した。
「咲夜やお姉様……お兄様を持って行こうとした……絶対に許さないんだから!」
そういってフランは女将に手を向けた。
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紅い玉が女将に襲い掛かる。
女将もそれを避け、泥のレーザーをフランに向けて放つ。
しかし、フランの目の前でその泥は跡形も無く砕け散った。
「くっ……能力を使いよって……」
フランの能力は《あらゆるものを破壊する程度の能力》だ。
形あるものは、フランにかかればすべて破壊される。
「禁忌『クランベリートラップ』」
「滝符『ウォーターウォール』」
フランが弾幕を張るが、女将は自分の四方に壁を作りだし、それを避ける。
そして、女将が水の壁を消した瞬間……
「禁忌『レーウ゛ァテイン』」
フランの攻撃が、女将を貫いた。
「がはっ!」
見事に直撃した女将は、大量に血を吐きながら吹き飛んでいった。
「くっ……けほっ……やはり……奴の血を飲んだのか……」
「お兄様を独り占めしようだなんて……禁忌『フォーカスアカインド』」
フランが四人に分身し、弾幕を張りつづける。
そして弱っていた女将に容赦なく襲い掛かる。
「ぐはぁっ!」
しかも全弾直撃。
またもや女将は派手に吹っ飛ばされる。
そして、壁にたたき付けられ、女将は白目をむきながら動かなくなった。
「はぁ……はぁ……」
流石にフランも疲れたのだろう。肩で息をしていた。
「やったのか?」
そう言ってオレは吹き飛ばされた女将を見る。
しかし女将はピクリとも動かない。
「よ……よかったぁ……」
そう言ってオレはフランへと駆け寄る。
もう体も動けるようになっていた。
レミリアも肩を撫で下ろし、咲夜は「うぅん……」と唸りながら体を起こした。
なにもかもが終わった。そう思った。
しかし……フランの所まであと一歩という所で……
オレはまた宙に浮いた。
「なに!?」
「その男を……わたせぇ!」
なんと、動かなかったはずの女将が髪を操り、オレを縛り上げたのだ。
「くそ、禁忌……」
「おっと動くな……この男がどうなっても知らぬぞ」
そう言ってオレの首元にひやりとした物が当てられた。
多分、刃物かなにかだろう。血の気が引いた気がした。
「お兄様を離せ!」
「くくくっ……これは……わしの物じゃ……こやつの血で、わしはもっと強くなる。そして……この幻想郷を……わしの手で征服するのじゃ!」
「……お前の狙いはそれか、磯女」
「今更か、吸血鬼の姉よ。しかし……もうおしまいじゃ」
そう言うと女将はケタケタと、壊れた人形のように笑った。
「泥符……」
女将がスペルカードを取り出し、弾幕を撃ってこようとする。
このままだと……みんなやられる。
そう思ったが……
「はーい、終了ー」
誰かの声がして女将は急に姿を消した。
あの声は……
「いやぁ、ボロボロね」
「……うるさい。だいたい、すぐ来るって言ってどれだけ戦わせるのよ。……紫」
オレを幻想郷に連れてきた張本人、八雲紫だった。
「いいじゃない、貴女が負ける所久しぶりに見れたし」
「……はぁ、もういいわ。それより、あの磯女は?」
「あぁ、あの妖怪は白黒幼女の所に落としたわ」
「……映姫の所?」
「そっ、まぁ人間界での無差別襲撃、それに幻想郷征服未遂、今頃は断罪ってつけられてる頃かしらね」
そう言うと紫はふふふと笑った。
「……はぁ、もういいわ。咲夜、行きましょう」
「かしこまりました」
そして二人は立ち上がると、ゆっくりと歩きだした。
「あ、それと貴方」
しかし、なにか思い出したのか、レミリアはオレを呼んだ。
「な……なんですか?」
「最後まで、フランを楽しませなさい。そのあとは好きにしていいから」
「え?」
どういう事だ、と聞きたかったが、レミリアは少し笑みを浮かべると、そのまま去っていった。
「……なるほどね。あとは私に任されたわけか」
「どういう事だよ、おばさん」
「誰がおばさんよ!落とすわよ!」
「す、すいません……」
「はぁ……まぁいいわ。なぜ貴方をここ、幻想郷に連れてきたのか……それから説明してあげる」
そして紫は手を振って隙間を作り出すと、そこから椅子を取り出してきて座った。
=============
「どうして幻想郷に連れてきたのか……それはあの妖怪から逃がすため、と同時にあの妖怪を幻想郷に連れ出すためだったのよ。人間界で暴れられたら厄介だったからね」
「……つまり、最初からオレが狙われるのを知ってたのか」
「そうよ。でも、本当に貴方が能力を持っているのか、確信が無かったから、レミリアの所に落としたのよ。能力を確認するために」
「……なるほど」
つまり、紫の言いたい事は……
人間界で女将に暴れられるのは困るから、オレを幻想郷に落とした。しかし、本当にオレが能力を持っていなかったら、囮として成り立たない。
だから確認のために、血を吸う吸血鬼、レミリアの所にオレを放り込んだ、ということだ。
「それならそうと、言ってくれれば……」
「言うでしょ、敵を騙すにはまず味方からって。貴方には何も知らずにいたほうがよかったのよ」
そう言って紫はクククと笑った。
しかし、しばらく笑うと急に真面目な顔になり、オレを指差してきた。
「……で、これからの事なんだけど……」
少しためて、ゆっくりと、紫は言った。
それはあまりに残酷で、理解したくない言葉だった。
「貴方には、人間界に帰ってもらうわよ」