紅魔館の執事   作:スゥ02

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5.程度の能力

「紅符『スカーレットシュート』」

「水符『アクアフリップ』」

 

レミリアの弾幕と女将の弾幕が互いにぶつかり合う。

しかし、レミリアの方が少し押されていた。

 

「ほれほれ、吸血鬼の姉よ、もう終わりか?」

「くっ……」

 

眉間にシワを寄せながら、レミリアはその場に飛び、手を前に出した。

 

「紅符『レッドマジック』」

 

すると今度は赤紫の弾が大量に現れ、円を描くように放出された。

しかし女将はそれを華麗に避けると、くくくっと笑いレミリアを指差して挑発した。

 

「このっ……舐めた真似を!」

 

頭に血が上ったレミリアは、拳を握ると目にも留まらぬ速さで女将に殴り掛かった。

 

「滝符『ウォータウォール』」

「遅い!」

 

女将の目の前に、滝が防御壁を作る。

しかしそれよりも速くレミリアは女将と滝の間に入り込み、女将の腹を殴り付けた。

そのまま宙に浮き吹き飛ばされる女将。しかし、空中でクルリと一回転すると、何事もなかったかのように着地した。

 

「肉弾戦とは……スペルでは勝てないと思ったのか、吸血鬼の姉よ」

「うるさい、早くフランとその人間を返してもらうよ」

「くくくっ、押されておるのに強気よのぅ。もちろん、答えは《のー》じゃよ」

「そう……」

 

すると今度はなんの準備も無く、先程と変わらぬスピードで女将に飛び込んだ。

 

「二度も同じ手が喰らうか!」

 

しかし女将はそう言うと長い髪を動かし、向かってくるレミリアに髪を絡み付けた。

そして、それを解こうともがくレミリアの体を締め上げた。

 

「ほれほれ、苦しいじゃろ。はよ《ぎぶあっぷ》せんと……」

「神槍『スピア・ザ・グングニル』」

「なっ!」

 

縛り上げられていたレミリアだったが、そのままグングニルを放った。

ゼロ距離からのグングニルは流石の女将も避けきれなかった。

直撃し、血を吐きながら飛んでいく。

 

「紅符『スカーレットシュート』」

 

するとレミリアは、宙に浮いている女将に追い撃ちをかけるように弾幕を撃った。

紅く光る弾が女将に襲い掛かる。

女将は避ける事も出来ずに直撃を喰らう。

 

「見たか!これが私の力!」

 

息を切らしながらレミリアはそう言った。

しかし……

 

「くくくっ……今のは効いたのぅ。しかし、所詮この程度じゃ。見ての通り、わしはぴんぴんしておるぞ」

「なっ!馬鹿な!そこまで……」

「吸血鬼の姉よ。今のはいい攻撃じゃったが……甘い!」

 

そう言うと女将は笑いながらスペルカードを取り出し、叫んだ。

 

「泥符『マッドレーザー』」

 

泥がレミリアに向かって飛んでいく。

しかも一つではない……五つ六つと次々に泥を飛ばしていく。

 

「このっ……くっ……」

 

必死にレミリアはそれを避ける。

相殺覚悟で撃った弾幕も、女将のスペルには敵わなかった。

そしてとうとう、泥のレーザーがレミリアに直撃した。

続いて二発三発と撃っていく女将。

宙に浮いていたレミリアは避ける事も出来ずに飛ばされ、壁にぶちあたった。

 

「このっ……けほ」

 

砂煙が巻き起こり、体を起こそうとするが、力が入らず、とうとうレミリアも倒れてしまった。

 

「くくっ……くくくっ……ははははは!吸血鬼の姉よ!惨めじゃのう!こんな妖怪に負けて!どうじゃ、今の気持ちは!」

「あ……あんたなんか……」

「おぅ、負け惜しみか?よいよい、なんせわしは、特別な力を手に入れたからのう」

「……このチート厨が」

「チート?はっ、これも戦略じゃよ。なんならおぬしも、こやつの血を飲めばよかろうに」

 

そう言うと女将はオレを見た。

 

「オレの血って……ど、どういう事だ?」

 

いきなり話がオレに向けられ、訳が分からない、といった表情でオレは女将を見た。

すると女将はニヤニヤと笑いながらこう説明した。

 

「おぬしの血にはの……飲んだ者を一時的に強化する程度の能力が備わっておるのじゃよ」

「……オレにそんな力が……もしかして、オレが人間界にいた時、襲ってきたのって……」

「そう、何を隠そう、このわしじゃよ。まぁ、隙間の妖怪に邪魔されたがのぅ……じゃが、幻想郷に来ておったなんて……」

 

そう言うと女将はレミリアの方を向いた。

 

「じゃから……この男さえ渡してくれれば、おぬしらに危害を加えるつもりはない。どうじゃ、吸血鬼の姉よ」

「…………」

 

そう質問されたが、レミリアは黙ったまま、女将を睨みつけていた。

 

「……嫌なのか?」

「嫌に決まってるよ!」

 

しかし、レミリアが答える前に、誰かがそう言った。

そう……今の声は。

目隠しをされたまま、こちらを向くフランの声だ。

 

「お兄様は絶対に渡さない!お兄様は私の大切な人だもん!お兄様がいたから、こうやって外に出れた……お兄様がいたから、私甘える事が出来た……全部全部、お兄様がいたから!」

「……そうね、フランの言う通りよ」

 

すると今度はレミリアが声を発した。

 

「お姉様!」

「大丈夫よ、フラン……こいつは絶対渡さないわよ」

 

そう言うとレミリアはゆっくりと立ち上がった。

 

「磯女……私も、この娘がこんなに楽しそうなの……悔しいけど久しぶりに見たの。それに……こいつは今日もこうやって連れ出してくれたしね。大切な人って言われてるのも納得いくわ」

「あ……ばれていたんですか」

「当たり前よ、あんな小細工、すぐ分かるわよ」

「そうですか……」

 

やっぱりばれていたみたいだ。

何も言わずに出してくれたから、まぁよかったが……

 

「だから……フランの楽しみを奪おうとするなら、私が許さないわよ!」

 

そう言うと、フラフラしながら手を女将に向けた。

 

「……くだらぬ。じゃが、もう終わりじゃ」

 

見下したような目をして、女将は立ち上がったレミリアに手を向けた。

 

「くそ……どうしたら……」

 

レミリアはもう戦える状態ではない。

咲夜もさっきから気を失ったままだ。

一体どうすれば……

考えているうちに、また女将が弾幕を撃った。

レミリアも必死に逃げ回る。

 

「くくくっ、強化されたわしに敵うわけが無かろう。諦めたらどうじゃ」

「強化……」

 

……そうだ!その手があった!

その言葉を聞いて、オレは一つの打開策を思い付いた。

痺れる体をなんとか動かし、地面を這う。

幸いな事に、女将は気づいていない。

そしてやっての思いでたどり着いた。

 

「よし……あとは……」

 

=============

 

泥のレーザーと水の玉がいくつも飛び交う。

それを潰すように、紅い玉と槍が現れては消えていく。

 

「くそ……」

 

今にも倒れそうなレミリアがそう吐き捨てると、一瞬よろけた。

その隙を女将は逃さなかった。

 

「水符『アクアフリップ』」

 

先程より大きな水玉がレミリアに襲い掛かる。

 

「くそっ」

 

弾もだせず、このままいくと直撃だろう。

そしてそれがレミリアに当たる瞬間……

 

「禁忌『レーウ゛ァテイン』」

 

紅い槍が水玉を砕いた。

 

「なっ!?今のは!?」

 

女将が驚愕の顔で紅い槍の発射元を見た。

そこに立っていたのは……

 

「なぜ動ける!?吸血鬼の妹よ!」

「咲夜やお姉様……大好きなお兄様を持って行こうとした……絶対に許さないんだから!」

 

紅く光る目をさらに紅く輝かせ、女将を睨みつけるフランだった。

 

=============

 

「よし……あとは……」

 

そういってたどり着いたのは、縛られたまま身動きの取れないフランの隣だった。

 

「フラン、大丈夫か」

「お兄様……?お兄様!?」

「しー、静かに」

 

フランの口を塞ぎ、耳元でそう言う。

 

「……落ち着いた?」

 

そう言うと目隠しをされたままフランは頷いた。

 

「よし、いい子だ」

 

塞いでいた口を放して、その手でフランの頭を撫でてあげた。

 

「お兄様は大丈夫なの?」

「あぁ、ちょっと体が痺れるけど、それ以外は何もされてない」

「よかったぁ……」

「それよりも……今レミリアがあの妖怪と戦ってるんだ。だけどもう限界そうだ」

「そんな……」

「だからフラン……君が助けてやってくれ」

 

そう言ってオレはフランの肩をポンと叩いた。

 

「でも……動けないよ」

「大丈夫、いい考えがあるから」

 

そしてオレは、フランから手を離すと、その手の親指の皮を……噛みちぎった。

少しヒリヒリしたが、少量の血が親指の先に貯まった。

 

「よし……フラン、口あけて」

「こ、こう?」

 

フランが口を大きく開く。

その口の中に先程の親指を入れる。

 

「んぐっ!?」

「そのまま舐めて」

「ふぁ……ふぁい……れろっ……ちゅぱ……っあ……ぷはぁ」

 

ちゅぱちゅぱと音を立てながらフランはオレの指を舐めた。

多分フランの口の中には鉄の味がしただろう。

 

「あむっ……じゅる……お兄様の血……美味しい……」

 

そう言うとフランはオレの指を追うように舌を這わせ続けた。

少し、頬が紅潮している。

それに、たまに指を甘噛みされ、痛くもあり、心地好かった。

しばらくそのような行為を続け、オレは指を離した。

名残惜しそうな顔をされるが、仕方がない。

 

「フラン、どう?」

「うん……すごいいいきもちがする」

「よし、話は聞いていたでしょ」

「うん、なんかすごい力が沸いて来る」

「じゃあ……頼んだよ、フラン!」

「うん!」

 

そう言うとフランは立ち上がり、縄を手で引きちぎった。

縄は簡単に切れた。

そして目隠しを外すと、スペルカードを取り出して、叫んだ。

 

「禁忌『レーウ゛ァテイン』」

 

紅く光る槍はレミリアに襲い掛かろうとしていた水玉に直撃し、互いに消滅した。

 

「咲夜やお姉様……お兄様を持って行こうとした……絶対に許さないんだから!」

 

そういってフランは女将に手を向けた。

 

=============

 

紅い玉が女将に襲い掛かる。

女将もそれを避け、泥のレーザーをフランに向けて放つ。

しかし、フランの目の前でその泥は跡形も無く砕け散った。

 

「くっ……能力を使いよって……」

 

フランの能力は《あらゆるものを破壊する程度の能力》だ。

形あるものは、フランにかかればすべて破壊される。

 

「禁忌『クランベリートラップ』」

「滝符『ウォーターウォール』」

 

フランが弾幕を張るが、女将は自分の四方に壁を作りだし、それを避ける。

そして、女将が水の壁を消した瞬間……

 

「禁忌『レーウ゛ァテイン』」

 

フランの攻撃が、女将を貫いた。

 

「がはっ!」

 

見事に直撃した女将は、大量に血を吐きながら吹き飛んでいった。

 

「くっ……けほっ……やはり……奴の血を飲んだのか……」

「お兄様を独り占めしようだなんて……禁忌『フォーカスアカインド』」

 

フランが四人に分身し、弾幕を張りつづける。

そして弱っていた女将に容赦なく襲い掛かる。

 

「ぐはぁっ!」

 

しかも全弾直撃。

またもや女将は派手に吹っ飛ばされる。

そして、壁にたたき付けられ、女将は白目をむきながら動かなくなった。

 

「はぁ……はぁ……」

 

流石にフランも疲れたのだろう。肩で息をしていた。

 

「やったのか?」

 

そう言ってオレは吹き飛ばされた女将を見る。

しかし女将はピクリとも動かない。

 

「よ……よかったぁ……」

 

そう言ってオレはフランへと駆け寄る。

もう体も動けるようになっていた。

レミリアも肩を撫で下ろし、咲夜は「うぅん……」と唸りながら体を起こした。

なにもかもが終わった。そう思った。

しかし……フランの所まであと一歩という所で……

オレはまた宙に浮いた。

 

「なに!?」

「その男を……わたせぇ!」

 

なんと、動かなかったはずの女将が髪を操り、オレを縛り上げたのだ。

 

「くそ、禁忌……」

「おっと動くな……この男がどうなっても知らぬぞ」

 

そう言ってオレの首元にひやりとした物が当てられた。

多分、刃物かなにかだろう。血の気が引いた気がした。

 

「お兄様を離せ!」

「くくくっ……これは……わしの物じゃ……こやつの血で、わしはもっと強くなる。そして……この幻想郷を……わしの手で征服するのじゃ!」

「……お前の狙いはそれか、磯女」

「今更か、吸血鬼の姉よ。しかし……もうおしまいじゃ」

 

そう言うと女将はケタケタと、壊れた人形のように笑った。

 

「泥符……」

 

女将がスペルカードを取り出し、弾幕を撃ってこようとする。

このままだと……みんなやられる。

そう思ったが……

 

「はーい、終了ー」

 

誰かの声がして女将は急に姿を消した。

あの声は……

 

「いやぁ、ボロボロね」

「……うるさい。だいたい、すぐ来るって言ってどれだけ戦わせるのよ。……紫」

 

オレを幻想郷に連れてきた張本人、八雲紫だった。

 

「いいじゃない、貴女が負ける所久しぶりに見れたし」

「……はぁ、もういいわ。それより、あの磯女は?」

「あぁ、あの妖怪は白黒幼女の所に落としたわ」

「……映姫の所?」

「そっ、まぁ人間界での無差別襲撃、それに幻想郷征服未遂、今頃は断罪ってつけられてる頃かしらね」

 

そう言うと紫はふふふと笑った。

 

「……はぁ、もういいわ。咲夜、行きましょう」

「かしこまりました」

 

そして二人は立ち上がると、ゆっくりと歩きだした。

 

「あ、それと貴方」

 

しかし、なにか思い出したのか、レミリアはオレを呼んだ。

 

「な……なんですか?」

「最後まで、フランを楽しませなさい。そのあとは好きにしていいから」

「え?」

 

どういう事だ、と聞きたかったが、レミリアは少し笑みを浮かべると、そのまま去っていった。

 

「……なるほどね。あとは私に任されたわけか」

「どういう事だよ、おばさん」

「誰がおばさんよ!落とすわよ!」

「す、すいません……」

「はぁ……まぁいいわ。なぜ貴方をここ、幻想郷に連れてきたのか……それから説明してあげる」

 

そして紫は手を振って隙間を作り出すと、そこから椅子を取り出してきて座った。

 

=============

 

「どうして幻想郷に連れてきたのか……それはあの妖怪から逃がすため、と同時にあの妖怪を幻想郷に連れ出すためだったのよ。人間界で暴れられたら厄介だったからね」

「……つまり、最初からオレが狙われるのを知ってたのか」

「そうよ。でも、本当に貴方が能力を持っているのか、確信が無かったから、レミリアの所に落としたのよ。能力を確認するために」

「……なるほど」

 

つまり、紫の言いたい事は……

人間界で女将に暴れられるのは困るから、オレを幻想郷に落とした。しかし、本当にオレが能力を持っていなかったら、囮として成り立たない。

だから確認のために、血を吸う吸血鬼、レミリアの所にオレを放り込んだ、ということだ。

 

「それならそうと、言ってくれれば……」

「言うでしょ、敵を騙すにはまず味方からって。貴方には何も知らずにいたほうがよかったのよ」

 

そう言って紫はクククと笑った。

しかし、しばらく笑うと急に真面目な顔になり、オレを指差してきた。

 

「……で、これからの事なんだけど……」

 

少しためて、ゆっくりと、紫は言った。

それはあまりに残酷で、理解したくない言葉だった。

 

「貴方には、人間界に帰ってもらうわよ」

 

 

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