紅魔館の執事   作:スゥ02

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6.これから、そして……

「……帰れるのか、オレ」

「えぇ、むしろ帰ってもらうから」

 

やっと帰れる。

嬉しいはずなのに、今は素直に喜べない。

なぜなら……

 

「……お兄様……行っちゃうの?」

「…………」

 

フランがいるからだ。

 

「フラン、わがままを言ったらダメよ」

「やだやだ!お兄様と一緒に居たいよ!」

「……オレからも頼む。ここに残らせてくれないか?」

 

オレもお願いする。

今オレがいなくなったら、またフランは一人になってしまう。

それに……甘えてくるフランとずっと一緒にいて、オレも彼女を守りたい、一緒に居たい、と思うようになっていた。

 

「ねぇ、お兄様と一緒にいたいよー」

「お願いします」

 

フランと一緒に頼み込む。

しかし……

 

「ダメよ」

 

ピシャリとそう言われた。

 

「……もう一度言ってあげる。貴方は帰らないといけないのよ。じゃないと、均衡が崩れるから」

「均衡って……なんの?」

「人間界との、よ」

「それって……どういう……」

「説明してあげるわ」

 

そして紫は椅子に座り直していろいろと話してくれた。

 

=============

 

紫が言うには、均衡が崩れる、というのは、人間界でオレの存在が完璧に消えていないからだという。

 

「例えば……そうね。貴方、手を開いて出して」

「え?」

「いいから」

 

紫にそう言われ、訳の分からないまま右手を出す。

すると紫はその手の平に、小石を一つ置いた。

 

「……で?」

「今ここに小石があるわよね」

「は、はい……」

「じゃあ、目をつぶって」

 

言われるがままに目をつぶる。

何も見えなくなる。

 

「さて、今貴方の手の平には、何がある?」

「何って……小石だろ」

「そうね、じゃあ目を開けて」

 

何がしたかったのか分からないまま、言われた通り目を開けた。

 

「何なんだよ……」

「ほら、貴方の手の平、何がある?」

「だから小石が……って、あれ?」

 

そう、いつの間にか手の平の小石が無くなっていたのだ。

 

「ね、貴方は、手の平に小石の存在を感じていた。しかし、目で確認すると、小石は無かった……つまり、小石の存在はそこにあるはずなのに、姿が見えない。この疑問こそが《歪み》なのよ」

 

そう言って、どこからか先程の小石を取り出し、指で転がした。

 

「それと一緒。貴方という存在はあるのに、姿がない。その矛盾が歪みとなって人間界に混乱をもたらすのよ」

「……それを起こさないためにも、オレは帰らないといけないってわけか」

「その通り」

 

そう言うと、紫は立ち上がり、隙間を作り出した。

 

「まぁ、レミリアの言う通り、この祭が終わるまではここに居させてあげる。それまで楽しんでおきなさい」

 

そしてゆっくりと隙間に消えていった。

 

=============

 

フランとオレは博麗神社まで来ていた。

別に用があったわけでもないが、たまたま歩いていたらたどり着いたのだ。

そして、霊夢もまだ帰っていないのか、辺りに人の気配は無かった。

つまり、二人きりだ。

 

「ねぇ、お兄様……」

「ん?」

「……行かないで。私、また一人になっちゃうよ……」

「フラン……」

 

涙目でそう訴えてくるフラン。

そんな姿も可愛らしい、そう思った。

 

「お兄様……」

 

もう一度涙目で呼び掛けてきた。

そして繋いでいた手をギュッとにぎりしめた。

そう、博麗神社に着くまで、フランはずっとオレの手を握っていた。

オレもこの手を離したくないと思った。

 

「フラン……ゴメン、あのおばさんの言う通り、オレはここにいたらいけないみたい」

「でもっ!」

「……フラン、今日は楽しかったかい?」

「えっ?」

 

なぜだか素っ頓狂な声を出すフラン。

そして質問の意味が分かったのか、涙目のまま首を大きく縦に振った。

 

「よかった……でもね、よくよく考えてみたら、フランをこんな危ない目に逢わせたのは、全部オレのせいだと思ったんだ」

「そんな……」

「オレが外に連れ出さなかったら、フランが危ない目に逢わずに済んだ。オレが居なかったら、咲夜さんやレミリアが傷つくことなかった。だがら……オレはここにいるべきではないんだなって……」

「そんな事ない!」

 

フランが大声でそう言った。

深紅の瞳をこちらに向け、ぽろぽろと涙を流しながら言った。

 

「そんな事……ないよ……」

 

次は小さく、呟くように。

 

「……ヒクッ……お兄様……」

 

最後は嗚咽を含みながら、そう言った。

 

「……でも、あの隙間の妖怪の言う通りだもんね……お兄様は帰らないと……ダメだもんね……」

「……ゴメンな、フラン」

「謝らなくてもいいよ。……こっちこそ、ありがとう」

 

そう言い終わると、オレの側によってきて、

 

「大好きだよ」

 

頬にキスをしてくれた。

 

「オレも……大好きだよ」

 

オレもフランの手を取り、その甲に軽く口づけをした。

 

「……さて、じゃあそろそろ行くよ」

「……うん」

 

お互いの目を見て、一緒に笑った。

もう見れないかもしれない笑顔。

愛しいこの娘の笑顔。

それは、大切な思い出として、オレの記憶に深く刻み付けられただろう。

 

「……おばさん、いるんだろ」

「誰がおばさんよ!マジで落とすぞてめぇ!」

 

呼び掛けるとどこからか、いきなり紫は現れた。

 

「全く……イチャイチャして恥ずかしいと思わないのかしら」

「いや……もう別れないといけないから……」

「……まぁいいわ。もう悔いはないのね」

「……あぁ」

「フランも、いいのね」

 

紫がそう聞くと、フランは無言で頷いた。

 

「……最後に聞くわ。貴方」

「なんだよ?」

「貴方はフランを愛している。それは間違いないのよね」

「……あぁ、オレはフランの事が大好きだ」

 

恥ずかしいが、堂々とオレはそう言った。

 

「……何て言うか……貴方、言ってて恥ずかしくないのかしら」

「少し、恥ずかしいけど……ホントの事だから」

「……はぁ、もうイチャイチャを見せられるのはごめんよ。今から人間界への隙間を開けるから、そこに飛び込みなさい。そのまま人間界に落ちていくわ」

「……分かった」

 

そう答えると、紫は手を振ってオレの目の前に隙間を作り出した。

 

「……じゃあ、またな」

「お兄様!……グスッ……バイバイ!」

 

鼻を啜り、目を擦りながら、フランは笑顔で手を振ってくれた。

 

また会える。

そう信じてオレは隙間に身を投じた。

 

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