「……帰れるのか、オレ」
「えぇ、むしろ帰ってもらうから」
やっと帰れる。
嬉しいはずなのに、今は素直に喜べない。
なぜなら……
「……お兄様……行っちゃうの?」
「…………」
フランがいるからだ。
「フラン、わがままを言ったらダメよ」
「やだやだ!お兄様と一緒に居たいよ!」
「……オレからも頼む。ここに残らせてくれないか?」
オレもお願いする。
今オレがいなくなったら、またフランは一人になってしまう。
それに……甘えてくるフランとずっと一緒にいて、オレも彼女を守りたい、一緒に居たい、と思うようになっていた。
「ねぇ、お兄様と一緒にいたいよー」
「お願いします」
フランと一緒に頼み込む。
しかし……
「ダメよ」
ピシャリとそう言われた。
「……もう一度言ってあげる。貴方は帰らないといけないのよ。じゃないと、均衡が崩れるから」
「均衡って……なんの?」
「人間界との、よ」
「それって……どういう……」
「説明してあげるわ」
そして紫は椅子に座り直していろいろと話してくれた。
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紫が言うには、均衡が崩れる、というのは、人間界でオレの存在が完璧に消えていないからだという。
「例えば……そうね。貴方、手を開いて出して」
「え?」
「いいから」
紫にそう言われ、訳の分からないまま右手を出す。
すると紫はその手の平に、小石を一つ置いた。
「……で?」
「今ここに小石があるわよね」
「は、はい……」
「じゃあ、目をつぶって」
言われるがままに目をつぶる。
何も見えなくなる。
「さて、今貴方の手の平には、何がある?」
「何って……小石だろ」
「そうね、じゃあ目を開けて」
何がしたかったのか分からないまま、言われた通り目を開けた。
「何なんだよ……」
「ほら、貴方の手の平、何がある?」
「だから小石が……って、あれ?」
そう、いつの間にか手の平の小石が無くなっていたのだ。
「ね、貴方は、手の平に小石の存在を感じていた。しかし、目で確認すると、小石は無かった……つまり、小石の存在はそこにあるはずなのに、姿が見えない。この疑問こそが《歪み》なのよ」
そう言って、どこからか先程の小石を取り出し、指で転がした。
「それと一緒。貴方という存在はあるのに、姿がない。その矛盾が歪みとなって人間界に混乱をもたらすのよ」
「……それを起こさないためにも、オレは帰らないといけないってわけか」
「その通り」
そう言うと、紫は立ち上がり、隙間を作り出した。
「まぁ、レミリアの言う通り、この祭が終わるまではここに居させてあげる。それまで楽しんでおきなさい」
そしてゆっくりと隙間に消えていった。
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フランとオレは博麗神社まで来ていた。
別に用があったわけでもないが、たまたま歩いていたらたどり着いたのだ。
そして、霊夢もまだ帰っていないのか、辺りに人の気配は無かった。
つまり、二人きりだ。
「ねぇ、お兄様……」
「ん?」
「……行かないで。私、また一人になっちゃうよ……」
「フラン……」
涙目でそう訴えてくるフラン。
そんな姿も可愛らしい、そう思った。
「お兄様……」
もう一度涙目で呼び掛けてきた。
そして繋いでいた手をギュッとにぎりしめた。
そう、博麗神社に着くまで、フランはずっとオレの手を握っていた。
オレもこの手を離したくないと思った。
「フラン……ゴメン、あのおばさんの言う通り、オレはここにいたらいけないみたい」
「でもっ!」
「……フラン、今日は楽しかったかい?」
「えっ?」
なぜだか素っ頓狂な声を出すフラン。
そして質問の意味が分かったのか、涙目のまま首を大きく縦に振った。
「よかった……でもね、よくよく考えてみたら、フランをこんな危ない目に逢わせたのは、全部オレのせいだと思ったんだ」
「そんな……」
「オレが外に連れ出さなかったら、フランが危ない目に逢わずに済んだ。オレが居なかったら、咲夜さんやレミリアが傷つくことなかった。だがら……オレはここにいるべきではないんだなって……」
「そんな事ない!」
フランが大声でそう言った。
深紅の瞳をこちらに向け、ぽろぽろと涙を流しながら言った。
「そんな事……ないよ……」
次は小さく、呟くように。
「……ヒクッ……お兄様……」
最後は嗚咽を含みながら、そう言った。
「……でも、あの隙間の妖怪の言う通りだもんね……お兄様は帰らないと……ダメだもんね……」
「……ゴメンな、フラン」
「謝らなくてもいいよ。……こっちこそ、ありがとう」
そう言い終わると、オレの側によってきて、
「大好きだよ」
頬にキスをしてくれた。
「オレも……大好きだよ」
オレもフランの手を取り、その甲に軽く口づけをした。
「……さて、じゃあそろそろ行くよ」
「……うん」
お互いの目を見て、一緒に笑った。
もう見れないかもしれない笑顔。
愛しいこの娘の笑顔。
それは、大切な思い出として、オレの記憶に深く刻み付けられただろう。
「……おばさん、いるんだろ」
「誰がおばさんよ!マジで落とすぞてめぇ!」
呼び掛けるとどこからか、いきなり紫は現れた。
「全く……イチャイチャして恥ずかしいと思わないのかしら」
「いや……もう別れないといけないから……」
「……まぁいいわ。もう悔いはないのね」
「……あぁ」
「フランも、いいのね」
紫がそう聞くと、フランは無言で頷いた。
「……最後に聞くわ。貴方」
「なんだよ?」
「貴方はフランを愛している。それは間違いないのよね」
「……あぁ、オレはフランの事が大好きだ」
恥ずかしいが、堂々とオレはそう言った。
「……何て言うか……貴方、言ってて恥ずかしくないのかしら」
「少し、恥ずかしいけど……ホントの事だから」
「……はぁ、もうイチャイチャを見せられるのはごめんよ。今から人間界への隙間を開けるから、そこに飛び込みなさい。そのまま人間界に落ちていくわ」
「……分かった」
そう答えると、紫は手を振ってオレの目の前に隙間を作り出した。
「……じゃあ、またな」
「お兄様!……グスッ……バイバイ!」
鼻を啜り、目を擦りながら、フランは笑顔で手を振ってくれた。
また会える。
そう信じてオレは隙間に身を投じた。