「あれ?ここは?」
どこ?
いつのまにかわたしは、いや、わたしたちは迷い込んでいた。
さっきまで、イエイヌちゃん、ともえちゃん、ロードランナーちゃんとおいかけっこで遊んでいた。みんな、きっと夢中だった。今まで気づかなかったのが不思議だが、わたしたちはそれだけ夢中になっていたのだろう。
気づいたら、みんないない。まいごになってしまった。
周りはもやもやしていて、あまり遠くが見えない。かろうじて、周りにたくさんのたてものがあることがわかる。風の音が耳を通る。ここは、一体どこなんだろう?
「ともえちゃーん!ともえちゃーん!」
みんなに聞こえるよう、おもいっきり叫んだ。聞こえるといいな。
また、一人になってしまった。夢中になりすぎたのがいけなかった。建物と霧に囲まれて、しかし誰も隣にはいない寂しさがあたしを覆う。こんなに建物がたっているのに、生き物の気配すらない。ここは、一体……
「ともえちゃーん!ともえちゃーん!」
寂しさを飛ばすように、建物の間からあたしを呼ぶ声がやってきた。この声は、アムールトラちゃんだ。
「アムールトラちゃーん!いまいくよー!」
あたしは声の方向にむかって走り出す。建物の間を通り抜け、霧をかきわけ進んでいく。
「イエイヌちゃーん!ロードランナーちゃーん!」
みんな、無事だろうか、怪我はしていないだろうか。
心配で心配でならない。
大丈夫、あの子たちは自分でどうにかできるから……。
目を疑う。
このロードランナー様、目の前の光景に腰を抜かしている。
いつのまにか、迷った先で、こんな奴に会ってしまうんだ。
「オイオイオイ、こりゃないぜ?」
隣のイエイヌすらも、驚いている。
「お、おおきい……そんな……」
「に、にに逃げましょう!」
「わわわかってる!どう考えたって逃げるしかねぇ!」
その通り、逃げるしかなかった。とっさに坂道を二人で駆け下りる。でけぇセルリアンもゴロゴロ、恐ろしく速く転がってくる。
ゴロゴロと、まるで落石のように、俺達を追う。いや、ただ転がっているだけかもしれない。どちらにしよ、当たれば潰れる。たてものが
「横だッ!」
横にまがろう。あの速さで転がっては急に横にはまがれまい。たてものとたてものの間に逃げ込む。
「は、はい!」
イエイヌも逃れた。セルリアンは予想どおり、まっすぐに転がっていってしまった。行き着く先は想像できない。
「セルリアンはなんとかなりましたけど、どうしましょう」
「ともえちゃんたちの場所が分からない事には、ここをうかつに動くこともできねぇ。さらに迷ってしまう」
「ご主人様なら、きっと大声でわたしたちを呼んでくれるはずです」
「だったら呼ばれるまで待つしかないな」
まもなくして、呼び声が聞こえてくる
「ともえちゃーん!ともえちゃーん!」
「アムールトラちゃーん!今行くよー!」
「イエイヌちゃーん!ロードランナーちゃーん!」
間違いなくアムールトラ、そしてともえの声だ。行くべき方向がわかった。
その方向とは、セルリアンが転がっていった先だ。
「行くぞ!ともえたちが危ない!」
「はい、早くいきましょう!二人のところへ!」
急いで二人のところへ向かう。
「ともえー!アムールトラー!気をつけろー!」
走りながら叫ぶ。セルリアンは、もうすぐあいつらの前に現れる。
「アムールトラちゃーん!さびしかったよー!」
「ともえちゃーん!」
再会。なんとかアムールトラちゃんと合流できた。あとは、イエイヌちゃんとロードランナーちゃんがどこにいるか。
「ともえー!アムールトラー!気をつけろー!」
遠くから声が聞こえる。ロードランナーちゃんだ!
え?気をつけろって?
そしたら、同じ方向からゴロゴロゴロ、音が鳴り響く。何かが転がってくるが、見えない。まもなく、転がるような音が消える。
嫌な予感がした。
「ともえちゃん!危ない!」
とっさに後ろに身を引く。その瞬間、目の前に『岩』が落ちてきた。
『岩』。そう呼びたかった。ただの『岩』ならよかった。
それはまさしく『岩』のような、丸くてでかいセルリアン。一つ目がこちらを睨む。
まずい。転がってくる。本能からだろうか、セルリアンが転がってくるであろうことは分かった。
しかし、体が思ったように動かない。
恐怖で、体を動かしたいのに、動かせない。
「い、嫌!嫌ああああああ!!」
一つの目しかないセルリアンに叫ぶ。そんなことしても、あたしに転がってくるだろう。声はだせても、体がいうことを聞かない。
「やれやれだね……」
横から石が三つ、丸いセルリアンの体に突っ込んでくる。セルリアンの体を押し出すのに十分な勢い。セルリアンの注意は、その石が投げられた方に向かった。
「いまだよ」
パチン、指が鳴る音がした。
「はああああぁぁぁぁぁ!!!」
反対方向から、何かが出てくる。その爪は、セルリアンの石を正確に、潰した。
ぱっかぁーん!
「あ、ありがとうございます。
「あぶなかったですね~、人間さんたち」
「どうやらこの研究所区域にまよいこんでしまったみたいですね、あなたたちは」
イエイヌちゃんと、ロードランナーちゃんが合流した。目の前には、二人のフレンズ。
まるでコツメカワウソちゃんのようなフレンズ、片やタイリクオオカミちゃんのようなフレンズ。しかし、『色』そして『声』が違う。そして、『冷たそうな目』をしていた。
「あ、あなたたちは何のフレンズちゃんですか?」
「私はニホンカワウソ。よろしく……」
「ニホンオオカミです。よろしくね、人間さんたち!」
あたしたちも自己紹介をする。
「あたしはともえです、よろしくおねがいします」
「イエイヌです~!よろしくおねがいします!」
「俺様はロードランナー!よろしくな」
「あ、アムールトラです。よろしくおねがいします!」
「さて、あなたたちが迷いこんだ研究所区域だけど、まぁ私達の『アジト』に案内するから」
「道中ゆっくりと話すとするわ!わたしもよくわかってないけど」
「ついてきて。仲間にあわせてあげるわ」
仲間……?ここには他にもいるのかな?楽しみだ。ついていかない理由はない。案内してもらうことにした。
「まず、ここは研究所区域。常に霧で覆われていて、サンドスターの濃度も濃い。地形と天候の制御がされない区域らしい」
「らしいって、誰から聞いたの?」
「そのうちわかるよ!その人にも一度あってもらうから」
「人って、ともえちゃんみたいな人か?」
「ご主人様みたいな人間ですか?」
「人間、そうね。人間よ」
「人間がまだ居るんですね!ともえちゃん!」
「うん。かばんちゃんと、あたし。これで三人目の人間だね」
「「かばんちゃん?」」
「うん、あたしたちはかばんちゃんって呼んでいる。人間のフレンズだって言ってたよ」
「そうか、人間のフレンズか」
「人間のフレンズ、もう一人いたなんて……」
そんなお話をしているうちに、『アジト』についた。ひときわ高い建物。霧に覆われていても、高さがなんとなく分かってしまった。
「あわせてあげる。もう一人の人間のフレンズにして、私達のリーダーに」
「こーんにちわー!わぁー!いっぱいきたぁー!」
「初めましてぇ、新入りかなぁ?」
「…こんにちは」
「こんにちは、ようこそ、アジトへ。ありがとう、来てくれて、四人も」
いろんなフレンズが出迎えてくれる。しかし、その目はみんな、冷たそうな目をしている。いくら暖かそうな仕草をしていても、冷たい目が見えてしまう。
「カコさん!ただいま!」
「迷子を連れてきた……」
「えっと……カコさん……ですか?」
青くて長い髪をした、白衣をまとう女の子。小さいのに、かばんちゃんよりずっと大人のような、そんな雰囲気があふれ出ている。
鋭い目を見開き、あたしに話しかけてきた。
「こんにちは、人間の子。そして、イエイヌちゃんとロードランナーちゃんとアムールトラちゃん」
「す、すげぇ。なんで俺様の名前が分かるんだ?」
「わぁ~!物知りですね!」
「こ、こんにちは。あたしは、ともえです」
「ともえちゃん、いい名前。よろしくね」
「よ、よろしくおねがいします!」
緊張する。きっとやさしい人なのに、なんだか恐ろしい雰囲気が緊張を誘う。
「改めまして、私の名前は『カコ』ヒトのフレンズよ」
カコ、その女の子は、両手を広げ、あたしたちを迎えた。
「ようこそ、私の研究所『