DOKUBARI QUEST Ⅹ   作:ニモ船長

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第二話

 

 

「ど、どくばりぃ……!?」

 

 

今は急ぎの時だと言うのに、この瞬間だけは完全に固まってしまったユルール。

 

 

「だからぁ言ったでしょー? あいつ昔っからアレに無駄なこだわりがあるんでさー」

 

 

しかしエレットからすればそんなものは日常茶飯事である様だ。ユルールの動揺っぷりを楽しむかの様にそう口を開いた。

 

 

「攻撃力+1、ダメージもぜーんぶ1。全く、あいつもこんな時くらい普通の武器使えば良いのにねぇ」

 

 

どくばり。

短剣の一種。

攻撃力+1 おしゃれさ+2 おもさ+3。

攻撃時2%で急所突き、敵に与えるダメージが1になる。

基本的な情報はそんなところだ。攻撃力+1だけなら、元々攻撃力の高い冒険者が装備すればまだある程度は使えたかもしれないが、そこにさらにダメ押しをするの様に降りかかる「敵に与えるダメージが1になる。」。

これによって相手が誰であろうと、使う側が誰であろうと、与ダメージはこの母なる大地アストルティアに存在する如何なる攻撃にも劣るものへと成り下がるというわけなのだ。

 

 

「しかぁも、最初期のアプデの段階でモンスター全体に即死耐性が付いちまったもんだからねぇ。そのせいで頼みの急所突きも体感的には2%を軽く下回る発動率だし……」

 

「な、なんの話をしてるのエレット?」

 

 

妙に実感のこもったエレットの言葉から、今までの戦闘では相当苦労をしているのだろうことをユルールは察した。それと同時にこの後のマリーン討伐の雲行きの怪しさを悟る。

 

 

「エレットうるさい。どくばりは最強。これ絶対」

 

 

しかし当のレイクはどこ吹く風である。慣れた手つきで二本のどくばりを両手でくるくる回すと、目前のライノソルジャーに向かって構える……。

 

 

「あのなぁ、それやめろって人間子供で短剣二刀流した時のコマンド待機モーション!!なんかめっちゃムカつくんだよ!」

 

「ウェディは全般的にモーションがムカつく。分かったら黙ってて」

 

「オイ」

 

 

聞くに耐えないケチの付け合いの後、レイクは地を蹴ってライノソルジャーに肉薄した。さすが踊り子をやっているだけあり足取りは軽やかだ。その動きに今まで途方に暮れていたユルールも我に返って感心する。

 

 

「へぇ! レイクもやるじゃん! もしかして何か作戦が……」

 

 

レイクのこうげき!

ライノソルジャーに1のダメージ!

ライノソルジャーに1のダメージ!

 

 

「んなわけあるかい!!」

 

「ないの!?」

 

 

エレットの諦観のツッコミに、ユルールの悲痛な叫びである。ちなみに両手のどくばりで相手を攻撃しているので計2ポイントのダメージである。

 

 

「ほらはやく、エレット、攻撃。遅いよ」

 

「お前のせいだろうがぁぁぁぁ!!!」

 

 

悪い人じゃないのは間違いないと思うけど。ユルールは思った。この人達と戦って、あのマリーンに勝てるんだろうか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ、ユルールさん! 来てくれたんですね!」

 

 

それから少ししてたどり着いた古代オルセコ闘技場の前に、ひとりのオーガの女性がいた。

 

 

「マイユさん! はい、遅れてしまって……」

 

「こんな殺風景な荒地にも一輪の花が…お嬢様、ぜひこれからこの私と華麗なるひと時を」

 

「エレット黙って。黙ってウェディ男」

 

 

マイユと呼ばれた格闘家然とした女性を一目見るなりその手を取って妙な事を口走り始めたエレットを、レイクが制止する。

 

 

「みんなが捕まってるのは、ここ?」

 

「はい、賢者マリーン……いや、あの魔物の言うことが正しければ、ですが。

お二人はユルールさんのお仲間さんですね、よろしくお願いします」

 

 

このマイユという女性は、婚約者のアロルドという男をマリーンに攫われたことで今回の騒動に巻き込まれている。ユルールと同じく玉座にてマリーンの正体を目撃した後、脇目も振らずにここオルセコ闘技場に向かって今に至るのだという。

 

 

「このマイユさんもかなり凄腕の武闘家なんだよ! ランガーオ村では色々とお世話になったなぁ……」

 

「へぇ、ユルールはランガーオ村出身なのかい?」

 

「あ、いや、まぁ……そんな所かな、はは……」

 

 

どうも返答が鈍いユルール。その理由は、実はユルールは元々アストルティアの中心に存在する大陸、レンダーシアのエテーネ村で生まれた人間であり、生き返しを受けてオーガになった身だからという事情があるのだが、まあそんな込み入った事情を話すのも面倒なので黙っておいたというわけだ。何言っているのか分からない人は今すぐドラクエ10をプレイしよう。

 

 

「それより、これからいよいよ捕まった人々を助けに行くよ。

みんな、準備はいい?」

 

 

そして話が長引くのを恐れて、これからの事へと話題を移すユルール。実際彼は数刻前に気の合う本来の仲間をかの魔物に連れ去られているのだ。それだけでも焦る理由としては十分過ぎるものである。

 

 

「ええ、私はいつでも大丈夫です!」

 

「こっちも平気さぁ! 賢者だかなんだか知らないけど、俺ちゃん達の手にかかれば楽勝もんよぅ!」

 

「ん、ん〜??」

 

 

マイユはともかくエレットの調子のいい発言にユルール、若干疑心暗鬼である。なんてったって……。

 

 

「ばっちこい。問題ない。どくばり最強」

 

「オメーが一番心配なんだどくばり狂め」

 

 

まるで躊躇い一つ見せずどくばり最強と言い張り続けるレイクに突っ込みならも、エレットはユルールの背中を叩いて言った。

 

 

「まあ、見てなって。 あいつあれでも、やるときゃーやる奴だ」

 

 

 

 

 

 

「おや、あんた……?」

 

 

古代オルセコ闘技場の中心、入場門をくぐった先のコロシアムで待ち構えていたのは、ぶくぶくに太った青肌の巨体とハンマーを持つ、賢者と言うよりは術師と言った風体の魔物だった。

 

 

「こんな所までたどり着くなんて、おマヌケさんのわりにはやるじゃないか!」

 

「ユルール、なんかヘマしたの?」

 

「ち、ちょっとね。ガートラント城前で、スリにスられそうになって……」

 

「ユルっとしてんなぁ。ユルールだけに」

 

 

全く緊張感のないレイクとエレット。そのノリに慣れてきたのかユルールも始めに比べると自然体で話せているようであり、当然マリーンはそれが面白くない。

 

 

「ふん……そういうことかい。

ジュリアンテを倒したのはユルール、あんただったってことかい?」

 

「ユルール、なんかヘマしたの?」

 

「今度はヘマじゃないよレイク。僕と僕の仲間で、そういう名前の魔物をつい前に倒したって事だよ」

 

「でもそれが知られてないあたり謙虚なのか他の誰かに名声を取られちまったかだな。俺ちゃんならありえねー事態だね」

 

「ぐぬぬっ……その横のフヌケな二人はなんだいっ!? 気に食わないね!

出てきな、アロルド! ジーカンフっ! 二人をまとめてやっちまいな!! ついでにユルールを捕らえるんだっ!」

 

 

せっかくのボス戦前の会話なのに、二人が横槍を挟むから全然締まらない。痺れを切らしたマリーンは遂に、攫っていたマイユの婚約者アロルドと、同郷の豪傑ジーカンフを呼び出した。彼女が手に持っている紫色のボールが妖しく光ると、そこには召喚された二人の姿が。

 

 

「……はい……マリーンさま……。

このアロルド、貴女の仰せの通りに……」

 

「待ちなさいっ!!」

 

 

しかし、二人がユルール達に襲いかかろうとした刹那、眼前に飛び込んでくる影があった。別行動で動向を伺っていたマイユである。

 

 

「ふたりとも、目を覚まして!!」

 

 

そう言うなりマイユはアロルドの腹に強烈な拳をかまし、次の瞬間にはジーカンフに飛び回し蹴りを打ち込んでいた。その技の冴えっぷりに彼らは息をのむ間も無くコロシアムの壁に叩きつけられる。

 

 

「ほう……? 少しは出来るようだね!

それなら、もっと応援を寄越そうかねぇ!?」

 

「なっ……!?」

 

 

二人は私が止まるから、皆さんはマリーンを。そう言おうとしたマイユだったが、直後のマリーンの行動がそれを阻んだ。魔物の呪術師がいつのまにか両手に仕込んでいたらしい大量のボールを宙に投げると、一瞬の発光の後に今まで行方不明になっていた兵士や冒険者達が次々と姿を現わす。その数は二十から三十までにのぼり、コロシアムの半分を埋め尽くした。

 

 

「そんな……流石にこんなに……私だけじゃ……!!」

 

「私達がいますよ、お嬢様?」

 

 

だが失念しかかったマイユの横に、エレットとレイクが颯爽と並ぶ。

 

 

「エレットさん、レイクさん……!!」

 

「ユルールよぅ!そっちはしばらくおめーさんに任せるぜ!?

俺ちゃん達はこの洗脳されたおマヌケ共とちょっと遊ぶからよぅ!?」

 

「ああ、分かった! 気をつけて!!」

 

「大丈夫、どくばり最強」

 

「…………」

 

 

最後の沈黙はレイク以外の誰に当てはめてもらっても構わない。みんなそんな感じだったからね。

 

 

「よ、よし! それじゃあレイク、エレット!」

 

 

だがユルールのその号令で、それぞれが気持ちを切り替えて構えた。彼自身もマリーンを見据えながらバスタードソードを鞘から抜き放ち、盾を構える。

 

 

「みんな、行くよ!!」

 

 

そして続いて上げられた閧と同時に、戦いの火蓋は切って落とされた。

 

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