DOKUBARI QUEST Ⅹ   作:ニモ船長

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第四話

 

 

「がはっ……ぐ……!!」

 

「み、みんな……大丈夫……!?」

 

 

呪術師マリーンが怒りに任せて放ったその一撃は、闘技場の地盤を粉砕するには十分過ぎる威力を誇っていた。彼女の操り人形と化していたガートラントの戦士までもを巻き添えにして、彼女は眼前のすべての人達を地割れの中に飲み込ませたのだ。

 

 

「し、シア……!!」

 

「はい…! すぐに回復を……!!」

 

 

戦局は一変していた。マリーンは自分の兵士にも多大なるダメージを被らせたが、お陰で敵対する冒険者達殆どの動きを止める事に成功したのである。

特に彼女の真正面にいたユルールのパーティーはダメージが深刻だった。魔法使いのアマセと武闘家のヨナは呼んでも返事がなく、かろうじて意識のあるユルールと僧侶のシアも地面に身体がめり込んでしまい身動きが取れない。

またギリギリまでガートラントの戦士達に気を取られていたマイユも不意に大きく吹き飛ばされて意識を刈り取られてしまっていた。

 

 

「フフ……ははははぁっ!! 見たかい! これがマリーン様の実力さ!!

これだけあたしを傷つけたんだ、お前ら……二度と帰れると思うなよ?」

 

 

そんな冒険者達に、少なくとも今の攻撃の反動を一切受けていないらしいマリーンがゆっくりと歩み寄ってくる。

今この状態で彼女の追撃を食らってしまうことは、間違いなく全滅に直結する。だがユルール達は動くことさえままならないのだ。

 

 

「そうだねぇ……お前達をちゃんと洗脳して、今度こそ最強のマリーン軍団を作り上げるのも良いかもしれないねぇ? 今までのあいつらは緩くてしょうがないよ」

 

 

 

「うーん……まだ早いと思うけどねぇ。そーいうの考えるの」

 

 

 

「何……!? 誰だ、出てきな!!」

 

 

だが、そこに唐突に降りかかった呑気な声音。驚いたマリーンがそう声を張り上げるのと同時に……彼女から見て円形コロシアムの対角の位置に存在した地面の凹みから、ボコリと飛び出る影があった。

 

 

「なっ……お前らっ……!?」

 

「ふぅー、今のは割と危なかったぜ」

 

「……オレは別に、エレットがいなくても、避けられた」

 

「やせ我慢すんなってレイク。こーいう時はおにーさんの出番さ」

 

 

そう、レイクとエレットである。誰もが甚大な被害を被っている中、彼二人は比較的軽傷で済んでいる様子だった。

 

 

「レイク、エレット!」

 

「おぅユルール、俺ちゃんが今みんなを回復して回っからな!

でもその前に……と」

 

「エレット」

 

 

その前に、あいつをやっつける。そう言おうとしたエレットを、レイクが留まらせた。

 

 

「エレットは先にみんなを回復してて。あいつはオレでじゅうぶん」

 

「…ははーん、さてはお前」

 

 

エレットはこれからレイクが何をしようとしているのかを察して、ニヤリと笑った。それにレイクも不敵に笑って応じる。

 

 

「そういうこと」

 

 

彼は左手に持っていたどくばりを背中の鞘に収めた。そしてなんと……右手で逆手に構えていたどくばりを持ち替えて、順手で剣を持つかのように構えたのだ。

 

 

(あの構えは一体なに……!? 短剣の特技であんな初動のものはなかったはず……)

 

 

仲間の魔法使いのアマセが一度短剣を試した時の事を思い出しながら僧侶ディオニシアは、そんなレイクの構えに強い違和感を覚えた。

基本的に短剣はリーチが短い分、逆手に持った方が刃を固定しやすく、また腕を敵に向けて伸ばすという格闘にも通じる極めて自然な動作で相手を斬る事が出来るのだ。現に現時点で冒険者の間で伝わる短剣の秘技の数々の全てが逆手持ちで発動させるものである。

では、あの構えから放たれる技とは、一体。

 

 

「……って、意識がぜーんぶレイクの方に集中したところで、俺ちゃんの気まぐれアターック!!」

 

「今度は一体何だいっ!? ……ぐわっ!!」

 

 

突然のエレットの攻撃宣言に対応が遅れるマリーン。そんな彼女の目線の先でエレットは手首をくりっと回転させながら人差し指を上に向ける。

 

 

「ジバリカ、起動!」

 

 

彼がそういったその瞬間、マリーンの足元の地面……先ほどのギガトンハンマーでボコボコになった地面が、突然せり上がって彼女の足を突き刺した。深々と刺さるだけでなく一つの刃が他の刃とくっつきあい、まるでトラバサミの様にマリーンの足を捕捉する。

もうお分かりだと思うが、ギガトンハンマーの時もエレットはジバリカ……時間差で放たれる土属性の魔法を唱え周囲の土を操る事で、ダメージを最小限に抑えていたのだ。

 

 

「ぐっ……地味な技を……!!」

 

「よーしレイク、あとは頼むぜぇ?」

 

「了解」

 

 

そして役目は終わったと言わんばかりにユルール達へと駆け出すエレットを尻目に、レイクもマリーンを見据えて地を蹴った。

 

 

「は、速い……!」

 

 

シアとエレットから回復魔法をかけて貰いながら、ユルールはそのレイクの動きに驚愕していた。もはや目視できない速さである。レイクの着るフェンサーマントのマント部分が銀色に塗色されていなければ、彼の姿は完全に影となって確認できなかっただろう。

 

 

「く……小賢しいっ!!」

 

 

マリーンはハンマーを振って対処しようとするが、当然のごとく避けられる。瞬きする間もない程の時間でマリーンの懐に入り込むと、レイクは大きく跳躍し、呪術師の顔面に肉薄して。

そして、言った。

 

 

「どくばりスキル、一の針」

 

 

そして、マリーンの口元でどくばりを一閃させる。するとどうした事か、その針の軌跡に紫色の霧が発生したではないか。

 

 

「ど、毒かぇ……小癪な……!!」

 

 

その霧を大きく吸い込んでしまったマリーンが口惜しげに悪態を突き、再びハンマーで地面に着地したレイクをなぎ払う。これを彼はバックステップで避けると、マリーンをじっと見やった。

 

 

「フン、そんな搦手でこのあたしを出し抜こうなんぞ百年早いんだよ! それなら先にお前を叩き潰すまでさ!」

 

 

そして、先程の大技……ギガトンハンマーをまた繰り出すべく、ハンマーを空高く振りかぶった……だが。

 

 

「その毒、弱いんだ」

 

 

「……は?」

 

 

突然のレイクのカミングアウトに、マリーンは拍子抜けした声を出す。

 

 

「毒としては、普通の毒以下。動くのに支障はない」

 

「……何言ってんだいアンタ」

 

「だけど」

 

 

ジャキッ、と、どくばりを改めて構えるレイクは、続ける。

 

 

「その毒は、アンタの体内で解毒される瞬間に、光る」

 

 

その瞬間。

マリーンのせり出た左下腹部が、突然紫色に発光し始めたのだ。

 

 

「なっ、これは一体」

 

「そこがアンタの解毒器官。要は……」

 

 

そして、マリーンがそれに驚き声を上げ……そのセリフが最後まで紡がれる前に。

 

 

「そこがアンタの、『急所』」

 

 

レイクは稲妻の速さで、その光るマリーンの腹をどくばりで貫いていた。

 

「グッ……グアアァァッッ!!??」

 

「ユルール、今!」

 

 

レイクの宣言通り急所をどくばりで刺されたマリーンはその致命傷に断絶魔を上げる。そして続けて放たれた彼の掛け声に、ユルールは思わず飛び起きた。

 

 

「わ、分かった! ……呪術師マリーン! 覚悟ッ!!」

 

 

後方に下がるレイクと入れ替わる様にして、ユルールが突進する。

 

 

「あ、あたしの技が効かないなんて……これが生き返しを受けた者と……そして……」

 

 

それがマリーンの最期の言葉となった。雷撃をまとったユルールの剣が、彼女の胸を深々と切り裂いたからだ。

 

 

 

「……ギガスラッシュ!!!」

 

 

 

 

 

 


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