ラブとミシェル   作:紫 李鳥

3 / 4
お引っ越し

 

 家賃の安い一軒家を見つけたのは、〈MoonValley(ムーンバレー)〉という小さな村だった。隣家は橋を渡った川辺にある。山と川に囲まれた美しい場所だった。

 

 築30年の一戸建ては、内装リフォームをしているので、外観から受ける印象よりは綺麗だった。

 

「ラブ、ここが新しい我が家よ。どう?気に入った?」

 

‥もう、最高っすよ!山あり、川あり、ミシェルありで‥

 

 冷蔵庫やベッドなどの備品が付いているので、生活には不自由しない。

 

「明日は食料のまとめ買いをしないとね。小さな畑があるから、野菜の種も買おうか」

 

 来る途中で買った食材で夕食を作りながら、ラブに話しかけた。

 

‥いいね。自給自足ってわけだ‥

 

 

 

 翌日、近くの町で食料を買うついでに、求人の張り紙を探したがなかった。帰る途中で小型の銃を買った。用心のためだ。

 

 帰宅すると早速、シャベルで土を起こすとニンジンの種を蒔き、ジャガイモの種芋を植えた。

 

「どうか、実りますように」

 

 ミシェルはそう言いながら、如雨露(じょうろ)で水をやった。

 

「ラブ、おいで」

 

 その辺を嗅ぎ回っているラブを呼んだ。

 

「畑に入っちゃ駄目よ。分かった?」

 

 ラブの青い首輪をつかんで畑を指した。

 

‥了解。生活の(かて)だろ?そのぐらい分かるさ‥

 

 念のために、集めた小枝で柵を作った。

 

‥トホホ。俺のこと信じてねぇな‥

 

「ラブ、川辺を散歩しようか?」

 

‥待ってた、ホイ‥

 

 

 昼食用のサンドイッチをバスケットに入れると、ジャケットのポケットに銃を入れ、水筒を肩にかけた。

 

 

 小鳥のさえずりと、川のせせらぎが心地よかった。川辺には草花が咲き乱れ、まさに、自然の宝庫だった。

 

 崖の近くまで来た時だった。所構わず嗅ぎ回っているラブを呼んだ。

 

「ラブ、おいで」

 

‥なんだよ。今、探検中なのに‥

 

「ここ、崖、危ない。分かった?」

 

‥何、片言の英語みたいに、ここ、崖、危ないって。崖は危ないから気をつけろって言いたいんだろ?分かってるよ、ガキじゃあるまいし。人間の歳で言うと、20歳を過ぎた立派な大人だぜ。心配すんなって。ミシェルを泣かせるような真似はしねぇから、安心しな‥

 

「分かった?ここ、崖、危ない」

 

‥まだ、言ってるよ‥

 

 

 花の咲き乱れる川辺に腰を下ろすと、景色を満喫した。川の流れは、穏やかな音色を奏でていた。

 

「ラブ、キレイなとこだね」

 

‥ああ。確かに‥

 

「ここにずっと住みたいね?そのためにも仕事を探さないと」

 

‥すまねぇ。……俺のせいで‥

 

「お昼にしようか?」

 

‥待ってました‥

 

「はい」

 

‥うそ、ちぎってくれんの?ヤリー‥

 

ガブッ

 

‥ついでにミシェルの指も舐めちゃえ‥

 

ペロペロ

 

‥これが、ミシェルちゃんの指の味か……‥

 

「おいちかったの?」

 

‥確かにうまかったよ。けど、その赤ちゃん言葉やめてくれねぇかな。俺さ、大人のオス。立派な男。恋もすりゃ、女を好きにもなる。……分かんねぇだろな、この切ない気持ち。あらっ、ミシェル、待ってくれよ‥

 

「帰るわよ。ラブ、早くっ」

 

以心伝心(いしんでんしん)は無理か‥

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。