鬼滅の金庫番   作:新グロモント

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10:ハローワーク

 裏金銀治郎は、給与管理を行っており、その中に新人隊士達――竈門炭治郎、我妻善逸、嘴平伊之助の三名分についても漏れずに管理されている。

 

 今までの任務状況を確認し、事が全て原作通りに進んである事に彼は安堵していた。つまるところ、主人公達は順調に成長を遂げている。成長のキーとなる鬼達は、踏み台という役目をしっかり全うした。

 

 それだけで、鬼に感謝しても良いとすら思っていた。

 

 

「裏金銀治郎様、今月分の書類を持ってまいりました」

 

「そこに置いておいてくれ」

 

 事後処理部隊『隠』の者が、今月の諸経費を纏めた書類を置いていった。

 

 月末になると積み上げられる書類の山。だが、全集中・常中の呼吸は、戦闘以外にも使い道はある。それが、事務処理の効率化だ。圧倒的な集中力と速度をもって、常人の何倍もの仕事をする。

 

 本当なら、胡蝶しのぶという助っ人がいるはずなのだが、水柱の冨岡義勇と一緒に呼び出しされている。

 

「時代が動くか」

 

 裏金銀治郎は、先日完成したばかりの、柱専用の緊急活性薬(・・・・・)を引き出しから取り出した。厳重に施錠されたケースの中には、赤い液体が詰まったインスリンの注射器のような物がしまわれている。

 

 人の英知の結晶であった。

 

 ケースに収められている数は、全部で10本。柱9人分と裏金銀治郎の分だ。たった、10本作るのに、下弦の肆がもう殺してくれと言うほどすり潰されていた。そして、重要なのは、その効果なのだが、既に人体実験(・・・・)も完了した。

 

 材料の下弦の肆は、再生ができないようにアイアンメイデンを参考にして作られた特注の箱に詰められている。箱のサイズは小さく、肉体を完全に再生できない。血鬼術もそんな状態では使えないし、使えたとして血界により打ち消される。

 

 その箱――蛇口が付けられており、血が滴り落ちるドリンクサーバーになっている。

 

 今まで数多くの人を殺したのだ。その報いを受けているだけだ。因果応報とはこの事である。この様子をみれば、被害者とて少しは気が晴れるだろう。

 

………

……

 

 裏金銀治郎同様に、天性の勘を持つ産屋敷耀哉も、時代の動きを察していた。

 

 歴代最高の柱、下弦の鬼を捕獲、鬼舞辻無惨との遭遇、人を食べない鬼である竈門禰豆子。長い歴史の中でも、短期間でこれほどの事件が起こることはなかった。

 

 そして、鬼滅隊の能力も過去最高である。

 

 裏金銀治郎がケースに収まった薬を産屋敷耀哉に渡した。半年に一度の柱会議までに、完成にこぎ着けたのは、裏金銀治郎の日頃の行いの賜である。

 

「お館様、こちらが完成した緊急活性薬でございます」

 

「苦労を掛けたね銀治郎。後は約束通り、こちらで対応しよう」

 

 依頼された物を完璧な形で納品したのだから、後は上司の仕事であると裏金銀治郎は思っていた。今回の柱会議では、竈門禰豆子の処遇を決めるターニングポイントでもある。そんな場面の後に、緊急活性薬の話なんぞ寝耳に水なのは間違いなかった。

 

「重ね重ね感謝致します。それと、小耳に挟んだのですが、那谷蜘蛛山が大変な事になっていると……」

 

「かなり奮闘しているが下弦の鬼がいるかもしれなかったので、義勇としのぶを向かわせた」

 

 裏金銀治郎は、義勇一人で下弦を秒殺するシーンを思い出した。それに付随して、裏金銀治郎は大事な事を思い出した。この仕事の後、主人公一行が蝶屋敷に入院する事になる。

 

 犬並みの嗅覚を誇る竈門炭治郎に、鬼肉を隠し通すのは至難だ。だが、証拠も無く疑う事はしないのが彼の良いところである。すなわち、鬼肉の現物さえ処分しておけばよいのだ。

 

「お館様、私もその場に行っても宜しいでしょうか?」

 

「理由を聞いても良いかい?」

 

 既に、柱二名も派遣しており下弦の鬼ならば討伐は確実であった。にも、関わらず自ら志願する裏金銀治郎には別の目的があると察していた。

 

「勿論でございます。隊士の質が向上している鬼滅隊が苦戦しているというこの状況……つまりは、現場には強力な鬼が複数体いると推察致します。なにより、隔離施設で管理している鬼も量から質へとシフトしたいと考えております」

 

「より、強い鬼を管理するのは危険が伴うのでは?」

 

「既に、下弦の鬼の管理にも成功しております。それに――鬼の心の折り方は、鬼滅隊でも柱に並ぶ物だと自負しておりますので、ご安心ください。そして、何より、私の勘が隊服を作る良い素材が手に入ると訴えているのです。必ずや、鬼滅隊の利益に貢献致します」

 

 柱に並ぶどころか、心をへし折る方法については歴代最高であった。

 

「わかった、許可しよう。但し、現場には『隠』の者達もいる。分かっていると思うが、事は穏便にね」

 

 御意と裏金銀治郎は、返事をして部屋を退出した。

 

 向かう途中に、蝶屋敷により鬼肉の処分も忘れていない。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 『隠』の後藤は、那谷蜘蛛山の近くで待機していた。剣士としての才能に恵まれなかった彼等が、激戦区に足を運ぶのは事が済んでからだ。

 

 だが、一向にその報告が届かず、部隊全体に不穏な空気が流れ始めた。

 

 山の中に雷が落ちるような音がした。

 

「やったか」

 

 『隠』の一人が、言ってはいけない事を口にした。

 

 だが、そのセリフと同時に二人の剣士――最高戦力の柱が到着した。『隠』の者達は、二人も柱が来たことに安堵し、勝利を確信した。それほどまでに、柱という存在は絶対的だ。

 

「あらら、到着が遅かったですかね~。冨岡さん」

 

「行くぞ」

 

 この時、後藤だけが内心ビクビクしていた。

 

 京都へ向かう一等車両での出来事……あの場にいたことがバレたら、どうなるか恐ろしかった。

 

………

……

 

 一人、那谷蜘蛛山に別ルートから侵入を図る裏金銀治郎。

 

「蜘蛛とか好きでは無いのですがね」

 

 文句を言いつつ、奥へと進んでいった。向かう先は、鬼の気配が強い方向だ。だが、一番強い方向へは向かわない。そこに居るのは、下弦であり目的とは異なるからだ。

 

 今回の裏金銀治郎の標的は、下弦の伍の姉だ。

 

 その鬼は、血鬼術で大量の糸を吐き出せる。人が溶ける溶解液にも耐え、柔らかく堅い……理想的な隊服素材だ。更に、服だけ溶かすという液体も、ロマンを感じさせる物である。色々と成分を調整した上で、ペ○ローションという製品でアンブレラ・コーポレーションから売り出す計画もできあがっていた。

 

 表に出せる製品の一つや二つないと、フロント企業とて怪しまれる。こういった、細かい気遣いができる男なのだ。

 

「鬼は嫌いですが、鬼という材料には好感を持てます」

 

 遠くで木が倒れる音がした。それから、空を見上げると遠くで竈門炭治郎が空を飛んでいるのが目に映る。原作主人公を初めて見かけたのが、まさか空を飛ぶシーンだとは裏金銀治郎も想像していなかった。

 

………

……

 

 胡蝶しのぶは冨岡義勇と分かれ、我妻善逸を救った。

 

 毒に精通していた彼女だからこそ、蜘蛛へと変貌を遂げた者達を人へと戻せる。柱として必要不可欠な存在だ。那谷蜘蛛山の残党駆除に精を出していた。

 

 そして、童女の見た目をした鬼相手に彼女なりの救いを説いていた。だが、当然、そんな内容を鬼側が聞き入れるはずもない。

 

「その痛み苦しみを耐え抜いた時、貴方の罪は許される」

 

 裏金銀治郎も大概だが、胡蝶しのぶも存外壊れている。

 

 拷問をしてあげるから一緒に頑張りましょうなど言われて、「はい」と言う鬼はいない。その狂気に当てられ、鬼は寒気がした。

 

 逃げ切る事はできないと本能で理解した鬼は、愚策にも柱を相手にする。鬼の手から大量の糸が放出され、胡蝶しのぶを絡め取り溶かそうとするが、その糸が彼女に触れる事はない。

 

「蟲の呼吸 蝶ノ舞 戯れ」

 

 胡蝶しのぶが技を放つ態勢に入ったのを目にした裏金銀治郎は、焦った。夜の山中を走り回り、ようやく見つけたと思ったら、目標が死ぬ三秒前だったのだ。

 

 ここで死なれては、骨折り損のくたびれもうけ。

 

 裏金銀治郎が体勢を低くし、刀を構える。

 

「雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃」

 

 全呼吸の中で最速と言われている雷の呼吸。裏金銀治郎も一応というレベルで扱う事ができた。元々、金の呼吸は岩と雷を掛け合わせた呼吸である。元となった呼吸ができないわけはない。

 

 しかし、雷の呼吸の適性は乏しい。我妻善逸よりも遅い……だが、本気でない胡蝶しのぶより、早く首を切り落とすには十分であった。スパっと、痛快な音と共に切り飛ばされる首。そして、残った胴体をみて、「おやおや」と口にする胡蝶しのぶ。

 

「横取りは、少しマナー違反じゃありませんか? それに、その刀……日輪刀ではないですよね」

 

「えぇ、良い刀でしょう? 伝手で手に入れた長曽祢虎徹という刀です。前に、府知事とパーティーした際に、刀が好きだといったら、安価で譲ってくれました」

 

 鬼の首すら落とせる名刀。男であるからには、一度は手にしてみたかった世にも名が知れている刀である。そんな、刀の話で盛り上がる二人の足下には、首と胴だけになった可愛そうな鬼がいた。

 

 鬼は、考えた。

 

 日輪刀を使って首を切断しなかったのは、何故かと。理由は分からないが、今現れた男なら、自分を助けてくれると淡い期待を抱いた。見た目は童女……そして、相手は男である。女と違い、男相手なら多少は同情が引けると考えていた。

 

「た、たすけて!! おねがい」

 

「あの~銀治郎さん、分かっていると思いますがその子は、鬼ですよ。助けてしまうと鬼滅隊の規則的にもちょっと~」

 

 胡蝶しのぶは、心にも思っていないセリフを口にした。

 

 裏金銀治郎が、鬼を助けるなど露程も思っていない。だけど、何処で誰が見ているか分からないので、一応のパフォーマンスをしてるだけに過ぎない。

 

「私としては、しのぶさんが鬼に慈悲の心を見せていたと思いましたよ。何十人も殺している鬼ですよ。その分、しっかりと回収しないと」

 

 裏金銀治郎のセリフに、底知れぬ恐怖を感じる鬼。

 

 その直感は正しかった。これから、連れて行かれる施設で心を折られ、死ぬまで蜘蛛糸を生成する工業部品とされるとは、思ってもみなかっただろう。

 

「つまりは、彼女も施設送りに?」

 

「施設送りとは表現が悪いですよ。就職難のこの時代に、彼女にぴったりな職場を斡旋して上げるだけです。鬼ともなれば、働き先は限られますからね。しかし、問題は逃亡癖がある。下弦の伍が鬼舞辻無惨に呼び出されている隙に仲間と逃げ出そうとする程です。まぁ、私は、鬼ほど甘くはありませんけどね」

 

 誰も知るはずのない情報。まるでその場にいたかのように言われて、恐ろしさが倍増した。

 

 隔離施設に連れて行かれる前に、鬼の心は既にズタボロであった。

 

「では、私は繭にされた隊士を助けに行きますので、そちらはお任せしますね」

 

「あぁ、頑張ってくれ。では、新しい住まいに移動だ。空をよく見ておけ、これが最後だ」

 

 これからは、いつ死ねるかと天井の染みを数えるだけになる彼女である。

 




柱会議……果たして、元柱で裏方仕事をしている主人公の達位置が困るぜ。

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