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良い上司とは、部下の気持ちを察し、言われずとも動く者である。また、部下も上司が求めることを察し、理解し率先して行動する。組織運営を円滑に行うためには、そういった人材が必要だ。
裏金銀治郎は、そういった意味では理想的な部下である。そして、上司でもある。
隔離施設にて、那谷蜘蛛山の唯一の生き残りが肉体を再生し蘇生した。首だけの状態にされ、箱詰めされた絶望と苦痛は彼女の精神を蝕んだ。彼女は、何処にいるかも定かで分かっていない。
「目が覚めたなら、仕事の時間だ。働かざる者食うべからず」
姉蜘蛛は、目の前にいる裏金銀治郎を見て、隔離施設に連行されるまでの記憶が呼び起こされた。首を切断され、頭部を粉砕された。そんな、悪魔みたいな男が目の前にいたら、鬼だって顔が青ざめる。
だが、ソレを彼女はぐっと堪えた。
「お、おはようございます」
「――いい心がけだ。では、施設を案内しよう」
挨拶こそコミュニケーションの基本。ソレができる鬼は少ない。下弦の伍を相手に、失敗した事がないのは、伊達ではない。パワハラ耐性は、鬼の中でも上位だ。
そんな彼女であるが、隔離施設内を少し案内されるだけで、血の気が引いていった。
………
……
…
「あ、あれは―」
姉蜘蛛は、上司であった下弦の伍に近い力を感じ取った。だが、そこに鬼の姿はない。あるのは、とても厳重に管理されている小さな箱。それに付いている謎の蛇口。そして、蛇口からは血がしたたり機械へと貯められている。
「少し前に捕獲した下弦の肆の零余子だ」
ギシギシと、彼女の心が折れそうになる。視界は、モノクロへと変わった。
十二鬼月と呼ばれる最上位の一人が、あられもない姿に変えられていた。それだけに留まらず、血を搾り取られるだけの物質に変えられている。
「ぁ――」
「人をあれだけ殺しておいて、いざ自分の番になったら心を閉ざすとは良いご身分だ。こちらとしても仕事さえして貰えればかまわないがな」
裏金銀治郎は、姉蜘蛛の髪の毛を掴み彼女専用に作った仕事部屋に押し込んだ。
そして、両腕を壁に突っ込ませ身動きが取れないように固定する。隔離施設内では、血鬼術は使えない。だが、その範囲から外れれば別である。分厚い壁の向こうに手だけ出させる。
「な、何でもするから」
「当たり前だろう。血鬼術で糸を出せ、必要に応じて溶解液も出して貰おう。だが、こちらが指示するまでは、糸を出し続けろ。働きに応じて、飯のグレードをあげてやる」
最高グレードで猿肉までしか上がる事はない。そして、働きが足りない場合は当然飯のグレードが下がる。最低グレードは、下弦の肆の残骸と隊士達の食べ残しの残飯をブレンドしたこの世に二つとない食事だ。
鬼をすり潰した際に出る肉片を鬼自身を使い濾過する。未来志向のエコ対策だ。
「言うまでもないが、持ち場を離れたり逃亡を企てたら、言われなくても分かっているな」
裏金銀治郎は、懐から白い糸状の物を取り出した。そして、爪で引っ掻く。それは、金の呼吸にて、抜き取った姉蜘蛛の神経だ。
その瞬間、姉蜘蛛が激痛を感じ取る。
「ギャアァァッァ」
鬼は、頭部と下半身にわかれても、下半身の異常を察する事が可能だ。つまりは、裏金銀治郎は鬼の神経を使い、苦痛を与えられる。鬼は、無駄に高い回復力から、神経は何度も再生する。その神経を沢山集めたら、どうなるか考えるに容易い。
ポキ
聞こえるはずの無い心が折れる音を姉蜘蛛は聞いた。
◆◆◆
裏金銀治郎は、執務室で仕事をやり終えて安堵していた。
なぞのお館様パワーによる金策がないこの世界。あの手この手で鬼滅隊を支えた事がようやく実ってきたのだ。
「僅かに黒字になった」
そう、この1000年赤字を垂れ流してきた鬼滅隊の経営が遂に黒字になったのだ。これは、上弦の鬼を倒す快挙どころか、鬼舞辻無惨をあと一歩まで追い込むに等しい功績である。
更に、この黒字はこれからも加速する予定であった。隊服に使われている技術特許で得られる収入がドンドン伸びているからだ。
だが!! そうは問屋が卸さないのが鬼滅隊である。貧乏神に憑かれているのではないかと疑うレベルの事が待ち受けている。裏金銀治郎が頑張れば頑張るほど、収入が増えるが支出も増えるのだ。
理由は、簡単だ。
今まで、鬼滅隊の資金繰りが苦しい事から請求がこなかった「藤の家」からも、領収書が届き始めた。だが、悪い言い方をすれば善意につけこむ形でなし崩しにしていた事が正常な形に戻ったのだ。
文句一つ言わずに全ての支払いに応じるのは、裏金銀治郎の思いやりである。金の切れ目が縁の切れ目という言葉があるように、各地にある「藤の家」との繋がりを切るわけにはいかなかった。
「だが、全然足りない」
裏金銀治郎は、この後起きる出来事をしっている。だからこそ、更なる金策を急ぐ必要があった。国鉄の列車を吹き飛ばす事件を。『隠』の事後処理能力では追いつかない事態になるのは、火を見るより明らかだ。
つまりは、裏金銀治郎が各方面に賄賂を送り、証拠を隠滅する必要がある。それと、被害に遭った人への口止め料とお見舞い金などが待ち受けている。
「裕福層にぺ○ローションを高値で売りさばくか」
未来を先取るローションプレイができるとならば、大金を積むだろう。商品化のためには、時間を要するが胡蝶しのぶが持つ薬学の知識と技術があればその実現も早い。鬼滅隊の未来と男の未来を一心に背負う若き乙女である。
裏金銀治郎は、時計を確認し、そろそろかと立ち上がる。日輪刀と赤い液体が入った試験管を片手に部屋を出た。
………
……
…
蝶屋敷の縁側に座り、時を待つ裏金銀治郎。
この時、竈門炭治郎は、蝶屋敷に近づくにつれ強烈な鬼の匂いがする事を疑問に思っていた。だが、鬼滅隊の拠点であるこの場所に鬼などいるはずもない……だが、妹と同じく例外が存在するのではと淡い期待をする一面もあった。
その直感は正しい。例外的存在はいる。隔離施設で鬼滅隊のため、働く鬼達が。
「ごめんください―――」
玄関先から声が聞こえてくる。
返事がないので、訪れた者達は中庭へと回った。だが、そこを訪れた『隠』の者達は、非常に見覚えのある顔が二つもあり驚いていた。すぐさま、立場を理解し頭を上げる。
「裏金銀治郎様、栗花落カナヲ様。胡蝶しのぶ様の申し付けで参りました。お屋敷にあがってもよろしいですか?」
「ここは、私の屋敷ではないから許可は出せないな。でも、背負っている竈門炭治郎君と話がしたいから、席を外してくれないかい?」
裏金銀治郎からの要請に戸惑う『隠』の者達。柱会議での一件を知る彼等としては、鬼を連れている竈門炭治郎に何かするのではと、不安があった。
お館様と現役柱達は、竈門禰豆子の存在を承知している。だが、その情報は、まだ何処にも伝わっていない。よって、裏金銀治郎が二人に手を掛けるのではないかと考えたのだ。
「裏金銀治郎様!! 竈門炭治郎が連れている鬼については……」
「危害を加えるつもりはないから、安心してくれ。それに、君も私と話したいだろう?」
裏金銀治郎は、血液が入った試験管を僅かに見せた。
鼻がよい竈門炭治郎は、それが何かを理解する。そして、裏金銀治郎が言っていることも本当であると。
「俺は、ここで大丈夫です。ありがとうございました」
「話が終わり次第、私が送り届ける。体中が痛いと思うが、少し離れよう。我妻善逸君もここに入院しているからね。彼の聴力は、君の嗅覚同様に異常だ」
◆◆◆
蝶屋敷から十分な距離をとった竹林の中で、裏金銀治郎は竈門炭治郎と向き合った。
「こちらだけ君の事を一方的に知っているのはフェアじゃない。自己紹介をしよう。私は、鬼滅隊の金庫番をしている者で裏金銀治郎という。主な仕事は、給与管理と資産運用だ」
クンクンと竈門炭治郎の鼻が動く。
裏金銀治郎が嘘偽り無い情報を告げていることを理解した。目の前に男に対して、彼は色々と聞きたい事があった。
「竈門炭治郎と言います!! 裏金さんは、一体俺にどういうご用でしょうか」
「取引しよう。君の妹である竈門禰豆子を人間に戻す事に協力する。具体性をアピールするため、下弦の肆の血液を君にあげよう。柱にも内緒で、珠世という鬼に血を渡している事も黙っておく。他にも、君やその仲間が必要な物資があればいついかなる場合であっても用意する。人、物、金……なんでもだ」
裏金銀治郎の本気ぶりに、竈門炭治郎も流石にたじろいだ。
初対面にも関わらず、なりふり構わぬ全力支援ぶりに混乱するのは当然だ。鬼舞辻無惨に近い血を集めている事など誰にも言っていないのに把握されており、しかも全力で支援すると言われれば尚更である。
「えっ!? なにそれ、怖い。はっ!! ごめんなさい、ごめんなさい」
思った事をそのまま口にしてしまう。慌てて口を塞ぐが遅い。
現状、竈門炭治郎の立場は微妙と言わざるを得ない。鬼を連れた隊士など前代未聞である。鬼滅隊の中で全力で支援するという裏金銀治郎の存在は、頼りになるのも事実だ。
匂いで強さがある程度分かるため、裏金銀治郎の実力が並の隊士ではない事は分かっていた。柱に匹敵しかねないとも。
だが、そこはかとなくする胡散臭さを感じ取る嗅覚は天性のものだ。
「謝る必要はない。で、君の返事を聞かせて貰いたい」
「あの~、取引といってもこちらは何をすればいいんですか?」
存外頭がいいと裏金銀治郎は思った。
圧倒的な支援を前に、何を要求するか誤魔化したまま取引を成立させようとしていた。
「難しいことじゃない。蝶屋敷には、何故か鬼の匂いがする。それを、知らないふりをして貰えれば良い。それ以上は、求めない。例え、君が断ったとしても何もしない。ただ、協力してくれるのならば、君の妹を人間に戻す為に尽力する事を確約する」
下弦の肆の血液を見せる。
妹の為、水柱である冨岡義勇にも挑み、鬼滅隊にも入隊した男だ。全ての原動力は、竈門禰豆子にある。ここで頷かなければ、何が目的であったか分からない。
「……一つ、教えてください。なぜ、蝶屋敷には鬼の匂いがするんですか?」
「教えても構わない。だが、それを聞けば私の手を取る以外の道はなくなる。それでも、構わないかね?」
竈門炭治郎の疑問に答えるのは簡単であった。
だが、それはターニングポイントである。理由を聞けば、それ以降、知らぬ存ぜぬは通じない。
だが、お屋形様認可の下で、鬼肉を食わせて隊士を強化しているという事実。それを知ったところで、何もできないのも事実である。情報が漏洩すれば鬼滅隊が崩壊する危険もある。そうなれば、生きている間に妹が人間に戻る事はない。
「俺は!! 妹を人間にするなら迷わないと決めました!!」
「良い返事だ。君に鬼滅隊の真実を教えよう」
頑張れ炭治郎!! 負けるな炭治郎!!
妹の為、全てを賭けると誓ったその時から、君は裏金銀治郎と同類なのだ。
人は、何かを得る為には何かを捨てなければならない。
等価交換の法則だ。
ギリギリ、本日中に滑り込んだ!!
今後、言わせてみたい台詞
煉獄杏寿郎「ローションがなかったら死んでいた」
さぁ、このセリフからシーンを連想してみよう。
PS
水曜日分をあやまって即時投稿してしまったw