鬼滅の金庫番   作:新グロモント

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感想で頂きました鉄血☆宰相様のネタを一部拝借させて頂きました。
もし不都合がありましたら、ご連絡ください^-^


13:お前がママになるんだよ

 蝶屋敷の食事は、大変美味しいと鬼滅隊の中でも評判である。

 

 日本各地から集まる名産品、国外からの輸入品など普段では食べる事ができない料理を口にできる数少ない場所だ。しかも、若くて綺麗な女性が看護してくれるサービスもあるので、鬼滅隊の隊士達は、わざと入院しようと画策する者が居るほどだ。

 

 だが、殆どの者が2回目の入院を実現できない。身体能力が向上した肉体はそれほどの物なのだ。

 

「炭治郎さん、また残してますね。好き嫌いしていたら、退院できませんよ!!」

 

 神崎アオイが丹精込めて作ったハンバーグが綺麗に残っていた。

 

 入院してくる隊士達は、多かれ少なかれ好き嫌いはある。だが、肉系に全く手が付かないのは過去にないパターンだ。このご時世、食事の食べ残しなどマナーが疑われるレベルだ。

 

「あれ~?炭治郎は、お肉嫌いだっけ?美味しいよ、このハンバーグ」

 

 竈門炭治郎の思考は、高速で巡る。

 

 我妻善逸の聴力は、竈門炭治郎の嗅覚と同レベルであった。だからこそ、ソレを誤魔化す術も当人には分かる。大人になるとは、そういう事だ。

 

「俺、洋食より日本食の方が好きなんだよ」

 

 決して、肉が嫌いとか言わない。話の論点をずらして回答する事で偽証する。あの純粋だった長男は、大人への階段を上がる。

 

「炭治郎さん、他の人を見てください。綺麗に食べていますよ、それにここの食事……毎朝、みんなが早起きして作っているんです。申し訳ないとは思わないんですか」

 

 何も知らない神崎アオイは、無自覚に竈門炭治郎の心をえぐる。

 

 彼女には、国産(・・)の上質なお肉とだけ伝わっている。その正体は、当然――裏金銀治郎がプロデュースする家畜(・・)の肉だ。蝶屋敷でしか食べられない貴重な物だ。

 

 そもそも、彼自身も残したくて残しているわけでは無い。ニンニクたっぷりのガーリックソースがあっても、鬼肉の異臭を感じ取った。この時ほど、不便だと考えたことは無かっただろう。

 

「にくぅぅぅ!! いらねーなら俺が貰うぜぇぇぇ」

 

「あぁ!! ずりぃぃ。俺が狙ってたんだぞ!!」

 

 横から嘴平伊之助が、ハンバーグを奪い一口でぺろりと平らげる。食べ物を奪い合う醜い争いがそこにはあった。これが普通の反応だ。

 

 そんな時、飯時を狙って裏金銀治郎が訪れる。何が目的かと言えば、竈門炭治郎の様子見だ。

 

「食事中に失礼。みんな、思ったより元気そうで何よりだね」

 

「……誰?」

 

 我妻善逸は、裏金銀治郎とは初対面だ。そして、本当に嬉しいと思っている事が音を聞いて分かった。それもそのはずだ。原作主人公達が元気で育っており、原作をなぞっているのだ。これ以上喜ばしい事はない。

 

「鳴柱の桑島慈悟郎さんに、一時期お世話になった裏金銀治郎といいます。鬼滅隊では、主に給与管理と資産運用を担当しているので、以後よしなに」

 

「金柱様!? 」

 

 神崎アオイがあえて金柱と呼ぶ。鬼滅隊の中で、権力を有する人に対して失礼をしないようにと釘を刺すためだ。

 

「ちょっと待ってよ!! そこの人が柱って!? もしかして、あの美人(胡蝶しのぶ)さんと同じ立場のお偉い様なの!? 女にもモテそうな顔している上に、柱ってどんだけだよ!!」

 

 基本的、女にモテる男が嫌いな我妻善逸である。自分よりモテる人間が全滅すれば、自分が一番モテる男になれるとまで考える。健全な思考を持つ男であった。

 

「善逸君。女にモテたいのかい?」

 

「当たり前だろ!! 可愛い子と結婚して、毎日エロいことして楽に暮らしたいと思ってるわ!! 」

 

 欲望を口にする我妻善逸を、白い目で見る神崎アオイ。

 

 男性の欲望については、理解はしているがここまで堂々と言われると清々しかった。

 

「分かった。君が、真面目に鬼狩りをするなら今すぐにでもその願いを聞き届けよう。どんな女の子が希望かね?」

 

「……え、マジで叶えてくれるの。じゃぁじゃぁ!! 禰豆子ちゃんみたいな子!!」

 

「分かった。彼女ほどの美少女だと一週間は掛かる。で、何人欲しい?」

 

「じゃぁじゃぁ、一杯!!」

 

 鬼を人に戻す薬を用意するより簡単すぎる仕事であった。

 

 裏金銀治郎の表の立場は、アンブレラ・コーポレーションのトップの一人だ。胡蝶印のバイアグラを少しでも欲しいと考える政財界の汚い男達が、電話一本で綺麗どころをダースで用意してくれる。

 

「分かった。代わりに、しっかり鬼を退治してくれよ。支援とて、タダじゃ無い」

 

 竈門炭治郎と我妻善逸には、裏金銀治郎が本気で言っているのが分かった。

 

 我妻善逸は、喜びウキョーーと騒ぎ、元気に跳ね起きる。先日まで、蜘蛛になりかけていた事など嘘のような回復だ。彼が優秀な隊士である為、効果抜群であった。

 

「伊之助君も欲しい物があれば用意しよう。だが、その前に炭治郎君に報告が……すこし、彼を借りるね。吉報だよ」

 

 竈門炭治郎と裏金銀治郎の取引を行って僅か一週間。

 

 たった、それだけの期間でもう進展があったのかと竈門炭治郎は驚いた。自分が生きている間にと思っていた妹の問題が解決したのかと心が弾んだ。

 

 だからこそ、我妻善逸の耳にもそれ以上の事を察する事ができない。

 

 

………

……

 

 人払いされた蝶屋敷の診療室にて、椅子に腰を掛ける裏金銀治郎。

 

「炭治郎君、困りますよ。見て見ぬふりをするという約束……病院食に手を付けないのは頂けない。上手に誤魔化しているつもりでしょうが、内心ひやひやします。気持ちは理解できますが、好き嫌いは止めて頂きたい」

 

「すみません」

 

 見た目も分からないようにして、味付けも配慮された病院食。何が気に入らないのか疑問でならなかった。食べたところで、人体への影響は極小だ。その極小のリスクを背負って得られるパワーは絶大であった。

 

 ローリスクハイリターンという言葉が相応しい。

 

「まぁ、よいでしょう。これから、改善してくれれば構いません。まずは、報告からです。珠世一行と鬼滅隊が手を組みました。これからは、しのぶさんも鬼を人に戻す薬の開発に尽力します」

 

「ほ、本当ですか!!」

 

 まさに、吉報であった。

 

 鬼の毒で蜘蛛になった隊士を元に戻せる胡蝶しのぶが、手を貸すのだ。そのパワーは百人力である。

 

「えぇ、私は尽力すると約束をしました。炭治郎君も態度で示して、欲しいものです」

 

 裏金銀治郎からしてみれば当然の要望だ。

 

 竈門炭治郎の嗅覚は、訴えていた。態度で示さなければ、それ相応の対応が待っている。だからこそ、彼は焦る。目の前にいる裏金銀治郎という男が、味方から敵になったらどうなるのか、考えるだけで恐ろしい。

 

「わかっています!! これからは、ちゃんと食事も食べます!!」

 

「……いまは、それでいいでしょう。君の妹はいずれ人間に戻れる。ですが、人に戻った後、どうするか考えたことはありますか? そんな未来が訪れた時、君は誰を頼るべきかよく考えておくことです」

 

 鬼滅隊で鬼を殺す仕事がおわれば、何をするのか。

 

 みんな目の前の事だけを考えている。だが、未来を見つめる必要もある。ソレができなかったからこそ、鬼滅隊が資金難になるのだ。

 

「はい!!」

 

「良い返事です。大事な事ですが、体は隊士の基本。ここでの治療は、確実に君を強くする。分かっていると思いますが、君達兄妹の立場は危うい。炭治郎君が死ねば、残された妹はどうなると思います?」

 

 竈門炭治郎は、決して考えないようにしていた事を裏金銀治郎から指摘された。

 

 現役柱達は、期待できないのは間違いなかった。寧ろ、喜んで竈門禰豆子を鬼として殺しに来るのが目に浮かぶ。育手である鱗滝左近次という元水柱がいるが、権力と年齢の問題からとても妹が守れるとは思えなかった。

 

 事実、人を襲えば腹を切るとまで約束をしたが、現役柱達には何の効力もなかった。

 

 竈門炭治郎は、裏金銀治郎が頼りになる男だと理解した。

 

「裏金銀治郎さん!! 俺に、何かあったら禰豆子の事をお願いできないでしょうか」

 

 裏金銀治郎は、予定通りだと内心ほくそ笑んだ。

 

 勿論、竈門炭治郎の嗅覚がそれを感知する事を承知の上でだ。

 

 裏金銀治郎は、竈門炭治郎の肩に手を置く。そして、耳元で囁く。

 

「だったら、どうすればよいか分かっていますよね」

 

 竈門炭治郎は、竈門禰豆子の事を理解できていない。

 

 竈門炭治郎に万が一の事があれば、後追い自殺するのは確実である。勿論、その時に生きていれば面倒をみるつもりで返事をしているため、嗅覚には掛からない。

 

 裏金銀治郎の含みのある発言を鵜呑みにして最大限努力せざるをえなくなった。だが、それもある意味当然だ。妹を人間に戻す為、最大限努力をせずしてなんとする。

 

「勿論です!! 早く元気になって鬼を倒してきます。それでは、ご飯を食べてきますので失礼します」

 

 元気な声で退出する竈門炭治郎。ずぶずぶと底なし沼にはまるような感覚を覚えるが、もはや戻る道は無かった。

 

 

◆◆◆

 

 鬼滅隊の当主として、次代の事を考え始めた産屋敷耀哉。

 

 彼の体調は、日を追うごとに悪くなる。鬼舞辻無惨の呪いで短命だと言われているがその事実は分からない。どちらにせよ、刻一刻と命の灯火が消えようとするのをハッキリと感じ取っていた。

 

 だからこそ、産屋敷耀哉は裏金銀治郎に相談を持ちかけたのだ。

 

 裏金銀治郎は、何故私なのだと苦悩する。産屋敷耀哉を崇拝せず、組織維持のみを大事にするという一点では誰よりも優れていた。だからこそ、産屋敷耀哉も彼を呼んだのだ。

 

「忙しいところ済まないね。体調がこのところ芳しくないから、以前より君が進言していた跡目について考えようと思ってね」

 

「そうでしたか、私でお役に立てることがありましたら何なりとお申し付けください」

 

 この時、裏金銀治郎はヒシヒシと嫌な予感がしていた。

 

 そもそも、跡目など息子である産屋敷輝利哉以外に選択肢などない。そして、産屋敷輝利哉の将来は神職の妻を娶り、子孫繁栄に努めるのだ。そんな規定ルートがあるはずなのに、相談とは何事なのだろうと。

 

「輝利哉以外の子供達についてだよ。銀治郎、君ならどうすべきだと考える?」

 

 裏金銀治郎は、これからの発言に対して咎めない事を約束してもらった。組織維持を考えて、最大限に上司の子供を利用するアイディアを提案するのだ。親側からしたら、気分が良い物でないのを分かっていた。

 

「そうですね。やはり、リスクは分散すべきでしょう。娘達は、早々に嫁がせるべきです。候補としては、煉獄杏寿郎、時透無一郎当たりが筆頭です。煉獄家は、歴史も古く万が一の場合には、鬼滅隊を率いる事も可能でしょう。時透無一郎は、才能の一言に尽きます。彼の子が100人も居れば鬼など一ヶ月で滅ぼせる。お館様のご息女と結婚できるなら、二人も喜ぶでしょう」

 

 あまりにも完璧な計画であった。

 

 特に、時透無一郎には種馬になって貰い、毎日十人ほど女性を抱いて欲しいとすら本気で考えている裏金銀治郎。時透無一郎の性格が性欲塗れのクズ男で無かったのが残念だと心底思っていた。

 

「やはり、銀治郎は優秀だ。君が居なければ、鬼滅隊は無くなっていただろう。そんな君を組織につなぎ止めるのも私の勤め。ひなきと結婚する気はないかい?」

 

 裏金銀治郎は、上司である産屋敷耀哉に対し、不敬にも馬鹿ではないかと思っていた。

 

 今し方、懇切丁寧に娘達を有効活用する方法を提示した。今代で鬼を滅ぼせなかった場合のセカンドプランまで話したというのに、なぜ結婚の話が出てくるか理解に苦しんだ。

 

 だが、産屋敷耀哉とて当然、こんな発言を無意味にする男でも無い。

 

 裏金銀治郎という存在は代えがたい。鬼を殺す事だけを考えさせれば、産屋敷耀哉ですら勝てないと思わせるほどだ。次代を支える一人とするため、鬼滅隊に人生を捧げさせたかった。その為、娘の人生を使い潰す気でいた。

 

「お断り致します」

 

 現役柱達には決してできない回答(・・・・・・・・・・・・・・・)を平気で口にするのが裏金銀治郎である。しかも、全く悪気もない。

 

「そうか、話は以上だ。引き続き、仕事を頼んだよ」

 

 産屋敷耀哉に一礼し、裏金銀治郎は退出した。だが、産屋敷耀哉は有能だ。裏金銀治郎と胡蝶しのぶの微妙な関係性を既に見破っている。

 

………

……

 

 その翌日……なぜか、胡蝶しのぶがひなきの新しいママになっていた。

 




裏金銀治郎が無理なら胡蝶しのぶを狙う上司。
胡蝶しのぶを手に入れるともれなく、ひなきも付いてくる。
つまりは、そういうことだ。

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