鬼滅の金庫番   作:新グロモント

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今日も投稿が間に合いました><

読者の皆様、いつもありがとうございます!!




15:お前が言うな

 主人公一行の機能回復訓練は、順調であった。寧ろ、かなり早い段階で全集中・常中を習得した。肉体的スペックがあがった彼等の力は既に鬼滅隊でも上位だ。

 

 コレも全て裏金銀治郎がぶら下げた餌のおかげである。

 

 竈門炭治郎には、妹を餌に。

 

 我妻善逸には、女。

 

 嘴平伊之助には、幼少の頃、一時期面倒を見てくれた老人が無事に過ごせるよう手配した。具体的には、鬼滅隊の隊士の巡回ルートを変える事と死ぬまで生活費を援助する事で釣った。

 

 そして、主人公一行が診察結果次第で退院するので、心優しい裏金銀治郎は、みんなを送り出すために蝶屋敷まで足を運んでいた。胡蝶しのぶが、竈門炭治郎の診察を終えるのを静かに待つ。

 

「うん、顎は問題ないですね」

 

 竈門炭治郎は、完治する。それどころか、明らかに入院前よりも強くなっていると自覚できるほどである。勿論、機能回復訓練を行った事や全集中・常中を覚えたこともある。だが、一番の理由は、鬼肉のおかげで人間としてのスペックが上のステージへとあがったのだ。

 

「おめでとう炭治郎君。また、鬼狩りに行くことになるだろうが、薬の進展については定期的に情報を送ろう」

 

「ありがとうございます!! お二人のおかげで、妹を人間に戻せる目処が立ちました!! 最後に一つ聞きたい事があって……」

 

「何でしょう?」

 

 竈門炭治郎は、二人のおかげで胃痛が絶えなかった。我妻善逸も居るため、下手に感づかれてはならない。それに、自分の気も知らないで、シルヴィとイチャイチャする我妻善逸をしばき倒したいと思うほどであった。

 

 本当に彼は、人間として成長したのだ。

 

「"ヒノカミ神楽"って聞いたことありますか?」

 

「私は、ありませんね~? 銀治郎さんなら、ご存じではありませんか?」

 

 胡蝶しのぶの中では、叩けば情報が出てくる裏金銀治郎。

 

「あまり情報は、持っていませんよ。"ヒノカミ神楽"――竈門家に代々伝わる神事で、正月に先祖と炭窯の神に奉納する際に使われていました。神楽を舞い続ける過酷なものであり、寿命を縮めかねない。だが、神楽は『日の呼吸』を模している物であるらしい。炭治郎君の父である竈門炭十郎が病弱だったのも、神楽の負荷に耐えられなかったのが原因だろう」

 

 あまりにも詳しすぎる情報に、血の気が引く竈門炭治郎。父親について、誰にも話した事が無いのに本名まで知っていれば、驚く。

 

 頼りがいがあるとか、もはや別次元であった。

 

「やっぱり、情報をお持ちでしたね。ですが、『火の呼吸』ではなく『炎の呼吸』ですよ。元柱なんですから、そこら辺を間違って後輩に教えないでくださいね」

 

「同じでは無いんですか?」

 

 このやり取りに、やはり誤解していると裏金銀治郎は理解した。そして、一度聞かれたからには、情報を提供する彼である。

 

「しのぶさん、字が違いますよ。日光の日の字の方です。『日の呼吸』は、今となっては使い手がいないので知名度がありませんが、全ての呼吸の元となった呼吸法です。元炎柱の煉獄槇寿郎なら、多少はご存じでしょう」

 

 出てくる情報を聞いているだけで、竈門炭治郎はドンドン気分が悪くなってきた。

 

 人は、理解できない者を前にすると思考が拒絶する。それが、彼の中で起こっていた。鬼滅隊の隊士であるのか、疑わしいとまで思い始めたのだ。寧ろ、目の前の男が鬼舞辻無惨であると言われても、納得してしまうだろう。

 

 そんな事を思われているとは露程もしらず、裏金銀治郎は説明をおえた。

 

「炭治郎君、銀治郎さんについて深く考えてはダメです。恐らく、必要な時に必要な情報は提供してくれます」

 

「酷いですね。私は、聞かれたから答えただけだというのに。炭治郎君、私から一つアドバイスをしておきます。辛い現実から目を背け夢を見続けたい人は多いでしょう。だが、その夢から覚める必要があったならば、君はどうやって目を覚ます?炎柱に会うまでに考えておくといい。きっと、鬼狩りが楽になるはずだ」

 

 竈門炭治郎は、裏金銀治郎が何を言いたいのか分からなかった。夢から目を覚ます方法が鬼狩りの何処に役に立つのか。だが、裏金銀治郎は無駄なことをしない。役に立つと言ったら、役に立つのが事実である。

 

「よく分からないけど、分かりました!! では、次の任務も頑張ってきます」

 

 裏金銀治郎は、笑顔でソレを見送る。

 

 胡蝶しのぶも「頑張ってきてください」と、見送った。そして、竈門炭治郎が部屋を出てしばらくしてから彼女は裏金銀治郎の方を見た。

 

「で、今度は何をするつもりなんですか? 以前に、下弦の鬼を捕獲しに行った時以上に、物々しい感じがしますよ」

 

「すこし、上弦の参にトドメを刺しに。本当なら、捕獲したいのですが、あのレベルを捕獲できる施設と戦力がないのが残念です」

 

 裏金銀治郎の発言に、流石の胡蝶しのぶも信じられないといった顔をしていた。この100年間、柱の死因は上弦の鬼との戦闘による物である。上弦の鬼の強さは別格だ。しかも、それが上位ナンバーであれば、もはや裏金銀治郎がまともに戦えるレベルを越えている。

 

「はぁ!? どうやって倒すんですか?」

 

「――しのぶさん、我々は鬼を全滅させる為に、ここで働いているんですよ。現役柱ともあろうしのぶさんが、その台詞はダメです。せめて、どんな毒ならとか、どんな作戦ですかと言った台詞にしてください」

 

 だが、この時、二人の前提は大きく異なっていた。

 

 胡蝶しのぶとしては、裏金銀治郎一人でどうやって上弦の参という強大な鬼を倒すのか疑問だった。彼の剣士としての腕前も知っており、鬼をコロコロする事に関しては人一倍の才能。ソレを前提に考えても、答えに行き着けなかったのだ。

 

 だが、裏金銀治郎としては、胡蝶しのぶを戦力として数えている。一蓮托生とも言える二人の関係だ。だからこそ、言わずとも分かってくれると思っていた。

 

「……つまりは、私も一緒ですよね? まぁ、そうだと思っていました」

 

「むしろ、上弦の参を倒しに行くというのに、何故私単独で撃破を試みないといけないんです。そんな事ができるのは、霞柱の時透無一郎さん位ですよ。それに、上弦の参を殺せなくては、胡蝶カナエさんの仇が取れません。仇である童磨は、上弦の弐の地位を血戦で奪い取った実力者です。すなわち、実力で劣る参を殺せずして、弐を殺せると考えない方がよい」

 

 胡蝶しのぶの生きる目的である姉の仇に関する情報がしれっと提供された。

 

 どんな些細な情報でも欲しい胡蝶しのぶは、裏金銀治郎の胸元を掴み上げ迫った。だが、そんな行動を気にもとめない裏金銀治郎。そして、落ち着いてくださいとゆっくりと、胡蝶しのぶの手を解いていった。

 

「少し、取り乱しました。でも、銀治郎さん……私は悪くありませんよ。どうせ、わかって、今情報を教えてきたんでしょう?」

 

「勿論です。物事には順序があります。然るべき手順を踏めば、殺せない相手など存在しません。ですから、上弦の参を殺せたら、上弦の弐について私が知りうる全てを教えるというのはどうでしょう? 殺る気がでてきたでしょう?」

 

 裏金銀治郎の言葉に、文字通り殺る気が出てきた胡蝶しのぶである。身から溢れる闘志は、蝶屋敷に居た隊士達を震わす程であった。

 

 彼女は、平常心を取り戻し歓喜する。お館様と同じ以上に、『絶対に、こいつは逃がさない』と決意した瞬間であった。

 

「じゃあ、今後の事について色々と話し合いましょう。今夜は、寝かしませんよ」

 

「しのぶさんの様な美人から、そんな甘い囁きをされたら断れませんね」

 

 勿論、裏金銀治郎がパパになる的な展開は発生しない。

 

 

◆◆◆

 

 隔離施設という充実した環境で、鬼舞辻無惨を倒す方法の研究も行われている。その方法が、鬼を人間に戻すという方法だ。鬼だから倒せない……ならば、人間にしてから殺せば良いという素晴らしい着眼点の倒し方だ。

 

 その研究を一手に担っていたのが珠世という鬼である。そして、その研究に途中参加したのが、鬼滅隊が誇る天才薬学者である胡蝶しのぶだ。

 

 二人の力によって、研究は順調に進んでおり、その成果の一応の形を成した。

 

「これが、鬼を人に戻す毒ですか」

 

「薬です。ですが、実験しない事には確証がありません」

 

 珠世は、研究成果を裏金銀治郎に報告していた。

 

 長年の女の勘は、この男は危険だとアラートを鳴らしている。そもそも、こんな研究施設を鬼滅隊が抱えている事が危ないと考えていた。鬼舞辻無惨を倒した後、鬼滅隊が……裏金銀治郎が第二の鬼舞辻無惨になるのではないかと。

 

 薬の入った試験管を胡蝶しのぶが確認する。

 

「大丈夫、本物です」

 

「では、上弦で試しましょう。効果があれば、鬼舞辻無惨にも有効であると証明できます」

 

 裏金銀治郎は、珠世の事を信じていない。

 

 この場で偽物を掴まされることも考えていた。胡蝶しのぶを共同研究者にしたのも、薬の真偽が判断できるからという一つの理由もあった。

 

 鬼を全滅させる事が目的の鬼滅隊である。つまりは、最終的に隔離施設にいる鬼達もあの世に送る必要があるのだ。

 

「裏金銀治郎さん、一つお聞かせください。この隔離施設は、貴方が用意したと聞きました。ここに居る鬼達への仕打ちは、あまりにも惨い。貴方は、なぜそこまで鬼を恨むのでしょうか?」

 

「恨みなどは、ありませんよ。ただ、人より強い鬼が、何の制約もなくノウノウと生きているのが嫌いなんです。管理できない存在ならば、いない方がよい」

 

「――危険な発想です。鬼舞辻無惨を倒した後は、鬼滅隊や貴方が第二の鬼舞辻無惨になるのではないかと思うほどに」

 

「それはありえませんよ。それに、鏡をみて仰ってください。鬼舞辻無惨以外で人を鬼にした貴方がソレを口にする権利はないかと愚考します」

 

 礼には礼をもって応える裏金銀治郎。

 

 珠世の第二の鬼舞辻無惨などという失礼な発言に久しぶりに苛立ちを覚えていた。パワハラ上司と一緒にされるなど、失礼極まりない。彼ほど、鬼退治に尽力した陰の功労者は少ないだろうに。

 

 だが、寛容な心を持つ裏金銀治郎は、珠世一行に何もしない。使い道が残っている限りは、協力関係を維持する必要がある。

 

………

……

 

 鬼滅隊の隊士達に、新しい隊服が配られ始めた。

 

 今までの隊服では、中級の鬼相手ならば爪や牙が通らないという物であった。裏金銀治郎の手によって、生まれた隊服は、上級の鬼相手でも牙と爪が通らない程の性能である。下弦級の鬼でもなければ、破ることが難しい程の伸縮性と強度を誇った。

 

 しかも、柱の者達が着る隊服は、下弦の肆からはぎ取った首の皮膚を裏地に縫い付けられている。下弦の肆ともなれば、急所を守る皮膚は非常に硬い。だからこそ、上弦を相手にしても一定の効果が見込める仕上がりを見せていた。

 

 そして、開発に携わった裏金銀治郎が自ら、炎柱の煉獄杏寿郎に説明を行った。

 

「色々と説明は省くが、新しい隊服は従来比の三倍の強度と伸縮性を誇っています。柱の皆様が着ている隊服は、一部に特殊な繊維を用いておりますので、よほどの強敵でも無い限り服が傷つく事はないでしょう」

 

「実に素晴らしいではないか!! で、このペ○ローション藤の香という、よく分からない物は何に使うんだ?」

 

「良い質問です。しのぶさんが、鬼を殺すのに使う毒を使用した潤滑油になります。拭き取りにくく、洗い落とすのも困難。鬼に被せるも良いですし、体に塗って敵の打撃を逸らすと同時に毒にするなど使い方は様々です」

 

「よく分からんが、とりあえず貰っておこう。要は、服や体に塗って鬼と戦えばよいのだろう」

 

「えぇ、理解が早くて助かります。煉獄さんを相手に、体に触れる事ができる鬼は早々いないでしょうがね」

 

 ぺ○ローションを懐に仕舞い鬼退治に向かう煉獄杏寿郎。ソレを見送る裏金銀治郎は、一つ思ったことがある……しまらないな~と。

 




みんな大好きな、ヌルヌルローション列車。


さぁ、上弦の参というG級モンスターを狩るハンター達の出陣だ。

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