鬼滅の金庫番   作:新グロモント

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17:汚される思い出

 主人公一行の頑張りがあり、下弦の壱が遂に本気を出し始めた。つまりは、乗客を食べて更に強くなろうとしている。列車の異常を察して、本来なら逃げるなり行動が起こりそうだが、幸いなことに乗客達は夢の中だ。

 

 裏金銀治郎は、馬鹿な鬼だと思っていた。

 

 立場が違えば、間違いなく乗客達の目を覚まさせた。そして、その混乱を活用する。鬼舞辻無惨の教育不足である。

 

「銀治郎さん、そろそろ出番じゃありません?」

 

「あまり気乗りはしませんね。ですが、仕方ない」

 

 裏金銀治郎は、日輪刀を構え面倒くさそうに行動を開始した。

 

 彼の中では、上弦の参を前にしたこの状況で、列車の乗客の命は勘定の外にあった。しかし、胡蝶しのぶや煉獄杏寿郎は乗客を見捨てたとあっては、快く思わない。だから、刀を取ったのだ。

 

 決して、人命がとか崇高な理由ではない。目的のために、死なれては困る……ただそれだけであった。これが、誠実な男の仕事ぶりである。

 

「銀治郎さん。私の手伝いは必要ですか?」

 

「いいえ。しのぶさんは体力を温存しておいてください。短期決戦しないといけませんので。それに、下弦の鬼本体ならまだしも……この程度の触手に遅れるほど、弱くはありませんよ。2車両分位なら、十分守れます」

 

 裏金銀治郎が日輪刀を振るう。

 

 乗客達に襲いかかる触手が次々に落とされていく。切れ味や抜刀速度、型の美しさなど、柱であった事が納得できるものであった。

 

「綺麗な太刀筋ですね。今からでも柱に復帰しませんか? 私で良ければ推薦します」

 

「ソレには及びません。これ以上、働いたら死んでしまいます。むしろ、しのぶさんこそ、現役引退して裏方にどうですか? 私としのぶさんなら、きっと運営が楽になりますよ」

 

 胡蝶しのぶは、彼の思わぬ返しに一考してしまった。

 

 ここ最近、柱としての任務は行っていない。寧ろ、裏金銀治郎と一緒で裏方仕事をしている。隊士の質が向上した今、十二鬼月以外ではもはや柱の出番はない。

 

 時代は、裏金銀治郎と胡蝶しのぶの手に依って変わったのだ。ローションがあれば、下弦より弱い鬼など退治に苦労はしない。更に十二鬼月ですら、鬼を人に戻す薬ができあがれば、柱で無くても倒せるようになる。

 

 現役を退いて、鬼を人に戻す薬の研究に注力した方が何倍も役に立つという事実に気がついてしまった。

 

 ドンっと音を立て、車両のドアが蹴り破られる。そして、抜き身の刀を持った煉獄杏寿郎が乗客を守る為、突入してきた。

 

「失礼する!! おや、貴方がこの車両の乗客を守ってくれたのか!! 柱として不甲斐ない。だが、その刀は日輪刀であろう。……そちらで寝たふりをしているご婦人もかなりの使い手だな!! 悪いが、鬼を退治するため協力して貰おう」

 

「炎柱様のお願いとあれば、断れません。私と家内で、後ろの2車両を担当しましょう」

 

「おや、夫婦だったのか!! では、任せた」

 

 煉獄杏寿郎は、二人の正体に気がつく事はない。時間的猶予があるならまだしも、今も乗客が危険にさらされる中、使えそうな者達の素性などどうでも良かった。

 

 裏金銀治郎は、手を振り煉獄杏寿郎を見送る。走り際に、周辺の壁や天井などに、細かい技を決めていく素晴らしい手際は、柱上位に恥じない仕事であった。同じ事は、裏金銀治郎には出来ない。

 

「銀治郎さん、煉獄さんは鈍いですから良いですよ。私達の事は、バレないでしょう。ですが、もう少し良い紹介文は無かったんですか?」

 

「私の風貌から、しのぶさんを娘と紹介すると色々と犯罪臭がするでしょう。まぁ、家内と紹介しても似たような――ごふ」

 

 青筋を立てる胡蝶しのぶのレバーブローが食い込む。

 

 具体的な紹介文も提示されないのに、理不尽な暴力にあう裏金銀治郎。日常化したやり取りに二人の緊張感は場違いであった。良くも悪くも、胡蝶しのぶも毒されてきた証拠だ。

 

「銀治郎さん、折角なので姉さんの話を聞かせて貰えませんか? 任務で何度か一緒になったと言っていましたよね」

 

「あの~、私が必死で触手を斬り倒しているのが眼に入らないんですか?」

 

「いいじゃありませんか。元柱ともある人が、まさか鬼を斬りながら世間話もできないんですか?」

 

 胡蝶しのぶは、教育者としても優れている。褒めて伸ばす事ができる希有な教育者だ。だが、いくら何でもそれが年上である裏金銀治郎には通用しない。人生経験が違うのだから。

 

「――私は、善逸君や伊之助君のように単純じゃありませんよ。そうですね~、胡蝶カナエさんのお話をする代わりに、お弁当を作っては貰えませんか?」

 

「鬼肉入りのですか?」

 

 冗談を言ってよい場面と駄目な場面がある。彼女が、未だに独身である理由の一つが露見する。相手が裏金銀治郎だからこそ受け流せるが、まじめな人間が聞いたら、顔が真っ青になるだろう。

 

「普通のでいいです。代わりに、私がしのぶさんのお弁当を作りましょう」

 

「ま、まぁいいでしょう。美味しいお弁当にしてくださいよね」

 

 嬉しそうな顔をする胡蝶しのぶ。

 

 やはり、女性には笑顔で居て欲しいと考えるフェミニストの裏金銀治郎。だが、彼が優しいのは、とても狭い範囲であることは言うまでもない。その範囲は、彼にとって有益か無益かという非常にわかりやすい分け方だ。

 

………

……

 

「胡蝶カナエさんは、男性隊士にモテましたね。包容力があり、女性らしさもあり、男の理想を具現化したような女性とは彼女のような事をいうのでしょう。先代の炎柱さんとかも、密かに食事に誘ったりと――」

 

「ちょっと待ってください!! 先代って煉獄さんのお父さんですよね!! その時、煉獄杏寿郎さんが生まれていましたよね」

 

 想像と違う話が始まり、思わず口を挟んでしまった胡蝶しのぶ。同じ列車に現役の炎柱がいるにも関わらず、その父親の話をあえて選択するなど、流石は裏金銀治郎であった。

 

「えぇ。煉獄家は、鬼滅隊の柱を何度も出す古い家柄です。つまり、発言力もお館様に次ぐレベルがありました。先代炎柱は、荒れている時期があり、それを(いさ)めたのが胡蝶カナエさんです。そんな彼女に、先代炎柱は――」

 

「はいストップ!! その話は、なぜか先を聞いたら駄目な気がします。銀治郎さんと姉さんのお話をしてくださいよ。そうしましょう!!」

 

 これから、酒に溺れる先代の話が始まる所で止められてしまい残念だと思う裏金銀治郎。だが、胡蝶しのぶが聞きたいという話があるなら仕方がないと話を切り替えた。

 

 そんな話の最中、切り刻まれる触手は、モブどころか背景役となり下がる。

 

「分かりました。そうですね~、胡蝶カナエさんに料理を教えたのは実は私なんですよ」

 

「フォォ!!」

 

 胡蝶しのぶが本日一番驚いた。

 

 それもそのはず。今まで、胡蝶カナエと一緒に食べた食事の思い出の中に、いきなり男の影が出てきたのだ。しかも、下手すればお袋の味ではなく、親父の味という悲しい現実がそこにはあった。

 

「待ってください!! 待ってください!! 理解が追いつかないのですが、どんな状況でそうなったんですか? 銀治郎さん、今なら嘘と言ってくれれば許して上げますよ」

 

「私は、しのぶさんには嘘も言いませんし、知りたいと言われれば全部教えますよ。そう言ったでしょう」

 

 裏金銀治郎は、優しい嘘という言葉は持ち合わせていない。

 

「自慢ではありませんが、私は料理が人並み以上に得意です。国外の料理でも有名どころなら大体作れます。少し特殊な人生送っているので、経験も知識もありますしね。私が任務でお弁当を持参したのが切っ掛けで、教えていたんですよ。ほら、鬼滅隊で料理ができそうな人に心当たりがありますか?」

 

「――いないですね。あ、『隠』の人なら」

 

 知りたくない事実でドンドン外堀が埋まっていく。

 

「料理ができる人もいるでしょう。ですが、私が料理の先生に選ばれた理由は、私より上手い人がいなかったんですよ。それに、身に覚えがありませんか? 胡蝶カナエさんが、行った事もない地方の料理を振る舞ったり、新品の料理器具が揃えられたりと」

 

「――あります。その節は、ありがとうございました」

 

 胡蝶しのぶが、身に覚えがありすぎて、お礼を口にした。

 

 まさか、自分の姉が知らないうちに男に料理を教わっていたとは、知りたくなかった彼女である。これで確定してしまった……姉の料理は、母親の味ではなく、親父の味であった。

 

 つまりは、裏金銀治郎は既にパパ的存在であった。

 

 汚されていく姉との思い出に、もう止めてと言いたくなる胡蝶しのぶ。

 

「ふむ……この話は、しのぶさんにダメージが大きいようなので話を変えましょう。では、胡蝶カナエさんと箱根に鬼退治に行った時です」

 

「箱根って、あの温泉街の箱根の事じゃありませんよね?」

 

「寧ろ、そこ以外に箱根ってありましたっけ?」

 

 胡蝶しのぶは、上弦の弐より先に目の前の男を退治しないといけないのではないかと、ダークな感情が湧いてきた。

 

 問い詰めようと思った瞬間、鬼の断末魔と共に列車が宙を舞った。

 

「後で、色々と問い詰めますからね!!」

 

「分かりました。では、実験を開始しましょう」

 

 裏金銀治郎と胡蝶しのぶが、列車から脱出した。乗客達は、鬼が肉壁となり死なないと分かっていたので見捨てる辺り、成長ぶりが窺える。

 

◆◆◆

 

 横転する列車……それを見た裏金銀治郎は、鬼滅隊の財政が傾くなと静かに怒りを覚えていた。商品を増やし資金調達を頑張っている彼にしてみれば、泣きたいとも思える事態だ。

 

 だが、鬼を殺す事が本分である鬼滅隊の仕事を全うして起こった事故だ。しかも、原因が鬼にあれば文句も言えない。

 

「これだけの惨劇で死者が0とか奇跡です。銀治郎さん」

 

「そうですね。あちらも無事のようです」

 

 無傷の煉獄杏寿郎、主人公一同も多少怪我は目立つが即座に戦線復帰できるほどの軽傷だった。腹部の傷に刺し傷も無い事から、新しい隊服の強度は十分である事を証明していた。

 

「しかし、間もなく夜明けなのに本当にこんな場所にくるんでしょうか? 正直、そんな命令を出す鬼舞辻無惨なら、私達の敵じゃないと思うんですが」

 

「鬼舞辻無惨を皆さん、甘く見すぎです。鬼舞辻無惨は、柱に倒される下弦の鬼が弱すぎると自らの手で下弦の壱を残して全て殺した程です。許されるならば、私がお館様に鬼柱として鬼舞辻無惨を推薦して上げてもイイほどの働きをしてくれました」

 

 胡蝶しのぶが、「こいつ、何いってんだ」という怪訝な顔をしている。

 

 だが、紛れもない事実である。しかも、平成の世でも真っ青な程の圧迫面接を行った末の惨殺だ。きっと、その事実が出回れば、鬼になると自ら口にする者はいなくなるだろう。上司の気分一つで、殺されるのだから。

 

「何処情報ですかそれ?」

 

「集○社情報です」

 

 真実を答えているのに、信じる気が全くない胡蝶しのぶ。

 

 普段、自分にだけは嘘を言わないなんて口走る男が、平然と嘘をつくその様が気に入らなかった。

 

 ドォン!!

 

 煉獄杏寿郎の直ぐ側に、一匹の鬼が飛来してきた。その目には、上弦の参と数字がある。全鬼の中で参番目に強い鬼の到来であった。

 




準備は整った!!
物理攻撃特化など、このローションの敵では無いわ!!


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