鬼滅の金庫番   作:新グロモント

18 / 100
何時もありがとうございます。

感想などで、以下のようなご指摘を多数頂けております。
× 鬼滅隊
○ 鬼殺隊
本SSでは、類似世界的設定であり、意図的に「鬼滅隊」としております。
誤字ではないのでよろしくお願い致します!!


18:ローションがなければ死んでいた

 上弦の参――猗窩座。その身から発する威圧感だけで、並の隊士なら動けなくなるほどだ。柱であっても目をそらせば、一瞬で肉塊へと変えられてしまう。

 

 そんな相手に、最初の一撃から、竈門炭治郎を救うだけでなく、反撃で腕を真っ二つにする煉獄杏寿郎。強者が大好きな猗窩座が鬼に誘うのも頷ける。だが、残念な事にスカウトマンとしての才能はイマイチであった。

 

 誘い文句は、永遠に鍛錬し至高の領域を目指そうなどという武人らしい誘いだ。そもそも、何年も鍛錬してその域に達する事ができない男が、言うのはおかしい。できない奴は、何年やってもできない。時間があれば良いという問題ではない。1000年勉強したらアインシュタインを超えられるかと言われればNoだと言えよう。

 

 要するに、生まれ持った物が違うのだ。

 

 鬼への勧誘中に、割り込むのも悪いと思ったが裏金銀治郎は行動にでた。

 

「炎柱様、微力ながら助太刀します」

 

「――なんだ貴様は? 闘気もたいした事ない。俺は、今、杏寿郎と話しているんだ。雑魚は引っ込んでろ」

 

 猗窩座の実力から鑑みれば、裏金銀治郎は雑魚である。だが、強者を倒すのはいつでも弱者だ。戦いで実力が全てというのは、遭遇戦に限ったことだ。モンハンでも、罠と閃光玉を用意して挑めば強敵だってソロ撃破できる。狩る対象が鬼に変わっても同じだ。

 

「炎柱様、私が可能な限り相手の手の内を晒します。だから、必ず仕留めてくださいね」

 

「死ぬぞ。――名を何という?鬼滅隊の者であろう」

 

 煉獄杏寿郎の正しい戦力分析がなされる。だが、上弦の参という鬼を相手にする際、手の内を知ると知らないでは大きな差が出てくる。鬼を倒す事と隊士の命を天秤に掛けた。

 

狛治(・・)です。そして、家内は恋雪(・・)

 

 竈門炭治郎は、匂いで気がついた。目の前の変装した男が裏金銀治郎だと。

 

 心の中で助けを求めたら、本当に助けが来た。列車の移動速度から考えて、最初から乗車していなければ、あり得ない状況。竈門炭治郎の中で、裏金銀治郎という存在の恐ろしさがドンドン増していく。

 

 しかも、この場で平然と偽名を名乗る当たり、その神経の図太さは鬼滅隊随一だ。

 

「――おぃ!! 貴様、今なんと言ったぁぁぁ」

 

「金の呼吸 参ノ型 不動金剛」

 

 裏金銀治郎の煽りレベルは、誰にもマネできない。武人である猗窩座だが、彼によって抉られた過去は、冷静さを失わす程であった。人間だった頃の猗窩座の本名とその恋人の名を平然と使ったのだ。

 

 猗窩座から繰り出される一撃一撃が必殺の攻撃だ。それを、刀で一つ二つと受け流す裏金銀治郎。だが、実力差がある為、良い攻撃をその身に受ける。その瞬間、裏金銀治郎の足下に大きな亀裂が入る。

 

 防御特化の型である不動金剛でダメージを地面へと流していた。だが、猗窩座の攻撃を受け流せるほどの性能は、持ち合わせていない。その為、確実にダメージが蓄積されていく。

 

 強化された隊服とペ○ローション、更には防御の型……これら全てが合わさることで、猗窩座を前にしても立っていられる。打撃攻撃がローションという潤滑油のおかげで、威力が半減しているのだ。

 

 猗窩座と裏金銀治郎の間には、ローションの糸が引いていた。その糸には、裏金銀治郎の血が混ざり、運命の赤い糸のようだ。これほど見苦しい運命の糸は、他では見れない。

 

「狛治殿!! 素晴らしいな!! まさか、その身にあの攻撃を受けてほぼ無傷とは」

 

 煉獄杏寿郎が賞賛する。彼の目からしても受け流せなかった攻撃をその身に受けているのが分かっていた。だが、あの威力を身に受けて立っているのだ。原理こそ理解できなかったが、その胆力は賞賛するに値した。

 

 裏金銀治郎は、骨や内蔵に痛手を負っている。既に治りかけているとはいえ、初手でこれだけ痛めつけられるなど、上弦の鬼の強さに嫌気がさしていた。

 

「くそ!! なんだ、この液体は!! 取れんぞ」

 

 ローションという商品は、武人である猗窩座に無縁の品。特殊な職場で働く上弦を除けば、ローションを知る機会などあるはずもない。

 

 腕を振るうと液体が地面に飛び散る。そして、自らの足場をユルユルにしていった。だが、それでも完全には拭いきれない。ローションを洗い流すにはお湯が一番であるが、今この場にそんな物はない。

 

 しかも、藤の花の毒でローションに触れた箇所がボロボロになっていく猗窩座。腕を再生させる為、切り落としを考えていたが……そんなスキを見せれば、煉獄杏寿郎が動くと本能で分かっていた。

 

 そのあまりの有用性から、煉獄杏寿郎が懐から取り出したローションを服や体に塗り塗りしている。そして、手に付いたローションを炎の呼吸で蒸発させていた。

 

 その様子を猗窩座は、「ちょっと、ずるくない」といった風に見ている。

 

「煉獄杏寿郎さん、鬼の腕一本を不能にしますから勝ってくださいね」

 

「勿論だ。その呼吸を使える者は、裏――」

 

「猗窩座!!もし、私に勝てたら、剣道場の井戸に毒をいれた生き残りの子孫を教えてやる!!」

 

 裏金銀次郎は、ばれたくない名前を言われる前に大声で叫んだ。

 

 事はすべて計画通りに進んでいる。その一言で猗窩座は、裏金銀次郎を殺せなくなった。なぜなら、猗窩座の怨敵が生き残っている可能性が示唆されたからだ。彼の中で、ぶち殺したい順位が「怨敵 > 裏金銀次郎」となる。

 

 情報を聞き出すまでは殺せない。弱い人間に本気を出せば殺してしまう。

 

「調子にのるな人間!! 破壊殺・乱式」

 

「金の呼吸 陸ノ型 神威縫合」

 

 金の呼吸 陸ノ型 神威縫合……鬼を斬ると同時に切断した神経を別の神経に繋ぐ。鬼はその再生力から、即座に肉体を治そうとする。治る先に別の神経や血管があれば、異常な配線であっても繋ぎ直してしまう。鬼とて、治っている神経を治すことはできない。

 

 上弦の参の攻撃をその身に受けながら、左腕の神経配線を異常にした裏金銀次郎は、この戦いにおいて十分な戦果を出した。

 

「よくやった!! あとは、俺に任せておけ」

 

 と、裏金銀治郎が吹き飛ばされる最中、煉獄杏寿郎が頼もしい言葉をかける。

 

 

◆◆◆

 

  竈門炭治郎の真横を吹き飛ぶような勢いで通過した裏金銀次郎。そのまま、列車にぶつかり崩れ落ちた。

 

 濃厚な血の匂いから、重傷である事は理解する。大人になった竈門炭治郎は、彼が死んだ場合の最悪のシナリオが浮かび上がる。

 

 鬼滅隊の資金調達を担うキーマン、鬼を人間に戻す薬開発にも携わる重要人物。竈門炭治郎の中でも妹を人間に戻すまで(・・・・・・・・・)は、その命の価値は自らより上に置いていた。

 

「伊之助!! 俺を狛治さんのところに連れてってくれ」

 

「お、おぅ分かった!!」

 

 血を吐き、手足が変な方向に曲がっている裏金銀次郎。こんな状態でも呼吸法を維持しているのは、さすが元柱である。

 

「大丈夫ですか!? 狛治さん」

 

「ごっほ!!ごほ。私の意図を汲んで狛治と呼んでくれる。君も、大人になったね。後ね……このぉ、状態で――だ、大丈夫に見えるなら、医師を紹介するよ」

 

 竈門炭治郎は、どこから手を付ければいいか迷っていた。隊士として、多少の怪我なら対処できる教育を受けている。だが、重症ともなれば、何が正しいのか判断できない。下手に動かせば状況が悪化することだってある。

 

「もう、喋らないでください。すぐに助けを」

 

「喉はもう治した。腰につけているケースに注射器が入っている。手が治るまで時間がかかるから、頼んだよ」

 

 竈門炭治郎は、すぐに注射器を取り出した。その中身の赤い液体から漂う匂いが、鬼の物であると理解した。だが、躊躇なく裏金銀次郎へ投与する。鬼肉の存在があったのだから、今更驚く程の事ではなかった。

 

 柱専用の緊急活性薬の効果は、素晴らしい物だ。折れたはずの手足を瞬く間に再生していく。そして、猗窩座によって、粉砕された耳を元通りの形に再生した。その再生能力は、上弦に届かなくても下弦の鬼に匹敵する速度である。

 

「どうなってんだよ!! みるみる傷が治っていきやがる」

 

「この為に用意していた薬だからね。伊之助君、この薬の事は内緒だよ。柱の人達しかもってない秘密の薬だからね。もし、バラしたら君の口を封じないといけない」

 

「お、おう」

 

 勘の良い嘴平伊之助。口にこそ出さなかったが、直感で目の前の男が裏金銀治郎だと理解した。そして、口封じに関しても本気でやると分かってしまった。しかも、世話になった者達含めて、綺麗にサッパリなかった事にされると。

 

「炭治郎君、僅かだが私の刀身に猗窩座の血液が付着している。回収しておいてくれ。私は、傷が癒えたら再度応援に行ってくる」

 

「そんな体で無茶ですって!! いくら、傷が治っても体力が持ちませんよ」

 

「私は、君と約束しただろう。全力で支援すると。あれは、鬼を人間に戻すいい研究材料になる」

 

 竈門炭治郎の嗅覚は、約束を守るため全力を尽くす裏金銀治郎の匂いを嗅ぎ取った。

 

 確かに、裏金銀治郎は竈門炭治郎との約束通り、全力で支援するつもりだ。勿論、自身の目的もある為、利害が一致しているに過ぎない。鬼を人間に戻す薬……すなわち、どんな鬼でも殺せる方法だ。

 

 しかし、竈門炭治郎の眼には、妹の為、そこまで頑張ってくれる男であったと嬉しい勘違いがあった。竈門炭治郎に人を見る目があれば、妹の為ではなく、彼が自分のために動いていた事に気がつけただろう。

 

 人生経験がまだ足りていない証拠だ。

 

「俺!! 裏金さんの事、誤解していました。俺、絶対に強くなって役に立ってみせます」

 

「……あぁ、私は君への支援は惜しまない。期待している」

 

 裏金銀治郎は、いつも以上にやる気に満ちあふれる竈門炭治郎に疑問が生じた。だが、ここは流れに乗るのが得策だと適当に話を合わせる。

 

◆◆◆◆

 

 裏金銀治郎が治癒に専念する最中、煉獄杏寿郎は激戦を繰り広げていた。善戦している。それには、裏金銀治郎が身を挺して腕一本の神経を可笑しくした事が功を成していた。

 

 勿論、腕を切り落として再生させれば完治する。だが、煉獄杏寿郎を前に、そんなスキを作れなかった。

 

「この素晴らしい剣技も失われていく。杏寿郎、悲しくはないのか!!」

 

「誰もがそうだ!! 人間なら!! 当然のことだ!!」

 

 双方の連撃の応酬。ヌチャヌチャと、場にそぐわない音がするが、そんなのが気にならない程だ。――殴っている猗窩座ただ一人を除いて。

 

 煉獄杏寿郎は、ローションの特性と隊服の強度を理解していた。その為、絶妙な回避を行い猗窩座にローションダメージを蓄積していった。上弦の鬼とはいえ、鬼を殺す猛毒を分解するのに多少の手間は掛かる。

 

 攻撃特化と言われる炎の呼吸に、新しい戦法が加わりつつあった。

 

「炎の呼吸 伍ノ型 炎虎」

 

「破壊殺・乱式」

 

 手加減など一切なしの猗窩座は、片腕であっても煉獄杏寿郎を負傷させた。あばら骨は砕け、内臓を傷つけ、今すぐ治療を受けねば致命傷になる程だ。

 

 煉獄杏寿郎の重傷を目にし、猗窩座は既に勝った気でいた。

 

「どう足掻いても人間では、鬼に勝てない」

 

「それは、驕りが過ぎるぞ!! 人間は鬼になんて負けない」

 

 煉獄杏寿郎は、目の前の鬼を殺す為、緊急活性薬を自らに打ち込んだ。

 

 そう、今こそ100年の負の連鎖を打ち切るチャンスであると理解したのだ。片腕が使えない鬼、日の出が近い、ローション戦術……二度と揃わない好条件だ。だからこそ、例え鬼由来の薬であっても今使わずしてどうすると、決意した。

 

「俺は俺の責務を全うする!! ここにいる者は誰も死なせない!!」

 

「素晴らしい闘気だ…それ程の怪我でぇ!! 貴様、どうして完治している!!」

 

 鬼にも匹敵する回復速度で治った煉獄杏寿郎に驚いていた。

 

 だが、それならそれで構わないと猗窩座も全力で迎え撃つ。寧ろ、弱った状態の敵でなくて幸いだと心を躍らせていた。

 

「炎の呼吸 奥義!! 玖ノ型 煉獄」

 

「破壊殺・滅式」

 

 必殺の一撃が双方を放つ瞬間、笑みを浮かべる男が居た。裏金銀治郎である。

 

血界(けっかい)

 

 その一言で血鬼術が発動し、一瞬だが猗窩座の血鬼術を無効化した。

 

 四方と上下を囲まないと発動できない術だが、この戦いの間に条件が満たされていた。四方には、胡蝶しのぶが血文字が書かれた札を貼り付けていた。そして、地面には彼自身が、空には彼の鎹鴉が札をもって飛んでいる。

 

………

……

 

 二人の技はぶつかり合いドオっと轟音を立てた。砂埃が舞い、二人の様子が分からない。その様子を見ていた誰もが煉獄杏寿郎の無事を祈った。そして、絶対に勝ってくれと。

 

 煙が晴れて現れたのは、脇腹を抉られながらも猗窩座の首に日輪刀を食い込ませる男の姿だった。本来であれば、猗窩座の腕が急所を貫いており絶命五秒前になるはずが、彼は運命に勝ったのだ。

 

「オオオオオオ!!」

 

 ありったけの力で首を切り落としに掛かる煉獄杏寿郎。猗窩座とて、無抵抗に首を落とされるはずもない。動く片腕で煉獄杏寿郎にトドメを刺そうとする。だが、その腕は、届く事はない。煉獄杏寿郎に止められ、膠着状態となる。

 

「狛治さん!! 早く鬼の首を」

 

「その必要はない。切り札とは最後まで取っておくものだ。そうでしょう、恋雪(・・)さん」

 

 今の今まで、存在を隠蔽し続け絶好の機会を狙っていた胡蝶しのぶ。

 

「蟲の呼吸 蜈蚣の舞い 百足蛇腹」

 

 グサと良い音がした。

 

 上弦の弐ですら回避できない速度の突き技。炎柱と膠着状態である猗窩座は、その存在を認識するまでもなく、喉を突かれた。そして、流し込まれる鬼を人間にする毒――。

 

 猗窩座は、すぐに肉体の異変に気がつく。肉体の破損箇所に痛みを覚えてきた。それも、徐々に強くなり、それは耐えがたい苦痛へと変わっていく。

 

「一体俺に何をしたぁぁぁぁ!!」

 

「敵に手の内を教えるはずないでしょう。貴方は、馬鹿ですか?」

 

 傷を完治させた裏金銀治郎。そんな彼から正論を言われ、文句の一つも言ってやりたいが、それは既に叶わない事になっていた。

 

 半ば(・・)人間に戻った猗窩座は、煉獄杏寿郎に首を飛ばされる。そして、日が昇り、猗窩座の死体は崩れ落ちていく。

 

 さりげなく、血を大量に回収する裏金銀治郎。だが、それを咎める者は居なかった。上弦の鬼を撃破という偉業に、誰しもが感動をしている。そう……裏金銀治郎と胡蝶しのぶ以外は。

 

………

……

 

 その後、しばらくして『隠』も到着した。

 

 警察も到着し、裏金銀治郎自ら対応し、賄賂を片手に脱線事故である旨を伝えた。列車の機関部分が真っ二つにされているにも関わらず、脱線事故とは無理もあるが、そこを調整できるのが彼であった。

 

「五体満足で何よりです。煉獄杏寿郎さん、怪我の方はもう宜しいので?」

 

「狛治とは、裏金殿だったのか!! 体の方は、問題ない!! 例の緊急活性薬……役に立ったぞ。後、このローションもな!! むしろ、ローションがなければ死んでいた」

 

 裏金銀治郎は、この時ほど申し訳なかったと感じたことはない。そんな笑顔でローションが入っていた容器を片手に、そんな台詞は聞きたくはなかった。

   




みんな大好き煉獄さん生存ルートだ!!
たまに、ローションに人生を狂わされた人も救われた人も居るはず。
そんな、世界線があっても良いよね^-^






▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。