みんな、兄貴の生存とローションの組み合わせを喜んで頂けたようで何よりでした(ぇ
鬼滅隊に届けられた上弦の参の退治報告。それは、お屋形様を筆頭に誰しもが喜んだ。何百年ぶりの快挙である。検査入院している炎柱の許には、現役柱達がお見舞い品をもって続々と足を運んでいた。勢いは、まさに鬼滅隊にあるかのように思われた。
だが、その陰では、裏金銀治郎が青ざめている。
機関車両含めて計9両編成の弁償である。川崎造船が製造した蒸気機関車である為、国内で修理も可能であったのが、不幸中の幸いであった。その為、想像より安い額であったが、それでも鬼滅隊の懐事情では、賄うことは不可能。列車の修理費だけで、鬼滅隊を25年運用するだけの資金である。
これで、鬼滅隊は破産……という訳にはいかなかったので、裏金銀治郎も頑張った。
政財界のVIP達の力添えもあり、列車に関しては強引に保険適用してもらった。そのおかげで、保険会社の者達が何人も首を吊る事になり、鬼と関係ない人達が酷い被害を受けた。おまけに、裏金銀治郎自身も「やり過ぎは困るよ、裏金君。我々でも隠蔽には限度がある」とまでお電話を頂いていた。
「銀治郎さん、よく保険なんて適用できましたね」
「鬼滅隊は、列車を乗っ取った犯罪者から乗客を守った。そして、最後の抵抗で犯罪者が列車を脱線させて破壊したというストーリーで話は既に纏めてきた。犯罪者という、明確な犯人さえ用意できれば、後は日本の闇に任せればこの通りよ。全て問題ない」
裏金銀治郎の行動は、組織を守る為、仕方が無かった事だ。
好調な胡蝶印のバイアグラとペ○ローションの売上げでは、賄いきれない額だから仕方が無い。鬼滅隊のお財布事情は、裏金銀治郎と胡蝶しのぶの努力もあり、5年は組織を維持できるだけの金を集めていた。列車の弁償分だけで、運用費25年分という途方もない額の捻出など、一組織の努力で何とかなるレベルではないのでお国の力を借りたまでだ。
だが、鬼滅隊としても持てる資産を全て放出した。被害者への治療費や賠償金や線路の整備費用、代理列車の手配費用を支払った。裏金銀治郎が中心となり、『隠』の者達が不眠不休でやったのだ。
「銀治郎さん、その事故の犯罪者が本日死刑になったと、この新聞に掲載されていますが、何処が問題ないのでしょうか。お館様は、死者0で大変お喜びになっておりましたよ」
「
社会の常識だが、やった事には責任が伴う。鬼に与して、人殺しに荷担していた連中がやらかしてお咎めなしなど、天が許しても裏金銀治郎は許さない。どうせ、死ぬ人間なのだから、そいつらの身に覚えのある罪を一つ二つ付けてやっても問題にすらならない。
「私だって、列車事故で責任を負ってくれる者達が生きていてくれて喜んでいますよ。それに、安心してください。鬼の事が漏れないように、警察や看守、裁判官にも根回しは、完璧です。今頃、不審火で裁判記録が灰になっている頃です」
「確かに、彼等は許されない事をしたかもしれません。ですが、やり過ぎではありませんか? お館様に相談したなら、もっと良い案がでるかもしれませんよ」
「ありませんよ。お館様も彼等に司法の裁きを受けさせる事は、承知済みです。そもそも、彼等は隊士を殺した殺人犯です。元より死刑にされる身でありました。ならば、最後に鬼滅隊の役に立って貰ったんです。彼等としても、最後くらい人の役に立てて幸せだったでしょう」
裏金銀治郎は、お館様に確認した。鬼に荷担し隊士達を何人も殺した者達を救って破産するか、絶好調の鬼滅隊を取るか、二つの道を選んで貰ったのだ。勿論、双方のメリットデメリットを纏めてわかりやすく説明をしてきた。
当然、前者になどメリットはない。組織のトップとして、どうすべきかは決まっていた。
「世知辛い世の中ですね。納得は、まだできませんが、理解はしました」
「それだけで十分です。ため込んだ資金も使い果たし、0からのスタートとなりましたが……アンブレラ・コーポレーションがあるだけマシですよ」
フロント企業の存在がなければ、詰んでいる。鬼滅隊の生命線を握る二人の価値は、お館様の中で跡目の息子に次ぐ物へと格上げされていた。
鬼滅隊は、鬼を狩るごとにお金が減るとは誠に不思議な組織である。お金を払って鬼退治をしていると言える。現代で言えば、金を払って仕事をしているなど、全くもって理解の外にある事象だ。
そんな理不尽を物ともせず働く二人は企業戦士に相応しいだろう。
「なんで、こうも苦難が続くんでしょう。流石にもう、何も起こりませんよね?」
「――吉原あたりで、大暴れする人達がどれだけ被害を出すか次第かな。あそこは、権力者達もうるさいだろうし、責任取らされるよな~」
胡蝶しのぶは、耳を疑った。
彼女も女である。吉原がどういう場所なのかは当然知っている。大暴れして責任とは、一体何なのか。そもそも、責任なら取るべき相手が近くにいるんじゃありませんかと思っていた。
「吉原? はぁ!? なんで、今、吉原の話なんて出てくるんです?」
「そりゃ、宇髄天元さんの奥様達が上弦の鬼が潜んでいる可能性があるとかで、現地調査を行っているからです。もしかしたら、格上げされた上弦の伍が、花魁なんてやっていたりするかもしれませんよ」
裏金銀治郎は、事実しか伝えていない。だが、胡蝶しのぶは、彼から吉原の話を聞くとなぜかムカムカしていた。思わず足先を踏みつけてしまうほどに。
「なんで、鬼が花魁なんてやっているんですか」
「そりゃ、鬼側もお金がないと暮らせないですからね。部下を遊郭で働かせて、その金で悠々自適な生活をしている鬼舞辻無惨が居ても不思議じゃありませんよ」
胡蝶しのぶの視線が更に冷たい物へと変わっていく。裏金銀治郎の言葉を信じたい。だけど、流石にあり得ないという気持ちが大きかった。それを口にしている裏金銀治郎ですら、信じられないかも知れないがと枕詞を付けたくなるほどだ。
「仮に事実だとして。女性に体を売らせた金で自分は好きなことをするとか、最低のクズですね」
「本当ですよね。
胡蝶しのぶは、裏金銀治郎の胸元を掴みに掛かった。そして、ソファーに押し倒す。端から見たら色々とマズイ体勢だ。
「ぎ~ん~じ~ろ~さ~ん。前々から言っていますよね。会話の各所に爆弾情報を埋め込まないでくださいって。今の私の気持ち分かりますか? お館様にこれから会う時、どんな顔をすればいいんですか?」
「何時も通り、その綺麗な顔のままでいいんじゃありませんか。――今日は、お化粧されていますね。いつにもまして綺麗ですよ」
顔が近い事もあり、化粧に気がつくとはできる男である裏金銀治郎。
「当然です。私は、いつも綺麗なんですよ。で、本題はそっちじゃありません!! 同じ一族ってどういう事ですか?」
「難しい事では、ありません。鬼舞辻無惨は、産屋敷家に繋がる平安の貴族の出身です。病弱であった彼は20歳まで生存できないと言われ、当時の医師が作った試験的な薬を服用し鬼になりました。まぁ、そんな経緯です」
胡蝶しのぶは、掴んだ胸元を力一杯前後に振る。存外痛いなと思いつつも、裏金銀治郎は甘んじて受けた。自分に何かあった際に、全てを引き継げるのは彼女しかいない。だから、少しずつ真実を渡しているのだ。
そんな二人の状況を気にする事も無く扉が大きく開いた。
扉を開けた人物は、今現在話題沸騰中の音柱の宇髄天元である。宇髄天元は、給料を受け取る際に近状報告と嫁達の任務状況を丁寧に報告してくれる希有な人材である。その為、裏金銀治郎も彼と奥様達にも、配慮を欠かさない。給与面しかり、装備面しかりと。
「おう!! 今月の給料を貰いに来てやったぜぇぇ……」
そんな、まめな性格の宇髄天元だが裏金銀治郎と胡蝶しのぶを見て、理解した。忍者とは空気すら読める。
「宇髄天元さん、今は手が離せないので私の机の引き出し……右上にある封筒をもっていってください。奥様達にもよろしくお伝えください。それと、ローションの使い心地は、どうでしたか?」
「最高だったぜ!! それと、間が悪くてすまんかったな。今度、埋め合わせはするからな」
噂は、本当だったと忍者は情報の精度を上げた。できる男である宇髄天元は、そのまま華麗に部屋を退出しようとする。
「ちょっと待って!! なんで、私の事に触れないで華麗にスルーして部屋を退出しようとするんですか。ちゃんと、
「
お館様が実は、鬼滅隊の最終討伐目標である鬼舞辻無惨と同族なんです。流石に、真実をバラすのは早すぎる。時と場所を選ばなければ、組織が空中分解する可能性もある。
上弦の鬼が遊郭で体を売って日銭を稼いでいる事だって同じである。花魁をしているとか、なぜ現在情報収集をしている音柱達より詳しいのか、納得のいく説明ができるはずもない。
「――大体、貴方が悪い」
「分かった、分かった。裏金さんよ、嫁が三人もいる俺からの有り難いアドバイスだ。女は怒らすとこえーーからな。最低限、ドアに鍵くらい閉めとけよ」
そんな台詞を残してスタイリッシュに部屋を退出して行った。
その後も、胡蝶しのぶは、「どうしてくれるんですか!! あの人、忍者の癖して口が軽いんですよ」と、裏金銀治郎を責め立てる。その声は、扉を閉めた部屋の外まで漏れていた。
◆◆◆
無限列車での怪我が原因で主人公一同は、蝶屋敷に再入院していた。その一行で我妻善逸だけは、蝶屋敷で個室を与えられている。大部屋では、色々と不健全でと判断され、特別な計らいがされていた。
「喜べ善逸君。約束の二人目を連れてきた」
「月村すずかです。不束者ですが、よろしくお願い致します」
月村すずか……保険会社を営む一族の者であったが、不幸な列車事故の一件で、首が回らなくなり娘が売りに出されたのだ。そこを、救いの手を差し伸べたのが裏金銀治郎である。
教養があり、容姿も整っている彼女は、汚い大人達のオモチャにされる予定だった。そこを聖人の心をもって救ったのが裏金銀治郎だ。彼としても、実に良い拾い物をしたと思っている。
シルヴィのような境遇でなかったため、善逸への無償の愛はすぐには難しいだろう。だが、自らの境遇を理解し、相手を愛そうとする心を持つのが月村すずかである。
「す、すげぇぇぇ!! 裏金さん!! まじ、こんな可愛い子が本当にお嫁さんになってくれるの?」
「あぁ、善逸君。愛とは与えられるばかりではダメだ。シルヴィを基準に考えてはダメだぞ。シルヴィは、ゲームで言えばイージーモードだ。月村すずかは、ノーマルモードだ。今の君ならそこら辺も機敏に対応できるだろう。私は、君に期待しているのだよ」
当然、そんなモードではない。強いて言えば、サキュバスモードが相応しいだろう。黄色い太陽を拝む日は、遠くない。
我妻善逸が二人目を娶った情報は、上弦の鬼撃破の報告と同等の速度で男隊士達へと伝わった。
………
……
…
鬼滅隊の隊士の中で、一番殺したい男に堂々トップを飾る我妻善逸。隊士同士の殺し合いが御法度でなければ、早々に殺されていたに違いない。
ある雷の呼吸の継承権を持つ隊士曰く……鬼舞辻無惨より我妻善逸を殺したいと口にする者まで現れるほどだった。
月村すずか が誰だって?Google先生で検索してトップに出てくるキャラです。
それ以上の質問は受け付けません。
吉原行く前に、もうちょっと話を挟みます。
胡蝶カナエとの昔話とお弁当編を@@