鬼滅の金庫番   作:新グロモント

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頂けるとやる気が出ます^-^

こんな作品ですが、読んでくれてありがとう。
ニッチな内容で需要を獲得できるように頑張ります。




02:壁ドン

 月も出ない新月の夜、二人の男女が藤の花が咲き誇る山奥を歩いていた。

 

 藤の花は、鬼が苦手とする花である。それを利用し、鬼滅隊の重要拠点には重宝されている。だが、時間が時間だ……こんな夜道を10代の麗しき乙女と30歳のおじさんが一緒に歩いていたら、どう思われるだろうか。

 

 控えめに言って売春。悪ければ人買いに見えるだろう。

 

「胡蝶しのぶさん、鬼とは一体どこから来たのでしょうか?」

 

「なんですか、その質問。哲学ですか?」

 

「いえいえ、純粋に気になっているのですよ。ちなみに、私の見解としては、国外からだと考えています。噂話を出ない程度ですが、国外には血を吸う鬼と書いて、吸血鬼といった存在がいるそうです。もっとも、日本で言う鬼と同様に一般人からしたら、おとぎ話の産物らしいです」

 

「物知りなんですね。でも、血を吸うだけの鬼なら怖くありませんよ?」

 

「吸血鬼というのは、血を吸う事で対象を眷属……言わば、グールという理性のない下級の鬼に変貌させる事が出来る。そのグールが人を襲うとその人もグールへと変わる。だから、ねずみ算式に鬼が増えるという訳です。――まぁ、それが事実なら既に海外は、滅んでいるでしょうから、私の見解は大外れって事になるんですけどね」

 

 そして、二人は目的地に着いた。

 

 人目がつかず、鬼も寄ってこない場所。鬼滅隊でも、この場所を知る者は、両手で足りる。現役の柱でこの場所を知る者は、蟲柱である胡蝶しのぶだけだ。

 

「まぁ、隠れて研究するならココになりますよね。分かっていましたが」

 

「胡蝶しのぶさんの古巣だというのに、浮かない顔をされますね。あぁ、ご安心ください。既に、生きた検体の方は、何匹か運び入れております。今すぐにでも、始められますよ」

 

 二人は、鉄と石でできた堅牢な建物の中を進んだ。

 

 建物自体は、日の光をよく通す造りをしている。万が一の場合、鬼の逃亡を防ぐ事と研究施設にある鬼という研究材料を消去するためだ。

 

 日の光の当たらない部屋に、裏金銀治郎は既に何匹かの鬼を捕獲していた。

 

 鬼は、普通の刀で頸を切断され頭部だけ残されている。更に、脳髄に日輪刀の素材である猩々緋砂鉄と猩々緋鉱石から作られた針金を差し込み活き締めにしている。藤の花に囲まれたこの施設は、花の良い匂いが漂っており、鬼は生きた屍となっていた。

 

 鬼を活き締めにする――金の呼吸 弐の型「金縛り」であった。裏金銀治郎が、岩の呼吸と雷の呼吸を合わせる事で新たに開発した呼吸であり、非常に優れた補助技が多数ある。なかでも、黄金コンボと呼ばれるのが壱の型「珠砕き」で悶絶させ、弐の型「金縛り」で相手の動きを封じる。現時点で、この技を食らって生きながらえた男の鬼は誰も居ない。

 

「いつ見ても、悪趣味です」

 

「おや、画期的な方法でしょう? その恩恵を貴方も十分受けたはずです。さて。時は金なりです。鬼滅隊の存亡を賭けて、このプロジェクトを成功させましょう」

 

 机や壁には、国内外から集めた様々な器具を揃えた。医療器具から拷問器具まである。特殊な器具が必要な場合は、刀鍛冶の里へ依頼しすぐにでも作成する手配も整えている。

 

「はぁ~、この話はやめましょう。で、元・金柱の裏金銀治郎……あなたは、私に何を望むのですか?」

 

「【強化人間計画】と【資金調達】どちらも急務です。ですが、貴方の仕事を減らして、研究時間を稼ぐ為、強化人間を優先しましょう。その過程でできた物を資金調達に回せばよい」

 

 負傷した隊員というのは、厄介な存在だ。下手な重傷なら、死んでくれた方が有り難いというのは戦場の常だ。事実、戦争において、意図的に殺さず負傷者の手当などに人員を割かせるという悪質な戦法がある。

 

 鬼滅隊においては、本来なら見捨てたい重傷者でも手厚く介護し、現役へと復帰をさせる為、鋭意努力している。実戦経験を積み、生き残った隊員というのは得がたい存在だ。

 

「ですから~、具体的に何をするのでしょう?」

 

「鬼の血肉を利用し、治癒と肉体強化の実験をします。そして、鬼を殺す毒も配合し、摂取者への影響を減らす微調整をして貰いたい。ある程度効果が見込めれば、蝶屋敷の患者に同様の事を行い、早々に現場復帰させます」

 

 働かざる者、食うべからず。治療費を貰っているわけでもない患者をいつまでも蝶屋敷に置いておく必要はない。

 

 胡蝶しのぶが、日輪刀を抜刀した。その剣先が裏金銀治郎の眉間を軽く突き刺した。血を流すが、裏金銀治郎は意に介さない。この行動は、裏金銀治郎の想定の範囲内であった。

 

 いかに、お館様の命令があったとは言え、胡蝶しのぶが診ている患者に対して、鬼の血肉を与えるなど許しがたいことであった。その何処へも発散できない鬱憤を、元から受け止めるつもりであったのだ。

 

「防げたでしょう。なぜ、何もしないんですか?」

 

「貴方の気持ちが晴れるならば、死なない程度に受け止めましょう。貴方ほどで無いにしろ、私も鬼を滅ぼしたい」

 

 裏金銀治郎は、胡蝶しのぶの日輪刀を掴んだ。そして、一歩ずつ詰め寄り、壁際まで押しやった。そして、もう片方の手を壁にドンと押しつける。

 

 血が流れるのも気にとめず、真摯な眼で胡蝶しのぶを見つめる。真夜中で、男女が二人っきりの隔離施設。お隣には、仮眠室というがある。勿論、ベッドまであり、意味深なご休憩も可能な設備は整っていた。

 

 裏金銀治郎……彼はスペック的に言えば、間違いなくモテる。体格は178cmと大正時代を考えれば長身である。体型については、現役引退したとはいえ元柱である為、男性の理想型とも言える肉体美だ。更に、鬼滅隊の中で言えばかなり裕福な部類である。だが、唯一にして最大の欠点が――人の心が分からないサイコパス的なところがあり、()()の女性にとっては受け入れにくい性格だ。むしろ、上弦の鬼である童磨と相性がよいだろう。

 

 しかし、一般人でない鬼滅隊の中では結婚したい男性ランキングでTOP5に入る男であった。高身長、高収入、高学歴……俗に言う3高である。

 

「わ、分かりました。だから、刀を握ったまま私を壁に追いやらないでください。それに、近い!! 近いですって!!」

 

「女性である貴方に負担を掛けないよう、努める事を誓いましょう。何かあれば、私に強要されたと言えばいい。どの道、金庫番として疎まれていることは知っている。一つ二つくらいそこに何かが加わったところで痛くもない」

 

 裏金銀治郎は、刀から手を離した。

 

 胡蝶しのぶからしてみれば、漢気を感じる場面でもあった。柱という存在は、強い……めっぽう強い。その証拠に、大半の隊員は、胡蝶しのぶ……性別:柱 といった感じでおり、もはや超越者のように(あが)められている。

 

 医療に身を置く事から男性と接する機会も多いが、女扱いされる事や心配されるといった事に免疫が無かった。

 

 未来で流行する壁ドンのおかげで集中力が切れた胡蝶しのぶは、裏金銀治郎の怪我(・・)が完治している事に気づく事はなかった。

 

 

◆◆◆

 

 裏金銀治郎と胡蝶しのぶは、鬼滅隊の為、日々研究に勤しんだ。

 

 元々、鬼を食えば身体能力が向上するなど様々な恩恵がある事は既に分かっている。加えて、鬼を殺す毒を作る際に、口外できないほどの非人道的な事をやってきた経験と知識のおかげもあり、成果が出るまで非常に短期間であった。

 

 動物実験を終え、すぐさま蝶屋敷ではそれが活用された。鬼を殺す毒と鬼肉と牛肉のハンバーグなどが提供され始めた。濃い味付けの料理に混ぜ込み、違和感をなくす作戦だ。急に洋食が提供されては違和感がある為、この日に備えて、日本各地から特産品を集め、料理として提供した。鹿肉、イノシシ肉、羊肉、ウサギ肉など……おかげで、多少食べたことが無い肉であっても誰も抵抗感を抱く事はない。

 

 勿論、勘の良い柱達や嗅覚や味覚が優れているような特殊能力を有する者達には、別メニューが用意される。

 

 ある者は、全治三ヶ月の怪我が、一ヶ月で完治した。機能回復訓練においては、誰しもが怪我をする前より明らかに強くなっている。目のあたりにした成果に、うれしさ半分、後ろめたさ半分といった感じになる胡蝶しのぶがいた。

 

「いや~、胡蝶様のところで治療されてから、前より強くなった気がする。蟲柱様々だ」

 

 蝶屋敷で退院する者達が、そんなことを口走るようになった。皆から感謝される度に、心のどこかがチクチクする痛みを伴っていた。

 

 裏金銀治郎は、「早く退院できるだけでなく、後遺症無しで前より強くなり死ににくくなったんだ。感謝されど恨まれる筋合いは無い」と平然と口を開いた。だが、考えて欲しい……蝶屋敷で胡蝶しのぶが治療を行ったという事実がある。つまりは、矢面に立たされているのは、胡蝶しのぶである。

 

 できる男である裏金銀治郎は、「負担を掛けない」と誓った事を忘れない。

 

「確かに、胡蝶様の献身的な治療のおかげもあるが、金柱様が国内外から最新の医療器具や古今東西の薬品を取り寄せた事で治療が捗ったって聞いたぞ。後、病院食で食っていたあれって、金柱様が我々の為に手配してくれたってさ」

 

「そうなのか!? 人の血が通ってないと言われる金柱様がね~」

 

「あまり金柱様の事を悪く言うと、査定に響くぞ。お前は知らないかも知れないが、金柱様が金庫番をやられてから、提出書類は増えたが、きちんとした理由があれば、色々と都合立てして貰える。以前なんて、鬼狩りに行った先での宿泊費や食事代なんて自費だったんだからな」

 

 そんな退院する者達の会話を盗み聞きしてしまった胡蝶しのぶは、裏金銀治郎の評価を上げた。約束通り、私に負担や非難が来ないように全ての責を一心に背負おうという心意気は、男前だ。

 

 事実、胡蝶屋敷の医療器具や薬などは、裏金銀治郎がコネをもちいて集めた物が増えており、その事実を裏付けしていた。

 

 つまり、裏金銀治郎が用意した薬を使い治癒したという事実が加わる。これにより、何かあった際は、裏金銀治郎が自分の知らない間に薬の中身を換えていたなど色々と逃げ道ができたのだ。

 

 外国語表記の医学書や、機材の説明書は全て裏金銀治郎自ら翻訳し、要点を纏めて胡蝶しのぶに渡すまでの徹底ぶりである。

 

「全く、あの人は……。今度、おはぎでも作って持っていってあげましょう」

 

 胡蝶しのぶの足取りが、普段より軽やかであった事は、継子である栗花落カナヲにしか分からない程度のものであった。

 

◆◆◆

 

 胡蝶しのぶが蝶屋敷でおはぎ作りをしている頃、裏金銀治郎は産屋敷耀哉に近況報告を行っていた。

 

 捕獲している鬼の数、管理方法。それらを活用した研究成果――より具体的には、蝶屋敷での隊員の早期復帰や身体能力向上のなど吉報を届けた。

 

 非の打ち所がない成果を上げてきた裏金銀治郎に対して、産屋敷耀哉の心には未だにシコリが残っていた。鬼を狩るために外道に堕ちたのではないかと。

 

「素晴らしい成果だね、銀治郎」

 

「お館様、無理にお褒めいただかなくても構いません。例え、背に腹は代えられぬとは言え、理解できるが納得していないお気持ちは、察しております」

 

 裏金銀治郎……当然口だけである。察しているが、別段気にしていないのだ。

 

「そうか、君にも苦労を掛けるね。引き続き、よろしく頼む」

 

「承知致しました。では、今後の予定を説明致します」

 

 裏金銀治郎は、A4用紙10枚にもおよぶ企画書を提出した。資料自体は、後ほど産屋敷の一族が確認し情報共有する為の物なので、裏金銀治郎が内容を読み上げる。

 

 歴代最高の柱達が集うこの時代……裏金銀治郎は、下弦の鬼、上弦の鬼だけに留まらず鬼舞辻無惨が動くことを知っていた。激戦の末、上弦の鬼達を撃破する主人公一同。

 

 まだ現れぬ者達が最高の働きをできる下地を粛々と整えて、このビッグウェーブに乗るつもり満々であった。

 

 その為、企画書には、柱専用の緊急活性薬という品物を準備する方針が書かれている。高濃度に圧縮した鬼の血液を摂取する事で傷が癒え、身体能力向上……場合によっては、血鬼術に目覚めるという特典までつく。

 

「これは、必要なのかね?」

 

「必要です。鬼と異なり我々は、部位欠損を補う手段も即時回復する手段も持っておりません。代えの利かない柱達です……この薬が、鬼舞辻無惨を倒す起死回生の一手になるやもしれません。備えあれば憂い無しという諺もございます」

 

 柱として、数多くの鬼…下弦の鬼すら倒している身である裏金銀治郎の言葉は、軽い物ではない。鬼とは、それだけ強い。幾人もの柱が亡き者にされている為、産屋敷耀哉も重々理解していた。

 

「………許可しよう」

 

「ありがとうございます。では、薬ができ次第改めてご連絡致します。柱達への説明は、お館様からお願いいたします。敬愛されるお館様の言葉なら皆も耳を傾けるでしょう」

 

 薬は用意するが、仕様に関する説明は当主がやるのは当然である。別に損な役回りを押しつけているわけではない。責任者として、仕事を全うしてくれとお願いしたのだ。

 

 産屋敷耀哉は、「わかった」と笑顔で頷いた。




不老長寿の薬とか若返りの薬とかで商売を始めようかしら。

モンハン的に鬼を原料にした武器鎧っていいよね^-^
幾らでも再生するし、材料取り放題。

……大事な事ですが、作者は胡蝶しのぶが大好きです。
よって、ヒロインポジは誰だかは言うまでもありませんよね!!

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