鬼滅の金庫番   作:新グロモント

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03:胡蝶しのぶ30歳

 胡蝶しのぶは、私室で悩んでいた。

 

 先日、裏金銀治郎から「錠剤化にも成功したので、そろそろ売り込みにいく」から準備しておくようにと言われ、翌日に胡蝶しのぶは、100回分の錠剤……胡蝶印のバイアグラを用意した。バイアグラという未来を先取りするネーミングであったが、語呂が良くなぜか元気が出そうな響きである事から誰も必要以上に薬名について追及はしなかった。

 

 遠い未来……米国で同じ名前の薬が販売され、wikiに元祖バイアグラの開発者として胡蝶しのぶという偉人の名が残る事になるだろう。英霊召喚されたならば、知名度補正は思うがままである事は言うまでもない。

 

 よって、バイアグラを、裏金銀治郎に渡すだけで終わりだと思っていたが、そうは問屋が卸さない。

 

………

……

 

 胡蝶しのぶの私室に並べられた洋服。流行の最先端であり、上流階級の者達の中では当たり前となったドレスが何着も飾られていた。また、それに合う宝飾品まで用意してある。

 

「手伝いましょうか?」

 

「だ、大丈夫よ。カナヲ」

 

 胡蝶しのぶの継子である栗花落カナヲが悩む師に手助けを申し出たが断った。

 

「ならば、私がお手伝いしましょうか? 着慣れないドレスでしょうから、力のある男手が必要でしょう。それに、いい加減意地を張るのは止めましょう」

 

 その瞬間、裏金銀治郎の鳩尾に肘鉄が決まる。あまりに、見事な動きであった為、防ぐ事ができず、その場でもがき苦しむ裏金銀治郎。

 

「誰が意地を張っているですって!? ドレスくらい着れますよ!! というか、いつまで部屋に居るんですか、早く出て行ってください」

 

 胡蝶しのぶの私室に用意された数々の品は、裏金銀治郎が全て用意した。これから、バイアグラを売りに行く際、鬼滅隊の様な格好では、商売の土俵にすら立てない。これから、向かう先は、そのような場所なのだ。

 

「ゴッホゴホ……む、無理でしょう。さっきから既に20分も経っているじゃありませんか。裾上げとか、腰回りの調整とか、胸回りの調整とか色々やらないとドレスは――」

 

 器用な手先で、裁縫もお手の物であると伝えようとしたが、思わぬ反撃をされてしまった。追撃で、床を転げて苦しむ裏金銀治郎の顔があった位置に日輪刀が突き刺さる。

 

 今の攻撃は、回避せねば確実に脳天を貫いていた。

 

「腹囲と胸囲がどうしたんですか? 裏金銀治郎さん――着替えるからいい加減出て行きなさい!」

 

 胡蝶しのぶの絶対零度の視線が突き刺さる。

 

 ドレスを着る際、万が一、ウエスト的問題で無様を(さら)すような事は避けたかった……そもそも、服を着替えるんだから、気を利かせ何も言われずとも出て行くのが常識であるが、それを察してやれない者が悪い。

 

 裏金銀治郎は、栗花落カナヲと一緒に部屋を退出した。

 

 私室の外で待機する二人組。実に、シュールな組み合わせであった。親子にも等しい年齢差があり、鬼滅隊の最高位であった柱と現役柱の継子……どういう状況で部屋の外で仲良く待機しているのかと、遠目で二人を確認した者達は、思っていた。

 

「ちゃんと、飯くってるか?」

 

「はい」

 

 裏金銀治郎は、「そうか」と言うだけであった。

 

 この二人……面識はあるのだ。胡蝶しのぶが、鬼を殺す毒開発に睡眠時間すら削っていた頃、栗花落カナヲを放置してる時期があった。偶然、依頼された薬を持ってきた際、空腹で倒れている彼女を裏金銀治郎が助けたという経緯がある。

 

 九死に一生を得たのだ。その後も、裏金銀治郎は様々な事――勉学、料理や裁縫技術など、自らが持つ多岐に渡る知識を教えた。他にも将来を見越し、市販されているファッション誌や情報誌などが彼女の許に毎月届けられていた。

 

 だからこそ、ドレスを着る手伝いや化粧の手伝いを申し出る事ができた。その女子力は、鬼滅隊でトップを張れるほどだ。

 

 優しい彼女は、その女子力を胡蝶しのぶの前では披露しない。直感で、どうなるか目に見えているからだ。

 

「それならいい。―――はっ!!」

 

 裏金銀治郎の脳裏に素晴らしいアイディアが浮かんでしまった。まさに、悪魔的発想!! 胡蝶印のバイアグラの価値を最大限にする方法を!!

 

「コイントスで決めて構わない。表がでたら、胡蝶しのぶと一緒にパーティーへいくぞ。服や装飾品は、用意した物を自由に使っていい。何をしている迷ったらコイントスで決めるんだろう」

 

 胡蝶しのぶの年齢が17歳、栗花落カナヲの年齢が15歳。裏金銀治郎の年齢が30歳。

 

 ギリギリいけると、判断したのだ。

 

「……迷ってない。行かない」

 

「では、胡蝶しのぶの為に一緒にパーティに出席してやれ。年齢が近い同性が一人でも居た方が彼女も心強いだろう。コインで裏がでたら、蝶屋敷の運営費を私のできる権限の範囲で増額してやる」

 

 裏金銀治郎は、胡蝶しのぶの為とか欠片もそんな事は思っていなかった。

 

 だが、聞こえのいい理由を付けて、彼女もパーティーへ連れ出したかったのだ。事実、胡蝶しのぶ的にも、彼女がいた方が安心するのは事実だ。

 

 彼女の手からコインが弾かれる。

 

「あぁ、それと、コインで表がでたらもう一つお願いを聞いて欲しい」

 

 コインの結果に絶対従うと決めている彼女である。弾かれた時にお願い事を追加する裏金銀治郎は、卑怯であった。

 

 将来的に、鬼滅隊の柱に並ぶ実力を有するようになる彼女だが……現時点では、金柱であった裏金銀治郎の方が上である。バレずに、コインが常に表がでるように細工をするなど朝飯前であった。

 

 

◆◆◆

 

 その日、蝶屋敷に激震が走った。

 

 鬼滅隊の隊服――どこからどう見ても、学ラン服であった。男女とも同じ服を着る習わしである為、女性隊員も学ラン姿だ。つまりは、美しい女性が学ラン姿をしているとする……ファッションセンス皆無や気狂いかと、疑う者も少なからずいる。

 

 もっとも、女性隊員だけセーラー服にミニスカだった場合、防御面では不安が生じるが男性隊員には好評を得ることは間違いない。

 

 要するに……普段、隊服を着用しており色気すら感じさせない蟲柱の胡蝶しのぶと継子の栗花落カナヲが、華族の御令嬢と言わんばかりのドレス姿を見せれば誰でも目を疑う。

 

「お二人ともよくお似合いです。分かっていましたが、元が良いから、衣装一つで更に美人に磨きが掛かっています。私がもう10歳若ければ、今すぐにでも結婚を前提にお付き合いを申し出ている所です」

 

 胡蝶しのぶは、薄ピンクをベースにしたドレスを。カナヲは、黒がベースで胸元が開けた大人っぽいドレスを着ている。

 

 ここで、今後の計画に問題が生じてしまった。化粧を施し、ドレス姿となった二人を見比べる。言うまでも無く、双方中々お目にかかれない美人であった。

 

「ありがとうございます。――なんか、カナヲの方が大人っぽいドレスじゃありませんか?」

 

 裏金銀治郎がマジマジと栗花落カナヲを見つめる。

 

 感情の起伏が薄い彼女が若干恥じらい、胸元を隠す。隠すくらいなら、最初からそんな露出の高い服を選ばなければ良かったのだが、黒がベースのドレスはそれ一着だけであったのだ。

 

 下から上へと()めるように観察する目に……当然、二本の指が突き刺さる。

 

「ぐぁぁぁぁ!! 目がぁぁぁぁ!! 目がぁぁぁぁぁ」

 

「レディーに対して、その目は失礼ですよ」

 

 栗花落カナヲばかりみる裏金銀治郎にイラっとした胡蝶しのぶは、思ったより力をいれて眼球をズブッとやってしまった事を少し悪いと思った。

 

 それから、裏金銀治郎が復活してから、ドレス姿に刀という和と洋をチャンポンした格好でパーティー会場へと向かう車に搭乗した。車に乗るまでの間、すれ違った者達から綺麗と褒め言葉を沢山貰う事になった女性陣営であった。

 

 

◆◆◆

 

 裏金銀治郎が車を運転し、2時間後……目的地の陽明館と呼ばれる歴史ある建物に到着した。そこには、何台もの車が連ねており、集まった人達の多さがよく分かる。それだけでない。車から降りる者達の身なりから、上流階級の人である事が一目で分かるほどだ。

 

 本日、そこに集まる者達は、政財界の大物とその御息女達だ。顔つなぎも兼ねた合コンみたいな物である。勿論、健全な事もあれば、不健全な事も数多い。様々な利権を売り買いする場所にもなっている。

 

「目的地、間違っていませんか? 見るからに、偉そうな人達ばかりいそうな所じゃありませんか」

 

「合っている。招待状もあるから、正面玄関から堂々と行くぞ。後、絶対に騒ぎを起こさないでくれよ。このパーティーを逃せば、鬼滅隊は破産を逃れられない」

 

 これから、鬼滅隊の存亡を賭けた営業回りが始まる。

 

 今日ここに集まっている者達は、金と権力を無駄に持ち合わせているが、若さや体に不自由を抱えている者達ばかりである。日本が誇る老害達が集まっているとも言える。その権力で数々の犯罪をなかった事にしてもみ消し、考えられる悪事は概ねやり尽くした連中だ。

 

 そんな者達が一堂に集まったのには、理由があった。

 

 「健康な肉体が手に入る」「若返る」「病気が治る」という情報を耳にしたからだ。今まで散々類似した情報に踊られてた者達であったが、今回はそれをその場で実証するという話だからこそ集まってきたのだ。

 

 会場の案内役が三人が乗る車に近づいてきた。

 

「裏金様でございますね。お車はこちらでお預かり致します。それと――そちらの御婦人達は?」

 

「家内と娘だ」

 

 しれっと、二人を家内と娘と紹介する裏金銀治郎。

 

 実に厳しい!! 年齢的に言えば、まだ二人を娘と言う方が信じられるだろう。だが、バイアグラの効果を考えれば、この程度インパクトがある方がちょうど良いとも言える。

 

 只……問題なのは、胡蝶しのぶの顔にあり得ないくらいの青筋が立っている事だ。身からわき出る怒りのオーラが周りに伝わる。それもそのはず、未婚の女性なのにいきなり家内と紹介された。更には、子持ちという設定まで盛られてしまったのだ。

 

 年齢=彼氏ない歴である胡蝶しのぶではあるが、女性に対して言って良い事と悪い事がある。女性としては、文句の一つどころか、後ろからズブリと刺したい気分であっただろう。

 

 蝶屋敷や鬼滅隊が有する土地ならば、間違いなく傷害事件が発生した。被害者は、全治一ヶ月で、退院するまでマズイ病院食を無理矢理食わされる。そして、激痛の伴う治療が行われる事は、間違いない。

 

 だが、気にとめない裏金銀治郎である。車を早々におり、二人を呼ぶ。

 

「行こうお母さん、お父さんが呼んでる」

 

 カナヲのそのセリフに、胡蝶しのぶが人生で上から数えた方が早いほどの衝撃を受けた。

 

 まさかの裏切りであった。あの人見知りで、自分と姉以外と碌に会話ができない可愛い継子であった栗花落カナヲが、あろう事か「お母さん」と呼ぶのだ。せめて、「お姉さん」と呼ぶべきじゃないかと。

 

 だが、驚きはそれだけでなく、裏金銀治郎の事を「お父さん」と呼んでいる事だ。

 

 裏金銀治郎から、「家内」と呼ばれ、カナヲからは「お母さん」と呼ばれ、胡蝶しのぶの頭は混乱していた。鬼からの血鬼術を疑うレベルだ。

 

「ちょ、ちょっと待って。か、かかかカナヲ……どうして、私がお母さんなの?それに、お父さんって」

 

「え、だって――」

 

 カナヲは、言葉を途中で切り裏金銀治郎の方を見た。

 

 誰の差し金であったかを理解した。そして、裏金銀治郎の横まで移動し、とても良い笑顔になる。

 

「裏金銀治郎さん、可愛いカナヲに何を吹き込んでくれるんですか。あれですか、私に何か恨みでもあるんですか? あまり巫山戯(ふざけ)ていると潰しますよ」

 

「おや? 気に入りませんでしたか。蝶屋敷では、患者から「お母さん」と呼ばれる事もしばしばあると伺いました。実質、カナヲの母親的な存在でもあるでしょう。それに、考えてもみてください――バイアグラで10代の美貌を持つ美しい女性という立ち位置の方が受けが良い。我々は、商売をしに来ているのですから」

 

 ちなみに、栗花落カナヲが母親で胡蝶しのぶが子供という設定も一考していたのだ。大人っぽい彼女の方が――とも思ったが、鬼滅隊の立場を気にして、この配役を決めた。という、事は口にしない裏金銀治郎であった。

 

「つまりは、私は実際は30歳近くて、カナヲくらいの年の娘がいるという設定ですか?」

 

「理解が早くて助かります。戸籍の方は、伝手を使い年齢を改竄しております。誰が調べたとしても真実は露見しませんよ。流石に、結婚歴を残すのは申し訳なかったので、籍を入れていない夫婦的な事でお願いしますね」

 

 この時、胡蝶しのぶ30歳……一人娘の栗花落カナヲ改め胡蝶カナヲという情報が資料に刻まれた。

 

 おめでとう胡蝶しのぶ。長生きすれば、ギネスだって夢じゃ無くなったぞ。

 

 




戦闘描写より、こういうブラックジョークやネタ展開を続けたい作者がココにいる@@

捕獲してきたら鬼の管理を鬼にさせよう。
管理する鬼は待遇を少しマシにすればどうとでもなるだろう。
そして、自分たちを管理する隔離施設の拡張も鬼達にやらすぞ!!

銀治郎「しっかり働けば、殺してやる」

と平然にいう男がここに居る。

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