鬼滅の金庫番   作:新グロモント

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いつもありがとうございます!!

色々考えましたが、あっさり風味で行くことにしました。




31:鬼○隊

 裏金実家を訪れた珍客――胡蝶しのぶ。

 

 彼が、女性を連れてくる事など、今回含めて2回しかない。姉妹揃ってお持ち帰りしてくるあたり、鬼滅隊の隊士が聞けば、手が滑って刺してしまうような事態だ。実に、業が深い。

 

 『裏金書房』で待っていたのは、彼の母親であった裏金小夜子。和服を身につけた品の良い女性であった。だが、やはり彼の母親だけあり、些か近寄りにくい雰囲気がある。威圧感があるのだ。

 

「まぁ~、器量が良さそうなお嬢さんじゃない。よくやりました銀治郎。初孫を期待していますからね」

 

「気が早い。えーと、紹介します。胡蝶しのぶさんです」

 

「初めまして小夜子お義母様。胡蝶しのぶといいます。銀治郎さんとお付き合いさせていただいています」

 

 無難な自己紹介であった。鬼滅隊という極悪なキーワードなど出せないので。必要最小限しか情報を提供してはいけない。

 

「……胡蝶?もしかして、胡蝶カナエさんの姉妹の方?」

 

「はい。胡蝶カナエは、私の()です。以前に、介抱していただいたとの事で、ありがとうございます」

 

 姉という発言に裏金銀治郎は、失敗したと思った。

 

 今現在の胡蝶しのぶは、戸籍上30歳だ。当時の胡蝶カナエの年齢を考慮しても、彼女が胡蝶カナエの事を姉と言っては色々と辻褄が合わない。ここは、無理にでも妹とさせておくべきだったと。妹でも、色々と無理があるのは事実だ。特に、女性的な体格で…。

 

「やっぱり!! 面影があるわね。それにしても、銀治郎がこんな可愛い子を連れてくるなんて、今日は良い日だわ。やっぱり、男の子より女の子よね~。さぁ、狭い家ですが是非あがっていってね」

 

「お母さん、それより名刺を…。しのぶさんは、悪いが相手をしてあげて」

 

「はいはいコレよ。さぁ、しのぶちゃん我が家へようこそ。何だったら、銀治郎の部屋を漁っても良いわよ」

 

 母親の事は、胡蝶しのぶに託して名刺を確認した。柱である彼女が一緒なら、何とかなるだろうという考えだ。そこには、紛れもなく「万世極楽教 教祖 童磨」と、書かれていた。ご丁寧に電話番号まであり、掛けてこいと言わんばかりだ。

 

………

……

 

 どうしてこうなった!! という感情が裏金銀治郎の心の中を満たしていた。

 

 電話を掛けたら、直接会って話したいと言われた。人気の多い場所で会いたいと伝えたら普通にOKが出て、何が何だか裏金銀治郎も困惑するばかり。

 

 カランと喫茶店の扉が開いた。

 

「えーーと、居た居た~。先生!! 裏金先生でしょ?」

 

「童磨さん、でしょうか?」

 

 裏金銀治郎は、理解できなかった。初対面にも関わらず、長年の待ち人にようやく会えた感じがヒシヒシと伝わってきていたのだ。目元には涙まで浮かべており、お店に居る他の客からの注目がえぐい。

 

 大の大人が、夜の喫茶店で密会。片方は、涙を流した西洋かぶれの美青年。もう一人も美青年……完全に危ない世界である。人目も気にせず抱き合うなど完全にアウトだ。

 

「そうだよ。いや~、こんなに早く会えるなんて助かりました。本当に!!」

 

「やめてください!! 周りの人から誤解されるでしょう!!」

 

 一般人を装う為、丸腰の裏金銀治郎。童磨は、血鬼術も凄いが戦闘に関しても、ずば抜けた才能を持っている。下手な物を身につけて正体がばれないように気を遣ったのだ。

 

「あぁ、そうだね。店員さん、おれはブラックコーヒーで」

 

 椅子に座り向き合う裏金銀治郎と童磨。

 

 人間側と鬼側の財政担当をする二人。こんな場所で密会など、バレたら両者とも完全に裏切り者扱いになる。一方的に正体を知る裏金銀治郎にとっては、胃が痛い面会だ。通路を挟んだ反対側の席から、見守る胡蝶しのぶ。当然、抱き合うシーンも目撃していた。彼女の足下には、握力で粉砕されたテーブルの破片が落ちている。

 

「それで、どうして私のような者に新興宗教の教祖様が?」

 

「実は、恥ずかしい話だけど……上司が、君が執筆した本を気に入ってね。教えを請えと暗にいわれて」

 

 この時、裏金銀治郎は目の前が真っ暗になった。そのまま、倒れそうになったが気合いで持ち直すことに成功する。まさか、そんな場所から自分の名前が鬼側に知られるなど誰も想像できなかったからだ。

 

 未来を先取った考えを盛り込んだ企業運営に関する本をいくつか出したが、売れ行きが良くなかった。大正の世では、法整備が間に合っておらず机上の空論部分が多かったからだ。

 

「そうですか。ちなみに、どの本でしょうか? 何冊か出したことがありますので、宜しければかみ砕いてお教え致しますよ」

 

「『上司が求める理想の部下』、『理想の上司』って2冊なんだ」

 

 童磨から提示された2冊を見た瞬間、鬼側の内情が何となく理解できた裏金銀治郎。

 

「なるほど、つまり職場の人間関係でお悩みという事ですね。つかぬ事を伺い致しますが、教祖の方の上司とは一体…」

 

「あ~、えーっとね。詳しくは言えないから、とりあえず上司って事だけで勘弁して」

 

 例のパワハラ面談を知る裏金銀治郎。この世界線での無惨様も実力はいかほどのものか非常に気になっていた。くそ真面目に鬼側の者と夜の喫茶店で企業運営や上司と部下の関係について講義する男は、今後も出てこないだろう。

 

………

……

 

 当たり障りの無い情報に無難な答えを与えて、相手に満足させて終わらせたかった裏金銀治郎。だが、彼の悪い癖が出てしまった。仕事に誠実なのである。

 

「お伺いする限り、幾つか問題点があります。勿論、上司の方もですが――部下の方にも問題があります。まず、"青い彼岸花"でしたっけ? ソレを探すのに、何処で何をしたかです」

 

「そりゃ~、この足で人に聞いて回ったよ。結構長い時間を掛けて。それなのに、見つからなかったと報告したら酷い仕打ちで」

 

 鬼滅隊以上に脳筋集団の集まりだと感じたのが裏金銀治郎の感想であった。問題が多すぎる。無駄が多すぎる。目的を共有できていないなど挙げればキリがない。だが、その会話が聞かれている可能性も考慮し、彼は、上司をターゲットにせず部下である上弦に助言をする。

 

「"青い彼岸花"が実在する前提でお話ししますね。まず、彼岸花という花について、お調べにはなりましたか?色が違えど、開花時期や気候など変わらないでしょう。植物図鑑を調べ、学者から意見を聞き、地域を絞って探すことで効率化を図りましたか?」

 

「いや~、聞き込みだけかな。花の詳しい事はサッパリ」

 

 1000年経っても何一つ目的に向かって進んでいないのがよく分かる答えであった。そのおかげで鬼滅隊も存続していたのだから、有り難い事だ。

 

「やはり、そういう所から意識改善をされるべきかと思われます。1を聴いて10を知れなど難しい事はできないでしょう。ですが、1を聴いて2や3を知る事はできます。部下たる者、上司の思いを察して、1つ2つ先の手を打っておくべきです」

 

「はははは、厳しいな~裏金先生は。だけど、確かに効率化は大事だね。ちなみに、先生なら国外に"青い彼岸花"を探しに行くならどうする?」

 

 裏金銀治郎は、正気を疑いたかった。

 

 国内でもこのずさんな調査だ。国外になんて無謀の一言に尽きた。海外に派遣されるのは間違いなく信者であることは理解していた。

 

「国外は、時期尚早かと思われます。第一に、童磨さんの上司は、不定期に報告を求めてこられるとの事です。その際に、連絡が来てないからと言って進展がありませんと許してくれるのでしょうか?国内と海外では、勝手が違います。何より、外来語に明るい人でないと厳しいでしょう」

 

「う、裏金先生!! 実は、もう上司に海外渡航計画を立てているって報告しているんです。何とかなりませんか……先生のお力で」

 

 手を握ってくる童磨。

 

 周りからヒソヒソと言われる裏金銀治郎。鬼の被害は理不尽な事が多いと言われるが、誠にもってその通りである。最悪な事に、このお店……裏金銀治郎の実家の近くである。『裏金書房』の長男じゃ無かったかしらとか、微妙に聞こえるあたり、彼の評判は地に落ちただろう。

 

手を振り払い、裏金銀治郎は殺してやろうかと殺意を胸に秘め会話を続けた。

 

「あの~、私は付き合っている女性もいるので、そう言う誤解を招く行動は控えてください。ここ、近所なので……」

 

「えぇ~、先生が僕の部屋じゃイヤだって言うから来たのに」

 

「やめろぉ!! 誤解されんだろ!!」

 

 誰かが言っていた、鬼に殺されるのは災害みたいな物だと。これも災害なのだろうか。裏金銀治郎は、社会的に殺されようとしていた。この時代、男性同士の恋愛には寛容では無い。

 

 声を荒立ててキレたのは久しぶりの裏金銀治郎。そして、こいつは絶対殺すと心の中で誓う。

 

「冗談、冗談だって~。で、裏金先生なら海外渡航はどうやるの?」

 

「次はありませんからね。海外といっても国は無数にあります、何処に向かわれるのですか?」

 

「とりあえず、清かな」

 

「なるほど。あの大国なら国内に無い花もあるかもしれません。良い着眼点です、童磨さん。広い大国を効率よく探すために、彼岸花について調べた上で現地ガイドを雇いましょう」

 

「いいね~いいね~。だんだんと希望が見えてきたよ。やっぱり、()には相談してみる物だね」

 

 満足する童磨。

 

 自分では何も考えていなかったが、"青い彼岸花"という存在が見つかる可能性が見えてきた。しかも。上司への報告も裏金銀治郎の言葉をリスペクトして伝えれば良いのだ。楽な仕事だ。

 

◆◆◆

 

 それからも童磨は、裏金銀治郎を解放しなかった。

 

 青い彼岸花の次は、上司……鬼舞辻無惨への対応を相談されたのだ。そんなの、お前で何とかしろと言いたかったが、誠実に対応する。

 

「な、なるほど、上司の方がいきなり男性から女性に変わったと。私も経験した事がないレベルの話です」

 

「だろ~。長年付き合っていたから分かったけどさ……本当にどうしたらいいのさ。同僚もみんな困っていてさ」

 

 そんな相談をされた方が一番困るに決まっている。女装した鬼舞辻無惨とか、どう対応しろというのだ。並の者では不可能だ。よって、上弦だけで解決させるため、必死で頭を回す裏金銀治郎。

 

「しかし、良い上司ではありませんか。私の本を読まれたと言う事は、職場環境を改善したいという気持ちがあるという事です。もし、貴方達部下に興味が無ければ、無関心で居るはずです。いいですか、好きの反対は嫌いでは無いんです。――無関心。つまり、上司は決して貴方達の事を嫌っているわけではありません」

 

「うーーーん、うーーーん。そう言われると、そんな気も……」

 

「人の悪い部分というのは、目立つ物です。良い箇所が10個あっても、1個の悪い事でそれが覆ることもあります。その上司の良いところを探してみてはいかがでしょうか?例えば、髪が綺麗だとか、声が綺麗だとか、色っぽいとか」

 

 心にも思っていないことも、すらすらと挙げる裏金銀治郎。その言葉のせいで、童磨は口を付けていたコーヒーが気管に入り苦しんでいた。

 

「やめてください、裏金先生。実物を見た事が、無いから言えるんですよ。正直、かなりキツいよ」

 

 そんなの知っていると言いたいが我慢した彼である。あまりに、我慢しすぎて、白髪が増えるのでは無いかと心配するほどに。

 

「それでも、上司の良いところを探して好きになりなさい。それが、良い部下です。後は、同僚の方とよく連携する事です。話を聞く限り、同僚とはいえ疎遠に思えました。同じ上司を持つ者同士、何かと相談する事もあるでしょう。それに、"青い彼岸花"を探すにしても役割分担が必要です」

 

「そんな事が期待できる同僚じゃないですね。だって、剣士と臆病者と芸術家だよ」

 

「個性溢れる仲間ですね。では、連携力を高めるため、チーム名みたいなのを付けるのはどうでしょうか? 私の職場には、かまぼこ隊という三人組がいます。そのチーム名が付けられてからは、なにかと連携が高まりました。仲間意識という奴です」

 

「良いアイディアだね。さすが裏金先生!! じゃあ――鬼(上司を)殺(し)隊なんてどうだろう? これなら、鬼(滅隊を)殺(し)隊とも取れるし、いけるいける!!」

 

 童磨がまさか平行世界の鬼殺隊を結成するとは夢にも思わず、裏金銀治郎は驚いていた。これがバタフライエフェクトかと。

 

「ぶっそうな、名前ですが……私には分からない二重の意味を込められていますね。表の意味と裏の意味を同じ言葉に持たすのは良い事です。普段、口にしても何ら支障にはなりませんから」

 

「さすが、裏金先生!! よく分かっていらっしゃる。今日は相談に乗ってくれてありがとうね。是非、今後も色々アドバイスを頂きたい。どうだろうか? 万世極楽教でその手腕を振るってみない? 好待遇を約束するよ」

 

 これから潰しに行く万世極楽教など冗談では無いと内心思いつつ、申し訳なさそうな顔をする裏金銀治郎。

 

「お誘いは嬉しいのですが、やりかけの仕事を中断する事はできません。ですが、童磨さんとは気が合いそうです。今後も相談がありましたら、いつでも電話してください。職場の直通番号を渡しておきますので」

 

「裏金先生って男は、本当に!! 本当に!! 人間のままにしておくのは惜しい!! 今度、会うときは素敵なプレゼントを持ってくるからね」

 

 余計なお世話だ。やめろと言いたい衝動に駆られる裏金銀治郎。話の流れ的に、鬼舞辻無惨の血で鬼になるというストーリーが浮かんだ。その役目は、雷の呼吸を使う獪岳がいるだろうと思っていた。

 

 その後、童磨から熱い抱擁を受けて解放された。

 

 その夜、裏金家の実家で胡蝶しのぶから『当分、一人で寝てください。あの男の匂いがする内は近寄らないでくださいね』と悲しい宣告を受けた。胡蝶しのぶは、裏金銀治郎の私室を奪い取って寝た。部屋から閉め出される彼を、何やってんのと慰める母親と馬鹿だな~という裏金父も居た。




裏金父もご存命だからね。
鬼に殺されたとか悲しい話は無い!!

そろそろ、主人公が目覚める@@

温泉、温泉!!
ローション風呂に、はいりにいきましょう。


次の投稿は、金曜日になるかも@@
そうなったらごめんなさい。

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