鬼滅の金庫番   作:新グロモント

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何時もありがとうございます。

そして、温泉回を期待していた読者様ごめんなさい。

実は、頂いた感想を確認している時に、この話を書きなさいと啓示を受けました。

NNN。様
素敵なネタ提供ありがとうございます!!


32:彼の匂いがする

 胡蝶しのぶ――花も恥じらう乙女である。裏金銀治郎により戸籍上、面白おかしくなっている点を除けば、実年齢18歳の立派な女性である。

 

 その彼女は、現状を正しく理解する。清いお付き合いを既に通り越した彼の実家にいる。ご両親にも挨拶をした上で、お泊まりする事にまでなった。そして、寝床として略奪したのが裏金銀治郎の私室である。

 

 だが、部屋の主を追い出して今は一人だ。

 

「なんだか、罪悪感があります。でも、銀治郎さんが悪いんですよ」

 

 胡蝶しのぶは、喫茶店でのやり取りを思い出していた。

 

 殺しても足りないほど恨みがある上弦の鬼と仲良く抱き合ったり、握手したり……その様子を思いだし、ムカムカが抑えきれなくなる。ベッドから枕を持ち上げて、ボコボコと殴る。

 

「いいですか、銀治郎()さん。私は、怒っているんです」

 

 枕に独り言をつぶやく胡蝶しのぶ。

 

 怒っているという割に、枕を抱きしめて深呼吸する彼女は、実に可愛らしい。

 

「でも、感謝もしています。貴方が居なければ、あの鬼を確実に倒せると言えなかったかも知れません」

 

 男の部屋で裏金銀治郎の枕を抱きしめる彼女。裏金銀治郎がここに居たら、『枕、そこを代われ』と言って、枕を両断しただろう。枕を抱いたまま、ベッドに倒れ込む胡蝶しのぶ。

 

 風呂上がりの彼女の良い匂いが部屋を満たしていく。日帰りを想定していた彼女は、寝間着など持ち合わせていない。勝手に部屋を物色して、裏金銀治郎のYシャツを拝借していた。

 

 白いYシャツと下着姿――些か以上に、魅力的であった。時代の最先端を行く彼女の誘い受けスタイルは、将来の男の為に、役立つだろう。

 

銀治郎()さん、以前に今は幸せかと聞きましたね。――幸せです。こんな時間が長く続いて欲しいとすら思っています。小夜子お義母様も秋月お義父様も、とても良い人です。でも、姉さんの方がちょっぴり先に出会っていたのが、残念です」

 

 自らより先に裏金実家を訪れていた胡蝶カナエ。それについて、実の姉から何一つ報告がなされていなかった。もちろん、姉の交友関係に口を出すつもりはない。しかし、男性の家にお世話になって、介抱されたのなら一言くらい教えて欲しかったのだ。

 

 それが原因で、裏金銀治郎は柱という職を追いやられて資産運用をしている。結果的に言えば、元炎柱の行動は鬼滅隊の為になったとも言える。

 

「でも、姉さんも銀治郎さんの部屋には泊まったことありませんよね。これで、姉さんに一つ勝ちましたよ」

 

 胡蝶しのぶは、気がついていない。そもそも、介抱する為に連れてきた女性――胡蝶カナエを何故、男のベッドで寝かすのかと。客間と客用の布団がちゃんとある。恋は盲目とはこの事だ。

 

「……何やってんだろう。これでは恋する乙女みたいじゃないですか!! ――寝ましょう。今日は、色々あって疲れました」

 

 22時前だというのに一人(・・)で毛布に入る彼女。そして、目を閉じる。

 

………

……

 

 人間は、視覚からの情報量は8割から9割と言われている。目を閉じる事で、他の器官が情報を得ようと鋭敏になる。

 

「彼の匂いがする」

 

 彼女の嗅覚が部屋の主の匂いを感じ取った。

 

 胡蝶しのぶは、少し前までは、こんな関係になるなど想像も付かなかった男性の事を思い浮かべた。だが、そう思っていたのは彼女だけである。あらゆる方向から外堀を埋められて、今の状況だ。

 

 それに、彼女も決して悪い気はしていない。彼女も女だ。全力で自分を求めてくれる男性に心が惹かれた。それに、望む物を全て与えてくれる男は、裏金銀治郎以外にいない。

 

「銀治郎さん、客間で寝ているのかな。――少し、悪い事をしてしまった」

 

 仮にも、彼氏の実家で部屋の主を追い出して占拠するなど、普通ではありえない。だが、裏金両親は、胡蝶しのぶの事を大層気に入っており、息子なんて外で寝れば良いのよ。どうせ、風邪なんて引かないんだからと言う始末だ。

 

 もはや、裏金銀治郎の実家では、『胡蝶しのぶ > (越えられない壁) > 裏金銀治郎』の扱いが確定していた。女の子に恵まれなかった裏金実家において、男のヒエラルキーは大変低い。

 

 ゴロゴロ

 

 ゴロゴロ

 

 寝付きは良い方の彼女であったが、睡魔は一向に訪れない。一人で眠る事が減った彼女。自室ならまだしも、男の部屋で一人で寝るなど異常事態。柱とて平常心を保つには、至らなかった。

 

 落ち着かせる為、スーーーハーーーと深呼吸するがその効果は無い。

 

 ムラムラ

 

 そんな彼女の頭を横切る睡眠するためのアイディア。だが、そのアイディアは、完全に駄目な方向の物であった。

 

「……いやいやいや、無いって!! 流石に、人様の家で、銀治郎さんのベッドで!! 落ち着きなさい、胡蝶しのぶ」

 

 人間の三大欲求と言われる――『食欲』『睡眠欲』『性欲』がある。

 

 鬼を食べた事により、身体能力が向上すると同時に、これらの欲求も向上するのだ。ご飯を食べて満たされた『食欲』。残る二つを一気に解消する事が、胡蝶しのぶの勇気で実現できる。

 

 更に、背徳感とシチュエーションという相乗効果もあり、胡蝶しのぶの欲求のボルテージは上がっていった。頭では分かっていても、彼女の手が動く。

 

「す、少しだけ」

 

 裏金銀治郎のベッドの脇に、白い三角の布が落ちる。そして、しなやかな指でなぞる。

 

………

……

 

 翌日、裏金銀治郎は客間で目を覚まし、胡蝶しのぶを起こしに向かった。快眠している胡蝶しのぶがいる部屋を開ける。

 

 部屋の淫靡な匂いを嗅ぎ、床に落ちている女性物の三角の布を確認した。

 

「誘い受けされているのか……」

 

 Yシャツ一枚であられもない姿で寝る彼女を前にする裏金銀治郎。素足が見えており、毛布が絶妙に大事な部分を隠している。少年ジャンプの謎の力が働いたおかげで、見えないからこそ逆にエロくなるという不思議な現象が目の前にはあった。

 

 この状況で裏金銀治郎が手を出したとしても彼に罪は無い。

 

 実家で朝っぱらからプロレスとかハイレベルな戦いはできないと、煩悩に勝利した裏金銀治郎。昨日、童磨に抱きつかれなければ、今の枕ポジションに自分が居たのだと思うと、絶対にアイツは殺すと心に誓う男が生まれる。

 

 できる男の裏金銀治郎は、そーーと部屋を退出し、扉を閉めた。そして、外からノックして起こす。何も見なかった事にしてあげる優しい男である。

 

 

◆◆◆

 

 裏金銀治郎と胡蝶しのぶは、早々に神保町を後にした。長い時間、鬼滅隊を離れる事もできない。それに、鬼の脅威は一応去った。

 

 そして、事が事だけに直接、お館様に報告を行う。信憑性を担保する為、胡蝶しのぶが同席する。鬼舞辻無惨についても、情報があると伝えると……産屋敷あまねも同席。

 

 産屋敷あまねは、僅か一日だったにも関わらず、疲れが顔に表れている。裏金銀治郎の一日の仕事量が、産屋敷あまねとその子供達では終わらなかったのだ。勿論、勝手を知らないという事もあるが、明らかに一人で行う仕事量ではない。

 

「おかえり銀治郎。短い休みで済まなかったね。鬼の件について、報告を」

 

「まず、実家に接触してきたのは、童磨という鬼でございました。上弦の()という刻印を確認しております」

 

 それには、裏金銀治郎も驚いた。上弦の弐であった男が、降格していたのだ。考えられる可能性は二つだ。入れ替え戦で序列が変わった――この場合、あのチートより強い鬼が出てきたことになる。もう一つは、パワハラ上司による理不尽な降格である。

 

 原作を知る彼は、後者だと見抜いていた。

 

「わかった。無事で何よりだ。それで、鬼の目的は分かったかい?」

 

「私に助言を求めて訪ねてきておりました。私が、出版した『上司が求める理想の部下』、『理想の上司』を鬼舞辻無惨が読んだらしいのです。そして、上弦に教えを請えと……」

 

 寝たきりの産屋敷耀哉も流石に困惑した。理解に苦しんでいる。

 

 当然、同席している産屋敷あまねも同じ意見だ。あまりに突拍子のない話に、産屋敷あまねは疑いを持った。上弦の鬼と接触して無傷で帰ってくる男……謎が多すぎる。裏で手を組んだと言われた方が、辻褄が合う。

 

「鬼が?人間に?信じがたいですね」

 

「あまね様、お気持ちは分かりますが……私も聞いておりましたので間違いございません。銀治郎さんに教えを請いに来たのです。ですが、衝撃を受けた内容は他にもございます」

 

 胡蝶しのぶが、目で訴える。

 

 女装パワハラ上司については、裏金銀治郎の口から報告しろと。酷い話だ。

 

「後で、報告書を纏めますので、ご確認ください。それと、鬼舞辻無惨の目的が、一つ判明しました。"青い彼岸花"を探しております。話を聞くに、杜撰な探し方であったので、アドバイスを致しました」

 

「"青い彼岸花"か……なるほど、彼は今でもそれを探しているのか。銀治郎の事だ、アドバイスをした目的があったのだろう?」

 

 産屋敷あまねと違い産屋敷耀哉は、裏金銀治郎の事を信頼している。疑わしい事も多いが結果的に鬼滅隊の不利になることはしないと。

 

「今回の事である程度の信頼は得られました。直接の連絡先も教えたので、適度に連絡を取っていく予定です。そして、鬼滅隊の財布代わりにします。"青い彼岸花"の情報を手にする為、伝手を使うのに金が要ると言えば、用意するでしょう」

 

 胡蝶しのぶは、やっぱり~と理解を示していた。

 

 宗教法人は税制面で優遇されており、お金を持っている。なぜなら、寄付は非課税だ!! 人の金を奪うのは罪だが、鬼から奪うのは罪にならない。鬼を殺す資金は、鬼に出して貰う健全なアイディアである。

 

「裏金殿、そのお金は鬼に騙された人の物ではありませんか?」

 

「あまね様、それは既に鬼の金です。鬼滅隊には、運用資金が必要です。私の仕事を代行して、ご理解頂けたはず。毎日、あれだけの金額を消費しております。以前の列車事故のような事が今後も起きないとも限りません」

 

 大事な事だが、胡蝶しのぶと裏金銀治郎は、鬼滅隊の大スポンサーでもある。フロント企業の利益を全て鬼滅隊に還元している善良を通り越した異常者だ。勿論、部下という立場もあるので、両者の距離感は微妙だ。

 

「銀治郎、上弦の肆については君に一任しよう。だが、くれぐれも注意してくれ。もし、戦力が必要な場合は、直ぐに柱を動かそう」

 

「ありがとうございます、お館様。最後に、鬼舞辻無惨についてです。上弦の鬼から得た情報では、炭治郎達が倒した下弦の壱を残して、女装姿で全て一掃したらしいのです。上弦にも度々女装姿を見せつけて困っているとか」

 

「――すまない銀治郎。どうやら、聞き間違ったようだ。聴力には自信があったのだが、病が進行したかもしれない」

 

 長年の宿敵である鬼舞辻無惨の一面。その情報は、産屋敷耀哉の体調を悪化させた。鬼だけでなく、鬼滅隊にもダメージが及ぶ女装……鬼柱様の強さは伊達ではなかった。存在自体が、危険物だ。

 

 よもや、長年の宿敵が想像の斜め上をいく趣味を開花させていたとは、勘が優れている産屋敷でも察する事ができなかった。勘が働かない産屋敷一族は、無能である。

 

「お館様、聞き間違いではございません。無惨が、女装姿で下弦を一掃し、上弦に日々嫌がらせをしております。ネチネチと……蛇柱も真っ青な位に」

 

「冗談ならタチが悪いです。その情報は、誠なのですか?しのぶさん」

 

「少なくとも、上弦の鬼が発言していた事は間違いありません。下弦とは、明言しておりませんでしたが……話の流れ的に誤りはないかと」

 

 裏金銀治郎の発言の裏を取る産屋敷あまね。気持ちは理解できるが、本人を目の前で失礼である。

 

「このように考えれば良いのです、あまね様。その程度の器量しかない鬼舞辻無惨だからこそ、1000年も産屋敷一族が……鬼滅隊が存続できたのです」

 

 理解したくない事実を忠言する裏金銀治郎。組織には、こういう男が必要だ。

 

「銀治郎さん、柱としてお館様とお話がありますので、退室を」

 

 話す事がなくなった裏金銀治郎は、先に退席した。

 

………

……

 

 そして、胡蝶しのぶが話を切り出した。

 

「お館様、差し出がましいかも知れませんが……銀治郎さんの監視、良くないかと。鎹烏をお使いでしょうが、バレております。対応には細心の注意を払ってください。どうしても、監視をされたいのでしたら、宇髄さんに依頼するのが最適かと思います」

 

 車移動の際、一定距離を保って烏が付いてくればバレるに決まっている。町中ならまだしも、田舎道で空を見上げれば烏が何時も飛んでいる。裏金銀治郎達が、休憩すれば烏も休憩する。

 

「失礼しました。裏金殿には、後で私から謝罪を致します。しかし、此方の事情も理解して頂きたい。鬼滅隊の状況は綱渡りで、その綱を握っているのが裏金殿です。彼が綱を握る手を離せば、どうなるか…しのぶさんならお分かりでしょう」

 

「分かります。監視という体裁は、辞めましょう。身の潔白を証明という体裁ならば、対外的に悪くありません。いざというとき、お館様達が銀治郎さんの後ろ盾になるのです。具体的には、あまね様を筆頭にお子様達と銀治郎さんの業務を手伝うという風にすればよいかと」

 

 人手が足りていない資産運用。それに、今後を考えても、産屋敷一族の誰かが資産運用を引き継げるようにしておくべきである。そうすれば、仕事も早く終わり二人の時間が確保できるという、まさに一石二鳥の提案であった。

 

 胡蝶しのぶも中々に染まってきていた。

 




作者の文章力では、これが限界だorz
後は読者の脳内保管で頼んだ!!

強盗の夜の日……まだ書いていないけど、代わりに本話で当面は許してクレメンス@@
手が回らない。

だ、大事な事だが今度こそ休むぞ!!
本当に投稿しないからね!!

週末は筆を休め、体力回復に努める^-^




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