鬼滅の金庫番   作:新グロモント

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33:覚醒

 鬼滅隊の資産運用兼給与管理を担う仕事部屋。人員増加に伴い、裏金銀治郎の執務室と隣の部屋の壁を取り壊し、拡張された。素晴らしい事に業務知識がある程度あり、仕事を覚える事に対して向上心のある要員が来るのだから、裏金銀治郎もこの上ない喜びであった。

 

 それが、産屋敷耀哉――上司の息子と娘であっても一切関係ない。産屋敷あまねは、介護の為、子供達が駆り出された。

 

 例え上司の子供であっても、職場においては裏金銀治郎が上司である。働いてお金を貰う以上、子供であっても手加減などしない。それが、誠実な仕事への向き合い方だ。

 

 そのおかげで思わぬ自由時間ができた裏金銀治郎。蝶屋敷に足を運んでいた。目覚めたと話があった竈門炭治郎へのお見舞いと経過報告をする為だ。病室に近づくにつれて賑やかになる。竈門炭治郎の目覚めを喜ぶ者達が多く、彼の人望は留まる事を知らない。

 

 だが、その陰で女同士の激しい戦いが繰り広げられている。

 

 天然ジゴロの竈門炭治郎は、神崎アオイと栗花落カナヲの双方から思いを寄せられている。目覚めたばかりの彼のお世話をしようとする二人。割り込むのも申し訳ないとおもいつつ、裏金銀治郎が声を掛けた。

 

「炭治郎君、元気そうでなによりです。それと、二人とも席を外してくれ。彼と個人的な話がある」

 

「裏金さん」

 

 起き上がろうとする竈門炭治郎を止めた。病人なのだから、大人しく横になっていろと指示したのだ。

 

「金柱様……炭治郎さんは、病み上がりなので」

 

「分かりました」

 

 素直に引き下がる彼女達。裏金銀治郎が相手では、彼女たちも分が悪かった。立場もそうだが、色々と世話になっている身だ。彼の意見は無碍に出来ないのが実情だ。

 

「直接話すのは二ヶ月ぶりだね炭治郎君。まず、吉原では言いそびれていた――私の名前を呼ばないでくれてありがとう。おかげで、スムーズに鬼を処理できた」

 

「こちらこそ。そういえば!! 善逸が使っていた刀って何なんですか!? 日輪刀じゃありませんよね?」

 

 覚えていたかと裏金銀治郎は思った。あれについては、秘匿しておきたいのが本音である。個人的な伝手で手に入れた流星刀……その有用性がバレれば、提供しろと言われる可能性が高かった。

 

 だが、約束どおり情報を提供する裏金銀治郎。今の状況で、竈門炭治郎が裏切る事はないと確信しているからだ。

 

「あれは、流星刀といいます。隕石を加工して作った刀です。太陽の光を宇宙で億年単位で浴びた物から作った品物。数に限りがあるので、私でも数本しか所有していません。ちなみに、しのぶさん以外では炭治郎君しか知りません。……わかっていますね?」

 

「分かっています!! 大丈夫です。俺は、何も聞いていません」

 

 大人になる竈門炭治郎。

 

「よろしい。では、次の報告だ。君の尽力も有り、あれから薬の開発は順調だ。現在の完成度は9割。残る1割も目処が立っている。おめでとう、君の妹は1年もしないうちに人間に戻れるだろう」

 

「本当ですか!! あででで」

 

 裏金銀治郎の言葉を聞き、歓喜する竈門炭治郎。そうなれば、妹が普通の人間として暮らせるようになる。彼は、自分の事のように喜んだ。

 

「喜ぶのは良いが、病み上がりなのを忘れないでくれ。それで、続きの報告だ。残りの1割は、残った上弦の4名の内2名分と太陽を克服した竈門禰豆子の血液があれば完成する」

 

「裏金さん、頑張りますといいたいのですが上弦の鬼ってそんな簡単に出会えるものじゃ~」

 

 裏金銀治郎の言葉に嘘偽りがないのは、分かっている。だが、その条件が無理難題であった。1年内に上弦の鬼2体と出会い、竈門禰豆子が太陽を克服するなど無理難題にしか思えなかった。

 

 当然、他の誰もが聞いてもそう思うだろう。

 

「上弦の肆と鬼滅隊はコネクションを築いている。そこから、情報を手に入れる。これについては、しのぶさんと産屋敷一族しか知らないから、口外しない方が良いよ」

 

 病み上がりの竈門炭治郎を襲う裏金銀治郎の猛烈なブロー。倒すべき敵である鬼……しかも、上弦と接点を持っているとは、どういう事か。既に、彼の理解を超えていた。

 

 しかも、知っているメンバーに追加される竈門炭治郎。分不相応ではないかと自覚し、胃痛を感じていた。

 

「一体、この二ヶ月に何があったんですか!?」

 

「知りたいのならば、教えよう。上弦の肆である童磨と鬼滅隊を代表して喫茶店でお茶を飲んできた。何でも、上司である鬼舞辻無惨が女装して、下弦の鬼を一掃するわ。上弦をネチネチ虐めるわ。血を奪うわで大変だから上司との付き合い方を教えてくれと」

 

 クンクン

 

 竈門炭治郎が必死で嘘の匂いを嗅ぎ取る努力をする。真実とは、常に思い描く姿をしていないものだ。竈門炭治郎の目から涙がこぼれた。理不尽に家族を奪った憎い怨敵が、本当に理不尽な存在だった。その行き場のない怒りは、涙へと形を変えた。

 

「お願いです、裏金さん。嘘だと言ってください。そんな男に家族が殺されたなんて、俺……どうしたらいいんですか!!」

 

「炭治郎君、私は嘘など言わない。それに、君のなすべき事は決まっている。上弦の鬼を倒して、妹を人間にする。そして、鬼舞辻無惨を殺す。それだけだ」

 

 竈門炭治郎の気持ちも理解できる裏金銀治郎。だが、彼にはどうする事もできない。

 鬼舞辻無惨の女装癖を辞めさせることも。今更、男の姿で出てこられても、それはそれで困る。今日の鬼舞辻無惨は、女装していない!! 何故だと言う無意味な自問自答がされてしまうからだ。

 

 鬼舞辻無惨の女装癖が、鬼滅隊への精神的な攻撃であるなら、策士である。

 

「そうだ。あの男は、生きていちゃ駄目な奴だ」

 

 怒りから痣が浮かび上がる。覚醒する竈門炭治郎。深淵へと片足を突っ込む。きっと、刀を持てば、漆黒の刃がより美しくなるだろう。

 

「あぁ、だから殺すんだ。その為にも、傷を癒やしてから体力を回復させなさい。来週には、刀の整備も兼ねて刀鍛冶の里に行けるように手配しておこう」

 

 そこで、上弦の弐と参を倒してきてくれと心の中でつぶやく裏金銀治郎。

 

 何も知らない竈門炭治郎は、部屋を出る彼にお礼を言う。

 

………

……

 

 竈門炭治郎は、我妻善逸に出会い驚愕した。

 

 増えていたのだ――嫁が。二人でもあり得ない事態だったのに、音柱と並び3人目の嫁とか鬼滅隊でもトップになった。何より、恐ろしいのは、その全員が淫魔であった事だ。彼の嗅覚は、彼女達の身から漏れ出す妖艶な香りを嗅ぎ取っていた。

 

「なぁ~善逸。頼むから、夜10時以降にベッドをギシギシさせないでくれ。隣の部屋で休んでいる俺の気持ちにもなってくれ!!」

 

「ごめん、炭治郎。耳栓と鼻栓を用意するから、それで許して。だって~、蝶屋敷以外だと嫁さん達が心配で仕事に行けないんだよ。鬼がいつ来るかも分からないしさ、それに!! 禰豆子ちゃんとも仲が良いんだよ彼女たち。だから、ここに居させてくれーーよ」

 

 竈門炭治郎も男だ。隣の部屋でナニが行われているかなど理解している。それに、匂ってくるのだから……。

 

「え、ちょっとまって善逸。禰豆子に、とんでもない事を教えていたら許さないからな!!」

 

 思わず我妻善逸を締めあげる。

 

「苦しい炭治郎。大丈夫だと思うよ。確かに、夜は凄いけど、ちゃんと良識あるから……たぶん」

 

「禰豆子~、今、お兄ちゃんが助けにいくからな~」

 

 蝶屋敷を駆け回る竈門炭治郎。だが、二ヶ月も間があったのだ。幼女から大人にまでなれる竈門禰豆子に色々教え込むには時間は十分あった。

 

 その日、善逸ブッコロし隊に将来有望な男が一人加入した。彼の刀身は、漆黒であるにも関わらず、水の呼吸の全ての型を使え、ヒノカミ神楽という特別な型まで使えるという。

 

 

◆◆◆

 

 裏金銀治郎の執務室の電話が鳴る。それは、童磨の為だけに用意した専用線だ。

 

『お待たせしました。裏金事務所です』

 

『その声は、裏金先生。分かる?俺だよ俺』

 

 オレオレ詐欺。未来で流行し、猛威を振るう詐欺は鬼が発祥であった。上弦の鬼が鬼滅隊の拠点に電話を掛けてくるなど、色々と可笑しい状況だ。

 

 当然、部下となった産屋敷耀哉の子供達は聞き耳を立てる。裏金銀治郎の口から一言、鬼滅隊の場所を伝えたら、その日の夜には鬼達からの襲撃がある。

 

『童磨さん、ダメですよ。電話の場合は、相手に名前をちゃんと伝えないと意思疎通ができません』

 

『俺と裏金先生との仲じゃない。この間の話を上司にしたらさ、なかなか受けが良くてね。定期報告する事になっちゃった……助けて~』

 

 裏金銀治郎一人ならまだしも、部下がいる場で変な発言をされると誤解を招く。今の電話の会話だけでは、完全に裏金銀治郎は鬼側に聞こえる。鬼滅隊の足場を崩壊させる作戦ならば、実に有効的だ。

 

『先日、喫茶店で貴方に抱きつかれたせいで……恋人に男の匂いがするので、一人で寝てくださいと言われました。恋人の機嫌を取るためにも、物入りです。なので、"青い彼岸花"を見つけるまでコンサルしましょうか? 勿論、お代は頂きますが』

 

『それは、ごめんね。今度、同僚が作った壺をプレゼントするから許してね。デパートとかでも売られている品だから、出来映えは保証するよ。裏金先生のコンサルは、上司への報告もして貰える?』

 

 壺より現金が欲しいと思う裏金銀治郎。だが、例え現金を積まれたとしても鬼舞辻無惨への報告など冗談ではなかった。人間が鬼側トップに進捗報告とか、どれだけ上司が嫌いなんだよとツッコミ所が多すぎる。

 

 そんな事をしていると、終いには殺される。

 

『ご冗談を。先日、喫茶店で上司の話を聞いて、頷くと思っています?』

 

『ハハハハ、だよね~。報告は、同僚と持ち回りでやるよ。じゃあ、早速だけどコンサルを依頼したい。予算は、幾らでも使ってイイよ。報酬は、不老不死ってのでどう?』

 

『童磨さん、そういう丼勘定をしていると私がコンサルしている今の会社みたいになります。報酬は、夢物語の品でなく、お金にしてください。ですが、私に任せておけば、安心です。実は、お電話があると思って、彼岸花の開花時期や季候、清の季候も調査済みです。警察の知り合いに軽く聞いたのですが、密輸で捕まった清国出身者がおりました。日本語も母国語も達者だそうです……金さえあれば、釈放できますよ』

 

『いやいや、流石に嘘でしょう裏金先生。まだ、数日だよ』

 

『その認識が甘いのです、童磨さん。もう、数日経ったんです。私は、1手、2手先を読んで動いております。商売とは、その位機敏で無ければなりません。で、童磨さんは、私に幾ら払えますか?』

 

『月給1,500円。"青い彼岸花"を見つければ、成功報酬で50万でどう? 勿論、経費は全て此方持ち』

 

『報酬が高すぎる気がします。見つけた瞬間、お前はもう用済みだと言われそうな気がする金額です。信用して良いのですか?』

 

『そうだね~、じゃあ成功報酬の2割を前金で渡すよ。それで、どうだい? 但し、見つからなかったら返して貰うけどね』

 

 鬼滅隊より遙かに好待遇であった。給与面での文句はない。どの柱よりも高い給与であった。何も事情を知らなければ、間違いなく再就職を決めていただろう。

 

『分かりました。お引き受けしましょう。今後の作業に関してロードマップを作成した上で、進め方についてお話したい。二日後に、以前の喫茶店でどうでしょう?』

 

『最高だよ、裏金先生!! いや~、仕事が早いっていいね』

 

『ビジネスとしてこのくらい当然ですよ。恐らく、貴方の上司もこのくらいを望まれているかと思います。あぁ、それと、今度は抱きつかないでくださいよ。恋人に嫌われたくないので』

 

 ガチャリと電話を切る。

 

 当然、注目されている裏金銀治郎。だが、裏切りの心配はない。裏切るなら既に見限っている。それを理解できていないのが部下達である。今からでも、鬼側に乗り換えるのではないかと。

 

「魚が餌に掛かりました。私は、鬼側のコンサルで忙しくなるので、鬼滅隊の仕事は基本的に君達に任せます。進捗確認と不明点などを聞く時間を毎日設けますので、それまでに準備しておくように」

 

「裏金さん、信じていますから」

 

 産屋敷輝利哉は、言わないでいい事を伝える。それでは、『疑惑が残っていますが、鬼滅隊の為、貴方を信じる事にしました』と、聞こえる。

 

「期待には応えましょう。だから、早く仕事を終わらせてくださいね。これから、私は鬼側のコンサルに注力しますので」

 

 鬼側から金を搾り取るため、様々なプランを検討する裏金銀治郎。

 

 そう……どうせ、潰れる宗教団体だ。多少、グレーなことに手を染めさせて資金を集め、それを回収したとしても悪い事ではない。罪は全て鬼にある。

 

 この時代、『ネズミ講』や『オレオレ詐欺』を止める法律は存在していない。

 




ふぅ、なぜ休もうと思ったのに執筆しているのだろうと思ってしまう作者orz

さぁ、宗教法人で稼いだお金を根こそぎ貰うぞ。




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