集められた政財界の重鎮達。
当然、怪しい品物である胡蝶印のバイアグラを噂半分程度にも考えていなかった。立場が立場だけに、そういった売り込みをしてくる輩は多い。相手にとっては、数ある詐欺師の一人程度にしか考えられてなかった、
よって、その効能を証明する事になった。
「では、早速証明して貰いましょう。なーに、我々が用意した相手を圧倒して貰えればいいですよ。なにせ、そのバイアグラとやらで貴方達は、既に完成された肉体を手に入れているのだから、造作もない事だろう?」
元陸軍中将で、
だが、彼等としては当然の事を依頼しているだけだ。人に勧めるのだから当然本人達はそれを行った上での事だと。人に儲け話をする際、誰しもが「お前は当然それに投資しているんだよな?」と言うのは、当たり前である。この手の話と同じである。
それに、実証すると口にしているのは裏金銀治郎なのだから、それに答える事は当然だと考えている。
「分かりました。では、そのバイアグラを用いて鍛え上げた力を見せしましょう」
………
……
…
そうして、連れてこられたのが陽明館の地下に作られたデスマッチ会場だ。四方と天井まで檻に囲まれた場所。床には血痕まで残っており、今までどれだけの人間がここで死んでいったか
周りある観客席には、人の生き死にを楽しむ外道達が裏金銀治郎が刻まれる時を待ちわびていた。
「おや?ココを見て、驚かない貴方は、よほど修羅場を潜られているんですね」
「私のように貴方達に商売をしようとして帰らぬ人達が多いのは調べています。その者達の末路なんて想像に
大事な事だが、騙そうとする者達が悪い。それこそ政財界の大物達なのだから、その報いは死しか待っていないのは当然だ。ハイリスクハイリターンなのは、商売の常だ。
「あらあら、日本にもこんな場所があるんですね」
「人は鬼より業が深いからな。では、上着と刀を預かっていてくれ」
周囲の傷跡や惨状から察するにこれから戦う相手が獣である事は分かっていた。そんな相手を素手で圧倒してこそのパフォーマンスである。
裏金銀治郎がリングに上がると、出入り口が施錠される。そして、対戦相手であるロシアから取り寄せられたヒグマがご来場してきた。2mを越える体格に加え数百キロの体重を誇るため、下手な鬼より強い。どこからどう見ても殺人ショーにも関わらず、観客達は大喜びだ。
ヒグマは、屈強な大人が10人掛かりで縄を押さえつけていた。少しでも力を抜けば今すぐにでも虐殺ショーが始まる。だが、そうならないのは挨拶を待っているからだ。
何人ものボディーガードに囲まれた老人が近寄ってきた。老人ではあるが、年を感じさせない雰囲気を身に纏う者――日本銀行頭取。日本経済の要を担う一人である
「我々が持つ富と権力に這い寄るゴミが多くてね。そういった者達か否かを選別するために、様々な趣向を凝らしているのだよ。安心したまえ、君の妻と娘は吉原に売り飛ばす。だが、勝つことができれば話を聞こう」
確実に死ぬことが前提で話が進められたが、裏金銀治郎は、過去最大級のやる気が沸いた。今回のパーティーに、まさか日本銀行頭取まで来ているとは思っていなかった。
頭取から、「放て」という合図と同時にヒグマが巨悪な牙をむく。巨躯の体から繰り出される横殴りの攻撃。鋭く太い爪だけで一般人ならボロ雑巾の様になるだろう。
「金の呼吸 参ノ型 不動金剛」
攻撃を捨て防御に完全特化の呼吸法。水の呼吸のように攻撃を受け流す技ではない。攻撃の衝撃を全て足から地面に追いやり、ダメージを地面になすり付ける技である。
地面に亀裂が入る。
グルルルルと唸りを上げ、自らの手を確認するヒグマ。日頃一撃で獲物を葬ってきたにも関わらず、死なない獲物を不思議に思っていた。
「「「「「「オオオオオォォォォ!!」」」」」」
「す、凄いわ!! 今の一撃で死ななかったの初めてじゃない!?」
「それより、無傷な体よ。あの薬は、本物!?」
歓声がとまらない。
ヒグマの一撃を受け止めただけだと考える、胡蝶しのぶと栗花落カナヲは不思議に思った。柱なのだからヒグマの一撃くらい無傷で受け止められて当然だという常人から逸した考えだ。
それからも、一切手を出さずにヒグマの猛攻を無傷で受け止める。
「まぁ、あの人ならその程度できて当然です」
「よほど旦那を信頼しているのですね。今まで何人も食い殺したヒグマ相手に――バイアグラという物の性能はそれほどなのか」
胡蝶しのぶの横に座る頭取。
裏金銀治郎の事を旦那と言われて違うと叫びたいが――鬼滅隊の為、怒りを抑える彼女であった。代わりに、綺麗な顔には青筋が目立つ。先ほどから、旦那旦那と……彼氏すらいた事がなく独身にも関わらず、既にこの場の誰もが夫を信頼する良き妻と娘といったポジションで彼女たちを認識していた。
「あのレベルとまでは、明言できません。ですが、全治三ヶ月の怪我が一ヶ月で治りました。他にも身体能力の向上も確認できております。後は~滋養強壮もありますよ」
「儂の視力は、それで戻るかね?」
白内障……年を取れば誰でもなる病気である。だが、この時代その明確な対応方法は確立されていない。死病ではないが、厄介な病であった。
胡蝶しのぶは、今までの経験則からバイアグラなら完治できると確信した。
「バイアグラを毎日一錠、一週間もすれば劇的に改善します。試されますか?」
「手始めに、持ってきた薬の半分を貰おうか。こちらで実験し、症状が改善されれば試そう」
裏金銀治郎が、超人的な事を披露する事で集まった外道達が、誰もがあのようになりたいと羨望するようになった。圧倒的な肉体を目のあたりにし、先刻まで眉唾物だと疑われていた薬が霊薬にも思えてきたのだ。
実に悪くない流れであった。
健康な肉体と若さという金を幾ら積んでも手に入らないと思われた品が手の届く所にあるのだ。それを欲せずして、上流階級とは言えない。
「頭取……そろそろ、ヒグマを処分してもよいだろうか?」
「構わんよ。もはや、そいつは不要だ」
ヒグマに頭から
裏金銀治郎がヒグマの腹に手を当てる。
「金の呼吸 肆ノ型 化合爆砕」
金の呼吸の最強にして最大の攻撃技を放った。体内のメタンや水素を混ぜ合わせ火種を与えることで体内から爆発して吹き飛ばす技だ。外皮が硬い鬼であっても、体内からの爆発には耐えられない事が多いため、殺傷能力が非常に高い攻撃である。
爆発音と共に、ヒグマの下半身が吹き飛んだ。
「「「「す、すげぇぇぇぇぇ」」」」
裏金銀治郎が腕を高く上げ勝利宣言をする。
獣相手に勝利を収めたところで鬼滅隊の柱であった事を考えると、褒められる要素など何一つなかった。だが、大衆受けは最高だ。派手なパフォーマンスも加わり、あの力が自分にもと、集まった者達の手のひら返しは早かった。
それから、三人は改めて応接間に呼ばれ最高級のおもてなしを受けた。何よりもめたのは、用意した100錠の分配である。
余るほど持ってきたつもりであったが、誰しも欲が深く、一個でも多く手に入れようと汚い争いが始まる始末だ。
◆◆◆
それから、三人が解放され蝶屋敷に帰ったのは翌朝の8時を回っていた。
「なんであの年寄りと女性達は、あんなに元気なんですか」
「……疲れた」
胡蝶しのぶと栗花落カナヲが玄関先で倒れ込む。
陽明館では、【健康】と【若さ】を売る我々に、鬼気迫る形相で沢山の者達が詰め寄ってきたのだ。手土産と一緒に名刺まで渡された。その名刺を縦に重ねるだけで、タウンページを越える厚さになる。
「疲れるのは早いですよ胡蝶しのぶさん。どう考えても、今のままでは人手がたりません。薬の増産が間に合わない……商売において、需要と供給だけでなく納期も厳守する必要がある」
商売とは信頼関係である。相手が望むときに望む物を用意してこそ、信頼を勝ち取れるのだ。一週間もすれば、薬の噂が広がり、我も我もと金に糸目も付けず、注文が殺到するだろう。
「そうですね。流石に、私一人じゃ生産量に限界があります。ですが――」
隔離施設の場所は、知られてはいけない。
やっている事がやっている事なので、継子である栗花落カナヲでも駄目であった。信用とか信頼とかそんな次元の話ではない。この一件は、知る者が少ないという事が大事なのだ。情報とは知る者が多いほど露見する。
「簡単ですよ。
………
……
…
藤の花が咲き誇る場所にある隔離施設。
今そこで施設の拡張工事と機械化が進められていた。莫大な利益を生むバイアグラ……その製造拠点になるのだから当然だ。だが、何事にも人手がいる。そこで働き手として選ばれたのが――
「選ばせてやる。このまま、材料になるか、我々に手を貸すか。手を貸す場合は、猿の血肉程度は用意してやろう。人間は元は猿から進化したと言われている。遺伝子情報も似ていると聞いたことがあるから、問題ないな」
一匹の鬼が活き締めを解除され、裏金銀治郎の前に立たされていた。生きたまま刻まれ苦痛を味わった鬼は、たかが人間である者に恐怖していた。自らを鬼にした鬼舞辻無惨とは、別ベクトルの恐ろしさを感じていた。
「鬼を材料に薬を作る工場の手伝いをしろとか、貴様は本当に人間か?」
「面白い事を言う。人間だから、ここまでやれるんだよ」
元人間であった鬼という存在をまるで、家畜同様にしか考えていないような冷酷な目を直視した鬼は、心が折れかけた。逆らえない……逆らったら死ぬと。
今こそ窮地であるが、鬼には希望があった。
鬼舞辻無惨は、鬼の位置が分かる能力を保有している事を知る鬼はおおい。きっと、複数の鬼達が一箇所に集まっていれば不審に思い、下弦か上弦などが派遣されると推察していた。
その時こそ、復讐し、この場所から解放されると信じていた。
「分かった」
「素直なのは、いいことだよ。君は選ばれた……あそこで、材料になる為、再生と解体を繰り返される者とは違う」
そこには、裏金銀治郎に心をへし折られた鬼が黙々と同族である鬼を解体していた。そのおぞましい光景に、救いを待つという希望の光すら陰りそうな程だ。
鬼の肩にそっと手を置いて、裏金銀治郎はトドメを刺す。
「この施設周辺では、血鬼術が使えない。だから、鬼舞辻無惨の呪いも発動しないし、監視もされない。だから、安心して働いてくれ。期限内に仕事が終わらなかったり、逃亡を企てたら君は材料行きだよ」
裏金銀治郎の左手に立方体の形をした半透明な物質が浮いている。
「それは!?」
「下弦の鬼を喰らい身につけた、血鬼術――
「血鬼術を無効化する血鬼術!?」
鬼の中でもその力を身につけられるのは強い鬼だけだ。
それを人間が手に入れているなど、隔離施設にいる鬼にしてみれば悪夢だ。しかも、それを使うのが鬼滅隊の金柱という最高位の剣士だ。悪魔みたいな者が自らの陣営が持つ特別な力まで兼ね備えている。
「今まで疑問に思わなかったのか? このような行いをしていて、鬼舞辻無惨が介入してこない事を。鬼達が自殺する為に呪いを発動させない事」
藤の花に囲まれた陸の孤島――血鬼術により、外部との連絡も途絶えた――脱出用の血鬼術に目覚めても封じられる。
ポキ
心が折れる音を聞いた鬼は、解体係の鬼同様に心を閉じた。
色々と制約を課すつもりですが、こんな血鬼術でいきます!!
※完全無効化というチート能力ではありませぬ。
力がある鬼を使えば、施設拡張なんてすぐだよね!!
材料を運び込む必要はるけど、必要な人ではそれだけになる。
これでだいぶ捗るぞ~。