鬼滅の金庫番   作:新グロモント

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12月は忙しいねん…ゆっくり更新になりますが許してクレメンス。




44:騙して悪いが

 この日、童磨には、"青い彼岸花"の捜索中止を伝える役目があった。

 

 企画から派遣まで様々な事を行ったのに、先日の上司から有り難いお言葉で全てが水の泡。今は、『産屋敷の捜索』のみに注力するよう依頼する予定だった。しかし、待ち合わせ場所の喫茶店には、裏金銀治郎は現れない。

 

 代わりに残されていたのが、一通の手紙だ。

 

「いや~、参ったね。まさか、裏金先生を拉致して俺を呼ぶとか正気じゃないね」

 

 童磨は、相手の正気を疑っていた。以前と比較して力が落ちたとはいえ、血鬼術は健在だ。戦闘においては、未だに絶対の自信があった。

 

 手紙の筆跡からして女性……――ご丁寧に蟲柱と書かれている。実に食欲がそそられていた。強い女を食べる事で更に強くなる。だからこそ、好都合であった。鬼になれば腹が空く。お世話になったお礼と"青い彼岸花"の一件のお詫びとしては、最高の食事が向こうからやってきたのだから。

 

「十中八九罠だろうけど――でも、それも一興だよね」

 

 童磨は、鬼舞辻無惨の血が入った酒瓶を片手に待ち受けているであろう女性に会いたいと思った。そして、裏金銀治郎に最初に食べさせる人間に相応しいと考えたのだ。

 

………

……

 

 東京郊外にある廃工場。

 

 童磨は、血の臭いを嗅ぎ取った。男性……それも30歳前後の物であると特定した。思ったより状況は悪いかもと察する。

 

 残された手紙には、『"産屋敷"について、調べている男を帰して欲しければ、一人で廃工場まで来い』との事だった。つまり、この血の臭いは鬼滅隊の誰かが、裏金銀治郎に制裁を加えた可能性もあった。

 

 異常者達の集まりである鬼滅隊。呼吸法を使える人間凶器が、暴行するのはハンマーやナイフで殴るのに等しいものだ。一部の過激な隊士は、鬼を殺す為に列車に乗る乗客の命すら無視して、鬼を殺すという狂気の沙汰を行った事を鬼側も知っていた。

 

「お願いだから生きていてよ。生きてさえいたら、直ぐに治してあげるから」

 

 廃工場を進むにつれて血の臭いは、よりハッキリとし、藤の花の香りが充満する。だが、上弦の弐ともなれば、たかが藤の花の匂いなど問題にならない。一般人がタバコの臭いに嫌悪感を覚える程度の物である。

 

 開けた場所に出ると、そこには目隠しをされた裏金銀治郎が横たわっていた。鞭打ちされた痕から血が流れ、血溜まりを作っている。更に、赤い蝋の痕が目立つ。首を絞められた痕もあり、痛々しい。

 

 酷い拷問である……大事な事だが、酷い拷問!! だ。

 

「こんにちは、教祖さん――いいえ、上弦の童磨」

 

「へぇ~俺の事を知っているんだ。さては、裏金先生から聞いたのかな? 酷い事するよね、鬼滅隊が一般人にそんな手荒な事をするなんて。裏金先生、生きてます?直ぐに助けて治療してあげるから」

 

 童磨は、横たわる裏金銀治郎が息をしている事を確認し、間に合うと安堵した。だが、問題は目の前の女性であった。実力は定かで無いが、血鬼術なしで闘うのは若干不利を感じる。

 

 広範囲殲滅を得意とする童磨の血鬼術では、裏金銀治郎にトドメを刺しかねない。鬼舞辻無惨の血とて、死人を蘇らすことはできない。つまり、早々に裏金銀治郎を取り戻し、血を飲ませて、安全地帯に移す必要があった。

 

「――私の姉を殺した鬼を知っていて当然です。この羽織に見覚えはないか」

 

「あぁ!! 花の呼吸を使っていた女の子かな? 優しくて可愛い子だったな。朝日が昇って食べ損ねた子だよ。覚えている。確か、金柱さん……とか最後に、呟いていたような」

 

 その瞬間、胡蝶しのぶが無慈悲に満身創痍の裏金銀治郎の手を踏みつぶす。

 

 重傷の男にあれほど容赦ない責めを行う胡蝶しのぶに、童磨は早く助けないと殺されてしまうと思う。

 

 胡蝶カナエは、最後まで柱の皆の誤解を解けなかった事を悔いていたのだ。裏金銀治郎は、そんな事情を知らない胡蝶しのぶから制裁を受けた。

 

「あ゛あぁぁぁぁぁ。童磨さん、助けてください!!」

 

「蟲柱といったかな。人質を解放しろ、彼は関係ないだろう。今なら、俺が一対一で闘ってあげるよ。姉の無念を晴らしたいだろう?」

 

「無関係? ご冗談を……"産屋敷"の事を調べていた人ですよ。それに、この男の為に、本当に一人でノコノコやってきた鬼がいる。つまり、この男はそれほどまでに重要という事です」

 

 童磨は、周囲の気配を探っていたがこの場に居る者以外だれもいない。随分と舐められたものだと考えていた。ならば、手足の数本犠牲にすれば裏金銀治郎を確保できると。

 

 動こうとした瞬間、胡蝶しのぶが抜刀した。

 

「あぁ、止めた方が良いですよ。私の方が確実に早い。ですが、貴方がコチラの要求を飲むならば、この男を解放してあげてもいい」

 

「優しいね。いいよ、条件を言ってごらん」

 

 余裕綽々の童磨。胡蝶しのぶの抜刀速度は確かに速い。だが、力量を測るのには十分であった。戦いになれば負けることはないと。つまり、人質が解放された時点で勝利する事は確定していた。

 

「鬼舞辻無惨の現在地」

 

「それは、教えられない。教えたら、俺が死んじゃうからね。他には?」

 

「上弦の壱の血鬼術」

 

「刀を作る事だよ。確か、なんでも昔は隊士で呼吸法が使えるみたい。詳しくは知らないかな」

 

「童磨の血鬼術」

 

「俺のかい? 色々あるけど、広範囲の凍結攻撃とか分身作ったりとか色々だよ。氷が関係する事なら大体のことはできる」

 

「最後に、遺言があるなら聞いてあげます」

 

「女の子に言いたくないんだけど、お風呂は入った方が良いよ。前に男と寝た直後の女性信者を食べた事があるんだけど。酷い臭いだった。可哀相に裏金先生。大丈夫だよ、信者の可愛い子で口直しさせてあげるから」

 

 裏金銀治郎の秘密基地にも無い物がある。

 

 地下室にベッドはあるが、お風呂なんて物は無い。体を拭く位は当然行ったが、鬼の嗅覚はそれすらも嗅ぎ取った。そして、童磨は胡蝶しのぶが裏金銀治郎を無理矢理……と解釈していた。

 

 宗教団体には、色々な者が所属している。そして、その手の趣味の者から相談を受けたこともあり、童磨は物知りで寛容であった。

 

 童磨は処女厨であった。そして、裏金も当然仲間だと思っていたのだ。だからこそ、善意で彼は口直しなど申し出たのだ。これを、世間では余計なお世話という。

 

 胡蝶しのぶから殺気が放たれる。勘が鋭い者ならば空気が軋むのが分かっただろう。

 

 それを感じ取った裏金銀治郎はマズイと感じ取る。女性に臭いとか言ってはいけない。それは一般常識であったが、鬼には通じない。

 

「童磨さん!! 私がこんな状況なのに、相手を挑発しないでください。本当に死んじゃいます」

 

「いや~、ごめんごめん。じゃあ、約束通り裏金先生をコチラに渡して貰うよ。あぁ、無事に引き渡したら別に逃げてもイイよ。追わないから――最初に食べる人間がこんな"あばずれ"じゃ、裏金先生に申し訳ないからね」

 

 無自覚に煽る童磨。

 

 人は理解していても、人に言われると嫌な事がある。胡蝶しのぶは、"あばずれ"なんてものではない。そんなものと比べては失礼である。『昼は淑女、夜は娼婦な女性』を無自覚に行う才女である。

 

「いい加減にしろ、童磨。私を助けたいのか、見捨てたいのかどっちなんだよ!!」

 

 どう考えても、後から被害を被るのは裏金銀治郎であった。ベッドの中で、『私、エッチじゃありませんよね』と迫る彼女になんて答えるのだろうか。

 

「思ったより元気そうでよかった、裏金先生。約束守ったんだし、早く解放してよ」

 

「……ちっ!! いいでしょう。歩けないから、受け取りなさい」

 

 胡蝶しのぶが、裏金銀治郎を軽々持ち上げて童磨の方に投げた。

 

 勿論、童磨も馬鹿では無い。このタイミングで、胡蝶しのぶが仕掛けてくることを察していた。鬼を殺すなら狙いは頸であった。つまり、頸さえ防げば問題にならない。

 

 宙を舞う裏金銀治郎。怪我の度合いから受け止めなければ、死ぬ可能性もある。どちらの手で受け止めるかによって、守る方向が決まる。

 

 勝負は……童磨が守るのが早いか、胡蝶しのぶが頸を落とすのが早いかであった。

 

 全神経を集中し、童磨は胡蝶しのぶを観察する。

 

◆◆◆

 

 裏金銀治郎……血まみれになった姿で男の胸にダイブするなど、人生初の経験であった。しかも、その男が、彼の実家で噂されている相手となれば泣きたくもなる。この姿が近所の人に目撃されたなら、もう社会的に死んだも同然であった。

 

 この時、既に裏金銀治郎の血鬼術――血界が発動している。

 

「"産屋敷"を見つけました!! 」

 

 裏金銀治郎の言葉で童磨は、絶対に助けなければいけなくなる。つまり、裏金銀治郎をキャッチする必要がでてきたのだ。

 

「最高だよ裏金先生!! さぁ、鬼になろう。これからは、一緒に無惨様に土下座しよう」

 

 酷い誘い文句であった。

 

 鬼になって世界征服とかでなく、土下座しようなど誰が喜んで頷くと思っているのだろうか。上司と部下の関係が土下座から始まるなど嘆かわしい限りだ。だが、鬼滅隊でも柱会議をみれば、実質同じような物かも知れない。やはり、血筋なのだろう。

 

 童磨が裏金銀治郎をキャッチした。彼は、そのまま腕を背中まで回す。

 

 袖の中に隠していた注射器でプスっと刺す。中身に入っているのは、完成したばかりの"鬼を人間に戻す薬"。背中に注射器が刺さったのに反応がない童磨。彼は、全神経を目の前の胡蝶しのぶに集中している事と痛覚には鈍感である為、裏金銀治郎の行動に気がつかなかった。

 

「千載一遇のチャンスだったのに、動かないなんてどうしたんだい? 今の瞬間を逃せば俺は殺せないよ」

 

「いいえ、童磨。猗窩座、半天狗、玉壺、堕姫、妓夫太郎――全て殺してきました。ですが、どれも大した事はありませんでした。そこに、貴方が加わるだけです」

 

「強気だね。まぁ、別にイイよ。裏金先生ならきっと素晴らしい鬼になる。俺と裏金先生を一緒に相手にして勝てるというなら勝ってみるとイイ」

 

 裏金銀治郎は、鬼側から素晴らしい評価を貰っていた。鬼滅隊の連中に、童磨の爪の垢でも飲ませてやれば改善されるだろうか。

 

「だ、そうですよ。銀治郎さん。しかし、鬼側からの評価が高すぎませんか。鬼滅隊の評価と真逆で困惑します。私で無ければ、鬼側のスパイと勘違いしてしまいますよ」

 

 童磨は、目の前の女性が何を言っているのか理解できなかった。いいや、理解したくなかった。あれほど親身に話を聞いてくれて、協力して仕事をした仲間。初めてできた親友が……。

 

 血だらけであった裏金銀治郎は、既に完治していた。距離をとり、何時もと変わらぬ顔をしている。

 

「う、嘘だよね。裏金先生……」

 

「だまして悪いが、仕事なんでな。死んでもらおう」

 

 童磨は、この時初めて理解した。信者が裏切られた、と言う時の感情を。

 




いよいよ、最新刊に追いつきそう。
童磨と猗窩座の二大巨頭が……ここではてるでしょw

黒死牟は、流石に柱組が働く!!
ここまでお膳立てして、装備も整えているのに負けないでしょ。

鳴女のスカウトしかねーーー。
待遇は保証するよと。

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