鬼滅の金庫番   作:新グロモント

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いつもありがとうございます!!
感想も本当に嬉しい限りです。
執筆意欲がわいて頑張れます^-^

アンケートの二位でないく、三位から書いた事について順番が前後して申し訳ありません。

零余子のプリズンブレイクは、中々骨を折りそうだったので
先に我らが○柱様ネタから書きました。


完全怠惰宣言様へ
素敵な本のタイトルネタありがとうございます!!
著者名は、裏金しのぶではなく、胡蝶しのぶとさせて頂きたことをお詫び申し上げます><


49:胡蝶しのぶサイン会

 三日ぶりの太陽を浴びる裏金銀治郎。その瞳は、紅梅色に変化し、ネコのような縦長の瞳孔になっている。

 

 鬼化という現象を事細かく調査するという名目で、体液(意味深)を絞り取られた裏金銀治郎。外界と完全に切り離された地下室には、淫臭が篭もっている。中に居た二人は、嗅覚が馬鹿になっており、感じていなかったが……外の空気を吸う事で初めて状況を理解する。

 

「調子は、どうですか銀治郎さん」

 

 "人を鬼にする薬"は、裏金銀治郎に適合した。更に、童磨から回収した鬼舞辻無惨の血液もある為、栄養は十分。鬼の始祖になりたての裏金銀治郎を劇的に強化する事になる。

 

「日差しが、少し眩しいです。全体的に異常はありませんが、大事な所が痛い。30を超えたあたりから数えていませんでした。で、検査結果は?」

 

「味の変化は、ありませんでした。……コホン、特に問題ありません」

 

 本当に検査だったのか疑わしい発言が聞こえたが、裏金銀治郎は幻聴だったと理解した。鬼化という人生で二度と無いであろう肉体変化の最中、まさかテイスティングされているなど、あるはずが無いと。

 

「そうですか。しのぶさん、当然、ご自身の番になったら、分かっていますよね」

 

「……エッチ」

 

 裏金銀治郎が、ニッコリと胡蝶しのぶにほほえむ。

 

 裏金銀治郎での臨床実験が終わったら次は、胡蝶しのぶの番である。今回の結果を踏まえて改善と改良が加わるのだから、安全性は増す。だが、検査は必要だ。

 

 胡蝶しのぶが行った検査は、血液でも問題はない。だが、敢えて別の体液を選んだのは、彼女の趣味であった。今現在も、ネグリジェというスケベな服で地下室の外にいる。幾ら人目が無いからと言って、痴女認定は避けられないだろう。

 

 彼女を痴女認定したい裏金銀治郎だが、彼の格好も人の事は言えない。

 

 三日間着た拘束具を外し、ほぼ全裸の状態であった。腰にタオルを巻いているが、これで地下室の外にでた男も常識が麻痺していた。地下室でエロい事ばかりしていれば、倫理観も崩壊すると言う物だ。

 

 そのタオルの一部が雄々しく盛り上がっている。胡蝶しのぶが、それに手を添えて囁く。ネグリジェをきた彼女が胸を押しつけてくる。否応なしに、大事な所が元気になるのは、男の仕様だ。神は、男に対して制御不能な部位を備えさせた。

 

「垂れてきちゃいました。銀治郎さん……無責任な子作りしたくありませんか」

 

「しのぶさん。そんな刺さる言い方されたら、断れないの知っているでしょ」

 

「ふふ、じゃあご褒美をあげちゃいます。銀治郎さんより先に私がダウンしたら、何でもお願いを一つ聞いてあげます。ですが、銀治郎さんがダウンしたら、私の言う事を何でも一つ聞いてください」

 

 どちらに転んでも、エロい事になる。つまり、胡蝶しのぶにしてみれば、勝っても負けても美味しい。賭けが成立していない。

 

 鬼の体力は無尽蔵……だが、精力が無尽蔵とは限らない。しかし、裏金銀治郎も男である。何でもお願いを聞いてくれるとなれば、あの手この手を使うしかないと考えていた。小手先の技術では、裏金銀治郎の方が上手であった。

 

 

◆◆◆

 

 胡蝶しのぶは、裏金銀治郎のお願いで彼の実家を訪れていた。

 

 彼女は、忘れていた。結婚後のご挨拶という大事なイベント。家族認定されていたとはいえ、筋は通さないといけない。だが、その事に対して彼女は不満を持っていた。

 

 裏金銀治郎との夜戦で敗北した結果……そのお願いが、裏金実家へ行く事だったのだ。結婚報告もあるし、ちょっとしたお願いがあるという事だったのだ。その程度の事なら、お願いされずとも叶う範囲である。

 

 だからこそ、彼女は若干ふて腐れていた。何でもお願いを聞いてあげると言ったのに、そのお願い事項が実家のお手伝いというのだ。期待に胸をときめかせていたのに、裏切る行為。

 

 だが、その思いは裏金実家に着いた瞬間、消え失せた。

 

 実家に着いたと同時に、裏金両親が裏金銀治郎を家の奥へと連れて行った。しばらくして、帰ってきた時には彼の顔は、アンパン○ンみたいに膨れあがっていた。一家揃って、土下座していた。

 

 これだけで理解が追いつかない彼女。結婚の報告をしに来たら、相手側の一家が揃って土下座している。

 

「ど、どうしたんですか、小夜子お義母様、秋月お義父様」

 

「しのぶちゃん、銀治郎が本当に申し訳無い事をしました。女の子にあんな酷い事をさせる男に育てた覚えはありませんでした。後で、ケジメは付けさせます」

 

「本当に申し訳ない。息子がこんな変態だったとは、裏金家の風上にもおけない。煮るなり焼くなり好きにして構いません。全部、俺がやったことにします」

 

 裏金両親が誠意をもって謝罪している感がヒシヒシと伝わる。

 

 何があったか、胡蝶しのぶは考えた。裏金銀治郎が胡蝶しのぶに行った数々の行為。心当たりはいくつかあった。だが、どれも必要であったので仕方が無いと理解していた。ならば、誤解を解くのが妻としての役目である。

 

「私の戸籍を弄って30歳にした事については、気にしないでください。仕事の為、仕方がない事でした」

 

「しのぶちゃん……少し待っていてください。アナタ、銀治郎を裏へ」

 

「馬鹿息子!! 」

 

「待って待って!! 最後まで、しのぶさんの話を聞いて」

 

 一般人であり良識ある裏金両親の行動は当然であった。だが、裏金銀治郎は必死に両親に話を聞くように説得する。鬼になっても、親には勝てない。

 

「じゃあ、戸籍を弄ってカナヲを私の実子にした事ですか? 大丈夫です、元より妹みたいな子でしたが、書類上の実子になっても気にしていません」

 

「ごめんなさい、ごめんなさい……」

 

「本当にすまねーー。どこで育て方を間違ったのか」

 

「違う!! そうじゃないでしょ、しのぶさん」

 

 裏金家での彼の株がストップ安になる。しかし、常識的に考えれば、当然だ。

 

「あの夜私を押し倒して処女を奪った事ですか? 夜に男性の家に行った、私が悪かったんですから、気にしないでください」

 

「アナタ、銀治郎を埋めますよ」

 

「任せておけ」

 

「お願いだから、話を聞いて!! しのぶさんとは、偽装結婚でも何でも無い。近所で噂されている男との関係を誤魔化す為とかないから。しのぶさんも誤解を解いてください」

 

 ここでようやく、胡蝶しのぶは何故この事態になっているか理解した。

 

 裏金銀治郎と童磨が、夜の喫茶店で密会。仲よさげに抱き合っているのが目撃されている。それと同時に、胡蝶しのぶと下着を買いに行った情報も出回っている。つまり、男色家が、世間体を誤魔化す為に胡蝶しのぶと偽りの関係を持っているという設定になったのだ。ご近所様が、話のネタは面白い方が良いと思った結果、こうなったのだ。

 

 というのが、理由の一つだ。

 

「あぁ~、そう言うことでしたか。安心してください、銀治郎さんと私は愛し合っています。あの男については……そうですね、姉と少なからず因縁があった者です。銀治郎さんの力を借りて、少しお灸を据えました」

 

「そう!! だから、誤解って言ったじゃん」

 

 徐々に、裏金銀治郎の株が上がってきた。だが、問題は次の課題であった。

 

「では、この本に書かれている事を銀治郎が強要した事実は無いと? 銀治郎が、しのぶちゃんの日記を元に、出版していた『正しい華の呼吸全集』という物ですが……」

 

強要されました(・・・・・・・)

 

 胡蝶しのぶは、迷わず即答した。

 

 彼女は、乙女である。裏金銀治郎との赤裸々な事を密かに纏めていた。その日記は、裏金銀治郎の手に渡り出版されている。その事実を彼女は、この時初めて知る。

 

 ちなみに、日記が裏金銀治郎の手に渡ったのは、彼女の不手際である。

 

 胡蝶しのぶは、薬学に精通している。特に鬼の毒に関する事に対しては、彼女より詳しい人は居ない。よって、彼女の研究資料を纏めた本を後世に残す為、裏金銀治郎の手で出版された。鬼に関する部分を伏せてという大前提である為、一般の薬学からはかけ離れた物だ。

 

 その資料を持ってきた継子の栗花落カナヲが後世の為に日記を同梱していた。

 

「ぇ!? 嘘でしょ、しのぶさん」

 

「そうでしたか。あんな卑猥な事をしのぶちゃんがするはずありませんよね。しのぶちゃん、どうしようもない息子ですが――どうか、見捨てないであげてください!! 」

 

「小夜子お義母様、私はそれも含めて銀治郎さんの事を愛しております。見捨てるなんて事はありません。私が見捨てられないように頑張るだけです」

 

 今までの"誘い受け"を強要された事にして、裏金家での地位を確立する胡蝶しのぶ。裏金銀治郎の株がまた下がっていく。それも仕方が無い事だ。彼女も女である。相手の親族から変態扱いされるのは避けたかった。その為の体の良い犠牲となる裏金銀治郎。

 

 こう言う場合、往々にして男の言い訳は見苦しいと言われ意見は闇に葬られる。

 

 その夜、裏金銀治郎は外で寝る。落ち込んだ所に、慰めて寝技に持ち込む新手の新技(慰め○クス)を披露しに来る胡蝶しのぶ。

 

◇◇◇

 

 吉原の界隈で、とある本が有名になっていた。その本の内容を実践する事で、太客が付いた。本を読んだら、身請けされた。本を読んだら、結婚できたなど様々な情報が出回る。

 

 量産ができない時代である為、販売数が非常に少ない。だが、人の手で写本され続け、吉原にいる遊女達で知らない者はいない。

 

 その本こそ、「正しい華の呼吸全集:著者 胡蝶しのぶ」――歴史に名を残す艶本である。未来を先取るかのような男心を抉る誘う方法は、吉原遊女の想像の斜め上をいく物であった。壱巻から伍巻まで、発売されている。

 

 新刊の陸巻「胡蝶だった女、堕ちていく快楽~こうして私は彼の虜になっていった~」を裏金書房で先行発売。それに伴いサイン会を行う事になった。

 

「銀治郎さん、どうしてこうなったか説明して頂けるんですよね?」

 

「刊行本は宣伝のため、吉原遊郭に配っております。後生にその技術を残すのは、先輩である我々の義務でしょう。――ごめんなさい。遊女達経由で、政財界VIPに話題が飛び火したんです。胡蝶印のバイアグラの件もあって、しのぶさんを知るお偉いさん達から要請がありました」

 

 遊女達が著者である胡蝶しのぶのエロさに感銘を受けて、是非お会いしたいという事になった。遊女と外でデートする切っ掛けにもなるので、新刊発売に伴いサイン会をやれといわれた。

 

 鬼舞辻無惨との最終決戦に向けて、町中で派手に殺し合いを演じる可能性がある。だからこそ、要請は断れない。恩は、売れるときに売る必要がある。

 

 そんな馬鹿みたいな事だが、エロの力は凄い。お偉いさん達の一言で、過去に出版した本も全て重版される事になった。しかも、費用は全てお偉いさん達が出資してくれる。それに乗じて、胡蝶しのぶが過去に行ったプレイで使用した衣装や小道具のセットを販売する事になったのだ。

 

 アンブレラ・コーポレーション、女性下着メーカー、紳士服メーカー等が協賛として名を連ねる。本からは具体的なシーンが分からないという事で、彼女が行った"誘い受け"のポーズを収めた写真集が一冊だけ用意された。勿論、非売品である、写真集に限っては、胡蝶しのぶが本当に渋った為、何でもお願いを聞いてくれる券をココで利用していた。

 

 男性には見せないという条件で、彼女も承服する。将来、歴史美術館に偉人の写真として収められる日が来るとは、誰も思っていない。

 

「銀治郎さん、あそこで並んでいる人達って」

 

「凄いですね~、200人ほどでしょうか。インターネットが無い時代なのに、よくこれだけ集まりましたね」

 

 サイン会開催一時間前で、この列。

 

 何も知らない者達からすれば、何があるのか誰しもが振り返る。身なりの良い男性と美女の組み合わせが延々と続いている。しかも、男性側に至っては、新聞で見た事があるような顔ぶれもいる。

 

 流石に、その光景に裏金両親も血の気が引き始めた。

 

 胡蝶しのぶや裏金銀治郎の裏の顔を知らない両親にしてみれば、当然の反応だ。

 

「銀治郎。しのぶちゃんは、もしかして良家のご令嬢だったりするのかしら? カナエさんも品が良かったので……」

 

「不慮の事件で、ご家族を失いましたが一般家庭出身です。吉原にしのぶさんの本を宣伝代わりに流したので、きっと、それが原因かと」

 

 その一言で、全てを納得する裏金両親。それだけ、あの本は効果的だとよく知っている。ちなみに、サイン一号は、裏金両親へと贈られた。当然、小道具セットも一緒である。遠くない未来に、年の離れた弟ができるかもしれない裏金銀治郎。

 

………

……

 

 表向きには30歳の胡蝶しのぶの美貌に、圧倒される遊女達。普段いい女に見慣れている政財界VIPでも彼女の色香に惑わされそうになる。

 

 

X人目のお客様―元吉原の遊女。

 

 胡蝶しのぶの手を握る遊女。

 

「胡蝶先生!! 先生の本のお陰で、身請けして貰えました。本当にありがとうございます。新刊と小道具セットもください。新刊へのサインは、――」

 

「そんな事は、ありません。全ては、貴方の努力が実った結果です。興味本位ですが、どうして身請けされたのですか?」

 

「男物のYシャツを着て、誘ったら激しく朝までコースでした。他にも、胡蝶先生がやってきた歴史を辿ったら、大変気に入られました」

 

 涙を流して幸せを訴える女性にサイン入り新刊を渡す胡蝶しのぶ。その心境は、複雑であった。よもや、自分の日記がこれだけの人を助けたとは想像できなかった。薬の本はサッパリ売れないのに、艶本が売れるという事態……よくある事だ。

 

 

X+20人目のお客様―大手出版社のお偉い様。

 

 胡蝶しのぶが胃痛を感じ始めた。だが、まだまだお客様は残っている。

 

「いや~、パーティー以来ですな胡蝶君と裏金君。まさか、君達がモデルだったとはね。あぁ、本は全巻セットを三つ頼むよ。保存用、読書用、布教用としてね。外国語翻訳は、任せておきなさい。売上げは、期待してくれよ」

 

「いいえ、気にしないでください!! 本当に」

 

「胡蝶君は、謙虚だね。大丈夫、儂に任せておきなさい!!」

 

 胡蝶しのぶの必死の願いは、届かなかった。出版社のトップとして、世に広めたいと思える素晴らしい本であった。だからこそ、彼は大人として後世のために尽くすことを決意する。

 

 

X+30人目のお客様―休暇中の蝶屋敷勤め人。

 

 胡蝶しのぶの眼が点になる。

 

 絶対に見つかりたくない事が見つかった。まさに、それであった。例えるなら、エロ本を読んでいる所を部屋に入ってきた母親に見つかる……まさに、それである。

 

 だが、お互い知らぬふりをする。それが大人のマナーである。

 

「新刊をください。サイン、神崎アオイでお願いします」

 

「体調不良で長期休暇だと聞いていたので心配していました。何かあればいつでも頼って良いのよ。はい、いつもありがとうございます」

 

「ありがとうございます、胡蝶様。今は、大事な時期(・・・・・)なので全部おわったら、相談に乗ってください」

 

 その相談の重さに、目眩を感じる事になるとは彼女は想像できていなかった。そして、柔らかな表情になった神崎アオイ。彼女の雰囲気には、母性が宿っていた。

 

 家族と物販に勤しむ裏金銀治郎は、そんな二人の会話を聞いていた。当然、裏金実家を知る数少ない者が増える。つまり、口封じも視野に入れる必要がある。鬼の始祖として覚醒した裏金銀治郎ならば、指を鳴らすだけでも常人を消すことは簡単だ。

 

 彼女は、裏金銀治郎の前にやってきた。

 

「小道具セット一つください。――初対面(・・・)の方に、失礼を承知でお願いします。助けてください」

 

「銀治郎。理由は分かりませんが、女の子を見捨てるような子に育てた覚えはありませんよ」

 

 裏金母は、神崎アオイと裏金銀治郎のやり取りを見て横から助け船を出した。息子の性格を知る故、見捨てると察していた。その通りであった。裏金銀治郎にとって、神崎アオイは石ころと等価である。興味すら無い存在だ。

 

「はぁ~、他のお客様に迷惑だ。後で、しのぶさんと話を聞いてやるから、家の中で待ってろ」

 

 裏金銀治郎は、彼女から二つの命を感じていた。鬼の始祖に目覚めた事により、数々の無駄能力に開花していった。

 

 

X+??人目のお客様―歴代最強の柱様。

 

 日が沈み、サイン会も終わりを迎えた頃、圧倒的存在感を放つ着物姿の女性がやってきた。

 

 柱は、下弦や上弦といった強い鬼を判別する事ができる。唯の鬼とは違い隔絶した雰囲気を持っている。つまり、そんな鬼が、サインの列に並んで近づいてくれば、否応なく分かってしまう。

 

 だが、それに動じない胆力を備えた胡蝶しのぶ。人生において、このサイン会程の羞恥を経験した事は無い。つまり、もはや目の前に誰が現れたとしても動じる事は一切無い。事前に、パワハラ女装変態上司が存在する事を知っていたのは、動じない大きな要因でもあった。

 

「初めまして、胡蝶しのぶ先生。貴方の本は、非常に興味深い。男性を意のままに魅了する手口は、神業といってもいい」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 この時、胡蝶しのぶは対応に困っていた。見た目が女性で声が男性。つまり、目の前の存在が、鬼滅隊が探し続けていた鬼舞辻無惨だ。そして、その雑な擬態で女に成りきったつもりなのかと抗議をしたかった。

 

「あぁ、全巻セットを一つもらおう。全てにサインを頼む」

 

「喜んで、それで名前はどうしましょうか?」

 

「鬼舞辻無惨で頼もうか」

 

 胡蝶しのぶは、サイン会で敵側の親玉相手にサインを書く経験をする事になるとは、想像すらしていなかった。サインを書いて鬼舞辻無惨と握手を交わす……この場面だけ見れば、完全に裏切り者扱いになるだろう。

 

 その後、当然のように物販列にやってくる鬼舞辻無惨。

 

 コレには、裏金銀治郎も肝が冷えた。本気でこの衣装を着るつもりなのかと。正気を疑うってレベルではなかった。

 

 だが、この程度の苦境を乗り切れない裏金銀治郎ではない。自らの肉体を操作して、肉体年齢を10歳ほど若返らせた。竈門禰豆子の血肉を食らってたのだから、できない道理はない。

 

「小道具セットを一つ。――ティンときた。少年……なかなか有能な気配がある。名前は?」

 

「う、裏金金太郎(・・・)

 

 偽名でやり過ごそうとする裏金銀治郎。彼は、鬼舞辻無惨も産屋敷一族だなとしみじみ感じていた。産屋敷耀哉と同じ誘い文句に思わず笑い出しそうになった。

 

「やはり、兄弟か。変わる前の兄とよく似ている」

 

「ありがとうございます。綺麗なお姉さん(・・・・・・・)

 

 裏金銀治郎は、心にも無い褒め言葉をいう。嘘をつくのがコレほど難しいと感じた瞬間はなかっただろう。

 

「ふむ、気に入った。神保町は、私直轄にしてやろう。安心して暮らすといい」

 

 胡蝶しのぶのサイン本と小道具一式を携えて帰って行く、鬼舞辻無惨。

 

 その後ろ姿を見る裏金銀治郎と胡蝶しのぶは、こんなのを相手に鬼滅隊が千年も闘っていたのかと、どんよりした気持ちになっていた。

 

 だが、現実は何時も非情だ……その男こそ倒すべき最終ゴールである。




本編を進めつつ話を書いてみました^-^

投稿期間が空いてしまいますが、
なにとぞご容赦頂きたくお願い致します。

次は話の予定は、零余子のプリズンブレイクになります。
時系列的には、サイン会の後になります!!


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