鬼滅の金庫番   作:新グロモント

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05:企業戦士

 胡蝶印のバイアグラを製品化にあたり起業届けを出すなど様々な手続きを裏金銀治郎は率先して行った。鬼滅隊のフロント企業扱いで社員は総勢二人……胡蝶しのぶを社長に据えたアンブレラ・コーポレーションと流行にのり横文字企業だ。

 

 そのおかげで、鬼滅隊の経済状況が改善されつつあった。

 

 裏金銀治郎の説得もあり、鬼達による自主的な隔離施設の環境改善も順調だ。おかげで、胡蝶印のバイアグラの生産量は日に50錠まで伸びた。一錠あたりの価格は、300円――これは、柱を除く隊士の平均給与は、月額35円であるので、毎日400人分以上の隊士月給を稼ぎ出している事になる。

 

 それだけ見れば、とてつもない額に見える。だが、実際は、ここに税金などが課せられる。その為、純利益は、売上の六割程度だ。

 

 そこから!! 鬼滅隊が保有する施設の固定資産税や土地代……施設の維持管理費用の固定費が引かれる。光熱費など当然払う必要がある。これで残った売上の三割が消し飛び――残りは三割。

 

 更に更に!! 鬼滅隊と密接な関係にある刀鍛冶の里への援助金も必要になる。廃刀令が施行されており、里の収入源は極めて少ない。本来なら、切り捨てたいが……鬼が居るうちは、捨てるに捨てられない。これで売上の一割が消し飛び――残りは二割。

 

 ココで終わらないのが鬼滅隊だ!!

 

 育手への援助という物がある。元鬼滅隊に所属している者が才能がある者を集め、鬼狩へと育てる者達の事だ。鬼滅隊の所属者は、基本的にここの出身者だ。組織維持の為にも切り捨てにくい。これで残りの売上の一割が消し飛び――残りは、一割。

 

 商売を始め収入が増えたはずにも関わらず、裏金銀治郎の苦労は絶えなかった。

 

「こ、これでも黒字に傾かないだと!!」

 

 ベキと万年筆をへし折った。

 

 ちなみに、残った売上の一割は、各地の警察や地元名士達への賄賂で消えた。刀で武装した者達が捕まらないためにもこれは必要経費なのだ。

 

「あの~、裏金銀治郎さん。私も忙しいのに、なぜ!? 手伝わないといけないのですか?」

 

「胡蝶印のバイアグラで得た利益です。表に出せないので、事実を知る者だけで処理するのは当然でしょう」

 

「だったら、貴方だけでも十分じゃありませんか?本職でしょう?」

 

「組織の健全化を維持するためです。これだけの大金、私が幾らか懐に入れたらどうするんですか?お互いがお互いを監視する程度がちょうど良いんですよ」

 

 裏金銀治郎の執務室には、予備の机がだされ、そこで胡蝶しのぶが書類と向き合っていた。その理由は、彼の言うとおりである。大金であるからこそ、何重にも確認する必要がある。

 

 それから数刻の間、胡蝶しのぶは文句を言いながら裏金銀治郎の手伝いをした。彼と一緒に仕事をする事で、鬼滅隊の経済状況を目の当たりにして顔が引きつる場面が多々あったのは言うまでもない。

 

………

……

 

 胡蝶しのぶが帰ってからも裏金銀治郎の仕事は終わらない。資金源を確保できたので、支出を抑える事で財政の黒字化を図る方法を検討しているのだ。

 

 鬼という金のなる――じゃなく、脅威に立ち向かうため、掛けるべき所にはお金は惜しまない。だが、資金は有限だ。限りある資金を無為に食いつぶす部門は切り捨てるべきだ。

 

「パソコンが欲しい、できればExcelも欲しい……」

 

 数字の羅列に目眩(めまい)を感じ始めていた。

 

 だが、その成果もあり幾つか書類に不審な点を発見した。具体的には、育手からの過剰申請だ。

 

 残念な事に鬼滅隊に所属する大半は、【宵越しの銭は持たぬ】という気風がある。明日死ぬかも知れない身であるから、理解できる。つまりは――元鬼滅隊であり現育手は、無一文が大半だ。鬼を狩る人を育てるからお金はそっち持ちでねという、人材派遣会社も真っ青な事業主に近い。煉獄家の様に自費で隊士を育てるという家は滅多に……いいや煉獄家しか存在しなかった。

 

 そんな理由もあり、裏金銀治郎の炎柱である煉獄杏寿郎の評価は非常に高い。次に高いのが音柱である宇髄天元だ。音柱の妻達はくノ一である事から諜報任務を自主的にやってくれている。だから、給与には奥様達分と危険手当まで付けている。

 

「はぁ~、いい加減にして欲しいわ」

 

 裏金銀治郎は、ため息を吐きながら部屋にある資料を漁った。探しているのは、最終選抜の受験者リストとその育手の情報だ。そこから、不正を見つけ出すのだ。

 

 育手が援助欲しさに、碌に育てもしていない隊士候補を送り込んでいる気配があったのだ。しかも、そういう育手に限って、多くの弟子を取っており申請してくる経費が馬鹿にならない。

 

 推測が立てば、後は理論付けで証拠を集めるだけの作業であった。人を信じる産屋敷耀哉に対して、人を疑う裏金銀治郎である。疑って資料を確認すれば、馬鹿を見つけるのは簡単だ。

 

 

◆◆◆

 

 裏金銀治郎は、見つけた馬鹿の処分について上司の意向を仰ぐことにした。上司から呼び出しもあったので渡りに船である。

 

 育手に対して、良い感情を抱いていない風柱である不死川実弥にでも情報をリークすれば、即日バラバラにされたことは間違いないだろう。お館様の資金で私腹を肥やすだけでなく、使えもしない隊士を送り出していたのだ。

 

 こうみえて、裏金銀治郎のお手々は真っ白である。

 

 昇進の為に人も殺してないし、誰かをはめるような事もしていない。ジャンプの主人公達同様に真っ白である。

 

「報告書は確認した。銀治郎には、色々と苦労を掛けたね」

 

「お館様のお力になれたのであれば、この上ない喜びです。しかし、まだ安心出来ない状態です。今は、ようやくスタートラインに立ったに過ぎません」

 

 全ては、これからだ。

 

 今の鬼滅隊の状況は、資産が減り続けるという状態が急減速したに過ぎない。それも、胡蝶印のバイアグラに支えられている状態だ。裏金銀治郎の頭の中には、膿を出し切った後のプランもできあがっていた。

 

「このところ、色々な所から予算がついて、できる事が増えたと感謝の言葉が届いている。それを銀治郎にも伝えたかった。本当にありがとう」

 

 金庫番をしている裏金銀治郎の所には、一切の感謝状は届いていなかった。誰しもが全てお館様の手腕で資金繰りが良くなったと思っているのだ。その事を気遣い産屋敷耀哉は、裏金銀治郎を呼び寄せたのだ。

 

「勿体ないお言葉です。この場でお知らせするのは恐縮ですが、一つ残念な報告がございます」

 

 鬼滅隊にとって、裏金銀治郎は必要不可欠の存在へとなっていた。そんな彼から残念な報告と聞いただけで、産屋敷耀哉の平常心に揺らぎを与えた。

 

 だが、この時、裏金銀治郎は全く残念だと思っていない。

 

 鬼滅隊だけに留まらず、産屋敷耀哉の周りにはYesマンしか居ない事に大変危険を覚えていた。頑張ればいつかは鬼を駆逐できるとか――体育会系の思考だ。予算がこの程度必要ですに対して「はい、わかりました」ではない!! その内訳と何故必要なのかよく精査する必要がある。

 

 勿論、これは金庫番についている裏金銀治郎にもチェックが漏れてたので責任もある。だが、就任時期や彼の抱えている仕事量を考えれば、どう頑張っても限界があるのだ。

 

「何があったんだい?」

 

「育手に、経費を水増して不正を働いている輩がおります」

 

 報告書を産屋敷耀哉の付き添いも兼ねた彼の実子が確認し読み上げた。その内容を聞き、産屋敷耀哉は涙を流す。記憶力が優れている彼は、今まで出会った全ての隊士を記憶している。だからこそ、不正を行った者の人となりを理解していた。

 

 裏金銀治郎にしてみれば、出会ったときは澄んだ心を持った青年だったかもしれない。だが、立場上、常に接していたわけでもあるまい――時間とは残酷だ。人は変わるのだ、と言うだろう。

 

 空気が読める裏金銀治郎は口を噤む。

 

「そうか………彼が、そんなことを」

 

 鬼滅隊の者達を子供のように考える産屋敷耀哉にしてみれば、我が子が悪事を働いていたなど信じられない事であろう。だが事実である。

 

 色々準備し、鬼滅隊の為、資金調達を頑張る裏金銀治郎という聖人もいれば、鬼滅隊の為と称し外道に堕ちる者もいた。

 

「近くに風柱である不死川実弥がおります。今ならば彼に任すのが最適解かと愚行致します」

 

 何を任すかと言えば簡単だ。柱ではなかったとはいえ、呼吸法を身につけた育手である。下手な者を送り込んでも、そんな者来なかったとなりかねない。ならば、最初から最強の駒をぶつけるのは、戦法的に正しい。

 

「実弥は、少し過激なところがある。他の手はないのかい」

 

「――あまり気が進みませんが、司法の手に任せてみてはいかがでしょうか? 」

 

 逆恨みという言葉がある。

 

 不正を暴露した相手に対して、報復をするという事もそれに含まれる。裏金銀治郎は、身の安全を守るため最善を尽くす所存でいた。陽明館のパーティーで貰った名刺には、警察から裁判官まで良り取り緑である。

 

 元鬼滅隊というだけで、叩けば埃なんぞ幾らでも出せる。

 

 なぜかというと、鬼という存在は認知されていない。鬼が世間的に何に分類されるかといえば、人間だ。

 

 上司である産屋敷耀哉の意向を最大限にくみ取り、裏金銀治郎は動く。

 

◆◆◆

 

 数日後、四国地方のローカル新聞で、ある事件が1面を飾った。

 

 殺人剣を教えていた殺人犯が逮捕されるといった記事だ。しかも、身寄りのない子供達にその術を教え込むという恐ろしい事件として扱われていた。保護されるまでの間、何人もの子供が行方不明になっているという事実まで判明したとの事。

 

「恐ろしい事件もあるものですね。そうそう、ブラジル産の良い珈琲豆が手に入りましたので胡蝶しのぶさんも一杯どうぞ」

 

 裏金銀治郎は、持っていた新聞を胡蝶しのぶに渡した。彼女もその記事を注目する。このご時世に殺人剣など思い当たる節は一つしかなかった。

 

「そういえば、先日四国の土産にうどんを頂きましたよね。――これは、貴方の仕業ですか?」

 

「育手にも関わらず、碌に教えもしない。経費は割り増し請求。お館様のご意向で司法にて処罰して貰う方向になりました」

 

 ありのままの真実を胡蝶しのぶに告げた。

 

 責任ある大人として、自らに何かあった際の仕事を引き継げる者がいる。鬼滅隊でそれができるのが唯一胡蝶しのぶだけだ。

 

「私は鬼を狩るのが仕事です。裏方まで教えられても困りますよ」

 

「知っております。それに、貴方だから正直に全てを話すんですよ。私は仕事を真面目にこなすほど、恨みをかってしまう性分のようで」

 

 「馬鹿ですかね」と小声で言いつつ、煎れられた珈琲に口を付けた。苦いはずなのに、どこか甘いと思ってしまう胡蝶しのぶである。

 




次話から原作時間軸へ。

水柱さんが、不祥事を隠し始めました。

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