鬼滅の金庫番   作:新グロモント

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24:00に投稿がまにあえーーーと思い執筆しました!!


51:友情

 鬼舞辻無惨との最終決戦を前に、鬼滅隊は歓喜と嘆きが交差していた。

 

 全ての"柱稽古"を突破した者達とそれ以外の者達だ。一位通過は、栗花落カナヲであった。前に立つ隊士を文字通りなぎ払って、堂々の一位通過である。そもそも、"柱稽古"に柱級の実力を持つ隊士が居る時点で出来レース感が否めない。

 

 だが、彼女は当然お見合いなど興味は無かった。この時代、百合の花は咲かない。彼女は、竈門炭治郎と末永く暮らす為、お金を選んだ。まさに、良妻賢母である。竈門炭治郎、我妻善逸、嘴平伊之助の三人はトップ10入りを果たしている。

 

 当然だが、竈門炭治郎の選択肢にお金以外は存在しない。

 

 我妻善逸は、鬼滅隊で音柱を抜くトップへと君臨する。あれだけの淫魔を抱えて、まだ足りないのかとある者は羨望の眼差しを送り、ある者は呪詛を唱え始める。

 

 我妻善逸は、嫁が増える事より、最近噂になっている事の方が気になっていた。"柱稽古"に勤しむ隊士達の間でもヒソヒソと囁かれている。だが、そんな噂を信じるような狂信者ではない。

 

「おぃ、聞いたか。金柱様が鬼になったって噂」

 

「確かに最近お見かけしなくなった。俺は、上弦と闘って負傷したと聞いたぞ」

 

「現場の検証じゃ、雷の呼吸を使える隊士でなければ、あの惨状はできないって言っていたぞ」

 

 ブチ

 

 我妻善逸の堪忍袋の緒が切れた。

 

 耳が良い彼は、小声でする噂話など全て耳に入ってくる。つまり、常に神の陰口が耳に入る。平常心を保つにも限界がある。それに、獪岳が鬼になった事実を知っているため、事の主犯について彼は予想していた。

 

(裏金銀治郎)の陰口を俺の聞こえる所でいうとはいい度胸だな。いいか!! 鬼になったのは、獪岳という俺の兄弟子の方だ。不敬にも神の名をかたって、悪事を働いているに決まっている。神がどれだけ鬼滅隊に貢献していると思っている。――次、陰口を言えば、隊士であっても手足の一本は落とす」

 

 全身から雷を迸らせて殺気をばらまく我妻善逸。その殺気に当てられた者は、自らの首が一瞬にして刎ねられるビジョンを浮かばせるほどだ。一切の冗談を許さない、それがヒシヒシと伝わった。

 

「あぁ、悪い。そうだったな、裏金様ほど俺達のことを考えてくれた人はいなかったな」

 

「そうそう、裏金様が裏方になられてから現場隊士の待遇は、よくなったよな」

 

 隊士達も噂話を鵜呑みにするのは良くないと理解した。

 

 だが、噂もあながち間違いでは無かった。裏金銀治郎は、鬼の始祖となっている。

 

 

◇◇◇

 

 胡蝶しのぶは、鬼滅隊へ復帰の挨拶をする。表向きには、裏金銀治郎の看病という事になっていたので、体裁は大事だ。入隊以来初めての長期休暇……その大半は、裏金銀治郎とのプロレス時間であった。

 

 資産管理の執務室に顔を出すと、そこには目の下にクマを作っている産屋敷の子供達が居た。死屍累々とは、この事である。

 

 裏金銀治郎不在の間に、外交筋から賄賂の滞りに関する苦情が多発。見せしめとして、育手の道場が幾つかガサ入れされて逮捕者が続出した。刀を使った殺人術を教え込む道場として、罪状など自由に適用できる。

 

 コレが政府の力だ。人の人生を終わらせる事など、卵を割るより簡単にできる。そんな連中と裏金銀治郎は、外交をしていた。

 

「輝利哉様、急なお休みを頂きありがとうございました。これ、差し入れです。銀座で買ってきました洋菓子になります」

 

 胡蝶しのぶは、何事もなかったかの如くお土産を配る。旅行に行った者がお土産を配るのとまるで変わらない仕草。

 

 産屋敷輝利哉にしてみれば、若干思うところがあった。上弦の弐の撃破という偉業は当然すばらしい。だが、もう少し連絡をくれても良かったのではないかと。

 

「胡蝶さん、お帰りなさい。早速で申し訳ありませんが、私では決済できない事が多く……助けて貰えませんか?」

 

「構いませんよ。ですが、銀治郎さんの心配はなさらないんですね」

 

 胡蝶しのぶの冷たい眼が、産屋敷輝利哉を貫く。

 

 組織とは、人が居てこそ成り立つ。それを蔑ろにすれば、当然の報いが待っている。人心が離れるというデメリット。

 

「胡蝶さんが戻ってこられたという事は、裏金さんは回復したという事でしょ?」

 

「えぇ、本調子ではありませんが……それで、これらの書類を決算するにはお金が必要です。予算は、どこに?」

 

 鬼舞辻無惨戦を前に、隊士達の給料日がやってきた。不払いなどしたら、戦に影響を与える事は明白だ。無給で命を賭けろなど、あり得ない。そんなやる気のある連中は、柱や一部隊士だけだ。

 

 だが、優れた柱であっても無からお金を生み出す術は持ち合わせていない。そんな人がいたら、世界経済は崩壊する。

 

「それが、分からないからご協力を依頼しました。アンブレラ・コーポレーションから幾らか予算を都合してください」

 

「無茶を言わないでください。"柱稽古"をする為に、アンブレラ・コーポレーションからも予算を吸い上げたじゃありませんか。少ないとは言え、あちらで働く社員達への給料もあるんですよ。それに、ウチへの支払は、月末〆なので来月にならないとお金はありません」

 

 胡蝶しのぶの胃がキリキリし始めた。

 

 裏金銀治郎がこのような職場で働いていたかと思うと、胃痛を感じ始めていた。金は振って出てくる物ではない。一切の申し訳なさが感じられない子供の言葉は、憎しみすら覚えそうであった。

 

「そうですか、裏金さんが"柱稽古"の報償金で用意していた。50万の残金も使いましたが足りなくて……何か妙案はありませんか?」

 

「えっ!? あの50万円って、銀治郎さんのポケットマネーですよ。なぜ、報償金以外の事にご利用されているんです」

 

 "柱稽古"を全て突破した者が、全員お金を希望した場合には総額50万円になる。それに対応できるように裏金銀治郎は、50万円を用意していた。出所は、万世極楽教からの仕事報酬だ。

 

 お館様への最後の奉公的な意味も兼ねて、私財を大放出した裏金銀治郎。だが、その大事な金を残ったからと言って勝手に使われるとは裏金銀治郎とて想像していなかった。幾ら現金で机にしまっていたとはいえ、やり過ぎだ。

 

「そうだったんですか!! それは知りませんでした。後で、お返ししましょう」

 

 その返済方法は、裏金銀治郎と胡蝶しのぶが汗水流して働いたアンブレラ・コーポレーションからの資金である事は言うまでも無い。

 

 胡蝶しのぶに危機感が宿る。

 

 この後の未来予想を裏金銀治郎から聞いている彼女。産屋敷耀哉と産屋敷あまねが同時に亡くなる。そして、子供を連れて死ぬ。このまま順当に行けば、間違いなく生活だけでなく、結婚相手まで探す未来図が予想するに容易かった。

 

 はやく、煉獄家に面倒を見て貰わなければと裏金銀治郎の思考と一致してくる胡蝶しのぶ。彼女は、カリスマの洗脳が解けて、真人間へと変わっていた。

 

 裏金銀治郎は、鱗滝左近次という男なら誰もが憧れる催眠術の使い手を活用するという案を考えていた。彼の手に掛かれば、どんな女でも産屋敷輝利哉の妻にすることは容易い。後世に伝え残してはいけない技術であり、裏金銀治郎が危険視している男の一人だ。

 

 あの竈門禰豆子すら思いのままに操れるほど強力な催眠術の使い手だ。つまり、鬼も人間も鱗滝左近次の手に掛かれば、操り人形にできるという証明でもある。

 

………

……

 

 産屋敷耀哉の命の灯火は、尽きようとしていた。

 

 そんな彼の元を胡蝶しのぶが訪れている。人払いも終えており、この場に居るのは胡蝶しのぶと産屋敷耀哉のみ。

 

「やぁ、しのぶ。無事に戻ってきてくれてなによりだ。銀治郎の事で何かできることがあれば、言ってくれ。最善を尽くそう」

 

「ありがとうございます。単刀直入にお伺い致します、お館様。その病を治す手立てがあるとしたらどうしますか?」

 

 本来であれば、遺伝子欠陥で死ぬ患者を救うことなどできない。だが、唯一それを可能とする手立てが存在した。余命がない為、捨て身の覚悟を決めている人には、申し出にくい内容だ。

 

「ふふ、それは私が鬼になって病を治してから人間に戻るという方法かな」

 

「……何処までご存じなのですか?」

 

 人を鬼にできる存在は、珠世という例外を除けば鬼の始祖のみ。成功例の愈史郎が存在する以上、その発想に至っても不思議でない。

 

「いいや、勘だよ。そうか、銀治郎(・・・)が鬼になったか。彼とは仲よくできているかい」

 

「どうして、銀治郎さんだと?珠世さんは、鬼を作る事に成功しております。彼女より銀治郎さんだと確信を持ったのは、なぜでしょうか」

 

 恐ろしいまでに冴えた勘。その勘がもっと早く発動していれば、明るい未来だったのにと誰しもが思った。

 

「そうだね。やっぱり、勘だね。銀治郎の事は、誰にも言わないから安心して欲しい。銀治郎は、私に一番長く仕えた柱だ。鬼滅隊を支えてくれた事にも感謝している。――そこに居るんだろう銀治郎」

 

 胡蝶しのぶの影から這い上がる裏金銀治郎。胡蝶しのぶという圧倒的存在感の影に隠れ潜んでいた。気配を極限まで抑えれば、柱とて感知できない。そもそも、胡蝶しのぶの影に鬼が隠れているなど普通は想像しない。

 

 人間も食べていないので嗅覚特化の竈門炭治郎でも感知は困難を極める。

 

「失礼しました、お館様。裏金銀治郎、ただいま戻りました。留守の間、ご子息様にはご迷惑をおかけした事をお詫び致します」

 

「相変わらず心がこもってないね、銀治郎。まぁ、そこが君らしくて良いところだ。今まで(・・・)、鬼滅隊と私を支えてくれてありがとう。最後くらい昔みたいに呼んでもいいんだよ」

 

 カリスマが高い人から言われたら、応えたくなる。だから嫌いなんだと、ぼやく裏金銀治郎。

 

「色々と世話になった、耀哉君。正直、ティンと来たとか言われて誘われた時は、怪しい宗教かと思ったほどだ。そうそう、実家でしのぶさんのサイン会をやったら、鬼舞辻無惨が女装してやってきたぞ」

 

「ははは、それは見てみたかったな。1000年の怨敵がどんな姿をしているか、この目では見ることは叶わない」

 

 裏金銀治郎は、迷ってしまう。

 

 そんなに見たいなら見せる事ができてしまうからだ。血鬼術を使えば、映像を直接送ることができる。だが、あの鬼舞辻無惨を直視して、産屋敷耀哉が耐えきれず死んでしまう可能性もある。

 

 あと数日で死ぬと言われて、半年も生きながらえた男が今夜の決死の反撃を前に、女装した怨敵をみて死ぬとか笑い話だ。

 

「仕方ないな耀哉君。死んでも責任は取らないからな」

 

 産屋敷耀哉の顔の上に裏金銀治郎が手を乗せる。そして、物販列で小道具セットを買った鬼舞辻無惨が彼の脳内に投影される。

 

「銀治郎。今夜、ここに鬼舞辻無惨がくる。もう、このイメージで固定されてしまったよ。どうしてくれるんだい?」

 

「女装趣味の変態とでも煽ってやればいいだろう」

 

 笑い合う二人。

 

 胡蝶しのぶは、男の友情とはこういう物かと改めて理解した。

 




日次投稿はまだ難しいですが
可能な限り頑張ります!!

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