鬼滅の金庫番   作:新グロモント

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いつもありがとうございます。
感想も本当に嬉し限りです^-^


煽りの呼吸って……いいよね。


52:○○が許されるのは(以下、略

 

 人払いされた蝶屋敷。その庭で焚き火に当たる裏金銀治郎。

 

 その背中には哀愁が漂っていた。胡蝶しのぶは、そんな彼の背中に引き寄せられる。そして、そっと抱きしめる。古くからの知り合いが今日亡くなる。それを悲しんでいると感じたのだ。

 

「銀治郎さんにしては、珍しく悲しそうな顔をしています。お館様とのお別れが辛いんですか?」

 

「まぁ、子供の頃から知っていますからね。私より年下が、先に死ぬのは少し悲しいですよ」

 

 素直な感想であった。

 

 裏金銀治郎の脳内では、今でも産屋敷耀哉との初めての出会いが鮮明に思い出せる。

 

「折角なので、銀治郎さんとお館様の出会いを教えてください。夜までは、時間がたっぷり(・・・・)あります。なんなら、診察室でも構いませんよ。せ・ん・せ・い」

 

「しのぶさん、エッチなのは大好きですが今日は控えましょう。代わりに、思い出話をしてあげます。お館様の名誉の為、色々と伏せますが……私が最初にお館様に言った言葉は、『この本は、未成年には売れないな。後、10年してから買いにおいで』です」

 

 人の思い出を汚す事を何よりの生きがいにしているのではないかと思ってしまう発言であった。胡蝶しのぶは、また知りたくもない事実を知ってしまう。

 

 彼女は、まだ可能性はあると、希望を捨てなかった。

 

「なるほどなるほど、難しい専門書だったんですね。裏金書房には、その手の類いも沢山ありましたね」

 

「いいえ、エロ本ですよ」

 

………

……

 

「この男はぁぁぁぁぁ!! いいですよ!! 分かっていましたよ。でも、こんな時くらい配慮してくれてもいいんじゃありませんか」

 

「イヤですよ。私は、しのぶさんには嘘は言わないって何時も言っているでしょ。それに、知りたいと言ったから教えたのに」

 

 胡蝶しのぶのホールドする力が増していく。既に、ドラム缶が凹む程の圧力が掛かっている。

 

 何時もの事ながら、彼女は知りたい情報を聞いたら、怒り出す。世の中、知らない方が幸せな事など沢山あるのだから、求める情報は取捨選択すべきだ。

 

「銀治郎さん、まさかと思いますが、その焚き火の材料に投げ込んでいる本って」

 

「友達との生前の約束を果たしています。死んだら、エロ本を処分してくれと依頼されていました。少し早いですが、問題無いでしょ。既に、絶版の本もあるというのに悲しい事だ。実家が本屋の私に本を焼けとか、鬼か悪魔かと言いたくなります。そうそう、耀哉君は裏金書房のお得意様ですよ」

 

 産屋敷耀哉だけが、裏金書房の所在を知っていた理由はコレに尽きる。

 

「さっきまで、男の友情が素晴らしいと思っていた私に謝ってください!!」

 

「ごめんなさい。しのぶさん。これが男の友情です。ですが、よく考えてください。亡くなった後に、これだけのエロ本が旦那の書斎から出てきたら、残された家族は泣きたくなるでしょ。私は、耀哉君の名誉のためやっているんです。あ、一緒に投げ込みますか?」

 

 まるで、養豚場の豚を見るかのような目で裏金銀治郎をみる胡蝶しのぶ。

 

 女には、男の友情を理解するのは難しい。だが、彼女は黙って本を投げ込んでいく。なぜか、ぱらぱらと速読してから投げ込んでいるのは、裏金銀治郎の目の錯覚であろう。

 

「はぁ~、また汚されちゃった」

 

「またとは、人聞きが悪い。いいじゃありませんか、カリスマを持つ男にも汚点があったと思えば。女装癖がある鬼側のトップより遙かにマシです。男性ですから、エロ本の一つや二つ持っていて当然ですよ」

 

 エロ本を持っていない男の方が不健全である。それは、世界の真理だ。健全な男である裏金銀治郎だって、部屋にエロ本の一つや二つある。

 

「へぇ~、じゃあ銀治郎さんも持っているんですか?」

 

「えぇ、著者しのぶさんの『正しい華の呼吸全集』。しのぶさん、エッチなのは構いませんが……しれっと、私のせいでエッチになったとか、嘘を書いてはいけません。完全に、しのぶさんの"誘い受け"でしたよね!! 」

 

「きゃーーーー!! なんで、読んでいるんですか!! 普通、読みますか!?」

 

「普通、読むでしょ!! しのぶさんが、私を思って書いてくれた日記ですよ。読まないと失礼でしょ」

 

 お天道様が高いうちから、服に手を入れてくる女性。男冥利に尽きるが、流石に蝶屋敷の庭というのはよくない。だが、人の気配を察して、胡蝶しのぶがとっさに手を引っ込めた。

 

 神速の早さで駆けつけてきた我妻善逸。

 

 我妻善逸の耳には、裏金銀治郎の声が届いていた。そして、神の帰還を迎えるべく駆けつけてきたのだ。そして、跪く。

 

「神!! お帰りをお待ちしておりました。鬼との戦いで負傷したと聞いた時から無事なお姿を見るまで、心安まる時はございませんでした」

 

「ねぇ~銀治郎さん。洗脳でもしたんですか。信者というより狂信者のレベルになっていますよ彼」

 

「ここまで信仰されるのは私も予想以上です。善逸君も無事で何よりです。それと、"柱稽古"を二番で突破でしたね。君ならできると信じてました。よく頑張りました」

 

 人は誰しも承認欲がある。

 

 誰かに認められたい。だからこそ、我妻善逸は自らを認めて望む全てを与えてくれる裏金銀治郎を神として崇める。

 

「勿体ないお言葉。神、兄弟子が不敬にも神の名を騙り悪事を働いております。じいちゃんを助けてくれた恩人を貶める行為、許しがたい。そのせいで、神が鬼になったと噂まで立ち、申し訳ございません」

 

「善逸君、君のせいではない。それに――君の聴覚ならば、既に気がついているだろう」

 

 裏金銀治郎は、鬼の始祖である。

 

 聴覚で鬼を判別できる我妻善逸は、出会った瞬間から既に人間でない事には気がついていた。だが、その程度の事で信仰が揺らぐようでは狂信者ではない。

 

「神が鬼であっても、大した問題ではありません。なぜなら、神なのですから!!」

 

「善逸君、君のような信徒をもった私は幸運だ。では、私から最初で最後のお願いです。今宵、鬼舞辻無惨がここを襲撃にきます。君の鍛え上げた力を以って、目の前に立つ全ての鬼を殲滅して欲しい。その為に、私は君に全てを与えてきた。できますね?」

 

 裏金銀治郎は、影から一個のケースを取り出す。

 

 その中には、流星刀と裏金銀治郎の血液から作り上げた特別製の緊急活性薬が二本と扇。そして、半天狗の錫杖を変形させて作った十寸釘が大量に格納されている。鬼に刺さる事で瞬間的に電流を流して消失する使い捨ての飛び道具。一瞬とはいえ、鬼の動きを止められるので、我妻善逸が頸を刈るのに十分な時間を確保できる。

 

「これは!?」

 

「鬼を効率よく殺す為、私からの贈り物だ。流星刀は、言うまでも無いね。扇は、鎌鼬を発生させる。その切れ味は、遠くに居る鬼でもバラバラにする。下弦であっても、切断可能だと実証済みだ。針は、こう使うんです」

 

 裏金銀治郎が近くに木に釘を投げる。刺さるとパーーンと弾けるような音と同時に電流が流れ木の一部が黒くなる。

 

「必ずや、獪岳の頸を落として参ります!! 」

 

「あぁ、獪岳だけでなく他の鬼や上弦も頼んだよ。鬼舞辻無惨を相手に良い働きを見せてくれたら、望む物を全て上げよう。金、女、永遠に若い肉体……頑張りたまえ少年。未来は、君の手で掴むんだ」

 

 我妻善逸は、裏金銀治郎と胡蝶しのぶの逢瀬の時間を邪魔しないため、即座に立ち去る。そして、これからの戦いに向けて与えられた道具の使い方を覚える。その素晴らしい姿勢は、まさに神の信徒である。

 

◇◇◇

 

 歴代最高の当主といっても過言でない産屋敷耀哉。

 

 彼が居なければ歴代最高の柱を集める事はできなかった。つまり、彼こそ本当の功労者である。病に侵されながらも、怨敵を倒す事を第一に考える。その集大成が、いまであった。

 

 彼は、裏金銀治郎からの延命方法を断っていた。人間→鬼→人間という究極の治療法だというのに、鬼になるという事は彼の矜持が許さない。崇高な人間である。それが、子供の人生に多大な影響があったとしても考えは変わらなかった。

 

 月明かりがさす産屋敷邸の庭に、鬼舞辻無惨が現れる。鳴女の血鬼術による移動であった。その利便性故に鬼舞辻無惨も重宝している。勿論、裏金銀治郎からは絶対確保したい能力だと狙いを定められている。

 

「……やぁ、来たのかい。初めましてだね。鬼舞辻無惨」

 

「何とも醜悪な姿だな産屋敷」

 

 1000年の時を経て、産屋敷一族と鬼舞辻無惨が初めて出会う。よく1000年もお互いにすれ違っていたと悪い意味で褒めたくなる。お互い本気で探していたのかと、この場にいたら裏金銀治郎が質問を投げかけただろう。

 

「あまね。彼はどのような姿形をしている」

 

「20代半ばから後半あたりの男性にみえます。ただし、瞳は紅梅色……」

 

 産屋敷耀哉は、妻から男性と言われるが既に頭の中では裏金銀治郎のせいで女性の姿が思い浮かんでいた。人の一世一代の場面になんて物を思い出させるんだと、産屋敷耀哉は内心で笑っていた。

 

………

……

 

 鬼舞辻無惨との身の上話で時間を稼ぐ産屋敷耀哉。この間に、柱達が一斉に集結し始める。

 

「君の夢は、叶わないよ無惨。」

 

「禰豆子の隠し場所によほどの自信があるらしいな。だが、私の時間は無限だ。いつか必ず見つける」

 

 産屋敷耀哉は、お互いの思いに誤解がある事に気がついた。この時、既に太陽を克服する事は不可能となっている。胡蝶しのぶと珠世により、原作より遙かに強力な"鬼を人間にする薬"が開発されている。

 

 既に、人間に戻り疲労困憊で寝ている禰豆子を食らっても太陽を克服する事はできない。

 

「君は思い違いをしている。それは、君の気持ち悪い女装は、永遠に変わらないと言う事だ」

 

「何だと?」

 

 鬼舞辻無惨としては、くそ真面目に部下のやる気を出させる為、女装をしたというのに何故だと思っていた。それに、何故それを知っていると疑問でもあった。可能性はただ一つ……鬼側から情報が漏れている。と、誰もが考える。それが普通の発想だ。裏金銀治郎というイレギュラーなど想像するのは、不可能。

 

 産屋敷耀哉は、死に際だというのに鬼舞辻無惨を煽るのが楽しくて仕方が無かった。今まで散々苦しめられた恨みを少しでも晴らせるのだ。年甲斐もなくウキウキしていた。

 

「最後に一つだけいいかい?」

 

「言ってみろ」

 

  鬼舞辻無惨が部屋の中に入り、産屋敷耀哉の横に立つ。射程圏内に収められており、手を軽く振るうだけで産屋敷耀哉は殺される。

 

「童貞が許されるのは、20歳までだよ無惨。そんな大事に1000年も守っても価値すらない。女を知らない男が女装など、君は馬鹿だね」

 

 鬼滅隊の男性隊士に聞かれていたら、半数以上がやる気を削がれていただろう。ちなみに、裏金銀治郎は胡蝶しのぶで卒業するまで童貞であった。つまり、30歳過ぎまで大事に守っていた。

 

 産屋敷耀哉の最後の言葉は、鬼舞辻無惨の心を抉る。継国縁壱の攻撃が物理ダメージトップとすれば、精神ダメージトップは産屋敷耀哉だ。

 

 そして、さりげなく、友人すらディスる産屋敷耀哉の最後の言葉である。

 

 日本帝国陸軍から大量に仕入れた爆薬に、一斉に火が点く。その威力は、産屋敷邸の周辺まで吹き飛ばす程であった。

 




これが、『男の友情』ですよね!!
ふぅ、無限城に辿り着いたぞーーー!!



感想で凄く面白そうなネタを頂けましたので嘘予告してみました^-^

****嘘予告(part2)****

 裏金銀治郎産の血鬼術を発動した胡蝶しのぶ。

 姉を助ける為、意識だけを過去に上書きした彼女が辿り着いてしまった世界。そこには、『裏金銀治郎』も『鬼滅隊』も存在しなかった。あるのは、『鬼殺隊』というほぼ同一の組織。

 若返りした彼女は、裏金銀治郎を驚かせようと探した。だが、彼を知る者は誰も居ない。裏方として嫌われ者だから、皆が冗談を言っていると思っていた彼女だが……徐々に、事の重大さに気がついく。

 彼女は、裏金銀治郎を探した。彼との思い出の場所を全てを探した。だが、存在の影も見つける事はできない。

「銀治郎さん……お願い。私を一人にしないでよ」

 裏金銀治郎の執務室は、物置となっている。涙を流して叫ぶ彼女に答える者は誰も居ない。最愛の男であり、夫である者との生き別れる。姉を救ったとがその代償は大きかった。

 愛する男の元に辿り着くため、愛する女の元に辿り着くため、二人は歩き出す。


公開予定未定……時空淫界のドグマ
**************

また、アンケートをやろうと思います。

1)しのぶさんと未来でNHK特番を見る話
2)しのぶさんが過去改変しちゃう話(嘘予告2版)
3)考え中

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