鬼滅の金庫番   作:新グロモント

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53:おつとめ

 産屋敷耀哉の最期を見届けた裏金銀治郎。

 

 その命をもって鬼舞辻無惨に一撃を与えた事は、賞賛に値する。周辺まで吹き飛ばす爆薬で鬼舞辻無惨の肉体は半壊していた。人間なら木っ端微塵で原型すら留めていない威力だ。それが半壊で済んだのは最強の鬼と言われるだけの事はあった。

 

 裏金銀治郎と胡蝶しのぶは、近くの木の陰に隠れて爆発をやり過ごしていた。

 

「ねぇ、銀治郎さん。ふと、思ったんですが……手を抜きましたね?」

 

「えぇ。珠世さんの自爆特攻で薬を取り込んだタイミングで液体窒素で二人とも凍らせる。血界で、無限城への移動を不可能にして、柱全員で万全な状態で倒すという事もできたでしょうね」

 

 さらりと暴露する鬼舞辻無惨を完封する方法。

 

 胡蝶しのぶは、怒りを通り越して呆れていた。裏金銀治郎の性格を知っているが故に、諦めた。だが、結果的に鬼舞辻無惨を殺すであろう事は信頼していた。

 

「理由を聞いてもイイですか?」

 

「勿論。理由は、二つです。一つ目は、鬼舞辻無惨が死んだ後、鬼の始祖がもう一人居る事が露見したら喜んで殺しに来る人がいます。私は人間を誰一人殺していないのに、お構いなしでくるでしょう」

 

 胡蝶しのぶも心当たりがあった。裏金銀治郎は、竈門禰豆子のように特別扱いはされない。世の中、特別扱いされるのは性別や年齢、容姿などが必要とされる。それらを、裏金銀治郎は満たせていない。

 

 世の中、美少女というだけで特権階級なのだ。

 

「いらっしゃいますね。説得も難しそうな人達が……つまり、銀治郎さんは、自らの手を汚さず亡き者にしようと」

 

「否定はしません。悪い事を何一つしていないのに、殺されるのは承服しかねます。それに、彼等には高い給料を払っていたんです。上弦や無惨と闘って貰わないと割が合わない」

 

「あの~、もう少し仲よくできませんか? 私の同僚でもあるんですよ」

 

「私としては、最大限の歩み寄りをしております。それに、上弦や無惨と闘うのは、柱の使命でしょう。最後くらい、闘って欲しいですね。今までの上弦は全て、私としのぶさんが倒したようなものですから」

 

 同僚と恋人……仲よくできないものかと胡蝶しのぶは考えた。不仲の原因である胡蝶カナエの事件について、誤解を解けば多少改善されるだろう。だが、それを裏金銀治郎の妻となった胡蝶しのぶの口から言っては効果が薄い。

 

 煉獄槇寿郎が自らの罪を暴露する必要がある。そうなれば、煉獄杏寿郎が腹を切って詫びる可能性が高かった。あの好青年が責任をとって腹を切るのは忍びない。

 

「はぁ~。銀治郎さんの性格は、分かっていましたよ。で、二つ目の理由は?」

 

「鳴女の血鬼術は、絶対に奪う!! あの力があれば、誰にもバレない場所で胡蝶印のバイアグラの生産工場が作れます。あれほどの血鬼術を持つ鬼が今後現れるとも限りません。今、食らっておく必要があります」

 

 情報化される未来を知る裏金銀治郎。

 

 鬼を材料にした工場は、いずれ発見される。政府の人間に知られれば、全面戦争になる可能性もあった。この世界において、鬼の始祖が本気でゲリラ作戦に持ち込めば勝てる戦いだ。影で平和に暮らしたい裏金銀治郎としては望む展開ではない。

 

「銀治郎さん、お願いです。可能な限り、柱の皆さんを助けてください。銀治郎さんに思うところがあるのは分かります。誰とは言いませんが、一部柱の人が貴方を害する行動にでるなら、私が守ります」

 

 彼女は、真剣であった。裏金銀治郎と柱の二つを天秤に掛ければ、裏金銀治郎の方を優先する。だが、双方を救える可能性があるなら、どちらも選びたいと考えた。そんな夢のような選択が、実現できる。

 

 その鍵を握っているのが、裏金銀治郎である。

 

「はぁ~、しのぶさんにとっては、良き同僚ですからね。風柱も蛇柱にも、恩を売ればなんとかなるでしょう。分かりました。ですが、貸し一ですからね」

 

 裏金銀治郎は、しぶしぶ承諾した。

 

………

……

 

 産屋敷邸の爆心地では、予定通りの行動がなされていた。珠世一派による決死の攻撃。"鬼を人間に戻す薬"を取り込ませる素晴らしい案であった。そして、トドメに岩柱・悲鳴嶼行冥のハンマーが鬼舞辻無惨の頭部を粉砕する。

 

「流石は、悲鳴嶼さん!! 」

 

「最強の称号は、伊達じゃありませんね。ですが、殺せません。鬼の始祖は、頸を落とした程度では死なない」

 

 鬼舞辻無惨と同格になった男の台詞は重みが違った。実際、頸を粉砕しても即座に再生する。異常な再生力……まさに、その一言に尽きる。唯一殺せる手段は、太陽だけだ。

 

 だが、そうなると……太陽を克服している裏金銀治郎を殺す術は、あるのだろうか。万が一敵に回れば、鬼滅隊の脅威ではなく人類の脅威になりかねない。胡蝶しのぶですら、彼を殺す術は想像できなかった。

 

 集合する柱達が鬼舞辻無惨を初めて目撃する。そして、産屋敷邸の跡地をみて理解した。産屋敷耀哉が既に亡き人になっている事を。敬愛する産屋敷耀哉の死に怒りをあらわにする柱達。

 

「そうそう、しのぶさん。鳴女に捕捉されていない我々の足下には、無限城への扉が開かないと思います。なので、誰かが落ちた穴が閉じないように押さえてください」

 

「もっと早くそれを言ってください!!」

 

 胡蝶しのぶが、柱達に一歩遅れて飛び出した。

 

 鳴女の血鬼術……優秀だが攻略の方法は存在する。

 

 この手の能力は、閉じられた空間を転移させる物だ。つまり、閉鎖空間の境界となる部屋同士の隙間に異物を挟み込めば転移を阻害できる。同種の能力を持っていた元下弦の陸の力は、それで妨害できる事を確認していた。

 

 裏金銀治郎は、珠世がご丁寧に竈門炭治郎が集めてきた血液を使い切らずに残しておいてくれた事に感謝している。おかげで、出会ったことが無い鬼の能力まで手に入ったのだから。

 

「町中で、対無惨戦なんてできませんからね。この跡地を最終決戦地にする」

 

 鬼滅隊の財政状況では、物損を支払う程の余裕はない。町中で、最終決戦なんて行われたら、借金地獄どころか牢屋で人生を終わらせる事になる。

 

 裏金銀治郎は、L字型の鉄柱を片手に持った。閉じる襖をこれで閉まらなくする。そして、長いロープも準備していた。部屋を移動する際にもコレを垂れ流すことで襖が閉じられなくなり、相手の能力を封殺していく構えでいた。

 

 裏金銀治郎が鉄柱を抱えて近づくと同時に胡蝶しのぶを除く全員が落ちていった。歴代最高の柱達が何もできないで落ちていく。鳴女が優秀過ぎる事を証明した。

 

「銀治郎さん、早くこっちに来て手伝ってください」

 

 胡蝶しのぶが鳴女が必死で閉じようとしている襖を腕力で開けていた。胡蝶しのぶ以外でこのような芸当が可能なのは、岩柱・悲鳴嶼行冥だけだ。裏金銀治郎は、胡蝶しのぶが強引に開けている襖に鉄柱を置く。

 

 これで、伝令役の鎹鴉も出入り自由になる。

 

「ここにガソリンを流し込んで火あぶりにする手もあったんですけどね。"鬼を人間に戻す薬"を使った鬼舞辻無惨ごと丸焼きにする。木造だから、よく燃えますよ」

 

「それだと、柱の皆さんや隊士達も丸焼けじゃありませんか」

 

「そうですね。しのぶさんからのお願いを無下にはしませんよ。では、我々も鬼退治にいきますか」

 

「えぇ。銀治郎さん、皆をお願いしますよ」

 

 この日の為に、あらゆる努力をしてきた裏金銀治郎。これ以上の万全な準備は不可能……といえる状況だ。対鬼に対するメタ装備に加え、半天狗から奪った血鬼術で作り上げたロマン兵器で武装もしていた。

 

◇◇◇

 

 黒死牟は、無限城に入ってきた鬼滅隊の隊士達を感じ取っていた。

 

 鳴女により、移動先の選定が行われる。鬼舞辻無惨の元へ柱を行かせるわけには行かないので必然的に、黒死牟の下へと案内される柱達。

 

 岩柱、風柱、霞柱、水柱、炎柱、音柱と竈門炭治郎、嘴平伊之助、栗花落カナヲ、不死川玄弥。まさに、オールスターに近かった。本来、童磨と猗窩座の下に案内されるべき者達までココに集結する。

 

 単体の戦闘力で見れば、黒死牟に敵う者はいない。だが、総力で計算すれば軍配は、鬼滅隊に上がる。

 

「鳴女ーーー!!」

 

 流石の黒死牟も文句を言いたかった。柱を倒すのは構わないが、順序よく連れてこれなかったのかと。一度にこれだけの柱を相手にどうしろと困惑していた。

 

 しかし、鳴女も手一杯であった。自身を付け狙ってくる蛇柱と恋柱から身を守りつつ、隊士達全員の行動を監視もしなければならない。処理能力は限界に達していた。その為、柱を一点に集中させる手段をとった。

 

 そうでもしなければ、あっという間に柱が鬼舞辻無惨の元に辿り着く。

 

 裏金銀治郎(偽)は……戦力的に期待されていない為、隊士達の間引き役となっていた。そして、神の狂信者と巡り会う。

 

「なんだ、てめーーらまでココに来たのかよ。流石に集まりすぎだろう」

 

 不死川実弥の発言にこの場の誰もが同意した。

 

 寧ろ人数が多すぎて、攻撃しにくいとすら感じる程だ。協調性にかける柱達では連携力がお粗末。

 

「おぃおぃ、あれは上弦の壱じゃねーーか。こりゃ、派手な戦いになるな」

 

「その通りだ!! だが、我々柱だけで対処できる」

 

 柱の中でも上弦との戦闘経験がある数少ない音柱と炎柱。上弦討伐の陰の功労者である裏金銀治郎と胡蝶しのぶが居ない事を不安に思っていた。影ながらいつでも、支えてくれる存在というのは、大きい。

 

 黒死牟は、戦略的撤退を考えた。だが、それはできない相談だ。逃げれば、後から鬼舞辻無惨に殺される。逃げなければ、何人かは道づれにできるだろうが、敗北するだろう未来が見えていた。

 

「貴様等に提案がある。剣士らしく、一対一の決闘を申し込む」

 

 騎士道に則った素晴らしい提案であった。その真摯な姿勢は、評価できる……通常時であれば。

 

 だが、産屋敷耀哉が死んだ直後、気が立っている鬼滅隊の隊士にとっては飲めない提案だ。鬼を皆殺しにしてやるという気構えで居る。つまり、答えは決まっていた。

 

「嘆かわしい。鬼は殺すのみ」

 

 残念だが当たり前の回答が返ってくる。

 

 だが、黒死牟もそれならそれで一命を賭して闘う覚悟が決まる。鬼舞辻無惨が日頃の労働に対する褒美として、渡された「おめこ券」を使わずに死ねるのだと、内心では喜んでいた。

 

 最後のおつとめを果たすため、彼は最初からクライマックスだ。

 

 ちなみに、柱を一人倒すごとに「おめこ券」が一枚贈呈されるシステムが導入されている。著者胡蝶しのぶの本の影響で、間違った報奨制度が始まったのだ。万が一、この場に集った柱全員を倒した場合、黒死牟の未来は真っ暗であった。

 

 最強の鬼柱は、いつでも鬼滅隊のサポートを忘れない。

 




上弦の弐と参が居なければ、こうなりますよね@@

上弦の壱は、銀治郎達は不干渉予定です@@
集まりすぎて収拾がね~。


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