感想本当に楽しく確認させて頂いております^-^
我妻善逸。
雷の呼吸の使い手で元・鳴柱である桑島慈悟郎によって育てられた天才。天才には、色々なタイプが存在する。満遍なく才能を発揮する万能タイプ、一分野において突出した才能を発揮する特化タイプ……彼は、後者であった。
我妻善逸の前には、無数の鬼達が待ち受けている。下弦級の力を備えた鬼達だ。だが、彼は全く怯むことは無い。それどころか、敬愛する神に恩を返す時だと武者震いしていた。泣き虫の我妻善逸は、もう存在しない。
実力と自信に満ちあふれた男へと生まれ変わっていた。
上弦の鬼の防御すら紙となるメタ装備……流星刀。我妻善逸が真価を発揮させる。
「邪魔だ。雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃 8連」
我妻善逸の刀が鬼に触れた瞬間、鬼が崩壊して消滅する。下弦級の鬼では、我妻善逸の速さについていけない。唯の的でしか無かった。防御が意味をなさない流星刀を前に、集まった鬼達は、ただの昇格ポイントだ。
その様子を見た隊士達は、我妻善逸への期待度がぐーーんと上がった。柱達が不在のこの場で頼りになる存在がいる。それだけで、安心感が段違い。
「嘘だろう!! 今の一瞬で!? 鬼が20体はいたぞ」
「あれが、我妻善逸か~。こぇーーな」
「流石は、金柱様のお気に入り。あの実力なら納得だ。さて、俺達も本気でやるとしよう。折角のお見合い前に死んでも死にきれない」
"柱稽古"の早期クリアのランカー達。歴代最高の柱達に鍛えられ、実力は平均的な柱へと近づいていた。下弦級が相手でも、対等以上にやり合える存在へとなっている。
………
……
…
無限城に集められた鬼達が、続々と死んでいく。強化された隊士を苦労して倒した鬼達が、栄養補給の為に隊士を食らう。そして、続々と猛毒で死んでいったのだ。裏金銀治郎が行ったホウ酸団子作戦は、しっかりと効果を上げている。
拾い上げた獪岳の心音を頼りに足を進めた。
我妻善逸の心の中は、負の感情で満ちていた。怒り、恨み、憎しみ……まさに、人の原動力となる根源の力である。それら全ては、獪岳を殺す事にぶつけられる。獪岳が我妻善逸を殺したいと思っているのとは比にならないレベルに達していた。
「いるんだろうクズ、出てこい。3秒だけ待ってやる。土下座して、床に頭をこすりつけて神への不敬を謝罪するなら、苦しめて殺してやる。そうでなければ、更に苦しめて殺してやる」
「口の利き方がなってねぇぞ。兄弟子の
狂信者の前で神の名を騙る。罪深い行為だ。獪岳は、我妻善逸の肉体から迸る雷をみた。まさに、閃光と呼べる速度で、頸がはねられるビジョンが浮かぶも、上弦の壱に鬼になるように迫られた圧力には劣る。
だが、この一瞬で自らより格上である事を本能で理解してしまった。
「相手してやるよ。じいちゃんの分まで、しっかりその身に刻んでやる」
「あぁ、あの爺死んだか。見る目が無い糞爺だったぜ。俺があれだけ尽くしてやったのに後継に選ばねーとはな。耄碌したら元・柱といえどもお終いだな」
堪忍袋の緒はとうに切れている我妻善逸。
彼の目には、既に目の前に居る存在は人の形をした異物にしか映っていなかった。怒りが天元突破した彼の顔に"痣"が浮かび上がる。体温も心拍数も抑える事は不可能であった。
「神……この手で、ゴミを殺すチャンスをくれた事に感謝致します。じいちゃん、俺が他の型も使えるように頑張って鍛えるから待っていてね」
「死に晒せーーー!! 雷の呼吸 肆ノ型 遠雷」
血鬼術で強化された獪岳の呼吸法……殲滅力特化といえる雷の呼吸を更に強くする、理想的な血鬼術である。だが、所詮は鬼になりたての新米。能力を十全に使いこなせていない。万が一、この段階で十全に使いこなせていれば、多少はマシな戦いができていただろう。
「おせーんだよ。クズ」
広範囲の攻撃を回避し、獪岳の両腕を切断する我妻善逸。切断面が崩壊する。腐っても上弦であれば、腕を再生するのに僅かな時間ですむ。だが、流星刀で切断された場所を再生するには、それ相応の労力が必要になる。
「バカな!! 」
「これは、鬼滅隊を裏切った分だ。どうした?早く腕を再生しろ。まだ、ツケの精算は残っているぞ」
殺意が部屋を満たしていく。
獪岳は、生存本能から頭を下げて許しを請おうとした。だが、彼の反骨心がそれを止めた。もっとも、それで許してくれるほど、狂信者は甘くない。異教徒は根絶やしにされるのが常だ。
肩の部分からごっそりとそぎ落とし、肉体を再生させた獪岳。流星刀で切断された際の最適解である。再生した腕で再び刀を握る。
「俺がぁぁぁ!! 貴様のような出来損ないに負けるはずがねーーんだよ!!」
「次は、右足。その次は、胴体。次は、頭。最後は、頸だ。安心しろ、クズの血鬼術だけは、しっかりと神へ献上する。神の一部となれる事を感謝しろ」
文字通り鍛え方が違う我妻善逸。"痣"にも覚醒した彼の戦闘力は、柱上位に匹敵するレベルに達していた。猗窩座が存命ならば、鬼になれと熱烈なスカウトがされるレベルである。
獪岳は、弟弟子に完膚なきまでに敗北する。ダルマにされ、惨めに頸を斬られて死を迎えるが、死に際の顔は安らぎに満ちていた。懐の"おめこ券"を使わずに済んだと…。
◇◇◇
裏金銀治郎と胡蝶しのぶは、ロープを垂らしつつ無限城の扉をドンドン開けていった。徐々に移動制限を掛けられる鳴女は、追い詰められていた。
下弦級の鬼を使って縄を切断させようにも、隊士達が無駄に強く、下弦級を相手に善戦する。更に、鬼の絶対数が鬼柱のお陰で激減しているため、鬼側の総力は乏しいというのが致命的であった。
「銀治郎さん、皆さんは勝てるでしょうか?」
「上弦の壱に関して知っている情報は全て鎹鴉経由でお館様に連絡しました。それの情報をどのように使うかは、彼等次第でしょう」
新任のお館様である産屋敷輝利哉。
鎹鴉で情報を取りまとめている産屋敷輝利哉に情報を提供していた。重傷を負ったという件以来、音沙汰が無かった裏金銀治郎からの突然の連絡。しかも、無限城で胡蝶しのぶと一緒と言われれば、不審さが際立つのは言うまでも無い。
だが、状況が状況だけに、産屋敷輝利哉も裏金銀治郎を信じる事にした。そして、提供された情報は一字一句間違わず伝達される。経歴、名前、能力、家族構成等だ。
「あら?この鬼は、肉体や外皮を硬くする能力を持っています。……!! ぎ・ん・じ・ろ・う・さ・ん。ねぇ~、この能力貰っておきましょう」
「持っていない能力です。回収しておきます。しかし、鳴女はやり手ですね。蛇柱と恋柱も接近を防ぎつつ、我々への警戒も怠っていない。見える位置に居るのですが距離が縮まらないとはね」
二人は、目標である鳴女を確保に向かう道中で邪魔な鬼達を殺し尽くしていた。そして同時並行して、血鬼術も蒐集している。この二人を止められるほどの鬼は、無限城では上弦の壱しかいない。
「愈史郎君の血鬼術なら、いけるんじゃありませんか?」
「可能性は高いです。それは裏技的な攻略法ですから、最終手段にしましょう。転移させられる場所も限られてきたでしょうから、そろそろチェックメイトですよ」
裏金銀治郎は影の中から、扇を取り出した。そして、鳴女に向けて振るう。
ベベンという琵琶の音が鳴り響く。
扇から発生した鎌鼬は、鳴女に届く事無く転移先の壁を切り裂く。
「やりますね。不可視の鎌鼬を咄嗟に感知するとは……彼女、もしかして鬼舞辻無惨より有能ではないでしょうか」
「あり得そうで怖いですね。空間把握能力に関しては、鬼の中で随一です。しかし、代わりに他の能力は軒並み低レベル。近づければ、新米隊士でも彼女を殺せるでしょう」
二人は、鳴女を追い詰めるため、確実に一手ずつ詰めていく。徐々に喉元に刃を近づけられる鳴女としては、早く味方である鬼舞辻無惨か黒死牟、裏金銀治郎(偽)が駆けつける事を期待している。だが、みんなが手一杯であった。
………
……
…
裏金銀治郎、胡蝶しのぶ、伊黒小芭内、甘露寺蜜璃が出会ってしまう。
鳴女による転移で偶発的な事故が発生した。本来、柱同士の合流を防ぐ為、あの手この手を尽くしていた。だが、移動先が絞られてきた為、このような事態が起こった。
「しのぶ様と裏金さん? あれ、裏金さん雰囲気変わりました?」
「下がれ甘露寺!! そいつは、人間じゃない。鬼だ」
日輪刀を抜刀し、いつでも裏金銀治郎の頸を切り落とす心構えの伊黒小芭内。だが、即座に行動にでなかったのは、胡蝶しのぶが同行していたからだ。柱は、直感的に鬼を判別できる。それが強い鬼となれば尚更だ。
「嘘でしょ!? 伊黒さん、だって裏金さんは……」
「いいや、間違いないね。噂通り鬼になっていたとは驚いたね。鬼滅隊の面汚しが本当の面汚しになった」
胡蝶しのぶは、この不運を呪った。
出会うには、早すぎた。裏金銀治郎がこの戦いに誰もが認めるほどの成果を上げる事で様々な事を黙認させる計画があった。仮に、その前に鬼である事が露見するにしても、話の分かる相手でいる事を祈っていた。中でも一番出会いたくないと考えていたのが、蛇柱と風柱である。
「あぁ~、なんで今、出会っちゃうかな。銀治郎さん、日頃の行いが悪いからじゃありませんか」
「仕方ありません。そう言う巡り合わせなんでしょう。伊黒小芭内さん、鬼舞辻無惨と鳴女を殺すまでは見なかった事にして貰えませんか?コチラにも色々と事情がありますが、説明の時間がありません」
今は、鬼滅隊の柱同士が争っている時間はない。
鬼舞辻無惨が"鬼を人間にする薬"を服薬しているのだ。刻一刻と絶好のチャンスが失われていく。
「問題無いね。ここで、鬼を殺してから鬼舞辻無惨も殺す」
「柱の中でも実力上位の伊黒小芭内さんと殺し合いは、割に合わない。取引したい……貴方の肉体を元通りにします。その包帯の下を治療したいでしょう。更に、甘露寺蜜璃さんの延命、更に命の危機から一度だけ助けましょう」
伊黒小芭内は、己の過去を知る裏金銀治郎を殺したいと考えた。だが、今も刀を振るわないのは、「甘露寺蜜璃の延命」という極大の餌があったからだ。"痣"に目覚めた者の宿命は、決まっている。
一瞬考慮したが答えは、直ぐに出た。
「……やっぱりダメだね。鬼は、殺す。それが、鬼滅隊のやるべき事だ。蛇の呼吸 弐ノ型 狭頭の毒牙」
伊黒小芭内の刀は、裏金銀治郎の頸を落とすべく正確無比な攻撃をした。
だが、刃は届かない。胡蝶しのぶが立ちふさがる。その手に握られる日輪刀によって、防がれた。伊黒小芭内も胡蝶しのぶも腕力型ではなく技能型の使い手だ。だが、今の胡蝶しのぶは両方兼ね備えたハイブリッドな存在。
伊黒小芭内の一撃を軽いと感じていた。
「伊黒さん。銀治郎さんに仇なすなら、私がお相手致します。甘露寺さんも馬鹿じゃないなら、どっちの味方をすれば良いか分かっていますよね?」
「鬼退治の妨害は隊律違反。分かっているのか、胡蝶」
「えぇ。昔ならいざ知らず、今の私に勝てますか? 伊黒さん」
胡蝶しのぶのどす黒い殺気。
それは、歴代最高の柱を後ずさりさせる程だった。
やっと、完結が見えてきた!!
作品をエタらずに完結させるのって本当に大変だと理解しました。
ノリと勢いで投稿を頑張って正解だと思いました。
最後まで、頑張るぞ~。